矢嶋武弘・Takehiroの部屋

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83歳のジジイ 日一日の命

文化大革命(8)

2025年02月23日 07時31分38秒 | 戯曲・『文化大革命』
第三幕 紅衛兵旋風!! 劉少奇派の没落

第一幕(8月20日。 北京・王府井〔ワンフーチン〕通り。紅衛兵の腕章を巻いた多くの若者達が、何軒かの商店の前に集まっている)

紅衛兵の代表 「われわれ紅衛兵は、先の十一中全会で決まったプロレタリア文化大革命の方針に従い、古い思想や文化、風俗、習慣を一切廃止する運動に立ち上がった! われわれ紅衛兵は、おととい天安門広場で行なわれた文化大革命の百万人祝賀集会で、毛主席や林彪国防部長ら党の最高指導部から、文化大革命をやり抜く“兵士”として、正式に認められた。

 われわれの仲間である女子紅衛兵の宋要武同志が、天安門の上で毛主席の左腕に紅衛兵の腕章を巻いてあげると、毛主席はにっこりと微笑んで手を上げられた。 われわれ紅衛兵は、こうして毛主席を始め党中央から認められたのだ。

 われわれはもはや、何ものも恐れたり、また何ものも憚ることはない! われわれの闘争は正義の闘争であり、われわれの行動は革命の行動である。 光栄ある文化大革命の先頭に立って、われわれは古い思想や習俗などを大胆にぶち壊し、それに代って、新しいプロレタリア文化を創造しなければならないのだ!

 毛主席は言われた。“造反有理”だと。 さあ、同志諸君、われわれは立ち上がろう! 立ち上がって、この北京に残っている古くて腐敗した、ブルジョア文化の遺物を徹底的に破壊しようではないか!」

紅衛兵一 「そうだ! 新しいプロレタリア文化を創り出すために、まず古いものをぶち壊せ!」

紅衛兵二 「臭気ふんぷんたるブルジョア文化の残りカス、塵、芥は一切がっさい掃き清めろ!」

紅衛兵三 「汚い手口で私腹を肥やしている奴らは、ぶっ殺せーっ!」

紅衛兵の代表 「この際、私は同志諸君に提案したい。 われわれの日常生活の中にはびこり、絶えず害毒を流している、腐り切ったブルジョア商人どもを一掃しよう! このワンフーチン通りには、資本主義のボロ屑を売り、密かに暴利をむさぼっている連中が沢山いる。 こういう奴らは、われわれプロレタリア人民の敵だ!

 こいつらを“のさばらせて”おいたのでは、プロレタリア文化大革命をやり抜くことはできない。 同志諸君。今こそプロレタリアートの敵である、この腐敗堕落したブタどもに革命的な鉄槌を打ち下ろしてやろうではないか!」

紅衛兵四 「異議なーしっ! 汚い金もうけで肥った奴らは叩きのめせーっ!」

紅衛兵五 「資本主義国家のいかがわしい商品を、売りさばいてきた店はぶっ壊せ!」

紅衛兵六 「きらびやかなブルジョア風の店の名前は、全部取りつぶせーっ!」

紅衛兵七 「代りに、文化大革命にふさわしい名前に取り替えろーっ!」

紅衛兵の代表 「国を売るあくどいブルジョア商人どもを、粉砕しよう! 奴らに徹底的に自己批判をさせ、言うことを聞かない連中は、われわれの手で抹殺しようではないか! 毛主席は、古い思想、文化、風俗、習慣を廃止せよとおっしゃった。

 この辺にある、汚らわしいブルジョア風の店の名は、全部取り替えよう! 店の主人どもを引っぱり出して、革命的な制裁を加えてやろうではないか!」

紅衛兵達 「異議なーしっ! かかれーっ! やっつけろーっ!」(紅衛兵達は喊声を上げながら、何軒もの商店の看板を、ハンマーなどで壊し始める。 そのあとに、赤インクやペンキで新しい店名を書いた紙片を、次々に貼っていく。 幾人もの紅衛兵が店の中に入っていく)

紅衛兵達 「よし、いいぞ! やった、やったーっ! ブルジョア商人どもを叩きのめしてやれっ! プロレタリア文化大革命万歳! 毛主席万歳!」(紅衛兵の喚声の中を、宝石店の主人が両腕を取られながら、店の外に連れ出されてくる)

