1984年に製作されたテンギズ・アブラゼ監督の『懺悔』が、いま東京で公開されている。全盛期シネセゾンの公開予定ラインナップに入っていたはずの作品らしいのだが、ようやく陽の目を見た格好だ。
共和国連邦が瓦解して早17年。今から思えば、検閲と抑圧、独裁と腐敗の中にあっても、ソ連映画は、極めて多彩なるシネマの星雲を形成していた。ゴルバチョフ大統領の「連邦70年間の成果として、『ソビエト文明』なるものが確かに育まれた」という主張は当時、誰にも相手にされなかったが、ある意味で真実だったのではないか。もちろん、陰惨な政治体制下でかくも実り多き映画史を築いた陰には、連邦傘下の各共和国で撮り続けた作家たちの並大抵でない苦難がある。このテンギズ・アブラゼもそうした1人であるが、しかし彼の過剰に象徴主義的な話法は、当局からの介入を最小限に留めるためのテクニックだったとはいえ、グルジア共和国の他の映画作家たち、たとえばオタール・イオセリアーニのデラシネ的な奔放さ、ゲオルギー・シェンゲラーヤの可憐な静謐さ、あるいはアルメニア出身のセルゲイ・パラジャーノフの変態的な華麗さに較べた場合、ややもすると野暮ったい感は否めない。
しかしながら、現在という時間の只中にこの『懺悔』というフィルムを置いた場合、イオセリアーニの葡萄酒ではないが、奇妙な熟成が進行し、安全地帯からスクリーンに目を投じていると過信する私たちを嘲笑するかのごとく、苛酷にして幻惑的な映画体験を強いてくるのだ。特に、思想犯として流刑に遭った夫の痕跡を求めて、妻が流刑地からやって来た木材運搬列車の荷物の中に夫のメッセージが書き込まれていないか探る場面の悲壮さは、なんとも形容しがたい感情を呼ぶ。どのようにして、このような場面を思いつくのだろうか。
12月20日(土)より神田神保町・岩波ホールで公開中
http://www.zaziefilms.com/zange/
共和国連邦が瓦解して早17年。今から思えば、検閲と抑圧、独裁と腐敗の中にあっても、ソ連映画は、極めて多彩なるシネマの星雲を形成していた。ゴルバチョフ大統領の「連邦70年間の成果として、『ソビエト文明』なるものが確かに育まれた」という主張は当時、誰にも相手にされなかったが、ある意味で真実だったのではないか。もちろん、陰惨な政治体制下でかくも実り多き映画史を築いた陰には、連邦傘下の各共和国で撮り続けた作家たちの並大抵でない苦難がある。このテンギズ・アブラゼもそうした1人であるが、しかし彼の過剰に象徴主義的な話法は、当局からの介入を最小限に留めるためのテクニックだったとはいえ、グルジア共和国の他の映画作家たち、たとえばオタール・イオセリアーニのデラシネ的な奔放さ、ゲオルギー・シェンゲラーヤの可憐な静謐さ、あるいはアルメニア出身のセルゲイ・パラジャーノフの変態的な華麗さに較べた場合、ややもすると野暮ったい感は否めない。
しかしながら、現在という時間の只中にこの『懺悔』というフィルムを置いた場合、イオセリアーニの葡萄酒ではないが、奇妙な熟成が進行し、安全地帯からスクリーンに目を投じていると過信する私たちを嘲笑するかのごとく、苛酷にして幻惑的な映画体験を強いてくるのだ。特に、思想犯として流刑に遭った夫の痕跡を求めて、妻が流刑地からやって来た木材運搬列車の荷物の中に夫のメッセージが書き込まれていないか探る場面の悲壮さは、なんとも形容しがたい感情を呼ぶ。どのようにして、このような場面を思いつくのだろうか。
12月20日(土)より神田神保町・岩波ホールで公開中
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