第五幕(4月下旬。 北京・中南海にある毛沢東の執務室。毛沢東、周恩来、康生、江青、張春橋)
毛沢東 「林彪のやつ、泡(あわ)を食って北京に戻ってきたが、その後の動きはどうかね」
康生 「相変らず、自宅に黄永勝達を呼んでは対策を練っているようです」
江青 「林彪一派が、私達の住まいに爆弾を仕掛けるという情報もありますよ。気を付けなければなりませんわ」
毛沢東 「それはデマだろう。 しかし、追い詰められたネズミは何をするか分からんからな」
張春橋 「主席、用心するのに越したことはありません。林彪一派は、本気で主席や総理の命を狙っているかもしれません。 あいつらは、陳伯達が自殺未遂に追い込まれ、黄永勝達が名指しで非難されたことに強い衝撃を受けています。 危機感と焦りから、何をするか分かりません」
毛沢東 「うむ、気を付けなくてはな。こちらとしては、いっぺんに彼らを追い詰めるのではなく、時間をかけて徐々にやっていけばいいのだ。 まず、黄永勝や呉法憲らの地位を剥奪し、それから、各行政区で力を持っている林彪系の幹部を、少しずつ消していけばいいのだ。
そうやって、林彪の手足をもぎ取っていった上で、来年中に中央委員会を開き、林彪を副主席から引きずり降ろしてやる。 どうだ、こういう方針でいいだろう」
康生 「結構ですね。 とにかく、解放軍の中で、林彪系の“第四野戦軍”出身の者が力を持ち過ぎています。この際、他の系列の軍人を次々に昇格させて、解放軍の中の林彪の勢力を弱める必要があります。 そうすれば、林彪に統括されている解放軍は亀裂を生じ、彼の降格もスムーズにいくと思いますが」
周恩来 「それから、アメリカとの関係改善を急ぐ必要がある。 ソ連に対抗する上でも、また、世界の中で中国が確固たる地位を占めるためにも、アメリカとの関係正常化を急ぐべきです」
毛沢東 「うむ、今年は国連に正式に加盟できそうだし、党内での林彪勢力の外堀を埋めるためにも、アメリカとの関係改善は是非やっていこう。 総理、ニクソン大統領の中国訪問を実現させる手立ては、順調に進んでいますかな」
周恩来 「外交部を通して、極秘の内に進めています」
毛沢東 「それは結構だ。 去年の暮れ、林彪にアメリカとの関係改善を匂わせてやったら、彼は真剣な顔付きで反対していた。 ニクソン訪中が決まれば、あいつは真っ青になるぞ。なにしろ、頭の固い男だからな。 われわれの革命的な外交方針に付いてこれないだろう。面白いことになるぞ」
張春橋 「ただ、党内には、反米親ソ派もかなりいますので、その点は上手くやりませんと」
江青 「対米関係は、周総理に全てお任せ致します。 私達は、もちろん反対するものではありませんが・・・」
毛沢東 「いや、君達も大いに総理に協力してもらわないと困る。中国の将来を考えれば、アメリカとの関係改善は絶対に必要なのだ。 世界を米中ソの三国時代にするためにも、国際社会で中国が確固たる地位を得るためにも、アメリカや日本とは、早く良い関係にならなければならん。 その点は、総理の考えていることが正しい。君達は、積極的に総理に協力したまえ」
張春橋 「分かりました。 林彪を打倒する切っ掛けを作るためにも、積極的に応援していきます」
江青 「申し訳ありませんでした。 及ばずながら、私も協力させてもらいます」
康生 「私も出来る限りのことはやります」
周恩来 「ありがとう、よろしく頼みます」
毛沢東 「これで良しと、皆の足並みが揃ったな。 米中関係の問題は、党内できっと物凄い論争を巻き起こすだろう。だが、私は必ずアメリカとの関係改善を実現してみせる。 林彪一派を倒すことも、全てこの問題に関わってくるのだ。
陳伯達が失脚したあと、最大の敵は林彪しかいない。 林彪打倒という当面の目的を果たすためには、少なくともここにいるわれわれが、一致結束して掛からなければ出来ないことだ。 このことを肝に銘じてやって欲しい」