紅衛兵一 「おい、お前がこの店の主人か。 さあ、自己批判しろ!」

宝石店主人 「私は悪いことはしていません」

紅衛兵二 「ウソつけ! お前は、この店の宝石類をどういうルートで手に入れ、誰に売りさばいていたのだ」

紅衛兵三 「これまでに、どのくらい儲けたのだ。さあ、言え!」

宝石店主人 「宝石類は、外国貿易部を通して手に入れたものが大半です。おもに元地主や党幹部、軍の幹部の人達に売っていました。 これまで、私はそれほど儲けてはおりません」

紅衛兵四 「馬鹿野郎! デタラメを言うな! お前の家にはお手伝いさんが何人もいて、家具調度品は輸入用品が多く、贅沢な暮しをしていたことは、われわれの調べで分かっているんだぞ!」

紅衛兵五 「われわれが質素で貧しい生活をしている間に、貴様は宝石売買で儲けた金で、ブルジョア旦那のように豪勢で贅沢な生活をしていたんだ!」

紅衛兵六 「プロレタリア人民の犠牲の上に立って、お前はのうのうと甘い汁を吸っていたのか。 この野郎、さあ、今後絶対に贅沢な生活はしないと誓ってみせろ! さもないと、お前は人民裁判にかけられて首が飛ぶぞ!」

紅衛兵一 「さあ、自己批判しろ! お前が自己批判するまで、われわれはここを立ち退かないぞ。 お前のこれまでの商売のやり方が、あくどくて汚かったことを認めろ!」

紅衛兵二 「黙っていないで、なにか言わんのか。われわれの追及が正しくて革命的だから、お前はぐうの音も出ないのか。 悪かったら悪かったと、素直に言ってみろ!」

紅衛兵三 「おい、どうなんだ。今後は、プロレタリア人民に奉仕する生活をすると言ってみろ!」

紅衛兵四 「黙っていたんでは、分からんじゃないか! この野郎、なんとか言わんか!」(紅衛兵達、宝石店主人の襟首をつかんで、小突いたり殴る)

宝石店主人 「私が悪かったです! あやまります、反省します! 私の商売のやり方が間違っていました。もう今後は、決して贅沢な生活はしません! 勘弁して下さい」

紅衛兵五 「よしっ、それなら今後は、あくどいやり方で絶対に商売をしないと誓うか」

宝石店主人 「はい、誓います」

紅衛兵六 「毛沢東思想に従って、われわれが進めている文化大革命に協力すると約束するか」

宝石店主人 「はい、約束します」

紅衛兵代表 「よしっ、それなら、この老いぼれを放してやれ。(紅衛兵達、宝石店主人を解放する) 次は、そこの服飾店の主人を引っぱり出してやろう。 同志諸君、われわれはこうして、ブルジョア退廃分子どもを片っ端から人民の前に引きずり出し、徹底的に自己批判を迫っていこうではないか!」

紅衛兵達 「そうだっ! 異議なーしっ! 腐敗したブルジョアのブタどもを叩きつぶせーっ! プロレタリア文化大革命万歳! 毛主席万歳! 紅衛兵万歳!」(紅衛兵達、喚声を上げながら、服飾店の中に侵入していく)

 

第二場(8月25日。北京市・崇文門外の欄杆市。 紅衛兵達、元大地主の李文波夫妻を引きずり出して、人民裁判を行なっている)

紅衛兵代表 「わずか数日の間に、われわれ紅衛兵の激烈な闘争によって、北京市内は至る所で、プロレタリア文化大革命の“洗礼”を受けることになった。 われわれの運動は今や、全国の津々浦々にまで大波のように広がろうとしている。

 中国はまったく新しい時代に突入し、文化大革命の旗は、太陽のように燦然と中国人民の上に輝いているのだ。 われわれは何ものも恐れるものはない。すでに、ワンフーチン通りが“革命大路”と名称を変えたのを始め、古臭く忌まわしい街や商店の名前も、次々と革命的な呼び方に変更されている。

 こうして、われわれの運動は、古い文化や風俗、習慣に致命的な打撃を与えることに成功している。 又、これまで暴利を貪ってきたブルジョア商人どもや、実権派の党官僚、学校の教師達、更には、薄汚れた幻想をいつも抱いている反動文化人や学者どもに革命的な鉄槌を打ち下ろしてきた。

