遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(472) 小説 いつか来た道 また行く道(32) 他 謙虚

2023-11-05 12:47:34 | つぶやき
              謙虚(2023.10.11日作)


 天皇家は この国で
 長い歴史を持ちながら
 現代 一般社会に於ける
 成り上がり者達よりも
 はるかに謙虚だ
 権威を振りかざす事がない
 人は常に謙虚であれ 
 謙虚である事によって
 失うものはない
 成り上がり者の傲慢不遜
 百害あって一利なし

 謙虚は人を育てる
 高慢 傲慢は人を押し潰す
 
 人も知識も 謙虚には寄り添い
 傲慢からは離れてゆく




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




            いつか来た道 また行く道(32)




 
 男は既に来ていた。
 黒っぽいサングラスをかけ、この前見た時と同じような黒っぽい襟無しのシャツと同系統のブルゾンを着て、入口の扉を入ってすぐのロビーで壁際のソファーに掛け、スポーツ新聞に見入っていた。
 わたしが男を見分ける為のスポーツ新聞だった。
 この新聞を持って行くからーー男は目印の新聞を指定していた。
 わたしにしてみれば、そんな目印などが無くても先刻承知の存在だった。
 男はわたしが前に立った事にも気付かなかった。熱心に何かに見入っていた。
「今晩わ」  
 わたしは立ったまま言った。
 男は不意を突かれたように顔を上げた。
 それでもわたしを見ると、安堵感とも親しみの感情とも取れるような微妙な表情を見せて微かに頷いた。
 男はすぐに手にした新聞を畳んでブルゾンのポケットに無造作に押し込んで、
「どうぞ」
 と言い、自分の坐っている座席の横を空けた。
 わたしは黙って男の隣りに座った。
 ハンドバッグから煙草を出して一本を抜き取り、唇に挟むと男にも勧めた。
 男は首を左右に振った。
 わたしはライターを出して煙草に火を付けた。
 最初の一息を大きく吸い込み、吐き出してライターをハンドバグにしまいながら、
「早速、あなたの希望を聞かせて貰うわ」
 と、話しを切り出した。
 余分な時間など無いのだ !
 男への無言の圧力だった。
 男は早速の本題に戸惑った様子だったが、すぐに応じた。
「中沢が何処にいるか知りてえんだ」
「あなた、何故、そんなにしつこく中沢の居場所をわたしに聞くの ? わたしはあの人が何処にいるかなんて全く知らないわよ。あの人がいないからって言ったって、あの人にだって用事があって、田舎へ帰ってるかも知れないじゃない。それをわたしに聞いたりしたって分かりっこないわよ」 
 毅然とした口調でわたしは言った。
 何処かもっさりした感じの小太りな男を見下すような気分がわたしにはあった。
 男はだが、戸惑う様子も見せずに言った。
「中沢が持ってたネガや写真が奴の部屋から無くなってる。それに奴には田舎なんかねえよ。東京育ちだからね」
 腹の底からの、図太さ感じさせる静かな口調だった。
 思わぬ男の言葉だった。わたしは心臓をわし掴みにされた思いで氷のような感情が体中を走り抜けるのを意識した。
 その動揺を懸命に抑えてわたしは、
「あなた、あの人の部屋へ行ったの ?」
 と、長くなった煙草の灰を灰皿に落としながら聞いた。
「何も、今度初めて行ったわけじゃねえからね」
 当然の事のように男は言った。
「あなたとあの人はどういう関係だったの ?」
 心の動揺を抑えたまま軽い世間話しのように聞いた。
「クスリの売買さ」
「それだけの関係 ?」
「そうだ」
 男はそう言うと、ようやく自身も気持ちのゆとりを得て一息入れるかのように、ブルゾンのポケットから煙草を取り出して箱をそのまま口元に運び一本を咥え、別の手で取り出した百円ライターで火を付けた。
 ホテルの玄関を入って正面ロビー中央には、大きなクリスマスの飾り付けがあった。
 それが人々の絶え間ない行き交いにひと際、年末らしい賑わいを添えていた。
 微かに、聞こえるか聞こえないかの音量で<ジングルベル.>が流れていた。
 忘年会で集うらしい人達の姿も見られた。
 大勢の人の出入りする場所だけにわたしは、顔見知りに会う事を怖れた。
 それでも、このホテルを選んでいたのは男との危険な交渉で、少しでも自分が優位な立場に立ちたかった為だった。
 このホテルでわたしは、何度も難しい商談を成立させていた。その点で勝手知った場所とも言えたし、この華やぎが少しでも男への圧力になればとも考えての事であった。
 わたしは既に短くなった煙草を灰皿の中で押し潰すと、口元に煙草を運ぶ男に向かって言った。
「あなた、クスリ(麻薬)は何処から手に入れるの ?」
 男はわたしの言葉を聞いて意外そうな顔をした。それから
「ずいぶんクスリに拘るね。あんたもやってみる ?」
 と、打ち解けたような軽い笑みで言った。
「御免だわ、あんなもの !」
 わたしは吐き捨てるように言った。
 今度の苦境も、結局は中沢栄二の腕に見た注射の跡から始まっている事だった ! そう思うと腹立たしさに胸の煮えたぎる思いだった。
