矢嶋武弘・Takehiroの部屋

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文化大革命(7)

2024年12月12日 14時40分23秒 | 戯曲・『文化大革命』

第十六場(8月8日。北京・中南海にある懐仁堂。 第八期中共中央委員会・第十一回全体会議が開かれている。 毛沢東、劉少奇、周恩来、登小平、林彪を始めとして、多くの中央委員、同候補らが多数出席。 舞台の両側から、北京の大学、高専の『革命的教員と学生の代表』がしばしば、甲高い喚声と激しいヤジを飛ばしている)

毛沢東 「われわれはもう一週間以上にわたり、議論を尽くしてきた。 これ以上、口を酸っぱくして言い争ってみても、議論は平行線をたどるだけだ。もうこの辺で、プロレタリア文化大革命を遂行するかしないか、決めるべきではないか。 私としては、文化大革命の遂行を、是非とも党議で正式に決めて欲しいと思う」

文革派学生・教員の声 「異議なーしっ! 毛主席の言われるとおり決めろーっ!」

劉少奇 「議論は、まだ十分に尽くされていない。もっと多くの委員達の意見を聞くべきではないか」

文革派学生・教員の声 「何を言うか! 劉少奇よ、お前達の意見は、もう嫌になるほど聞いたぞ。 これ以上、何か新しい意見があると言うのか!」

劉少奇 「プロレタリア文化大革命というのは、極めて重大な問題だ。もっと徹底的に議論しなければ、後に災いを残すことになる」

文革派学生・教員の声 「黙れ! 劉少奇。お前ら資本主義の道を歩む実権派は、文化大革命の決定によって断罪されるのが怖いのだろう。 お前達ウジ虫どもは、永遠に党から葬り去ってやるぞ!」

劉少奇 「どうしてわれわれが、資本主義の道を歩んでいると言うのだ! 誤解もはなはだしい。われわれは毛沢東思想を忠実に守りながら、これまでやってきたではないか」

文革派学生・教員の声 「ウソをつけ! お前達は見せ掛けの毛沢東思想を掲げながら、陰では修正主義の路線を取り、資本主義への道を歩んできたのだ。 お前達のような妖怪変化、“牛鬼蛇神”の輩は叩きつぶしてやる以外にない!」

劉少奇 「それが、国家主席に対して言う言葉か。 大体、党の規約では、お前達はこの中央委員会に出席できないはずだ。もしオブザーバーであるなら、お前達が意見を述べる資格はない!」

文革派学生・教員の声 「そんなことはない! われわれは、党の最高指導者である毛沢東主席の許可を得て、ここに出席しているのだ。毛主席に忠実であるというなら、今のお前の発言を取り消せ!」

毛沢東 「彼ら革命的な教員、学生の代表は、私の責任において出席を認めたのだ。 プロレタリア文化大革命という、中国にとって最も重大な問題を討議する場に、革命的な人民の代表を出席させることは当然である」

劉少奇 「それでは、党の規約はどうなるのだ。 それを無視するなら、党あって党なしということになるではないか」

劉支持の中央委員達 「そうだ! 毛主席は党の下にあるのであって、党の上に神様のようにいるのではない。毛主席といえども、党員ではないか!」

文革派学生・教員の声 「黙れ、黙れ! 毛主席は党の絶対権力者だ。毛主席に逆らう者は、毛沢東思想をないがしろにする反革命の輩だ。 そんな奴らは、この場からさっさと出ていけ! 反革命、反党修正主義分子どもは出ていけ!」

毛沢東 「諸君、聞いたか。 彼ら革命的人民の代表の意見は正しい。私は彼らの会議参加と発言を認める」

林彪 「党の最高責任者である毛主席が、彼らの出席と発言を認めたのだ。 この問題はもう切り上げて、文化大革命の党議決定を早く議題にして欲しい。 登総書記、直ちに採決に移ったらどうですか」

登小平 「しかし、まだ十分に意見を述べていない委員も多いようだし、いま採決するのはどうだろうか・・・」

文革派学生・教員の声 「登小平、何をためらっているのだ。もう意見は出尽くしたぞ、早く採決しろ!」

劉支持の中央委員達 「それはおかしい。まだ意見を言っていない人は大勢いるぞ! 採決はもっと後にすべきだ!」

毛沢東 「文化大革命に関する決定の十六条の中には、少数意見の尊重や、名指しで党幹部を批判することを制限する項目があるではないか。 文化大革命を恐れる人もこの中にいると思うが、そうした人達も十六条をよく読めば、安心して大革命を推進していけるはずだ。 だから、もうこれ以上、無益な議論を続けていくのは止めよう。 登総書記、革命的な人民の代表の声を聞き入れて、早く採決しなさい」

文革派学生・教員の声 「毛主席が、早く採決せよと指示されたぞ。登小平、直ちに採決しろ!」

林彪 「人民の声を無視してはならない。 今日決めなければ、文化大革命の発動は、それだけ一日遅れることになる。登総書記、毛主席の指示に従って、いま採決して頂きたい」