 しかし、それだけではまだ足りない。 ここにいる李文波のように、かつて小作人を苦しめ、小作人から悪辣な搾取を続けてきた大地主も、この際、われわれの闘争目標から逃れるわけにはいかないのだ。これから、李文波の人民裁判を始める。 同志諸君、元大地主の李文波にも、自己批判をさせようではないか!」

紅衛兵一 「異議なーしっ! こいつらは農民から巻き上げた財産で、これまで“ぬくぬく”とした生活を送ってきたのだ。 今日は徹底的に吊るし上げて、こいつを自己批判させ、その財産を没収しようではないか!」

紅衛兵二 「そうだ! 自分らが昔、痛めつけた小作人に償いをしろ! 李文波をウイグルにでも追いやって、強制労働をさせろ!」

紅衛兵代表 「同志諸君、あそこを見てくれ。 あそこに大量に積まれている絹織物、毛皮のコートやオーバー、金ぴかの洋服類、それにダイヤモンドやエメラルドなどの宝石類は、われわれが先ほど、李文波の家を捜索して押収したものだ。

 こいつは農民や小作人をこき使って得た莫大な利益で、あの贅沢な財産を溜め込んでいたのだ! こんなに人民を虐げた醜いブルジョアの輩を、われわれは断じて許すことはできない!」

紅衛兵三 「許すな! 厳罰に処してやれ! こいつの財産を全て没収して、人民に返してやれ!」

紅衛兵四 「こいつは鬼だ、ブルジョアの鬼だ! 叩きのめしてやれ!」

紅衛兵代表 「李文波よ、聞いたか。われわれの雄叫びを聞いたか。人民の腹の底から込み上がってくる憎しみの叫びを聞いたか! 文化大革命が始まる前は、われわれはお前達のブルジョア的な思い上がりを、じっと我慢して見ていたのだ。 しかし、毛主席が文化大革命を発動した今、われわれはお前達を許すことはできない。 さあ、自己批判して、お前達の贅沢な財産を全て中国人民に返せ!」

李文波 「自己批判はする。しかし、私の財産は何もかも没収されるわけにはいかない」

紅衛兵達 「何を言うか! 今の発言を取り消せ! 搾取したものを返せ! 自己批判が足りないぞ! 文化大革命に協力しろ!」(紅衛兵達、李文波夫妻に詰め寄る)

紅衛兵代表 「李文波よ、お前の命と家族の安全を思うなら、素直にお前の財産をわれわれ人民に返せ。 そして、文化大革命に協力しろ」

李文波 「文化大革命には協力する。しかし、私の財産は法によって守られているはずだ」

紅衛兵五 「馬鹿を言うな! われわれは、お前の不当な手段による財産の蓄積を認めていないのだ。さあ、返すと言え!」

紅衛兵達 「悪あがきをするな! 命が惜しかったら、われわれの言うことを聞け! お前のような“しぶとい”奴はぶっ殺すぞーっ! まだ白(しら)を切るのか、このブタ野郎!」(紅衛兵達、李文波を小突く)

李文波 「分かった、財産は返す。 ちょっと小用があるから、家に入らせてくれ」(李文波、逃げるようにして家の中に姿を消す)

李夫人 「あなた達は今、何をやっても咎められないのね」

紅衛兵六 「大人しくしていろ! お前もじたばた騒ぐと、どんな目に遭うか知っているだろう」

紅衛兵代表 「何をやっても許されるというのではない。われわれは、中国共産党が決めた文化大革命の方針に従って、道理にかなった行動をしているのだ。 毛主席は、造反有理と言われた。われわれの行動こそ、造反有理の革命的な行動なのだ。 李文波も自己批判して、文化大革命に協力すると言った。あなたもそうして欲しい。 そうすれば、われわれは決して、度を超えた攻撃をあなた方にするつもりはない」

李夫人 「私も自己批判する所はそうします。でも、あなた方が行なっている文化大革命とは、一体どういうことなのですか。 不法侵入、強奪、暴行、人民裁判・・・要するに暴力ではありませんか。衆をたのんだ暴力です。