 わたしは、次第に募って来る男に対する腹立たしさと共に、男と顔を合わせている事の苦痛に耐えられない気がして来て、一刻も早くこの場から立ち去りたい思いで言っていた。
「結局、あなたは、わたしに何をしろって言いたいの。それをはっきりしてくれなくちゃぁ、いっこうに埒が明かないわ。はっきり、こうだからこうしろって言ってくれる ? わたしにはいつまでもグズグズしている暇はないのよ」
 続けてわたしは男の言葉も待たずに激した感情で言っていた。
「実は中沢がいなくなった事なんかあなたには問題ではないんでしょう。結局はお金なんでしょう。わたしからお金を取る事が目的なんでしょう」
 以前にも口にした言葉だった。
 男はわたしのその言葉を聞いて微かに気色ばんだ。
「そんな事たぁねえよ !」
 男もまた、以前と同じように言った。一方的なわたしの見方に対す反感のような響きさえが込められていた。
 わたしはその言葉の響きに少なからずの驚きを覚えたが、気持ちはひるまなかった。
「じゃあ、あなたは中沢とは友情で結ばれていたとでも言うの ?」
 男を問い詰めるように強い口調で言った。
 男は不服そうに黙っていた。
 確かに、金だけの問題ではない、と思わせるような何かの感情がその表情からは読み取れた。それがなんであるのかは分からなかった。
 わたしは男のその表情を見ながら言った。
「そう。それ程、あなたがあの人の事を心配しているって言うんなら、あの人が居る所へ連れてってあげてもいいわよ」
 男は意外そうな顔をした。
「あいつが生きてるってでも言うのか ?」
「当たり前でしょう。一体、あなた、何考えてるの ? わたしがあの人を殺したとでも思ってるの ?」
「そんな事はねえよ。だけど奴が生きてればクスリが無けれりゃぁいられねえはずだからね」
「そのクスリの為にあの人は姿を隠したのよ。わたしにしても、クスリ代が無くなる度に強請られたんじゃ堪らないから、更生するように勧めたの。見返りにそれだけの事はして上げるからって」
「どういう事だ ?」
 男は言った。
「それは内緒よ。あなたに教えればまた、薬漬けにされるわ」
「俺が薬漬けにした訳じゃねえよ」
「それこそ、そんな事はどうでもいいわよ。とにかく、あの人はあなたの前から姿を消したの」
「奴が生きてれば大したもんさ」
 男は達観したように言った。
「そう、それ程までに言うんなら、あの人の居る所へ連れてってあげてもいいわよ。どう ? 行ってみる ?」
「行ってみたいね。是非、奴に会ってみたいよ」
「いいわ。それなら案内するわ。その代わり、見返りにわたしに何をくれるの ?」
「俺が持ってるもんなら、なんでもいいよ」
「あなたが持ってるって言う写真のネガを含めて全部わたしにくれる ?」
「いいよ。そんな事は簡単だ」
「だけど、それが全部だってどうやって証明するの ?」
「だから言っただろう。奴から預かったのは一本のネガだって。そっで、奴がいねえんで様子を見に行った時には、写真もネガも全部無くなってたって。それを持ってったのは誰か ? って事さ。だから、俺が持ってる物は焼いた写真を入れて全部やるよ。そんな物持ってたって俺にしてみればあんたを脅迫するぐれえしか出来ねえからね」
「だけど、不思議ね。さっき、あなたは中沢の部屋へ入ったって言ったでしょう。中沢が死んでるんなら、部屋へ入る事だって出来ないじゃない」
「不思議な事なんかねえよ。奴は何時も郵便受けに合鍵を入れて置いたんだから。そっで、奴の部屋からネガを持ち出した者もその合い鍵を使って入ったのさ」
「そう言う事だったの。それで話しは分かるけど、一体、何故、あなたはそんなにしっこくわたしにまとわり付いて来るの ? あなたの口振りでは、まるでわたしがあの人を殺したかのように聞こえるわよ」
「そんな事、言ってねえよ」
「だって、あなたはあの人がもう、この世には居ないと思ってるのでしょ。それでわたしにあの人の居場所を聞くなんて、わたしがあの人を殺したって言ってるのと同じ事よ。だけど、わたしは、あの人がクスリをやってるって分かってからは一切、親しい付き合いはしてないのよ。だから、あの人が何処に居て、何をしてるかなんて知らないし、あの人が持ってたネガや写真が無くなってるっていう事もわたしには全く関係ない事よ。第一、わたしはあの人が何処に住んでいたのかも知らないんだから。写真やネガが何処にあるかなんて分かるはずがないでしょう」
「奴の住所を知る事なんて簡単さ。車の運転免許証を見れば分かる事だよ」
「それでは、わたしがあの人を殺して免許証を取ったとでも言うの ?」
「殺したとは言ってねえよ。ただ、あいつの車も無くなってる」
「そんな事、わたしは知らないわよ。いいわ、あなたがそこまでわたしの言う事が信じられないって言うんなら、あの人に会わせてあげるわよ。その代わり、わたしとの約束は必ず守ってくれるわね。それに総て、わたしの言うとおりにしてくれる ? それじゃないと困るから」
「ああ、いいよ。だけっど、奴がいなかったら、その時はどうする ?」
「どうとでもしていいわよ。警察に訴えるとも、マスコミに売り込むとも好きなようにしていいわ」
「口止め料は幾らくれる ?」
「やっぱり、そこが落ち着き場所ね」
 わたしは皮肉を交えて言った。


