ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『イニシェリン島の精霊』を観て

2023年02月24日 | 2020年代映画(外国)
『イニシェリン島の精霊』(マーティン・マクドナー監督、2022年)を観てきた。

本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。
島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。
急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。
賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、
ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる・・・
(オフィシャルサイトより)

『スリー・ビルボード』の監督作品ということで、観なければと思い行ってきた。
結果は、作品にどっぷり浸かることが出来、その内容の濃厚さに痺れた。



日常的にコルムをパブに誘うパードリックは、ある日突然、無視される。
バイオリンを弾いたりするコルムからやっと言われたことは、「お前が嫌いになった」ということ。
年の行ったコルムは、「人生の残り時間が少ない、人々の記憶に刻まれるようなこと、例えば作曲とかに時間を割きたい」と言う。
そして、パブで馬鹿話をして時間だけを浪費するだけのパードリックとは決別すると言う。

話は、このような二人に関しての内容だけでほぼ進んでいく。
だから単純そうにみえるが、元々は仲のいい二人なので、「じゃ、はい、そうしましょう」とかには行かないところがややこしい。
村人は何事も起こらない日常から何か目新しい変化に興味を示す。
そのようなことを、一見寒々としてみえる風景の、それでも景色がすばらしい中での島の出来事として描く。

対岸はアイルランド本土。
そこでは内戦が起きているらしいが、村人の間では話題にあがらない。
村人は大体がそれぞれに“いい人”で、どちらかと言えば穏やかに過ごしているが、パードリックの妹のシボーンにはこの閉塞感が我慢できない。

そのような全体の状況の中で、印象的な景色と自然体の人物を造形させた映像に飽きが来ない。
そればかりか、生活に溶け込んでいる動物、特にパードリックが大事にしているロバなんかは、人に対する感情をもろに出しているようでビックリする。

物語はラストに向かって悲劇と化していくが、それでも二人の関係は決定的ではなかったりして、一件落着とは言い難いところがミソというか、
見方によってはカタルシスを感じないところがチョットと思う人もあるかもしれない。
だが、それも入れての監督の意図ではないかと、私は思う。

コメント (2)
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