憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

懐の銭・・・4

2022-12-07 15:24:56 | 懐の銭

女将の覚悟は男の末路をおもうだけのものなら、

簡単につけられたものかもしれない。

どんな意地があるのかわからないが、

自分の生き様が自分のままならずに

どこで、おっちんでしまおうが、そりゃあ、自業自得、覚悟の上、

男にゃあそれで本望かもしれない。

だけど、修造の奴が、そのまま、ひきさがるわけがない。

たとえ1文の銭だってかえせなきゃ、それで、大義名分ってものができる。

借金をたてに、お里ちゃんをかたにとって、女郎屋にうっぱらって、

甘い汁を吸おうってのがはじめからの目論見に違いないんだ。

だから、男に賭場銭をかして、最初はいいめをみせて、

そのうち負けがこんでくれば、愛想のよいしなをつくって、

また賭場銭をかしてやる。

かてば、男も律儀なもんだ。

しっかり、賭場銭は返す。

そして、しばらくすりゃあ、また、負けがこむ。

賭場銭を貸し与える。

男のさいのめを工夫してしばらく勝ちに泳がせて・・・・。

その繰り返し。

つきがまわってこないだけだと思わせるにちょうど良い賽の目のふり具合のせいで、男はまさか、自分がはめられてるなんて、これっぽっちもおもいやしない。

おまけに、男は女将の店のつけ払いと同じように、律儀にかてば、かりた銭をかえしている。

だから、自分でも賭場の上客だと思い込んじまってる。

きちきち、かえしているじゃねえか。

これが、客として、上等な部類に入るんだと思いこんでいる。

だけど、どこの世界に銭を貸して、ただで遊ばせる馬鹿がいるもんか。

女将はふううと大きなため息をつく。

あの人は自分の胸のうちを修造の奴がわかってくれてると思い込んでるんだ。

自分の人生をなげちまった憐れな胸中を慮って、銭を貸し与えてくれてるって、思い込んでるに違いないんだ。

だから、そんな憐れな男に情けをかけこそすれ、まさか、たばかれるなんておもいもしないんだ。

憐れな男。

確かにそうだろう。

憐れなままにおこじきでもなんでもやってるならそれも立派な憐れだ。

だけど・・・。

男が本当に憐れなのは、自分が「憐れ」と人からも庇ってもらえるもんだという根性になってることだ。

あんた・・、このままじゃあ、本当にだめになっちまう・・・。

そう、あんただけがだめになるんじゃないんだ。

お里ちゃんを郭に堕としてしまうことになってから自分の「憐れな根性」のせいで、わが娘を男のなぶりものにさせてしまうみちすじをつくってしまった自分だときがつく・・。

そうなって・・・???

あんた本当にいきていられるんだろうか?

今なら、まにあう。

今ならまにあうんだけど・・・。

結局男は文治親方となにがあったか、はなそうとしない。

そのしこりを解決しなきゃ、男のやけはおさまらないんだろう。

仕事なんて、指物にこだわらなくたって、かまわないはずなんだ。

日雇い仕事だって人足仕事だって、なんだって、やる気になりゃあ出来るはずなんだ。

いっそ、文次郎親方のところに直談判で、たずねあわせてみようか・・。

なにがあったかわかったこっちゃあないけど、

女将が男に言ったとおり、文次郎親方が男をもどってこさせるためにわざと仕事の口をほしているのかもしれない。

だけど・・。

そんなことを、尋ねたところで・・・。

文次郎親方がこれこれこうでございって本当のことを見も知らぬ女に喋るだろうか?

いやいや、そうでなくたって、男の言い分をきけば、文次郎親方のほうに落ち度があったような口ぶりだったんだから、ことによりゃあ、大の男に意見がましいことをいわなきゃならないのかもしれない。

だいいち、こんな小料理屋の女将風情の意見を聞くものなら、男とものわかれになりはすまい。

誰か、顔の効く人がいれば・・いいんだけど・・。

女将の頭の中に男の身の上を案じた初老のあの男の顔がうかんだ。

隠居の暇をもてあましただけの男にしか思えないが、男の言ったとおりがほんとうなら、文治親方と腹をわって、話せる唯一の人間のように思えてきた。



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