江青 「承知しました。 心を新たにして頑張ります」
張春橋 「主席と総理の指示に従って行動します」
第六場(5月上旬。 北京・中南海にある林彪の居宅。林彪、黄永勝、呉法憲、葉群、李作鵬、林立果)
林彪 「漏れ聞くところによると、毛沢東達はニクソン訪中を実現させるよう、内々に事を運んでいるようだ。 対米関係改善の話しは、すでに毛沢東から聞いているが、予想以上に事態の進展が早いようだな」
黄永勝 「困ったものだ。 ソ連との関係がどうなっても良いというのだろうか。やることが気違いじみている。無茶苦茶だな」
呉法憲 「それより、総参謀長が統括している中央軍事委員会弁事組に、毛沢東はいよいよ手を付けるようですね。 そうなれば、われわれは解放軍の中央から抹殺されてしまいます。早くこちらから手を打たないと、手遅れになってしまうでしょう」
葉群 「もう、あれこれ議論している段階ではないと思います。あなた、早く決断して下さい。 立果が作った五七一(ウーチーイー)計画は、十分に検討したではありませんか。 今度、公式の会議がもたれた時に、江青や張春橋達を一網打尽に逮捕して、毛沢東の手足をもぎ取りましょう。 もう、それしか他に手段はないでしょう」
林立果 「お父さん、お母さんの言う通りです。このままでは、目に見えてわれわれが不利になっていきます。 政治上は後手に回っていても、軍事行動では先手を取る。それしかないでしょう。 張春橋達を全員逮捕すれば、いくら毛沢東でも反撃することは出来ないでしょう。その上で、主席の退陣を要求すれば、毛沢東も受け入れざるをえない。
われわれの特殊部隊を、密かに北京に連れてきましょう。一か八かやってみることです。 もし万一失敗したら、われわれ空軍の力で上海方面へ逃げ、そこに臨時政権を創ればいいのです。そうなれば、ソ連だって北京政権を背後から牽制してくれるはずです。 やりましょう。もうやるしかないのです」
李作鵬 「しかし、極秘のうちに、特殊部隊を北京に連れてこれるかどうか、それは難しいのではないか。敵の情報網も大変なものだ。 もし事前に察知されたら、われわれの方が一網打尽にされてしまうぞ。しかも、北京軍区は、今や完全に毛沢東一派に押さえられているからな」
林立果 「だから、察知されないように、特殊部隊を少人数に分けて、徐々に北京に連れてくれば良いのです。 その場合、万一に備えて、山海関の飛行場に逃走用の軍用機を待機させましょう」
黄永勝 「しかし、それは危険だ。 山海関の飛行場だって、敵の監視下にある。飛行場で、われわれが逮捕されることだってあるぞ」
林立果 「そんなことを言っていたら、何も出来ないじゃないですか! 百パーセント大丈夫というクーデタが、どこの世界にあるというのですか! 半分でも成功の可能性があるなら、やってみることです。 こちらも危険なら、敵だって危険な状況にあるのです。これは生きるか死ぬかの大勝負ですよ」
李作鵬 「君の熱意はよく分かるが、それにしても危険が大きすぎる。敵の情報網を軽く見てはいけない。 こうやって、われわれが会合していることだって、敵はたぶん分かっているはずだ。まして、特殊部隊を北京に連れてくるなんて、間違いなく敵に知られてしまうぞ」
林立果 「それなら、他にどうしようというのですか。 なにか“名案”でもあるというのですか」
黄永勝 「名案はない。しかし、時機の問題だ。 今あわててやるよりも、時機を待てば必ずチャンスがくると思うのだが・・・例えば、毛沢東が北京を離れて地方に行ったところを狙うとか」
葉群 「毛沢東は今、物凄く警戒を厳重にしているのですよ。そんなフラフラと、地方行脚などをすることはないでしょう。 しかも、総参謀長をはじめ、われわれの同志が中央軍事委員会を追われたら、クーデタはますます難しくなります。 今のうちにやるのが最善だと思います。
