荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』 松岡錠司

2009-12-21 21:01:56 | 映画
 『東京タワー』の監督、『おくりびと』の脚本家が名をつらねた上に、『フランダースの犬』から着想を得て、白犬と薄幸の児童が動員される。このいかにも広告代理店的な発想で固められた作品は、感動の涙へと観客を誘うべく態勢を整えたと思われる。ところが初日の夜6時半の回で、観客は私を含めてたったの5人。むむ、これでは困ってしまうだろう。
 まず商品として、脚本が脚本のていをなしていない。お粗末そのものである。いかに松岡といえど手も足も出まい。また、これはまったくの偶然なのだろうが、クロード・ドビュッシーのピアノ曲『月の光』が児童によって演奏されることでクライマックスとなるという点が、黒沢清の『トウキョウソナタ』(2008)と完全に重複している。なぜこのような事態になったのか皆目見当もつかないが、この2つの『月の光』の間には、マリアナ海溝のごとき深遠なる差異が横たわっているのだ。

 『バタアシ金魚』(1990)以来、19年ぶりに松岡錠司作品への出演となる浅野忠信が、移動サーカスのピエロとして登場し、限られた出演場面の中で、ただひとり画面を活気づけていた。テントの中央で芸の稽古をしていると、彼を慕う主人公の少年(この少年は、自分が浅野の子だという事実を知らない)が、背後から忍び寄ってくる。ピエロはそれに気づいていないのか、気づかぬふりをしているのか、稽古を続けている。そんな、互いに父子として名のり合う機会を生涯もつことのない2人が、同じフレームに収まってみせる幾つかのショットは、悪くはないのではないだろうか。


丸の内ピカデリー他、全国で上映中
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