            五


 
 宮本俊介から託された店舗購入の件は暮れも押し詰まった二十三日に仮契約を交わした。





            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




               
             takeziisan様                          
             

              有難う御座います
             小松菜 ネギ 豊富な野菜 さてどうしょうか
             羨ましい限りです 食する喜び 収穫の喜び
             楽しみと実益を兼ねた なんと贅沢な喜び
             幼い頃の田舎暮らしの記憶があるだけに記事を拝見していましても
             実感として感じ取る事が出来ます
             昔が懐かしく甦り その環境に身を置ける境遇を
             羨ましく思っています
              山の上の朝食 さぞかし・・・・と思います
             いいですね
             普段 余計なテレビは見ませんが 自然や地方の人々の暮らしを映した番組は
             よく見ます
             それだけに自ずと記事の中でも心惹かれます
              五時三十分起床 わたくしはその時間に一度眼を覚まし また 
             一時間程眠り 六時半起床です 五時半 今はまだ暗いですよね
             お元気な証拠と思いますが 腰痛 文中からも大変な御様子が伝わって来ます
             やはり年齢 ? わたくしも右膝のチクチク痛みが未だに消えません
             でも 日々の行動に不便を来す程ではありません
             試しに湿布クスリを貼ってみましたが効果は無いようです
             結局 年齢による老化現象だと思って地道に自己流治療をしています
              どうぞ あまり御無理をなさいません様に
              何時も御眼をお通し戴きまして有難う御座います
              楽しい記事共々 御礼申し上げます            



              

              桂蓮様


               有難う御座います
              新作 拝見しました
              良い言葉が並んでいますね
              自信に満ちた人は魅力的に見えます でも
              自信過剰は見苦しいです そんな人間に限って
              実際の実力は皆無という事が多いですよね
              結局 人を裏切らない自信とは謙虚な中に見え隠れする自信という事でしょうかね
              謙虚については今回も偶然 冒頭に書いています
              自信というものは結果として付いてくるもの 
              作った自信は透けて見えてしまう
              その通りだと思います
              今回も面白く拝見させて戴きました
               バレー 執着しなくなった
              執着心があるうちは本物とは言えません 執着せず
              無意識裡に事が運ぶ 本物になった 本当に身に着いたという事ですね
              喜ぶべき事ではないでしょうか
               おばあ様の思い出 人間の心 本質はどの国の人であれ
              変わる事は無いのでは・・・ ただ 習慣 風俗が人の表面的な物を
              その国ごと地方ご とに変えてゆくのだと思います
              この地球上に居る人間 何処に居る人間でも人間としての感情は
              同じだと思います
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
              有難う御座います






























遺す言葉(471) 小説 いつか来た道 また行く道(31) 他 愚かな人間の欲望

2023-11-03 17:09:16 | つぶやき
            愚かな人間の欲望(2023.10.15日作)


 

 愚かな人間の欲望が
 善良な人々の笑顔を奪い
 悲しみの底に 落し入れる
 人間は 欲望を持った生き物 その 欲望
 人を 悲しみの底に落し入れる 欲望を 抑制し
 人を 悲しみの底に落し入れる 事態を避ける 力
 その力を持つのは 人の命の尊さを知る 知性
 人間 人は 知性を持った生き物 原初的 原始的生き物
 野生に生きる動物達に 知性はない もしくは 乏しい
 唯一 人間 人が持つ事の出来る 知性 その
 知性を活かす事の出来ない人間は 原初的 原始的生き物
 野生動物となんら変わりはない この
 愚かな人間達の 欲望 権力欲がこの世界 人の世の
 安寧 平安 平和を 次ぎ次ぎと破壊 崩壊させてゆく
 愚かな人間達の度重なる愚行 蛮行 それによる
 この世界 人の世の 損害 損失 失われた人の命
 その数は計り知れない
 自身の 権威への欲望 野心 それのみに生きて得意満面 有頂天
 愚かな人間達の自己満足 その姿 姿勢の なんと
 滑稽 醜い事か ! 
 この世界 この 地球 その中で 
 最も大切 侵してはならないものは 人の命 命の尊厳 
 無二の存在 人の命 失われた命の再び戻る事はない !





           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





            いつか来た道 また行く道(31)




