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風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ディープブルー

2010年04月23日 | 詩集「ディープブルー」
Kumo16


どおんと山を越えてくる
たぶんそれは
空の鯨
黒い巨体が空を泳ぎわたる日
ひとは大きな影の下で
ディープブルーに染まる


背中から尾びれへ
なだらかに不在のかたちを測りながら
鯨は真昼の夢をみている


風よりも遠いものに
ひとの手はとどかない
ひたすらに朝から夜へと
小さな波を送りつづける


それは吐息のようなものだ
とぎれとぎれに
ひとは生きることを継いでいる
そうして大きな沈黙のかたまりを
ただ見つめているだけだ


ふたたび鯨が
どおんと山を越える日
空はなだらかに傾斜する
その時ひとはかなしみの深さを知る
山の向うにはきっと
ディープブルーの海がある


(2005)


Enter

2010年04月23日 | 詩集「ディープブルー」
Kai


ATASHI <Enter> あたし
24SAI <Enter> 24才


そんなに生きた? ほんとに生きた?
ヒッキー10年 ビョーキ歴10年 友達いない歴10年
ぜ~んぶDelete 消して無くして
いまのあたし Nothing!


顔わるいしぃ 足ふといしぃ あたまも性格も超ブス
おとんもきらい おかんもきらい おばんもきらい
家じゅうみ~んな 地雷ふみまくってる


きょうこそ早起きして コンタクト入れて 病院行こうと思ってたけど
やっぱし調子悪いからヤンペ 病院って元気でなきゃ行けないじゃん
こんな自分 キモイです 病んでます


病院コワイなぁ いろいろ聞かれるからウザイなぁ 続けて来いって言われるからヤダなぁ
通院日が決められるのってストレスぅ 考えるだけでダルぅ
はぁ また鬱りそう


診断…
精神年齢22才…実際との年齢差2才
幼稚度95%…生後6か月の赤ちゃんなみ
大人度19%…ほんのわずかだけ大人っぽい
老人度62%…70才の老人なみ
所見…
こうなったからには、のんびりいきましょう
…ってか


あたしって誰だ あたしがどうすることもできないあたし あたしがきらいなあたし
あたしがあたしの子供だったら あたしとっくにシメてるな
でもあたし
自殺はしません
勇気ないから


DAREKA <Enter> 誰か
ATASIWO <Enter> あたしを
KOROSITE!


(2005)


ムーンストーン

2010年04月19日 | 詩集「ディープブルー」
Asuka2


夜道はいつも暗かった
いつからか少年は月を見たことがない
たぶんあの石をひろった夜からだ
少年はそう信じていた


野球のボールほどの
ただ丸いだけの普通の石だった
いつだったか夜中に
近くの池のそばでひろったものだ
昼間は部屋にこもったきりで
その石を眺めたり撫でたりしていた
ほかにすることもなかったし
やりたいこともなかった


いつも体が地面から浮いている
少年はそう感じていた
だから手の中の石の重みが快かった
もう手ぶらでは
外へ出ることができなかった


このちいさな いしころは かたくて つめたい おまえには ちが
ながれていない おまえは ぼくだ ぼくは いしころだ いしだ
彼が言葉をかけるのは
その石にだけだった
いつも長い時間
その石と対峙していた


ある夜
石が濡れていた
それは涙のようだった
朝までずっと石は濡れていた
このなみだは どこから わきだしてきたのだ わすれていた 
いままで こんなものが ぼくのなかに あったのか


つぎの日の夜
少年が池のそばを通りかかると
水面がいつもより明るかった
歩くにつれて
白く輝くものがゆっくりと
池の端から現れた
それは水面に写った月だった


少年は立ちどまった
池の月を眺めた
美しい
壊したい
長いこと忘れていた感情だった
だれかが少年の腕をつかんでいた
石を持った右手に力がはいった
石が少年の手をはなれ
水面の白くて丸いものが砕け散った


全身の力がぬけた
石が……そうつぶやくと
少年は歩き出した
急に足元が明るくなっている
黒い自分の影をみた
ふり向くと
さっきまで池にあった月が
少年のうしろにあった


(2004)