 こうした不当なテロが、党や政府によって認められているのですか。こんな出たら目なやり方を、私は承知することはできません」

紅衛兵一 「黙れ! 大人しくしていれば、いい気になりやがって」

紅衛兵二 「出たら目なやり方とはなんだ! お前は、中国共産党が決めたことに従わないのか」

紅衛兵三 「ブルジョアのエゴイストめ。お前も亭主と一緒に強制労働だ!」

紅衛兵四 「もっと厳しく自己批判しろ! こうして生かしてやっているだけでも、有難く思え!」

紅衛兵五 「お前も“三角帽子”をかぶせて、街中を引きずり回してやるぞ!」

紅衛兵六 「メス犬! お前がどんなに優雅な生活をしてきたか、恥を知れ!」

紅衛兵代表 「李夫人よ、われわれ人民の声を聞いたか。 素直に自分の非を認め、財産を全て人民に返し、文化大革命に協力しなさい」(その時、李文波が青竜刀を振りかざして、家の中から現われる)

李文波 「この野郎ども! よく聞け! お前らは毛沢東に飼い馴らされた狂犬どもだ。お前らをこの青竜刀で、一人残らず切り殺してやる! どうせ生きていても、お前らに辱めを受けていくのが“落ち”だ。 こうなったら、お前達を全部叩き切ってから死んでやるぞ! 

 やい、狂犬ども、逃げるか! 一人一人切り刻んで、地獄の鬼の餌食にしてやるわ! そーれっ、逃げるか! 犬ども! 俺の刀を受けてみろ!」(李文波、青竜刀で紅衛兵達に切りつける。二、三人の紅衛兵が腕や肩、背を切られる。 李文波、狂ったように青竜刀を振り回すが、やがて、棍棒などを持った紅衛兵達によって、下手に追い詰められていく)

李文波 「狂犬ども! よく見ておけ! 俺の死に様を忘れるな! 立派な人間はこうやって死ぬんだ!」(李文波、青竜刀で自分の首を切りつけ、うつ伏して息絶える。 李夫人、李文波に駆け寄る)

李夫人 「あなた! あなた! ああ、どうしてこんなことに・・・(泣き崩れるが、やがて、隠し持っていた短刀を抜く) 畜生! よくも夫を責め殺したわね。さあ、お前達の腕一本、指一本でもいいから切り裂いてやる!」(李夫人、短刀を振り回して紅衛兵達に切りつけるが、やがて腕をねじ上げられて、取り押さえられる)

李夫人 「ああ、畜生、畜生! 毛沢東の犬ども! 野良犬! 殺すなら殺せ! 殺せ!!」

紅衛兵達 「よし、お前なんかなぶり殺してやる! 魔女め! 腐ったブルジョア女! 李文波と一緒に地獄へ行ってしまえ!! 反革命のメス犬め、こうしてやるわ!」(紅衛兵達、寄ってたかって、棍棒などで李夫人を叩きのめす。李夫人、悲鳴をあげながら、その場に倒れて動かなくなる)

 

第三場(9月上旬。北京の中央音楽学院。 構内の一室に、学院長の馬思聰が幽閉されている)

馬思聰 「まったく野蛮で、理不尽なこうした生活がいつまで続くのだろうか。 紅衛兵に捕まってから、もう二ヵ月以上たってしまったが、来る日も来る日も耐え難い拷問が続き、私の肉体も精神も疲れ果ててしまった。 こんな状態がいつまでも続くのなら、私は気が狂って、いつかは死んでしまうだろう。

 いや、こんな地獄の責め苦にずっと遭っているのなら、死んでしまった方が幸せかもしれない。 将来に、どんな明るい見通しがあるというのだろうか。何もない、何もないのだ。 紅衛兵達の残酷な仕打ちは、日を追って激しくなるばかりだ。この“牢獄”を抜け出すことができるのなら、私はどんな危険も苦労も厭うことはないだろう」(そこに、棍棒や鉄棒、ベルトなどを持った三人の少年紅衛兵が入ってくる)