 
 居間に入ると明かりも点けずに表通りを窓から見下ろした。
 尾行車らしい車の影は何処にも見当たらなかった。
 明かりを点けて腕時計を見た。
 十一時に近かった。
 スーツを脱ぎ、ハンガーに掛けて身体を投げ出すようにしてソファーに沈み込んだ。
  疲れ切っていた。
 背凭れに頭を持たせかけて眼をつぶった。
 姿の見えない相手の影が頭の中を過(よ)ぎった。
 気分が滅入っていた。
 一寸先の未来が見えない。
 これからどうなるのだろう ?
 電話が鳴った。
 男からのものだ !
 確信的に思った。
 受話器を取った。
「杉本さん ?」
 昼間の男の声だった。
「そうです」
 静かに答えた。
「昼間、電話をしたもん(者)だけど」
「だからなんなの ?」
 穏やかに言った。
「話しの続きをしてえんだ」
「わたしの車をつけた(尾行)でしょう」
「上手く巻いたね」
 軽く笑いを交えたように男は言った。
「今、何処に居るの ?」
「でっけえマンションの近くにいる。多分、あんたの居るマンションだと思うけど」
「あなた一人 ?」
「そうだ」
「あなた暴力団の人 ?」
「なんで ? そんなこと聞いてどうすんだ ?」
「どうにもしないわ。暴力団でもなければ、こんな事はしないものね」
「しんぺえ(心配)すんな。暴力団なんかじゃねえよ」
「中沢も始め、そんな事を言ってたわ」
「奴は生きてんのか ?」
「生きてんのかって、あなた、何、考えてんの ?」
「奴が何処にもいねえからよ」
「あなた今、車の中 ?」
「違うよ。公衆電話から掛けてんだ」
「公衆電話 ? 携帯は使わないの ?」
「あんな物は使わねえ」
「足が付くのが怖いから ?」
「関係ねえよ」
「使い捨ての携帯もあるわよ」
「そんな事はどうだっていいよ」
「そう、それじゃあ、どう ?  あなた一人ならわたしの部屋へ来ない ? 電話では話しがしづらいのでわたしの部屋でゆっくり話しましょうよ」
「あのでっけえマンションか ?」
「違うわ。一戸建てよ」
「一人で居るのか ?」
「そうよ、わたし一人よ。だからあなたが来ても怪しむ人なんかいないわ」
「いや、行かねえ方がいい。電話の方が話し易い」
「ずいぶん臆病なのね」
「そうかも知んねえ」
 男は小さく笑った。
「じゃあ、電話でもいいわ。わたしと何が話したいの ?」
「だから、中沢の居る所を教えて貰いてえって言うんだよ」
「あなた、わたしが中沢を殺したとでも思ってるの ?」
「そんな事は言ってねえよ」
「でも、あなたの口振りではそんな風に聞こえるわよ」
「そんなら、それで構わねえよ」
「そう、随分、物分かりがいいのね。いい ? もし、わたしがあの人の居る所を教えて上げても、臆病者のあなたにわたしが言うように出来るかしら ?」
「どういう事だ ?」
 男は興味をみせた。
「それは後での事よ。だけど結局、あなたの目的は中沢の事より、わたしを強請(ゆす)る事なんでしょう」
「そんな事じゃねえよ」
 男は強い口調で否定した。
「いいのよ、隠さなくたって。中沢栄二もそんな風にしてわたしを強請ったんだから」
「とうとう本音を吐いたね」
 男は勝ち誇ったように言った。
「だって、あなたには分かっていた事でしょう」
「分かってたから電話をしたんだ」
「幾ら欲しいの ?」
「そんな事はすぐに言えねえ。中沢が何処に居るかも含めての交渉だ」
「じゃあ、何処で交渉する ? 電話でするの ?」
「いや、何処っかで会ってもいい」
「これから、わたしがあなたが居る車へ行ってもいいわ」
「これからか ?」
 男は戸惑ったように言った。
「そうよ、仕事は早い方がいいわ」
「いや、今は駄目だ。そこまで準備が出来てねえ」
「準備って、何を準備するの ? これこれの物を遣るから、これだけの物を出せって言えば済む事じゃない」
「とにかく、今は駄目だ。日を改めて何処っかで会った方がいい」 
「じゃあ、何故、わたしの後を尾行(つけた)の ?」
「あんたに雲隠れされちゃあ困ると思ったのさ」
「だけど、巻かれちゃったって言う訳 ?」
「そう言う事だ」
「随分、間抜けなのね」
「人を尾行たりすんのは初めてだからな」
「案外、善良なのね」
「善良さ。まあ、そんな事はどうでもいいけど、あんたがその気になったら話しを進めよう」
「だから、わたしは今だっていいって言ってるのよ。あなたの方が臆病風を吹かせているんじゃない」
「臆病風を吹かせる訳じゃあねえけど、今は都合が悪いんだ。日を改めて会った方がいい」
「じゃあ、あなたは何時がいいの ?」
「今じゃねければ何時だっていいよ。どうせぶらぶらしてんだから」
「それなら、わたしの予定表を見て、改めて電話をするから電話番号を教えてくれる ?」
「いや、駄目だ。俺の方から電話する。いつ電話すればいいんだ ?」
「なかなか用心深いのね。いいわ、明日(あした)、午後六時十分前に昼間掛けて来た所へ電話しなさい。会う日を決めるから」
「分かった」
「他に話す事はないの ? 中沢栄二とはどうして知り合ったの ?」
「そんな事は会ってから話せばいい」

 三日後の金曜日、わたしは約束の午後七時半かっきりに赤坂のXホテルへ行った。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             
             桂蓮様


              
              お身体の大変な中 何時も御眼をお通し戴き有難う御座います
               エゴを乗り換える
              再読ですが改めてまた 面白く拝見しました
              アメリカ生活までは個性が無かった 浮き草のように
              世間を漂っていた アメリカで初めて自分という個性に目覚めた
              パートナーの方の暖かなお人柄に対する安心感が多分 何処にも見出せずに
              眠っていた個性の根を発芽させたのだと思います
              人に対する愛情の尊さ 透けて見えて来ます
              自分が乗っている車輛に嫌な人が来ても受け入れる
              ここにもパートナーの方の見えない影が透けて見えて来ます
              それによって桂連様の中に眠っていた種が眼を覚まし発芽し
              自身を見い出す事が出来た 良い話しです             
              それにしても人に対する愛情の如何に大切かという事を
              改めて認識させられます
               初読では気付かなかった事を改めて気付かされました
              大変 面白かったです
               有難う御座いました