立果も言ったように、軍事的に先手を打つことです。 今なら敵だって、まさかと思って油断しているはずです。極秘のうちに、特殊部隊を北京に入れましょう」
黄永勝 「いや、それはまずい。余りに危険だ。 北京周辺の解放軍が、どう動くか分からんでしょう。 もしそれをやるなら、保衛局長の汪東興や、毛沢東派の軍人を先に逮捕してからでないと、たとえ毛沢東達を一網打尽にしても、巻き返される恐れが十分にある」
林立果 「それなら、空軍を中心としたわれわれの部隊で、クーデタと同時に毛一派の軍人を撃つことにしましょう」
李作鵬 「それでも、毛一派の軍人を大半撃つことはできない。 しかも、われわれが北京にいたら、逆にわれわれの方が逮捕される危険が大きいと見なければならない。 副主席、五七一(ウーチーイー)を仕掛けるのはまだ早いと思いますが、どうでしょうか」
林彪 「うむ、葉群や立果の気持はよく分かるが、確かに危険が多すぎる。 さっきも総参謀長が言ったように、チャンスはまだまだ残っていると思う。 毛沢東だって、ずっと北京にいるわけではないだろう。もし彼が地方に出ることがあれば、その時こそ絶好のチャンスというものだ。
確かにわれわれは、今やギリギリの状況に追い込まれているが、絶望的な状態ではない。 敵にも必ず油断があるものだ。その機会をじっくりと待とう。 今、焦って手を出す方が負けるだろう。
それに、こちらだって反撃のチャンスはある。敵がアメリカとの関係改善を正式に打ち出してきたら、こちらは猛反対すればいいのだ。 たとえ党中央で、ニクソンの訪中受け入れを決めても、ソ連との関係を持ち出せば、こちらにだって“大義名分”が出来るというものだ」
林立果 「それは“政治論”じゃないですか。 要は、クーデタを成功させるかどうかということでしょう」
黄永勝 「いや、大義名分も重要だ。 アメリカとの関係に対抗して、ソ連との関係で論陣を張れば、こちらにも大義名分が出来る。その後の方が、クーデタはやりやすい。 党中央は無理やりニクソン訪中を決めたと、解放軍の中で逆宣伝してやれば、人心はおのずとわれわれの方に寄ってくるでしょう。 その方が、党内の動揺は大きくなるはずだ。
心ある者は、現代の“始皇帝”とヌエのような総理に幻滅を感じるだろう。 その時こそ、われわれが決起する絶好のチャンスというものだ」
葉群 「政治情勢がどうなろうと、軍事的にこちらから先手を打てないのは残念ですわ。 でも、私や立果の考えは、確かに焦りが高じている面もあるでしょう。 仕方ありません。もう少し、事態の進展を見ることにしましょうか・・・」
林彪 「そうしよう。 今はじっと我慢の時だ。準備さえ進めておけば良い。 そうすれば、必ずチャンスがやってくる。その時こそ、間髪を入れずにやるのだ」
林立果 「残念ですね。 今やれば成功すると思うんですが、悔いを残さなければいいが・・・」
第七場(6月下旬、北京。中国共産党政治局拡大会議が開かれている。 毛沢東、林彪、周恩来、康生、黄永勝、江青、葉群、張春橋ら多数の顔ぶれ)
毛沢東 「同志諸君、すでに論議は尽くしたと思う。 もうこの辺で、対米関係を改善するため、ニクソン大統領の訪中招請を正式に決めてほしい。 これ以上、論議を続けても、堂々巡りをするだけではないか」
林彪 「いや、私はそうは思わない。 米中関係という重要な問題を、この政治局拡大会議だけで論じて決めてしまうのは、極めて危険なことだと言わざるをえない。 中央委員会拡大会議や、もっと地方の上級幹部を含めた所で決めるべき問題ではないのか。
しかも、中国としては、アメリカとの関係改善を図れば、ソ連との関係がどうなるかという、重大な問題が残っている。 その辺の展望や指針がないのに、対米関係の改善を急ぐことは大変な冒険であり、余りにも軽々しい措置と言わざるをえない。 もっと広範囲にわたって、論議を尽くすべきではないのか」