文革派学生・教員の声 「異議なーしっ! 登小平、何をもたもたしているのだ! 早くしろ! 早くやれ! 早く採決しろ!」

劉支持の中央委員達 「まだ早い! もっと多くの人の意見を聞け!」 (場内は喚声と罵声、怒号などで騒然となる)

登小平(騒音で途切れがちになる)「それでは・・・毛主席の指示に従い、プロレタリア文化大革命に関する・・・十六条の党議決定について・・・採決を行ないまーすっ! 賛成の委員は挙手を願いまーすっ!」

劉支持の中央委員達 「こんな採決は無効だ! 出席者は定足数に満たないぞ! 出席予定の百八十人のうち、百人ぐらい欠席しているじゃないか!」 (場内は更に騒然となる。 文革派学生・教師の十数人が舞台に出てきて、一部の中央委員達を小突いたり、取っ組み合いを始める)

文革派学生・教員 「何を言うか! 採決だ! 十六条に賛成の人は挙手を! 挙手を! (中央委員達の半分ぐらいが挙手。場内は興奮と混乱の“るつぼ”と化す)・・・・・・勝ったぞーっ! 勝ったぞーっ!! 過半数が賛成だっ! 文化大革命が可決されたぞーっ!! 中華人民共和国万歳! 中国共産党万歳! 毛沢東主席万歳!! プロレタリア文化大革命万歳!!」

劉支持の中央委員達 「いんちきだ! 採決は無効だ! やり直せーっ!!」 (場内は大混乱となる。罵声や怒号が飛び交い、取っ組み合いが激しくなって、事態の収拾は不能となる)

登小平 「プロレタリア文化大革命に関する・・・十六条の党議決定は・・・賛成多数で・・・可決されましたっ!」

毛沢東 「プロレタリア文化大革命はいま、党議で決定されたのだ! これによりわれわれは、人々の魂に触れる文化大革命を完全に遂行し・・・古い思想や文化、風俗、習慣を改め、それらをプロレタリア階級の新しい思想、文化、風俗、習慣に置き換えなければならない! 

 今や中国は、社会主義革命の新たな段階に突入した・・・プロレタリア文化大革命の偉大な勝利を勝ち取ろう!」

文革派学生・教員 「プロレタリア文化大革命万歳!! 毛沢東主席万歳!! 中国共産党万歳!! 中華人民共和国万歳!!・・・」 (喚声、罵声、怒号の中に、万歳の声や悲鳴などが入り交じり、大混乱のうちに幕が閉じる)

 

第十七場(8月10日。 北京・中南海の西門前。上手から、毛沢東がモノローグしながら出てくる。後ろに江青、陳伯達、康生が続く)

毛沢東 「劉少奇達はまだ、じたばたしている。われわれが十一中全会で勝ったというのに、あいつらは最後の悪あがきといったところだ。 文化大革命が党議で決定されたので、人民大衆は大喜びし、北京市内はまるでお祭り騒ぎになっている。 十八年前、人民解放軍が北京に入城した時と同じような感動が、今ここでは渦巻いている。

 人民大衆は単純で正直だ。 どうやら文化大革命に熱狂し、酔いしれているようだ。わしの権威は、文化大革命と共に高まり、揺るぎないものとなっていくだろう。 どれ、人民の前に姿を見せて、歓呼の声を浴びるとしようか。人民がどれほどわしを尊敬し慕っているかを、劉少奇達に思い知らせてやろう。

 そうすれば、あいつらだって無駄な抵抗を諦め、敗北を認めざるをえなくなるだろう。 わしの元気な姿を見れば、人民大衆は大喜びし、文化大革命に酔いしれるはずだ」(毛沢東ら、下手の大衆接待所に赴く)

北京市民達(口々に)「おお、毛沢東主席だ。 毛主席がお見えになったぞ! 毛主席がわれわれの前に姿を見せられたぞ! 皆さん、こちらに集まって、早く集まって下さい! ウソではない、本当に毛主席だ!

 夢のようだ、毛沢東主席がお元気な姿を現わされたぞ! 私達が心の太陽と崇めている毛主席だ! 毛沢東主席万歳!! われわれの偉大な指導者・毛主席万歳!! 世界人民の赤い太陽・毛主席万歳!!」(毛沢東、集まってきた市民達の一人一人と握手し、壇上に上る)

毛沢東 「市民の皆さん、同志諸君、こんにちわ。 皆さんもお元気でなによりだ。私もご覧のように元気にやっている。 ところで皆さんは、おととい決まったプロレタリア文化大革命を祝うため、ここに集まってこられたと思うが、私は、そうした皆さんの革命的情熱と真心に、深く敬意を表したい。

 私がいま言いたいことはただ一つ、皆さんは、国家の大問題に関心を持たなければならない! それは、プロレタリア文化大革命を最後までやり抜くということだ! 分かりましたか?」