           

              takeziisan様

              
               有難う御座います
              美しい写真の数々 今回も楽しませて戴きました
              太い樹の並木道の落葉 見事ですね 踏んで歩いてみたい気がします
              安曇野 水車のある風景 何時も行く花屋にこれと同じ写真が飾ってあります 
              ああ 同じ風景だ 何故か親しい感情と共に拝見しました
              信州 昔から歌の 高原の旅愁 高原の駅よさようなら など 耳にしていた事もあって
              何かしら郷愁を誘われます また 姪が諏訪湖の近くの教会で結婚式をして
              現在 茅野市に住んでいます
               ごとく 十能 いろり ちゃんちゃんこ    
              懐かしい響きです
              シモヤケは今でも出来ます これはもう一生ものだと思っています
              まったくイライラします
               わたくしは義務教育九年間 無欠席 皆勤でした
              六 七年前に大腸がんを手術しましたが 今でも至って健康です            
              冬になると出た神経痛的腰痛も克服しました
              ただ さすが体力の衰えか膝のちょっとしたチクチク痛みがまだ消えません
              食事面と共に指圧 体操などで克服しょうとしているところです
              痛くて困るという事もなく ちょっと痛むという程度です
               バタンキュー 同じで眠れないという事もありません 
               地下室のメロディー 先々週かNHKで放送しましたね                                
               何度も観ている映画です 札束がプールの水面上に浮かび上がるラストシーン
               ギャバンの苦虫を嚙み潰したような無表情がいいです
               川柳 やっぱり入選作は物足りない
               以前にも書きましたがtakeziisan川柳の方が面白い 
               勿論 おべっかではなく
               季節の収穫物 豊かな自然があればこその恵み
               羨ましい限りです
               パセリ みずな 小松菜以上の栄養価があるとは・・・
               初めて知ると共に驚きです
               今回も楽しく拝見させて戴きました
               有難う御座いました

















遺す言葉(470) 小説  いつか来た道 また 行く道(30) 他  過ぎ逝く時の中で

2023-10-22 11:34:45 | つぶやき
            過ぎ逝く時の中で(2023.10.15日作)



 わたしは最早
 未来を生きようとは思わない
 現在 八十五歳と六カ月
 残り少ない人生
 日々 精一杯 今 この時を生きる
 わたしの人生
 総ては夢の様に過ぎて逝った
 風と共に去りぬ
 あの人が亡くなった
 あの人は昨日死んだ
 幼馴染の友人 同級生
 同じ世代を生きた著名な
 あの人 この人 次ぎ次ぎと
 同じ時 同じ時代を生きた人々が
 この世を去って逝く
 八十五歳六カ月
 人の命は百二十歳が限界
 過日 新聞紙上で眼にした事実
 人の命の限界百二十歳
 わたしに残された人生 命の限界
 三十四年と六カ月
 その三十四年と六カ月
 わたしの肉体は耐えられるか ?
 日々 衰えの顕著な今日 この頃
 肉体 精神 頭脳
 限界まで耐え得るか ?
 日々増す 衰えの実感
 不安は募るばかり
 今日 あの人が逝った
 昨日 あの人が亡くなった
 日々 やせ細ってゆく 
 わたしの わたし達の生きた時代
 時代の記憶 総ては遥かなものとして
 過ぎ去り 遠ざかり
 遠のいて逝く
 




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(30)





