ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『ストレイト・ストーリー』を再度観て

2017年07月26日 | 1990年代映画(外国)
雨あがりのペイブメントさんの5/14の記事「老いるということ」にある、『ストレイト・ストーリー』(デイヴィッド・リンチ監督、1999年)がずっと気になっていて、
今回たまたまこの作品がレンタル店にあったので借りてきた。

アイオワ州ローレンス。
娘ローズと二人暮らをしている73歳のアルヴィン・ストレイトは、腰の異変ばかりか病気の元も抱えている。
そんな矢先、兄ライルが倒れたという知らせが入る。

この期の及んだ兄を、アルヴィンはどうしても訪ねたいと考える。
車の免許もない彼が考えた方法は、芝刈機にトレーラーを付け出かけること。
兄が住むウィスコンシン州マウント・ザイオンは、ミシシッピ川の向こう側で、その距離は350マイル(約563キロ)。
かくしてアルヴィンは、、時速5マイル(約8キロ)の歩みのトラクターで出発し・・・

実にのんびりした話だが、これが実話からの映画化となると、やはり驚きが隠せない。
ことは、車ならたった1日の距離の話が、5週間以上の長旅の末に目的地に着く内容だから。

その間に出会う人達。
寡黙であっても、そこから滲み出てくる個々の人生。
人は、知らない人と出会い、そして話してみることによってそれぞれを知り、心を通わせるということ。
それは決して雄弁である必要はなく、表情だけでも十分であるということ。

アルヴィンの目的。
それは十年前に喧嘩別れをし、音信不通の兄との和解。
人生の後半の、わだかまりの決算。
その心情が、ラストで、観る者の心に打つ。

今回再度観た理由として、記憶から消えている、アルヴィンの「最悪なことは、若い頃のことを覚えていること」と言う言葉の意味が知りたかったから。
観た結果、そこには深い意味があることがわかった。
若い頃の戦争の記憶。
忘れたくても忘れられない過去の記憶。
それは死ぬまで引きずる、後悔と言う言葉では言い表せない悔恨の思い出。

この作品を観た人は、アルヴィンを演じる“リチャード・ファーンズワース”の眼差しを、時が経っても忘れることができないではないか。
それは翌年に、ファーンズワースが現実に自死したこととの記憶と関連してかもしれないが。

それにしても、これ程シンプルでありながら、人生とは何かを深く教えてくれる作品はそんなにあるものではない、としんみりと感銘しながら思った。
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『悪い女 ~青い門~』を観て

2017年04月06日 | 1990年代映画(外国)
レンタル店にほとんど置いてない『悪い女 ~青い門~』(キム・ギトク監督、1998年)を、やっと探すことができた。

近くに臨海工業地域が見える海辺。
一軒の民宿に、スーツケースを持った若い女性が訪ねてくる。名はジナ。
民宿を経営している夫婦には、ジナと同世代のヘミと高校生のヒョンウがいる。
実は、このひなびた宿は隠れた売春宿として機能している。

その夜から客を取るジナに、翌朝、ヘミはことごとく冷たく当たり嫌がらせをする・・・

民宿を経営する一家は、売春婦のジナに依存しながら生計を成り立たせている。
だから、ジナも生活は一緒で、食事も同じ食卓で食べる。
しかし、大学生のヘミはそのことに我慢ができない。
売春婦がいることによって、恋人に家の実情を隠さなければならないし、ましてや連れてくることもできない。
そのようなことも絡んでか、ヘミは性に対し、すごく潔癖症になっている。

ジナのおかげで、ヘミも大学にも通うことができているのに、偏見に満ちた頑なな考えは変えようとしない。
それに対してジナは言い返しもせず、そう思われるのが当然だと自分自身のことや人生に達観しているようにみえる。
男たちは皆、ジナを欲望の対象としか見ないし、金銭さえ与えれば良いと思っている。
経営している民宿のおやじから、果ては、まだ高校生ヒョンウまでジナと関係を持ってしまう。
そんなでも、彼女の精神はどこか透き通っていて、やさしさに満ちあふれている。

あれ程、嫌悪感でジナを拒否していたヘミだったが、絵が好きなジナの心持ちがわかってくると、やがてわだかまりも徐々に消え、打ち解けてくる。
エンドロール。
海を泳ぐ金魚と一緒に、水中から見るヘミとジナの顔。
水に揺れていびつに崩れながらも、楽しそうな二人。
まるで幻のようなその姿が、微笑ましくて、なんとも愛らしい。

どこにも“悪い女”は出てこないのに、見当違いな邦題のイメージとは違って、とっても忘れがたい女性の物語であった。
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『ワイルド・アニマル』を観て

