荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『THE COCKPIT』 三宅唱

2015-05-30 07:41:25 | 映画
 やや手狭なマンションの一室。家具など生活物資らしきものは、ほとんどない。カメラは、玄関側から窓側にむけて固定で置かれている。ベランダから、なぜか人がどやどやと部屋に入ってくる。上映開始から1分弱のところで、主人公のOMSB(from SIMILAB)がカメラ正面の卓に座り、サンプラーをいじり出す。彼の右側にはターンテーブル、左側にはキーボード。レコードをかけ、パッドを調子よく叩き、ジョグをぐりぐりと回す。「いつもシークエンス1でまとめちゃうんすか?」「え?」「パラにせずに1で?」「まあドラム・ブレイクだからね」「ああ」
 オーディトリウム渋谷(今は亡きと言わねばならない)で公開されて高く評価された『Playback』(2012)の三宅唱監督の新作は、ヒップホップ・アーティストの創作行為2日間を切り取ったドキュメンタリーである。トリビアルな時間を切り取るなら、ペドロ・コスタのように怪物的な時間を彫刻するか、もしくは時間を潔く圧縮してしまうか。三宅唱は後者を選択し、64分という絶妙なB級映画的上映時間が現出される。作業はいつしか熱を帯び、窓に映える午後の光は、陰りを帯び、やがてジャック・ターナーの映画のような夜のとばりが下りる。
 OMSBの作業はうまくいく箇所もあり、うまくいかない箇所もある。作業が執拗に反復される。周囲の連中はすこし飽きてきて、部屋の床に寝ころんでおしゃべりしはじめる。「ああ、ちょっとめんどくせえなあ」「あの、しゃべんのはいいけど、歌わないで。メロディ狂うから」「あはは」
 楽しいながらも、OMSBはそれなりにストレスも感じているようだ。16個のパッドとジョグを代わる代わる叩き、ぐりぐりと回す。クリエイティヴというのは決して格好よくて派手な霊的行為じゃない。こまかな調査と検査、情報整理、チェック確認、反復、訂正と、あくまで地味な作業の集積である。Bim(from THE OTOGIBANASHI’S)がコミットして「おむす君、飲み物いる?」と訊いてくる。「うん、お茶がほしい」「さっきのピアノみたいな音、どれっすか?」「これ?」「あ、これカッコいいすね」「そうだね」
 そんな調子で2日目の朝が来て、「通過点を付けよう」とOMSBが提案し……あとは、見てからのお楽しみ!


きょうから6/19(金)まで、21:10よりユーロスペースで上映予定
http://cockpit-movie.com