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唐木田通り 43

2007-04-14 16:27:04 | 唐木田通り
岐阜で村瀬が逮捕され、事件は一応の決着をみたが、会社の粉飾決算はこれから追及されそうだ。

お彼岸が過ぎ、朝晩の空気が澄んだ冷たさを感じられる様になってきた9月下旬、由起子と良一は別所公園に佇んでいた。並木の丘公園とでも名づけたい場所だ。
「由起子さん、これからも大変だと思いますが、手伝える事があったら何でも言ってください」
「有難う、本当に、お世話になりました」
良一は、いつ自分の想いを伝えようか、そればかりを考えていた。
「私、これを機会にいまの仕事を何とか成功させて、一人前になる為頑張るつもりです、子供も居るし、幸い会社もいままで通り任せてくれると言ってくれました」
「成功を願っています、由起子さんなら大丈夫、絶対うまくやれますよ」
「自信はまだ半分位なんだけれど」
「僕が仕事の役に立てればいいんだけどな」
「もう充分良くしてくれました、感謝しています」
「感謝、ですか」
「仕事を本当に自分の物にするには、後2,3年掛かります、それまでは今の生活を変えない様にしたいと考えています」
「由起子さん、僕はあなたとの新しい生活を・・」
「お願い、何も言わないで」
由起子は良一の話を遮ると、彼の胸の中に飛び込み、激しく嗚咽した。
「このままではいけないと思っていたの、お葬式が終わって一段落した時、良一さんとの状態を続けていくと、必ずあなたの生活も悪くなる、そんな風にはしたくない、一旦別れよう、そう決めたの」
「暫く会わない事にして、由起子さんが落ち着いて暇な時連絡を取ればいいじゃないか」
「それじゃ駄目なの、私の決心が変わってしまう、ごめんなさい」
「謝ることないよ」
「良一さんはこの坂を京王堀之内駅に下って行ってね、私は唐木田駅に向かいますから、そうすれば、二人共家に帰りやすいでしょ」
曇った夕方の秋空がそこにあった。

         
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