25日行われた東西の重賞レースはそれぞれにドラマがあった。
まずは1着同着となった阪急杯。
既に調教師転身が決まり、これが騎手として最後の騎乗となった本田優が6・ニシノデューを思い切ってハナに行かせ、同着優勝となる1・プリサイスマシーンと、今月一杯で調教師の定年を迎える湯浅三郎厩舎の5・エイシンドーバーが並んで中団より前の位置。1番人気の7・キンシャサノキセキは中団、2番人気の3・スズカフェニックスはキンシャサよりも3~4頭後ろの位置。
ニシノが快調に飛ばすが、直線に入って好位に取り付いたエイシンがニシノを直線半ばで捕らえにかかって先頭を伺うところ、逆にじっくり溜めていたプリサイスが中から漸進し、加えて、外からキンシャサ、さらに後方からスズカが追ってくるという激しい攻防。
最後はエイシン、プリサイス、スズカの3頭のきわどい写真判定となり、長い判定の結果、エイシン、プリサイスは同着。スズカは惜しくもハナ差及ばずの3着だった。
それにしても、この大激戦のきっかけを作ったのは何といっても本田だろう。結果的には6着だったとはいえ、600~1200Mまで11秒台でハロンを刻んで、よどみのないペースを作り出し、最後に本当にきわどい勝負を作り上げた「立役者」となった。
本田は24日のアーリントンカップでも、ローレルゲレイロに騎乗し、トーセンキャプテンに最後は伸びきられたとはいえ、 最後まで勝負に執着する根性をみせつけてくれた。しかもこの一戦はお互いが「相互接触」するという格闘技のようなレースとなり、こちらも阪急杯に負けないほどの大熱戦レースとあいまった。
阪急杯に戻るが、エイシンドーバーの湯浅三郎調教師は、実はJRAでは99年の新潟ジャンプステークスのエイシンワンサイド以来の重賞勝ちで、平地となると、93年の桜花賞トライアル・阪神4歳牝馬特別のヤマヒサローレル以来何と14年ぶりの重賞勝ち。
地方交流重賞9勝を誇る、「砂の女王」レマーズガールを管理する湯浅調教師なだけに、この事実は意外な気がするが、JRAでは最後の重賞挑戦で見事勝利を果たした。しかし本当の意味で、最後の重賞挑戦となるのは28日に行われる川崎・エンプレス杯。レマーズガールが10回目の地方交流重賞制覇に挑むが、果たしてそれも成就なるか注目されるところ。
また、同着優勝のプリサイスマシーンは、昨年10月のスワンステークスにおいてもあっと言わせる「大金星」を演じたが、8歳になった今年も鋭い末脚を駆使し、「若いモンにはまだまだ負けん!」といわんばかりの勝利を収めた。今後も短距離重賞戦線においては要注意。
そして同じく8歳馬のローエングリンが、いかにも「老獪」といった形で見事4年ぶりに中山記念制覇を逃げ切りで果たした。
これで重賞制覇は4回目だがいずれもG2(中山記念、マイラーズカップをいずれも2回ずつ)。
この馬は常に不運がつきまとっており、出走すれば勝ち負けできていたかもしれない日本ダービーは除外され、G1制覇にも幾度となく手が届きながらも果たせず終い。
何とかこれだけ実績のある馬なだけに、陣営はG1制覇を果たすべく現役を続けてさせているが、最近は着順掲示板こそキープするも、そろそろ限界か、といわれていた矢先の勝利。
ちなみに伊藤正徳調教師は2着のエアシェイディも含めてワンツーを決めたが、実はこのレースでJRA通算400勝を達成した。ちなみに伊藤調教師は騎手時代、福永洋一、岡部幸雄、柴田政人らと同期。
そして、05年の安田記念以来、ローエンがG1制覇に最も近づいていた頃にこの馬の主戦であった後藤浩輝に鞍上が戻り、レース後のフジテレビのインタビューで号泣するシーンが見られた。
「この馬のことは常に気にかけていた。今回、この馬に騎乗でき、しかも勝ててうれしい。」
と後藤はまるでこの日を待っていたかのような感涙のシーンを見せた。
確かに4年前、中山記念とマイラーズカップを連覇し、安田記念は堂々1番人気に推され、しかも残り100ではほぼ勝利を手中にしかけながらも3着。
さらにその後のフランス遠征では、ムーランドロンシャン賞で2着に入り、本当にG1制覇にまであと一歩と迫りながらも、帰国緒戦の秋の天皇賞で13着と大敗し、ここで後藤は降ろされた。また、再び騎乗した05年の安田記念でも17着大敗。
自分が乗ってG1を勝てなかったという思いが後藤にはよぎってきたのだろう。
それにしても、この日の競馬は別にG1開催日でもないのに、感動のシーン連発という「忙しい日」となった。
こんな日がしばらく続けば、恐らく競馬人気も回復基調が見えることだろうに。