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the new look




今、AppleTVのミニシリーズでThe New Lookが放送されている。
昨夜が7話目(全10話)だった。

ネタバレなしの内容としては、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ占領下のパリで、クチュール界がいかに生き延びたか、ファッションの社会性や、なかでもシャネルとディオールにフォーカスした権謀術数ものだ。
ええ、ファッションものではなく、政治もの!




しかも実在したデザイナーや政治家の登場人物が全員大物で、ものすごくおもしろい。
まるで世紀末のウイーンのように、20世紀初めの天才がクリームの上澄みのように集まった時代!

どの登場人物も、単にずる賢かったり、偏狭だったり、英雄的だったりするのではなく、人間の多面性が、わりときっちり表現されている。

ディオールはインスピレーションの源もそうだが、家族との絆が強く、妹君が反ナチスのパルチザン(実話)で、強制収容所で生き延び、戦後、勲章を授けられた人物であることなども描かれている。

Juliette Binocheのなりきりココはさすがで、もうシャネル本人にしか見えない...シャネルを女性誌の特集にありがちな、美化しているだけではないのがいい!
あの日和見主義、変わり身の速さ、世渡り上手の罰当たり、究極のサバイバーである。
孤児状態からのし上がり、超有名人の男性からひくてあまた、50、60歳にもなってモテモで、20歳年下の男性と関係を持ったり、多くの愛人常にとっかえひっかえ、なんてうらやましい(そこ?)


第二シーズンも制作中で、ディオールは心身を消耗したのか、早くに亡くなってしまうゆえ、サンローランなどが出るのか?
ココはあの調子で好きなように生きて長寿ですけど!




このシリーズの他にも、現在進行中のシリーズとして最近わたしが特に楽しみにしているのは、英国のスパイものSlow Horses(邦題は『窓際のスパイ』)。
モサドもののTehranはどうなるのか。イスラエル製作ゆえ。次のシリーズはHugh Laurieが出るはずなのだが、わたしの立場としては見るべきではない。

そしてリメイクSHOGUN、最初は「オリエンタリズム、わたしゃ見ん」と断言していたのだが、片目を瞑りつつ(だって例えばランドスケープが日本らしくなかったりする!)つい見ています...真田広之演じる虎長(徳川家康がモデル)が、従来わたしがイメージしていた家康っぽくなくていい。
上手い俳優さんが多いのもいい。
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kissin for alexei navalny




毎年この時期に開催されるEvgeny Kissin のピアノ・リサイタル@ロンドンのバービカン。

プログラム(下に載せました)の演奏も、まるで建築!(「建築は凍れる音楽」byシュレーゲル)で、文句なく素晴らしかったのだが、観客のこころがざわつき、涙したのはなんといってもアンコールだった。


'I dedicate this encore to the memory of Alexei Navalny, who died yesterday in the concentration camp…'

「このアンコールは昨日(16日)、強制収容所で亡くなった、アレクセイ・ナワリヌイに捧げます」

決然とした表情で彼は言った。
一瞬の間の後、会場は再び大喝采に包まれた。

わたしの座席の周りはロシア人でいっぱいだった。
それまで大喝采を送っていたロシア人の中には、アンコールでは立ち上がらない人もいた。

わたしは彼の勇気を称賛する。
彼は音楽界の中にいて、この発言が世間ではいかに危険か見当もつかないのだろう、と言っている人もいたが、わたしは全然違うと思う。


去年のリサイタルでは、「現在の全ての活動をウクライナに捧げる」と旗幟鮮明にし、わたしは彼の演奏をRebel(カミュ『反抗的人間』の反抗)的リサイタルだった、とここに書いた。

カミュの『反抗的人間』は、もちろん反乱と革命を扱ったものであるが、

「極限の状態に置かれ、判断基準に正誤のマニュアルがなときでも、なおそれでも人間は最適解を下すことができるのか」

という最高に厳しい問いをわれわれに投げかけるのである。


今年のアンコールの3曲は、ショパン、プロコフィエフの行進曲、ブラームスのワルツで、肯定的で楽観的で、陽気で、勇敢で、美しく、それらが指の間からこぼれゆく取り返しのつかなさ...

それはナワリヌイのドキュメンタリーでの発言を思い起こさせた。

彼は「もし投獄され 殺されるなら、ロシア国民にどんなメッセージを残すか」と質問されている。

彼はこう答える。
「彼らが私の殺害を決めたということは、私たちの力が巨大だからだ。迫害を受けている私たちこそ巨大な力なのだと覚えておいてほしい。私のメッセージはいたってシンプル。『あきらめないで』なのです」

最後のブラームスの最も美しいワルツで、わたしの涙腺も崩壊...
https://www.youtube.com/watch?v=oy6uV-eMOEs(<昔の録画)


とは言いつつも、彼はイスラエルのガザ攻撃についてはどのように思っているのか、(著名人が発言できない状況下、わたしの知るところではDaniel Barenboimがパレスチナを支持している)ぜひ聞いてみたいとも思った。




ベートヴェンのソナタは、折れるのではないかと思うほど巨大でドライな調べで驚いた。
ショパンのノクターンは1番がわたしが最も好きなノクターンで、2番はメランコリックに優しげ(に演奏されることが多いと感じていた)なため、1番の陰に隠れてしまっていたのだが...それがまあ、蒙を開かれた感じ。威風堂々、直球的に演奏され...感動した。
ファンタジーも同じくすばらしかった。

ブラームスは非常に悲劇的に感じられ、何年か前に出版された彼の自伝では「ブラームスは弾きたいと思わない」という趣旨のことをおっしゃっていたのを思い出した。

プロコフィエフのソナタは、アルゲリッチの演奏が一番だと思っていたものの(今もそう思うけど)、何か全く別物を聞いたような気がした。
まるで生のリズムそのもの。すばらしい、キュビズム(のような)。
このソナタがあまり好きではない夫も、好きになった、と言っていました...


