荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『イングロリアス・バスターズ』 クエンティン・タランティーノ

2009-12-15 13:13:15 | 映画
 クエンティン・タランティーノの新作『イングロリアス・バスターズ』を見ていると、すぐに時間が経過してしまう。「もう少し見続けていたい」という思いが、何やら切なく胸に通り過ぎていくのである。通常はディレクターズ・カットであるとか、バージョン違いの特典映像といった類にはまったく関心を示さない者でさえも、「マギー・チャンが登場するとかいう幻のロング・バージョンが現れたら、また見てもいいかな」などとつい思い込まされてしまう、そういう魔力がある。
 タランティーノの近作の充実ぶりに、正直に言うと、大変ショックを受けている。もはや巨匠の風格である。ただ、ゴダール、ベルトルッチ、ヴェンダース、ロメールらと違って、これといった有望なエピゴーネンを今のところ生み出していない。世界の映画青年たちの心を鷲掴みしているわりには意外なことだが、タランティーノの模倣は、やめたほうがいい。
 しかしとにかく、現在のタランティーノは面白い。今どき、映画ネタの引用行為を嬉々としてぶちまけて、鼻つまみものにならないほどの可愛げと魅力があるのだから、タランティーノ映画には、もはや人徳みたいなものが備わっているとしか言いようがない。


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