周恩来 「ソ連との関係をいちいち気にしていたら、中国としては“独自の外交”を進めることが出来なくなる。 皆さん、よく考えてほしい。中国は今年こそ、国連に加盟できる状況になってきたのですぞ。 今や、国際社会に登場しようとしているわが国が、対ソ関係にこだわっているようだと、かえって国益に反することになる。 アメリカや日本との関係が、これまでのように冷却したままで良いと言えるだろうか」
黄永勝 「私にも一言いわせてほしい。 ベトナム戦争でアメリカと対決しているわれわれが、どうして、アメリカ帝国主義と仲良くしなければならないのだ。 そんな矛盾した話しはない。アメリカへの屈服ではないか!」
張春橋 「アメリカに屈服するのではない。アメリカとの関係を、少しでも改善しようということではないか。 そうすれば、いま総理が言われたように、国際社会に登場しようとしているわが国の立場は、より有利で確固たるものになり、ベトナム問題でも、かえって発言権が強まってくるはずだ」
葉群 「それでは、ベトナムをますますソ連寄りにしてしまう恐れがあるでしょう。 わが国はこれまで、折角ベトナムに肩入れしてきたというのに、アメリカに追従するような態度を取ることは、われわれにとって不利益になるに決まっています」
江青 「どうして、中国に不利益になるというのですか。 将来、アメリカから高度な技術や工業プロジェクトを導入することは、わが国にとって利益になるはずです。中国の国づくりにプラスになれば良いではありませんか。 ソ連こそ技術者を引き揚げさせたり、国境紛争を起こすなど、わが国に敵対する行動を取ってばかりいます」
黄永勝 「だからこそ、これ以上、ソ連との関係をこじらせてはいけないのだ。 社会主義国同士として、ベトナムで共に戦ってきたように、アメリカ帝国主義に立ち向っていくべきだ」
張春橋 「そういう姿勢こそ、ソ連をますます増長させ、中国の主体性を損なわせるものだ。 先程あなたは、われわれのことをアメリカに屈服するような言い方をしたが、あなた達こそ、ソ連に追従し屈服するような態度を取っているのではないか」
黄永勝 「何を言うか! いつ、われわれがソ連に屈服したというのだ。中国は中国だ。 ソ連と対等の立場で、アメリカと戦ってきたではないか! そういう姿勢を崩してはいけないというのだ」
周恩来 「そういう姿勢こそ、もう古いと言うしかない。 中国は独自の立場に立って、アメリカにもソ連にも対応していかなければならない。社会主義国同士などというのは、今や“現代の神話”になってしまったのだ。 中国はあくまでも、独自の革命的な外交路線を貫いていかなければならない」
毛沢東 「その通りだ。私も総理の考えに賛成だ。 世界はこれから、米中ソの三国時代に突入していく。いつまでも、古臭い社会主義インターナショナルの考えに捕われてはおれない。 大体、ソ連がわれわれのために何をしてくれたというのだ。
国民党との合作を強制してきたり、中国共産党の内部分裂を画策したり、わが国の東北地方を接収しようとまでしたではないか。今でも盛んに、中ソ国境で侵犯を繰り返している。 それらは社会主義以前の問題だ。民族対民族の問題ではないか。 だから中国は、ソ連とは全く独自の立場で外交を進めていかなければならない。
それが将来、国際社会で中国に確固たる地位を占めさせ、アメリカやソ連にも劣らない強大な国になっていく道なのだ。 もう議論を続けている段階ではない。アメリカとの関係改善は、必ずや中国を有利な立場に立たせ、ソ連に対する発言権や力を強くさせるものだ。 さあ、その方針をこの場で決めてほしい」
林彪 「いや、何度も言うようだが、それはまだ早い。もっと多くの党幹部をまじえて、この問題は徹底的に論議すべきだ。 これほどの重要な問題で結論を急ぐのは、過去に例のないことだ。この場は、ひとまず解散した方がいいのではないか」
