荻野洋一 映画等覚書ブログ

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さらば、ベニサン・ピット

2009-01-21 02:06:00 | 演劇
 新大橋の芝居小屋ベニサン・ピットが閉館すると聞いていたので、今夜、最後の上演作品を見に行けたのはよかった。今後1ヶ月の間に見たい芝居がちょこちょこあり、時間の許す限り少し劇場に足を向けたいと思っている。
 それにしても、下町・深川の住宅街の只中にひっそりと建つ無骨なレンガ造りの、尖んがった試みを25年間も続けてきたこの貴重な劇場が、老朽化を理由になくなってしまうのは、非常に淋しく悲しいことである。親会社の染色業者・紅三はいつか、同じ地に劇場を新築して再出発してもらいたいし、間違ってもマンションなんかが建たないよう祈っている。しかしこの辺でいうと、佐賀町の「食糧会館」もマンション建設地になってしまったし、人形町の小洒落たホテル「吉兆」もマンションへの転換を目的に、まもなく解体工事が始まろうとしている有様だから、そうした危惧もあながち図星でないとも限らない。

 最後の演目は、トム・プロジェクトの『かもめ来るころ』(作・演出 ふたくちつよし)。2004年に逝去したノンフィクション小説家・歌人の松下竜一の反権力闘争の生涯を、もっぱら妻との会話のみで語り継いでいく。テーマを豊前火力発電所の建設反対運動に絞り込んでいることで、作家・歌人としての、運動家としての、またひとりの夫としての、松下の生きた姿勢が非常に明確となった。やや単線的にストーリーが流れていくのは、劇構造として冒険がなさ過ぎるとも感じたが、松下を演じる高橋長英、妻を演じる斉藤とも子の演技そのものを見る作品であるがゆえに、これでいいのだとも言える。