北京市民一 「われわれは毛主席の心を心とし、毛主席の指示に従い、プロレタリア文化大革命を最後までやり抜きます」

北京市民二 「毛主席。 私達はいま、全ての迷い、全ての疑問から解放されました。私達は毛主席に従って、文化大革命を必ず成功させます」

北京市民三 「私達はいつも、毛主席の良い教え子であり、毛主席の指示に従って闘っていきます」

北京市民四 「われわれは、文化大革命に反対する反党、修正主義分子どもに鉄槌の雨を降らしてやることを誓います」

毛沢東 「ありがとう。 皆さんの革命的な情熱と決意に私は心を打たれた。皆さんの有り余るエネルギーと行動力を、文化大革命のために使って欲しい。 そして、皆さんの陰に隠れて、文化大革命に反対しているブルジョア反動分子を摘発し、彼らに徹底的な制裁を加えて欲しい。 それでは、諸君のご健闘を祈っています」

市民の代表 「毛主席。 私達は主席の教えを忠実に守り、プロレタリア文化大革命を必ず成功させてみせます! 本日、私達が主席のお姿を拝見し、親しく教えを賜わったことは身に余る光栄であり、終生、忘れることのできない感激であります。

 どうか、お身体に十分気をつけて頂き、末長くわれわれの心の太陽として、光り輝くことをお祈り申し上げます。 さあ皆さん、もう一度声を合わせて、毛主席のご健康とプロレタリア文化大革命の勝利を祈って、大地を揺るがすような万歳を唱えようではありませんか!

 毛沢東主席万歳! 中国共産党万歳! 中華人民共和国万歳! プロレタリア文化大革命万歳!」

市民達 「毛沢東主席万歳!! 中国共産党万歳!! 中華人民共和国万歳!! プロレタリア文化大革命万歳!!」(歓声と拍手が沸き起こる)

毛沢東 「ありがとう。皆さんもお元気で、頑張って下さい」(毛沢東、市民達に手を振りながら、江青らを従えて上手の方へ退場)

 

第十八場(8月12日。 北京・中南海にある周恩来の家。周恩来、妻の登頴超、登小平の3人)

周恩来 「十一中全会もようやく終わったが、これほど大荒れに荒れた大会を、私は見たことがない。 まるで嵐に弄ばれる難破船のように、党中央の権威は揺れ動いていた。嵐が一応おさまると、その中から毛主席の威光が太陽のようにまぶしく照り輝いてきた。

 もはや誰も、毛主席の権威を制限することも、それを取り除くこともできない。毛主席は再び、赤い太陽として全中国に君臨することになった。 そして、その陽光を更にさん然と輝かせているのが林彪国防部長だ。 今や毛林体制は、樫の大木のように中国の大地に根を下ろすことになったのだ」

登頴超 「でも、あなた、十一中全会は、来るべき大嵐の前の単なる微風に過ぎなかったような気がします。 すでに、紅衛兵の活動が大地を揺り動かすように、地響きを立てて近づいてきているようですね」

周恩来 「まったく、この先どうなるのか見当もつかない。 小平同志、君もなんとか党内第五位の地位を確保したが、紅衛兵の大きな打倒目標は、劉少奇とあんたの二人だ。 君はやがて、吹きすさぶ大嵐の矢面に立たされ、苦難の道のりを歩まねばならなくなるだろう」

登小平 「それはもう覚悟しています。 私がこれまで劉主席を支えてきたことは、万人周知の事実です。紅衛兵達は、決して私を容赦しないでしょう。 私は身に降り注ぐ火の粉を、振り払うのが精一杯となるでしょう」

登頴超 「一体、この先どうなるのでしょう。 血なまぐさい暴力とテロの炎が、登同志はもとより、あなたのいる国務院にまで襲いかかるのでしょうか。 そんなことになれば、中国の行政は深い火傷を負い、それが元に戻るまでには長い時間がかかってしまうのでしょうね」

周恩来 「きっと、そうなるだろう。だから私は、消防士を買って出なければならない。 誰が文化大革命の猛火を鎮める者がいるだろうか。火事は広がるところまで広がるだろうが、やがて必ず下火になってくる。 その時、私は溜めておいた水で、全力をあげて鎮火に当たるのだ。

 とにかく今は、燃え始めた火の手がどこまで広がるのか、誰も分からないのだ。 それは、毛主席だって林彪だって分からないだろう」

登頴超 「恐ろしいことですね。 これまでに経験したことがないような、大混乱が生じる気がしてなりません」

登小平 「火事を煽り立てて大きくするのは、陳伯達や江青だ。 そして、人民解放軍によって“火事場泥棒”をしようというのが林彪だ」

周恩来 「この干からびた中国の大地を、文化大革命の猛火が焼き尽くそうとも、私は国務院を守っていく。 そして、小平同志、この前約束したように、君の政治生命は必ず私が守ってみせる。 焼け野原となった中国の大地に、建設の槌音も高らかに再生の道を切り開くのは、私と君の二人の仕事なのだ。

 その時がくるまでは、ただ忍耐あるのみだ。じっと我慢しよう。 幸運が長続きしないように、不幸だって永久に続くものではない。 やがて明るい太陽が微笑み、恵みの雨が降り注いで、焼け野原の大地に緑の若葉が輝くようになるまで、私達はじっと耐え忍ばなければならないのだ」


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