荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『アイアンマン』 ジョン・ファヴロー

2008-09-30 23:33:48 | 映画
 『アイアンマン』には大らかな肯定の意志が宿っている。米国型スーパーヒロイズムを与太者が擁護するというそのポジショニングのはた迷惑ぶりが絶妙だ。アメコミ的スーパーヒーローなどにはまったく興味がないどころか、スクリーンには視線を投じながらも心では目を背けている私のような人間にこそ向けられた作られ方をしており、よりによってロバート・ダウニーJr.のごとき酒臭い中年俳優にわざわざ主人公を託したり、ジェフ・ブリッジスにパワフルな悪役を任せたりしていることで、その意図が分かりやすすぎるほどありありと現れている。

 軍需産業の若く高慢な経営者が、アフガニスタンで人質となった経験から、これまでの「死の商人」としての半生を初めて深く恥じ、一転して軍需産業とテロリズムの癒着を影で司る不正と戦う、という物語はじつに馬鹿馬鹿しいものではあるのだが、卑劣な武器商人や新兵器で武装したテロリストたちの悪行を打倒するために、もっと凄い新兵器を嬉々として開発してみせる主人公、その威力を見て敵がまた狂喜してしまうという皮肉の効いた展開は、非常に的を射ていると言うしかないだろう。
 映画と映画観客間の和解調停係のような映画であり、それ故にかえって、幾ばくかの侘びしさも感じてしまうのは、観客側の勝手な同情というものだろうか。


日劇PLEX他、全国で上映中
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