「俺の名前なんて関係ねえよ。俺はただ、中沢栄二が居る場所を教えて貰えれば、それでいいんだから」
「何故、あなたはそんなに、その人に拘るの。その訳を教えてくれる ?」
 わたしは相手の気分を変えるように穏やかに聞いた。
「奴には大きな金額の貸しがあるんだ。だから奴に逃げられちゃあ困るんだよ」
「それでわたしに、その人の居る所を教えろって言うの ?」
「そう言う事だ」
「あなた何か勘違いしてるんじゃない。わたし中沢栄二なんて人、全く知らないわよ」
「あんたもしぶといねえ。いくら、しらを切ったって駄目なんだよお。俺の手元にはちゃんとした証拠があん(有る)だから。いいかい、俺はあんたの顔を見た事がねえんだ。これまで何回か、あんたの生(なま)の顔を見ようと思ってずっと待ってたんたけど、旨くいかなかった。そっで(それで)ゆうべ電話をしたんだけど、人違いなんかじゃねえんだ。雑誌で見た<ブティック・美和>の広告にあんたの顔写真が載ってた。それを見て、ああ、この女だ、ってすぐに分かった。中沢がカモにしていたのはこの女だ ! 奴から預かっているネガの写真の中の女とあんたとはおんなじ人間なんだよ」 
「写真って、どんな写真 ?」
 わたしは心の凍り付く思いで言った。
「あんたも見てると思うよ。確か、奴がそんな事を言ってたから」
「その写真をあなたが持ってるの ?」
「そうだ。借金の形にね。ただ、中沢が借金を戻す事を前提に封は切らねえ約束だったんだけど、肝心の中沢が居なくなっちゃった。そっで、封を切って見みると中から出て来たのがあんたの写真のネガだったって言う訳よ。奴はネガだって事は言ってたけど、何処の誰とは言わなかった。何人もの写真を持ってたからね。俺に喋ると一番大事な商売の邪魔をされると思ったんじゃないの。でも俺は、はなから奴の商売の邪魔をする気はなかったし、金さえ貰えればそれで良かったんだ。だけっど、肝心の奴が居なくなっちゃった。奴からすれば俺の前から消えなければなんねえ理由はねえし、消えるなんて事も出来ねえんだから、これはなんかあったな、って思った訳だよ。そっで、封を切ってネガを焼いてみたらあんたが出て来たっていう事なんだ。あんたに取っては決っして都合のいい写真ではねえし、あんたに聞けば何か分かるかなって思ったのさ」
「それで電話をして来たの ?」
「そうだ」
「じゃあ、一度会ってゆっくり話しをしましょうか ?」
「あっ、いけねえ。テレホンカードが無くなっちゃった。切れるかも知んねえから、今夜また電話をするよ」
 その言葉と共に電話が切れた。
 わたしは話し相手の居なくなった受話器を握ったまま、いつまでもぼんやりしていた。
 受話器を元に戻した事さえ覚えていなかった。
 その後、わたしは一体、専務や秘書に何を言ったのだろう ?
 それぞれが用件を抱えてわたしの室(へや)に来た事だけは記憶にあったが、何を話したのかは全く覚えていなかった。
 それでも、専務や秘書が、格別、怪訝な顔をする事もなく室を出て行ったのは、それなりに適切な対応が出来ていた、という事だろう。
 わたしは専務や秘書が出て行った後もずっと椅子に座ったままでいた。
 動けなかった。体中の筋肉が瓦解してしまったかのように、力が抜けていた。ようやく事務所を出たのは八時に近かった。
 事務所を出ると何時ものように下の店舗へ行った。
 終業時間が十時の店内には、まだ客の姿もあって華やぎに満ちていた。
 わたしはゆっくりと店内を見て廻った。
 様々な棚やガラス戸の奥に並んだ商品の数々が、鮮やかな感覚でわたしの視線を捉えて来た。
 総ての商品がブランド物と言われる一流品だった。
 これが全部、わたしのものなんだ ! 
 何時もなら溢れるような幸福感で、自分が生きて来た人生の充実感に包まれ、限りない上昇志向に充たされるのだったが、今夜のわたしは違っていた。  
 眼に触れるものの総てが何故か空しく、空虚なものにしか思えなくて、奇妙に遠い感覚の中にあった。
 フェラガモ、ヴァレンティノ、シャネルもジバンシーもサン・ローランも、何時ものようにわたしに微笑み掛け、心を酔わせて寄り添って来る事はなかった。
 あらゆるものが遠い感覚の中にあった。
 店員達は皆、わたしに鄭重だった。
 わたしは彼等や彼女等に優しく労いの言葉を掛けた。
 何時も、わたしのする事だった。
 しかし、今夜のわたしの心はそこには無かった。遠い世界の何処かをさ迷っていた。
 わたしは心此処にないままに店を出て駐車場へ降りて行った。
 車のドアを開けて座席に座った。
 何時もの様にスロープを上がって地上へ出た。
 多分、あいつが何処かで見張っているだろう。
 そう考えたが気にしなかった。
 どうとでも、したい様にすればいいんだわ。
 信号待ちで青信号に変わると鬱憤を晴らす様に、一気に加速を掛けて車を発進させた。
  男が尾行して いると分かったのは北沢に入ってからだった。
 何時も必ず、即かず離れずの距離に居る車に気が付いた。
 改めて注意をしてみると、巧みに信号待ちをしながら、決してわたしの車の側へは寄って来なかった。
 見えなくなったと思ったら、猛烈な勢いで追い掛けて来る。
 常に他の車の陰に車体を寄せているのが分かった。
 一体、何が目的なんだ !
 電話を掛けて来た男と同じ人間なのか ?
 どうしよう・・・・?
   このまま自宅へ直行してしまっていいんだろうか ? 
 わたしの住むマンションの大きな建物が暗い夜空を背景に見えて来た。
 意外な程さっぱりとわたしの心は決まっていた。
 構うものか、このまま駐車場へ入ってしまえ。
 どうせ、首根っこは押さえられて居るんだ !
 それでもわたしは、普段、帰る道とは違って狭い路地の間へ入って行った。
 相手の車が見えなくなると、猛烈な速さであっちの道、こっちの道、とジグザクに走りながら、自分にも分からない路地の間を走っていた。
 目印は絶えず視界にあるマンションの建物だった。
 尾行車はわたしの車を見失ったらしかった。
 二十分程走って大通りへ出た時にはわたしの車の外には車の影は見えなかった。
 わたしは夜の闇に感謝しながら逃げ込むようにしてマンションの駐車場へ車を入れた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様            