毛沢東 「いや、解散する必要はない! それでは、私が党主席の権限と責任において、同志諸君に表決をお願いしたい。 アメリカとの関係改善を進めるため、ニクソン大統領を北京に招くことに賛成の諸君は挙手してほしい。(参会者の半数以上が挙手する) 賛成多数だ。それでは、ニクソン訪中の具体的な段取りは、国務院において早急に詰めてほしい」
林彪 (憤然として)「あんまりではないか! 論議はまだ尽くしていないというのに・・・」
黄永勝 「一方的な採決だ!」
葉群 「ひどすぎます」(林彪ら、席を立って退場)
周恩来 「党中央の決定に従って、国務院としては、ニクソン大統領訪中の段取りを進めていくことにします」(他の参会者も席を立って退場)
第八場(7月中旬。 北京・中南海にある林彪の居宅。林彪、黄永勝、葉群、呉法憲、李作鵬、林立果)
黄永勝 「周恩来め、ついにアメリカ帝国主義の“手先”に成り下がったか。 キッシンジャーとかいう醜いユダヤ系のアメリカ人を北京に呼んで、来年五月までにニクソンの訪中を実現させることで、話しを付けてしまった。 許しがたい暴挙だ」
呉法憲 「もはや、われわれとしては毛沢東一派と妥協する道は、完全に閉ざされてしまったですね。 あとは、副主席の決断を待つばかりです」
李作鵬 「政治局拡大会議で、ニクソン訪中にあれほど反対したというのに、毛沢東や周恩来は少しも聞く耳を持たなかった。 近いうちに、われわれへの粛清が断行されることは間違いありません。 この前、私はクーデタについて慎重な意見を述べましたが、その考えはここで取り消します。 こちらから、先手を打ってやるべきです」
葉群 「李作鵬同志も、ついに決意を固められたのですね。 これで、われわれ全員、クーデタ決行で足並みがそろいました」
林彪 「うむ、私も決心がついた。このまま黙っておれば、われわれが党中央から抹殺されることは、火を見るよりも明らかだ。 五七一(ウーチーイー)をやろう! B-52を撃墜しよう。こちらがやらなければ、やられるだけだ」
黄永勝 「敵も政治局拡大会議いらい、一段と警戒を強めている。北京に特殊部隊を投入することは無理な情勢となってきた。 そこで、私に良い考えがある。願ってもないことだが、毛沢東は近く、南方を中心に遊説するということだ。 もとより、われわれを失脚させるための世論作りをしようというわけだが、その機会を狙って殺すしか方法がないと思う。 どうだろうか」
呉法憲 「それはいい考えです。 私の空軍を使って、毛沢東が乗っている列車を空から爆撃するか、時限爆弾を仕掛けるかしましょう。 仮にそれが失敗しても、上海辺りに毛沢東が来たところを逮捕すればいいのです。 いくつもの作戦を、今から準備しておきましょう」
林彪 「そうだな。いずれにしろ、毛沢東が北京を離れる時が、絶好のチャンスだ。 ただ、どんな作戦でも、一度失敗したら取り返しのつかない事態となる。 だから、あの男が南方を遊説する間は、焦らずに唯一のチャンスをじっくりと待つことだ」
呉法憲 「分かりました。 その点は、御子息とも十分に打ち合わせた上で、最善の手段を取ることにしましょう。 立果同志、よろしいかな」
林立果 「勿論ですとも。 B-52が南方に来れば、それこそ、飛んで火に入る夏の虫です。それとも、袋のネズミですかね。 いずれにしろ、そうなれば、もうこちらのものです」
林彪 「ただ、十分に気を付けてくれ。 あいつは昔から、ゲリラ戦を闘い抜いてきた神出鬼没の男だ。しかも、幾たびか死線をくぐり抜けてきた強運の男だからな。 ああ、ついに毛沢東を討つ時が来たのか・・・
思い起こせば、あの“長征”いらい、私の師であり、中国解放の星と崇めてきた男を討つのだ。 これも歴史の皮肉と言おうか、運命の悪戯(いたずら)と言うべきか・・・しかし、やらねばならん。やらなければ、こちらがやられるだけだ。 諸君、世界をアッと言わせる日が近づいたぞ」(一同、事の重大さに黙して語らず)