マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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福住町中定・十輪寺の地蔵盆

2022年06月07日 07時35分50秒 | 天理市へ
長谷町から南に向かう。

峠を越えたそこは天理市山田町。

そこから西へ車を走らせると同市の福住町に着く。

目的地は中定(なかさだ)の十輪寺。

カーナビゲーションには表示されない寺院を探して集落を動く。

立ち話をされていた二人の男性に尋ねたら、ここがそうだという。

天理市杣之内町に住むN氏が編集の一員としてまとめた『天理市の歳時記』の控えが手元にある。

平成22~23年度・天理市社会教育委員会(生涯学習・人権部会)が編集した史料(仮版)である。

興味をもった中定の8月の地域行事がある。

記事に「無縁仏、水子供養。昔は奉納盆踊りをしていた中定・十輪寺の地蔵盆に、野菜を人形などの形にして供える」とあった。

注釈に「上入田の飾りは見事である」とある。

また「井之市は、現在も盆踊りをされている」とあった。

日程も時間も記されていない歳時記史料。

聞き取りができれば御の字と思って出かけたら、今日だという宮総代他男性2名が教えてくださった中定の地蔵盆。

法要に来られるお寺さんの都合で、この日は午後になるという。

樹木の下、風が吹きく抜ける本堂前に佇んでいた3人。

本堂に掛図をかけているから撮っても構わない、と承諾してくださった。



かつては本堂前境内で盆踊りをしていた。

隣村の井之市もしていた盆踊り。

つい最近の2~3年前に中断したそうだ。

明日24日は、隣村の南田(みのだ)が盆踊りをするそうだ。

今日は村の地蔵盆であるが、掛図の虫干しも兼ねている、という。

表具し直した掛図は何幅あるのだろうか。

本堂すべての壁面にかけていた。



ざっと数えた仏画が8幅。

代々の僧侶だと思われる座像も8幅。

他にも5幅の曼荼羅図が。

ずらりとかけていたその景観に圧倒される。

後日に判明した掛図。

FBに揚げた映像を見てくださったMさんが伝えてくれた「真言八祖」。

聞くのも初めての「真言八相」。

Mさんは、数年前に高野山大学に入山。

得度した仏僧でもあるだけにその道に詳しい。

8幅の映像を見るだけで、言い当てることができる得意分野であろう。

ネット調べに、さらにわかった「真言八祖」。

付法(ふほう)の八祖と伝持(でんじ)の八祖の二つがあり、真言宗のほとんどの寺院は、真言八祖(※伝持の八祖像/龍猛菩薩“りょうみょう”、龍智菩薩“りゅうち”、金剛智三蔵“こんごうち”、不空三蔵“ふくう”、 善無畏三蔵“ぜんむい”、一行阿闍梨“いちぎょうあじゃり”、恵果和尚“けいか”、弘法大師)掛図を本堂などに掲げる特徴があるそうだ。

曼荼羅図もまた「真言八祖」関係があるようだが、その道に詳しくない不知の身。

ここまで、としておく。

十輪寺の本尊は地蔵菩薩立像。

両脇に立つのは不動明王だ。

掛図下のすべてに長机の御供台が並ぶ。

その前に並べた座布団は20枚。

村の戸数でもある。

さて、野菜のお供えである。

史料注釈にあるように「上入田の飾りは見事である」と書いてあった中定からすぐ近くの上入田(かみにゅうだ)は今もなお継承している「御膳」行事がある。

かつて奈良新聞に載っていた囲み記事。

実は、行事の情報を奈良新聞に伝えたことが発端。

伝えた人物は地元民のOさんだった。

その記事を元に直接取材した日は平成19年9月15日

13年も前のことだ。

2年後の平成21年も取材した上入田の御膳行事は存じている。

Oさんは、ここ中定の十輪寺に安置する仏像などを調べたく、天理大学に依頼した、と区長らが話してくれた。

本日の地蔵盆に供える野菜御供である。

村の人が栽培した野菜を持ち寄り、鬼とか人とか、いろんな形にしていた。

上入田の場合は、法会を終えた野菜御供は寄進した村の人に差し上げているが、中定は受け取っても食べることなく廃棄、また受け取る人もいなくなり、どうせ廃棄するなら、形つくりはしなくともいいだろうと、現在は、採れたての野菜そのものを供える形式に替えた、という。

掛図下に並べた長机。

掛図の数だけ竹製の花立を17本も調える。

時間前、今の時季に咲いているお花に自家栽培の野菜を手にした村の人たちがやってくる。

それぞれが、それぞれの場に野菜を供えて飾っていた。



キュウリ、ナスビ、ピーマン、オクラ、インゲンマメ、プチトマト、ゴーヤ、カボチャ、黄マッカにトマなどの御供を並べて午後の法会を迎える。

予定した時間に集まった村の人は14人。

女性も来られるのだろう、と思っていたが、全員が男性。

中定の戸数は20軒。

家の代表者が集まる地蔵盆である。

かつてはお昼も、夜も集まって、香を焚いて飲食していた“講”(※おそらく地蔵講)の行事だった、という。

お寺さんは融通念仏宗派の西念寺の住職。

平成29年4月23日、西念寺の境内に久々に、というか地元有志のMさんが立ち上がって復活した“おつきようかの花まつり“。

その日にお会いした住職は、以前から存じている大和郡山市横田町が本家の西興寺。

西念寺の他、兼務する寺院は多いという。

そのことはともかく、十輪寺の地蔵盆である。

掛図の位置それぞれに蝋燭を灯し、線香をくゆらせてから始まった村の繁栄を願う荘厳。

「なむあみだーぶつ なむみだぶつ なむじぞうぼさつ なむあみだぶつ」と融通念仏勤行を唱える。



裸電球の下で村の人たちは焼香をしていた。

本尊地蔵菩薩立像に荘厳した次は、外の仏さんにも、ということで本堂を下りたその前の行者堂と庚申さん。

今年は新暦閏年の庚申さん。

本来ならば旧暦の閏年に行なわれるのだが、地域によっては4年に1度、オリンピックの年だからわかりやすいと新暦に替えたところがある。

ここ中定も右に倣えの年内実施。

「庚申為南無青面金剛童子前出垣内町内安全五穀成就依願満足之塔」にもう1本は「奥垣内」の塔婆を立て、祈年していたそうだ。

はて、次の新暦閏年の庚申さん行事はいつされるのだろうか。

新型コロナウイルスを避け1年持ち越し。

何事も起きなければ、来年になるが、庚申講の行事は、それからの3年後。

それとも元に戻して2024年にされるのだろうか。

新暦実施に切り替えた各地域の庚申講は、さて、どうされるのか・・。

そのことはともかく、本日は中定の地蔵盆。



外の仏さんにも花を手向けて村の安全、健康ならびに家庭円満を願われた。

法会を終えた西念寺住職。

つい先日には地蔵盆をしていた。

高野豆腐などで五重の塔を造って供えるし、檀家は御膳もある。

また、来月の9月12日は夕刻に始める歯定(はじょう)さん。

是非と云われたが・・。

ちなみに宮総代らは、この日の朝いちばんに氷室神社に出かけた。

垣内ごとに参拝時間を決めて出向くコオリトリ(垢離取り)をしていたと、いう。

(R2. 8.23 SB805SH撮影)