紅衛兵一 「やい、馬思聰、“ブルジョア牛鬼”のブタめ。 毛沢東語録をちゃんと読んでいるか。お前なんかには、毛主席の偉大な革命精神が分からんだろう」

紅衛兵二 「今日もしっかりと自己批判したか。自己批判が足りないと、どんな目に遭うか分かっているだろうな」

紅衛兵三 「さあ、もう一度『黒い一味の叫び』を俺が歌うから、繰り返してみろ。 お前は音楽家だから、きっと上手に歌えるはずだ。いいか、俺が歌い終えたら、ちゃんと繰り返すんだぞ。 (手に持った棍棒を振りながら)“私は牛頭の怪物 罪を犯した 罪を犯した 私は人民独裁の元に置かれなければならない なぜなら 私は人民の敵だから 私は懺悔しなければならない もしそうしないなら 私を粉々に打ち砕いてくれ!” さあ、歌ってみろ!」

馬思聰 「私は牛頭の怪物 罪を犯した 罪を犯した 私は人民独裁の元に置かれなければならない なぜなら 私は人民の敵だから・・・ええと、その後はなんだったかな」

紅衛兵三 「馬鹿野郎! もう忘れたのか!(棍棒で馬思聰を打つ) 昨日、教えてやったばかりなのに、お前は文化人のくせに頭が悪いな。精神が腐っているんだ、この野郎。 私は懺悔しなければならない、というんだ。さあ、歌え!」

馬思聰 「私は懺悔しなければならない もしそうしないなら 私を粉々に打ち砕いてくれ」

紅衛兵二 「“懺悔”を忘れるなんて、お前は自己批判が足りないんだ!」

紅衛兵一 「ふざけた野郎だ。おい、四つん這いになって、この部屋の中を歩いてみろ!(鉄棒で馬思聰を小突く) さあ、四つん這いになれ! お前は懺悔が足りないのだ、犬みたいに這ってみろ!」(馬思聰、渋々と四つん這いになって這い出す)

紅衛兵二 「這い方が遅いぞ!(棍棒で馬思聰を打つ) この野郎、旨いものを食っていたわりには、元気がないな。もっと真剣に這え! そうそう、そうやればいいんだ」

紅衛兵三 「ウワッハッハッハ、このざまを見ろ。これが、ついこの間までは、音楽学院で偉そうな面をしていた奴だ。 犬め、もっと速く這い回れ!」(棍棒で馬思聰を突く。馬思聰倒れる)

紅衛兵一 「よろよろしやがって。もっとしゃんとしろ! しっかり這っていかないと、お前が飼っていたニワトリみたいに、ぶち殺してやるぞ! こいつ、革命精神が足りないんだな。(鉄棒で馬思聰を小突いて、唾を吐きかける。馬思聰、再び這い出す) よしよし、その調子その調子・・・」

紅衛兵二 「思い知ったか、ブタ野郎! われわれは、ついこの間まで、お前達によって苦しめられてきたんだ。 今度は、われわれがお前達を革命的に鍛えてやる番だ。有難く思え!」(ベルトで馬思聰を打つ)

紅衛兵三 「よし、今日はこれで終わりだ。『黒い一味の叫び』をちゃんと覚えておけよ。 今度しっかりと歌えなかったら、血へどを吐かせてやるからな」

紅衛兵一 「馬思聰、あとは壁に向って座っていろ。 それでは同志諸君、今度は隣にいる黒いブタの所へ行って、学習させてやろうではないか」(三人の少年紅衛兵、退場)

馬思聰 「ああ、これが私の人生か・・・これが、中国を愛し、中国の音楽界のために尽くしてきた者に対する仕打ちか。 もし、この世に神があるというなら、こんな地獄の中国は今すぐにでも滅ぼしてくれ。なんと酷い世の中なのだ。

 あの三人のうちの一人は、私の教え子だ。ついこの間までは、大人しく素直な生徒だったというのに、今はまるで狼のように残忍で血に飢えている。 何もかも変ってしまった。何もかも血なまぐさく、残酷で陰惨になってしまった。至る所で凄惨なリンチが繰り広げられている。

 ああ、神よ。 私は、この屈辱に耐えていかなければならないのか。私は、この地獄の世界にのたうち回らなければならないのか。 どこに救いの道が開かれているというのだ。 神よ、もうおしまいだ。これが革命なのか、これが文化大革命なのか。 私の人生も、私の愛する中国も、私の命である音楽も全ておしまいだ」(馬思聰、泣き崩れる)


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