「向井智子という女性をご存知ですね」
村瀬は全てが終わった、いや済んだのだとほっとした。智子の事をつきとめられたのでは、もう何も言い訳をする必要もない。
名のある旧家に生まれ、気位ばかり高い妻には嫌気がさしていた。周りからは逆玉の輿だと羨ましがられたが、身内からは長男を養子にくれてやった様なものだと冷たい目でみられ、酒とギャンブルにはまり込んでいたが、そんな時期に智子が入社してきて頼りにされると、置き去りにしてきた若い時のときめきに近い感情が蘇ってくるのが嬉しくて、年甲斐もなくむすめの様な女性に恋をしてしまった。
中谷も来る度彼女にお土産を持ってきたり、元請け会社の責任者という意識もあって、積極的に接待に同伴させていたのだが、まさか彼女が本気になるとは思っていなかった。
そんな時期に妊娠が確認されたのだが、村瀬は正直嬉しかった。家内と離婚してもいいとまで考えていたのだが、彼女の気持ちは離れていた。
元請けと下請けの関係、それは如何に元請けの責任者に美味しいおもいをさせるか、という事でもある。
5年程二重帳簿を二人して作成していたのだが、それがどうやら発覚したらしい。
中谷は村瀬に全責任を取れと言ってきた。再就職の世話もするから全部被ってくれだと、ふざけるな、村瀬は納得できなかった。
口止め料として二百万円を無理やり押し付けてきた時、かっとなって陶器の置物で頭を殴ってしまった。
あっけなく死んでしまった中谷を見て呆然としたが、山中には捨てる気になれず、使用していない倉庫にとりあえず運んで隠した。
仕事を通じての同士と思っていただけに怒りも強かったのだが、個人的にも好意を感じていたので、数日迷った揚句、手に銀嶺のネクタイピンを握らせて夜中に公園まで運んで置いてきた。少しでも東京に捜査の目がいってる間に逃げるつもりだったが、それも空しくなっていた。
村瀬は全てが終わった、いや済んだのだとほっとした。智子の事をつきとめられたのでは、もう何も言い訳をする必要もない。
名のある旧家に生まれ、気位ばかり高い妻には嫌気がさしていた。周りからは逆玉の輿だと羨ましがられたが、身内からは長男を養子にくれてやった様なものだと冷たい目でみられ、酒とギャンブルにはまり込んでいたが、そんな時期に智子が入社してきて頼りにされると、置き去りにしてきた若い時のときめきに近い感情が蘇ってくるのが嬉しくて、年甲斐もなくむすめの様な女性に恋をしてしまった。
中谷も来る度彼女にお土産を持ってきたり、元請け会社の責任者という意識もあって、積極的に接待に同伴させていたのだが、まさか彼女が本気になるとは思っていなかった。
そんな時期に妊娠が確認されたのだが、村瀬は正直嬉しかった。家内と離婚してもいいとまで考えていたのだが、彼女の気持ちは離れていた。
元請けと下請けの関係、それは如何に元請けの責任者に美味しいおもいをさせるか、という事でもある。
5年程二重帳簿を二人して作成していたのだが、それがどうやら発覚したらしい。
中谷は村瀬に全責任を取れと言ってきた。再就職の世話もするから全部被ってくれだと、ふざけるな、村瀬は納得できなかった。
口止め料として二百万円を無理やり押し付けてきた時、かっとなって陶器の置物で頭を殴ってしまった。
あっけなく死んでしまった中谷を見て呆然としたが、山中には捨てる気になれず、使用していない倉庫にとりあえず運んで隠した。
仕事を通じての同士と思っていただけに怒りも強かったのだが、個人的にも好意を感じていたので、数日迷った揚句、手に銀嶺のネクタイピンを握らせて夜中に公園まで運んで置いてきた。少しでも東京に捜査の目がいってる間に逃げるつもりだったが、それも空しくなっていた。
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