               何時も有難う御座います
              今回も様々な花々 楽しませて戴きました
              女郎花 懐かしいですね 故郷の野山には普段に見られた花です
              あの頃の思い出 情景が蘇ります
              キミガヨラン 初めて名前を知りました 近くの家に
              この花の大きな木があります その花の季節には何時も
              気になっていた花ですが名前は知りませんでした
              木犀は早くも落ちる花に 悩まされています 
               ダイコン 間引き しっかり自分の仕事 務めを果た終えた後の
              静かな日常生活の中の一つの楽しみ それに今時の
              これまで経験した事の無い野菜の高値 家計にも優しいですね 
              趣味と実益 それに美食 羨ましい限りです
               山の趣味 憧れは尽きないのですが 出不精の自分には
              他人様の絵を見る事で気分を満たすより仕方がありません
              ですから普段観ないテレビなどでも自然や地方の穏やかな生活ぶり
              などを映した番組などにはなんとなく心を引かれて観ています
               イッセキ 初めて知る言葉です
              一番の席 という意味が込められてでもいるのでしょうか
              方言にはその地方独特の香りがあってなんとなく心の温もりを覚えます
               寄り合い家族 東京へ出た時 最初に住んだのが池袋でした
              山手線(当時の呼び名)で次の次の駅が巣鴨で懐かしい響きです
              物語 楽しみにしています
               有難う御座いました





              桂蓮様


             コメント 有難う御座います
            近況が語られていて とても興味深く拝見しました
            一度アクシデントがあると人の心はなかなか元に戻れません
            でも その人に意欲さえあればまた新しい気力も湧いて来る
            のではないでしょうか
            人を取り囲む環境は日々 移ってゆく 昔に戻る事はない
            肉体も然り 結局 今を生きる事しか出来ないという事でしょうね
            禅の思想もそこにあると思います 囚われるな 良きに付け 悪しきに付け 
            今を生きる
            移りゆく時は誰にも止められません
             老いる軌道 気にしない 気にしない あるがままに生きる 
            坐禅の中で得た心が生きているのだと思います
            お見事です
            コメント共々 面白く拝見させて戴きました
            有難う御座います







      

遺す言葉(469) 小説 いつか来た道 また行く道(29) 他  真実 芸術

2023-10-15 12:57:38 | つぶやき
             真実 芸術(2023.6.19日作)


          真実

 物事の核心に迫る真実は 決して 
 言葉で表す事は出来ない深淵にある
 言葉を並べ立てるだけの人間には
 物事の核心 真実に迫り 掴み取る事は出来ない
 理論 理屈は物事の表面をなぞるだけの行為
 現実社会に於ける事象の真実は 
 そこに係わる実行者のみが知り得る事だ

          
          芸術

 芸術と言われる作品には
 人がそこに自身の想念を重ね合わせ
 思い描く事の出来る 香りが
 含まれている
 無味乾燥 香りも匂いもない作り物を
 芸術作品と呼ぶことは出来ない
 ただの見世物にしか過ぎない



       
         老いてなお 健脚ほこり 野辺の花




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





              いつか来た道 また行く道(29)





「そうですけど、何でしょうか。何の御用でしょう ?」
 わたしは不審感と共に警戒心を滲ませて言った。
「中沢栄二の事でちょっと話しがしたいんだけど」
 瞬間、ぼそっとした冴えない男の声に心臓を突き刺される思いがして息が止まった。瞬時に二、三日前に事務所の窓から見た男の姿が頭を過(よ)ぎった。
 あの男だ !
 刑事ではない、という思いがすぐに働いた。
 心臓が激しく鼓動を打った。
 頭が空白状態のまま何も考えられなかった。
 何秒間かの後、ようやく我を取り戻して、
「中沢栄二って、誰の事ですか」
 動揺する気持ちを抑えて極めて穏やかに聞いていた。
「俺の知り合いなんだけど、この所、ちょっと姿が見えないもんだから」
 探りを入れるかのように男は微妙な言い回しで言った。
「それが、わたしに何の関係があるんですか。そんな人、わたしは知りません !」
 中沢との関係を知っている ! その確信と共に激しい怒りに捉われ、叩き付けるように言って受話器を置いた。
 中沢がクスリを買っていた男だ。
 確信出来た。
 体中が強張る思いだった。
 電話はすぐにまた掛かって来た。
 受話器を取らなかった。
 程なくして電話は切れた。
 その夜のうちに再び電話の鳴る事はなかった。