2017年03月21日 | 1990年代映画(外国)
キム・ギドク監督の第2作目『ワイルド・アニマル』(1997年)を観た。

パリ。
北朝鮮の男ホンサンは、フランス外人部隊に志願したいと考えて列車で到着する。
駅に着くなり、韓国から来ている画家の卵チョンヘに騙され、荷物や金をネコババされそうになる。
チョンヘは、腕力のあるホンサンに叩きのめされそうになったのに、彼に何かと親し気にまとわりつく。

チョンヘは、川べりに繋留してある舟に住んでいて、この舟を自分のアトリエにして好きな絵を描く夢を持っている。
しかし、家賃が払えず立ち退きを迫られ、画家仲間の絵を失敬しては小遣い稼ぎをしている。
ある日、欲を出したチョンヘは、ホンサンを誘ってフレンチマフィアのボスの下で働こうと決め・・・

内容は、金を稼ぎたいために裏社会に入り込んでいく青年の話である。
でも、やることなすことが思っているような調子にはならない。

そんな彼らだが、思いをもつ相手に恋をする。
チョンヘは、ボディ・ペイントで生計を立てている女性コリンヌと知り合う。
ホンサンは列車の席で一緒になった、“覗き部屋”に勤めるローラのことが忘れられない。
ただ、どちらの女性にも相手がいたりする。

ボスからの命令と裏切り、女性の相手の男たちへの憤り等が絡んで、チョンヘとホンサンの日常は、更なる下降線へと落ちていく。
それと並行して、時間と共に、徐々に奇妙な友情が芽生えていた二人の、その関係は強固になっていく。
ラスト近辺で、『鰐 ワニ』(1966年)でみせた水中で男女が手錠で繋がっているシーンが、
こちらでは、男と男が手錠で繋がれている海の中、と引き継がれ、男の友情の厚さへのメッセージとなる。

外国人がパリを舞台に映画を作る、それもこれがまだ2作目となれば、半分観光映画みたいな中途半端な内容の作品をよく目にする。
だがこの作品は、自然にパリに溶け込んでいる雰囲気で、違和感を持たせない。そこが監督の力量ということか。
とほめたたえても、実際、ギドク作品と知らずに観たなら、もっと冷淡な目で見たかもしれない。
そんなことも思う、個人的には楽しい興味深い作品だった。
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『鰐 ワニ』(キム・ギドク監督)を観て

2017年03月19日 | 1990年代映画(外国)
キム・ギドク監督は、上映された時に観た『サマリア』(2004年)の新鮮さに打たれ、それ以降、気になる存在となった。
と言っても、観ていない作品も多く、特に初期作品は皆無である。
それで、まずデビュー作の『鰐 ワニ』(1996年)を観ようとレンタル店へ行ってきた。

漢江の橋の下。
粗暴な性格から“ワニ”と呼ばれている浮浪者ヨンペは、行き場のない老人と孤児の3人でそこで寝起きしている。
彼は、人が川に身投げし溺れると、泳いで行ってその死体から財布を盗んでくる。
そして、その金を賭博につぎ込んではすってしまう。
ある夜、川にまた人が身を投げた。
老人が助けないのかと聞くと、ヨンペは助けたら商売にならないだろうと言う。
しかし、それが女だとわかるとヨンペは川に飛び込み、助けにいく・・・

このヨンペは、誰から見てもひどいワル。
川で女を助けたと思ったら、レイプする。
それより以前でも、ある時、男に言い寄られている女を助けたと思いきや、自分でレイプしている。
そんなことばかりでなく、生き別れの親をさがしていると言って孤児に公園でガムを売らせたり、
電磁治療器と偽ってインチキ商売をしてみたり。
当然、粗暴なヨンペは、暴力も絡んで殴り合いもやたらとする。

自殺未遂した女ヒョンジョンは、行くところもなく3人と一緒に暮らす。
ヨンペは何度もヒョンジョンを襲うが、孤児は最初からヒョンジョンに好意をもっているし、老人だってどちらかと言えば味方である。

こんなどうしようもない男ヨンペでも、いつしか少しずつヒョンジョンに情が移っていく。
そして、絵が得意だと知ると、絵の具を買ってきたりするようになる。
しかしヒョンジョンは、自殺する原因となった男をまだ愛している。

ヨンペとヒョンジョンの微妙な感情のすれ違い。
それをキム・ギドクは、内に秘めたまま、表にあらわさない感情表現で描写する。
この作品を観ていると、後のギドクの映画特徴がよく表れていたりする。
状況説明はセリフで行わないで、あくまでも、映像によって表現する。
ただ残念なことに、この作品はその肝心の映像が汚い。
デビュー作にありがちな、資金が足りなかったせいだろうか。

それにしても、ラストの水中シーン。
ヨンペがヒョンジョンと手錠で繋がり、椅子に座って永遠の時を迎える場面。
やはり、これがキム・ギドクだ、と唸ってしまう。
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