憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白い朝に・・16

2022-09-09 01:28:35 | 白い朝に・・・(執筆中)

私は瞳子が寝入ったと、小さな声で教授と夫人に告げると、さらに声をひそめて、たずねてみた。

「教授・・お母さん、瞳子が小さな頃にお二人の夫婦生活を目撃してしまったと、いう事はなかったでしょうか?」

瞳子と私の会話を黙って聞いていた教授と夫人だったが、私の質問にすでに思い当たるものがあった。

「瞳子が幼稚園の頃に一度、そういう事がありました。それが、白い蟲がみえる原因なのでしょうか?」

夫人の不安は、瞳子が幻覚を見ることに集約されてしまう。

おそらく、あるいは、それが原因だとなれば、夫人の神経まで病んでしまう。

そんな原因がどうであるかを詮議したいのではない、瞳子の心理を理解していくことが、今の私には重要なことだった。

「いえ、白い蟲は瞳子の幻覚でしかないのですが、おそらく、瞳子のあいいれたくない物事が外界に押し出されて、具象化するのでしょう。

瞳子も「蟲」をどう対処していいのか、わからないのだと思います。

それよりも、今の瞳子の話から、瞳子が幼い頃に目撃したことと、事件の記憶がごっちゃにまざってしまって、

教授・・・いや、この場合「お父様」が、犯人と同じに思えてしまうのだと思います。

犯人と同じ行為だったということだけで、瞳子の中で、「父親」が恐怖の対象になり、恐怖でない部分での父親に対する思いが「おじさま」としてなら、受け入れられる・・こういう状態になってるんだと思うのです」

教授は「云」とだけ、小さくうなづいた。

子供がうっかり親の性生活を目撃してしまうことはありえる話で、通常、ある程度の年齢がくると、「性行為があってこそ、自分が生まれ出たのだ」と、理解しはじめる。

ところが、よく考えてみると、この理解は頭でのことであり、瞳子は目撃事件において、すでに「性への恐れ」を感じていたに違いない。

私と出会い、私との接触にかすかな「恐れ」があるようにみえたのは、幼い瞳子がすでに「性」を恐ろしいと水面下でうけとめていたのだろう。

それが、レイプにより、「恐ろしい性」をつきつけられ、瞳子の精神が飽和した。

あるいは、瞳子が幼い頃に夫婦の性行為を目撃していなかったら、ここまで、瞳子は狂わなかったかもしれない。

体の中にアレルギーをもっていて、何らかのストレスや環境変化で突然アレルギーが発症することがあるが、

これとおなじように、瞳子もすでにアレルギー源をもっていたのが、発症症状をひどくした要因だろう。

だが、教授が言うように、そこまで、性をおそれた瞳子がなぜ、さっきのように、平気で私の下半身にふれたり、教授に対しても、私に対しても、ひどく絡み付いてくるのだろう。

確かに愛情表現・・愛情感情がある証拠だとおもうが・・・。

私はさっきの瞳子の「白い蟲をついばむ鳥」といった瞳子を考え直していた。

瞳子は白い蟲に侵食される恐怖をぬりかえていったのではないだろうか?

たとえば、バスに乗ろうと、バス停に止まったバスに駆け込もうとしたのに、もう一歩でバスが発車する。

この時に「ぬりかえ」理論がおきる。

単純にいえば、負け惜しみだが、バスに乗り遅れた、バスが発車してしまったのではなく、「先に行かせてやったのだ」という価値転換で乗り遅れた落胆や敗北感はおおげさかもしれないが、これらの観点から、自分優位の視点に変えることができる。

これと同じ理論が瞳子におきたのではないだろうか?

暴行犯の性欲という白い蟲をくわされたのではなく、「私が食べてあげた」という位置転換をおこなえば、瞳子は陵辱の犠牲者にならずにすむ。

瞳子は少なくともそれで、優位にたった。この奇妙なぬりかえ理論により、瞳子は自我の崩壊を免れた。だが、かわりに白い蟲を食べる益鳥にならなければ瞳子自身の立脚が成り立たなくなった。

こういう事かもしれないが、それでも、なぜ、白い蟲の幻覚をみるのか?

幻覚を見ること自体がすでに異常でしかなく、幻覚の内容にわけを求めるのは、無理なことなのだろうか?

ロールシャッハテストや夢判断などでも、人間の深層心理を調べようとしている。

おそらく、瞳子が白い蟲をみる「構造」が深層心理のどこかに構築されているはずだと私は考えたが、

もう少し精神病についての詳しい情報がないと、私の考えだけでは、判断がつかない。

ロールシャッハテストに信頼性があるとしても、その診断基準さえ私にはない。

もう少し、精神病について、調べる必要があると思い直すと、私は教授のパソコンを借りることにした。

そして、今後のことについては、瞳子が私に対して心を開き、いっさいの警戒も、恐怖もかんじてないのであり、

むしろ、私に対しては白い蟲のことを話そうとしたり、かなり、私と共有意識を持とうとする瞳子であり、

今も私の膝に頭をもたらせかけて安心して寝入っている以上、瞳子の両親より、心療内科などに通院するなどの瞳子をサポートには、

私のほうが適役であると思え、「瞳子を私に任せてもらえませんか」とだけ、お願いした。



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