2024年冬に予定されている日本のリサイタルにも行きたいと思っている。追っかけで(笑)


Programme

Ludwig van Beethoven
Piano Sonata No 27 in E minor
1. Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck [Vivaciously and with feeling and expression throughout]
2. Nicht zu geschwind und sehr singbar vorzutragen [Not too quickly and very songfully

Frédéric Chopin
Nocturne in F sharp minor, Op 48 No 2
Fantasy in F minor, Op 49

Johannes Brahms
Four Ballades, Op 10 No 1 in D minor
No 2 in D major
No 3 in B minor
No 4 in B major

Sergei Prokofiev
Piano Sonata No 2 in D minor 1. Allegro, ma non troppo
2. Scherzo: Allegro marcato
3. Andante
4. Vivace – Moderato – Vivace
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イスパハンの王様のケーキ 




今年の1月6日、カトリックの祝祭、公現祭は、ブルージュ到着が遅れて「王様のケーキ」(ガレット・デ・ロワ GaletteDesRois、オランダ語ではDriekoningentaart: 三人の王のタルト)を食べ損ねた。


公現祭は、年末に誕生したイエスキリストの元に東方の三博士が訪れ、世界中あまねく救い主の光が「公現」したことを祈念する。

この日には、王様のケーキを食べる。
王様のケーキにはひとつ小さなフェーヴ(元々は乾燥豆、現代ではさまざまなフィギュア)が入っており、これを引き当てた人はその日一日王様になれるのである。

また、この日をもってクリスマスの片づけをする。


今年ブルージュのパティシエVan Mullemは、ジュエラーとコラボレーション、特別な王様のケーキを製作した。
5日間、毎日1つだけ、2500ユーロ(約40万)相当の18金のペンダントをフェーブとして入れた王様のケーキを販売したのである。王冠をかたどったペンダントだったらしい。


カトリックの祝祭ゆえ、わたしが現在住んでいる英国イングランド(英国国教会)では王様のケーキは買えない。
それで毎年自分で作っているのだが、今年はやっと昨日焼いた。

友達からピエール・エルメのイスパハン(薔薇、フランボワーズ、ライチの組み合わせ)の王様のケーキが一番美味しかったと聞いたので、レシピを探して真似してみた。
手前味噌だが、フランボワーズの爽やかな酸味がアーモンドクリームと好相性で美味しかったです!

フェーブはまだ引き当てられていません...
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枯山水の盆景




お年賀に作った、抹茶の枯山水の盆景ケーキ。

抹茶のスポンジ3段、濃い抹茶のポンシュ、生クリームに黒豆、栗の甘露煮をはさみ、最後に抹茶のクリームとスノーボールで飾る。


大きくて一辺が24センチあるのだが、正方形を保ちつつどんどん小さくなり、理論的には永遠に皿の上に残るケーキ...

仏教は、現世の色も、来世の色も、現世の色想も、来世の色想も、これらの両者は無常である、と教える。




目に見えるもの、形づくられたもの(色)は、実体として存在せずに時々刻々と変化しているものであり、不変なる実体は存在しない(空)。仏教の根本的考えは因果性(縁起)であり、その原因(因果)が失われれば、たちまち現象(色)は消え去る(ウィキペディア「色即是空」より)、と。

一瞬、遠くへ行ってしまったが(笑)、いや、単なるケーキです。

この向こうに広がる無限の宇宙を可視化したもの、枯山水のように...などと浅はかで意味もないことを言う遊び。




おそれながら、年末に訪れた建仁寺の枯山水を思い出しつつ。
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日々の糧を与えたまえ




12月の日本で、年末年始のための準備をいろいろな方からたくさん持たせてもらったので、イングランドの自宅では楽々!

年越し蕎麦にといただいたニシンそばはフライングで大晦日の夕食に...

31日に鴨を焼き、伊達巻を焼き、れんこんを煮て、なますを作り、ケーキを焼き、いくらと海老を買いに行ってもらって、元旦にはお雑煮を作ったくらい。

それでも31日からずーっとキッチンに立っている感じ。




わたしのなんちゃってお節を含んだお節料理は大人気で、元旦にぜんぶなくなってしまった。

元旦の夜は天ぷら!


今日(3日)はお鮨が食べたいです...

ちなみにベルギーにも英国にも、新年のお料理というものは特別にはない。




命をいただいている、われわれは他から奪って生きている、という感覚を忘れないようにしたいと思う。
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