荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『チェ 28歳の革命』 スティーヴン・ソダーバーグ

2009-01-14 06:05:00 | 映画
 この映画が単に正しい画面と音によってできていること、そして将来に主人公チェの妻となる同志アレイダ・マルチ・デ・ラ・トーレを演じた女優がいいという感想を最初に抱いた。だが、革命の映画とは、革命の人や物を描くのみでなく、その製作の姿勢において、精神においてこそ革命的でなければならないだろう。ゴダールの映画から学んだあれやこれやを念頭に置かずに、この映画を見ることは不可能なことだが、ではそれは実践されていたのかを自らに問うとすると、正直答えに窮してしまう。
 NYタイムズ紙の女性ジャーナリストによる友好的なインタビューであるとか、一流人士の集うパーティでスターのように扱われるエピソードであるとか、そういうものがやたらとモノクロームのドキュメンタリー風画調で挿入されるのは、米国の手前勝手なサブカル的手法であり、本作は所詮、若者たちがファッションとして着ているTシャツの似顔絵と変わらない、などと批判を連ねることは難しいことではない。
 ラテンアメリカにおける反政府闘争に対してことごとく介入したアメリカという国は帝国主義であり、反革命国家であるが、だからといって、アメリカという国の始まりそのものが1773年12月16日のボストン・ティー・パーティであるという事実、国家の存立自体がよその国との比較、反発、対立、離反によって、つまり革命行動によって始まっている事実は、消し去ることはできない。したがってソダーバーグは、ラテンアメリカを通してアメリカ合衆国を見るということを画策しているのだろうし、それ以外にどうすればよいというのだろう。


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