 ベッドへ入る事も忘れていた。
 気持ちが落ち着かなかった。
 何度もソファーを立って窓辺へ行った。
 マンションの前の大通りに人影はなかった。街灯だけが明るい光りを空虚な通りに投げ掛けていた。
 その夜、わたしは少しでも眠ったのだろうか ? 
 自分でも判断出来なかった。ソファーに掛けたまま朝を迎えていた。
 わたしは何時もと同じように出社した。
 何時もと同じように仕事をした。
 午前中に何度か、男の姿を確かめたくて窓辺へ行った。
 男の姿はなかった。
 午後四時過ぎに窓辺へ行った時、男は何時もの場所に立っていた。
 やっぱり、と思った。予想していた事だった。
 どうしよう・・・・
 自分がどのように行動したらいいのか、判断が付かなかった。
 それ以降、仕事が手に付かなかった。
 気になって、何度も何度も窓辺へ行った。そして、五時過ぎに窓辺へ行った時には男の姿はなかった。
 男は帰ったのか ? 何かを企んでいるのか ? 判断が付かなかった。
 今日最後と思われる机の上の電話が鳴ったのは終業時間に近い時刻だった。
「はい、ブティック・美和です」
 今日、何度もそうして受話器を取っていた。
 男の姿を見るまでは、それが商談の電話である事を少しも疑っていなかった。伸びやかに腕は受話器に伸びていた。
 だが、男の姿を見てからはベルが鳴る度に、心が凍るような思いに捉われた。
 あの男からではないか ?
 何度かは男からのものではなくて、その度に安堵の思いに胸をなでおろした。
 それでも結局、今日最後と思われるその電話は安堵を打ち砕く男からのものだった。
 男からだと分かった時、わたしは思わず受話器を置こうとした。
 その手を止めたのは、先程見た男の姿だった。
 男が確実にわたしという存在を把握していると分かった今では、この先、男がどのような行動に出て来るのか分からないーーその恐怖心がわたしを突き動かしていた。受話器を握ったままわたしは男の声を受け止めた。
「昨夜(ゆうべ)電話をした者(もん)だけど」
 男は言った。
「だから、なんだって言うの」
 怒りを滲ませて強く言った。
「話したい事があるんだ」
「あなた、いったい、何を言ってるのよ。うるさい人ね。何故、わたしがあなたなんかと話しをしなければならないの。第一、自分の名前も名乗らないで何を言ってるのよ」
「だから会って話しをすれば分かるって言うんだ」
「何が分かるって言うのよ」
「中沢栄二が居なくなっちゃったんだよ」
「それがどうしたって言うの。中沢栄二なんて一体、誰なの ? そんな人、わたしは知らないわよ」
「知らない訳がねえだろう。俺は奴から聞いてるんだ」
「あなたも変な人ねえ。警察に訴えるわよ」
「訴えたければ訴えればいいだろう。困るのはあんたの方じゃねえか」
 男は居直ったように言った。
 わたしは受話器を置いて電話を切った。
 困るのはあんたの方じゃねえか・・・・。
 一体、男は何処までわたしと中沢との関係を知っているのだろう ?
   不安で一杯になった。
 男は電話を掛け直して来た。
「なんで切っちゃうんだよお。切っても無駄だって事はあんたにもわがっだろう。こんな事を何時までも繰り返してると、そのうち、社員達に知られてしまうよ。それでもいいのかい」
 男は静かな声で言ったが、その言葉にはわたしを恐怖のどん底に突き落とす響きが込められていた。
 社員と言う言葉がわたしの心に突き刺さった。
 わたしは言った。
「いいわ。あなたに会ってもいいわ。それで何が欲しいの ? お金 ? それでわたしを脅迫しているの ?」
「脅迫なんかしてねえよ。中沢栄二が何処に居るか教えてくれさえすりゃあ、それでいいんだよお」
「だから、そんな人は知らないって言ってるでしょう」
「知らねえ訳がねえって言うんだよお。俺にはあんたが中沢を知ってる確かな証拠があんだから」
「確かな証拠、その証拠って一体なんなの。教えてよ」
 息がつまった。写真を持っているとでも言うのだろうか ?
「一体、あなた誰なの。名前を言いなさいよ。警察に訴えてやるから」
 厚手の曇りガラス一枚隔てただけの隣室にいる秘書や社員達が気になった。
 わたしの声はだんだん低くなっていた。





            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             takeziisan様


              季節はすっかり秋になってしまいました
             光陰矢の如し 季節の穏やかな推移が無くなってしまったように思われます
             そのためか 二 三日前に咲き始めた木犀 今年は例年のような強い香りがしないまま
             この辺は雨ですので散ってしまいそうです ちよっと気抜けがしたり
             寂しくもあります      
              今年も四台の扇風機 それにしても驚きです
             今年の猛暑を扇風機で乗り切ったとは ! それだけ
             自然の環境が違うのでしょうか いやあ 驚きです        
              秋の景色 堪能しました 奥那須秘湯 煙草屋旅館
             いい風情ですね 那須地方へは行った事もありますが
             那須 塩原と言う言葉に懐かしさを覚えます 身体の動けるうちに
             また行ってみたいですがどうなる事やら        
              アルフレッド ハウゼ 懐かしいですね
             何時聴いても良いです 郷愁を誘われます
              カール ブッセ 山のあなたの空とおく
             二十代の初め頃住んでいた街で駅からの帰り道
             商店街の宣伝放送がよくこの詩を流していました
             馴染み深い詩の一つです
              秋の日のヴォロンのためいき
             有名な詩ですが 現代の作家が訳したものは少し違っていて
             正確に訳したのでしょうが 何か味気ない気がします   
             里の秋 以前にも書きましたが作詞者はわたくしの住んでいた村の                
             隣りの隣りの村の出身です ですから東北地方をイメージして書いたと言う
             作者の言葉にも関わらず自分の住んでいた地方の風景が
             多分に織り込まれているのだとわたくしは勝手に思ったりしています
             実際 そのままの風景が折れ込まれています
             懐かしい風景です
              野菜の高い事 驚くばかりです 
             わたくしは滅多に観ないテレビの中でテレビ東京の「なぜそこに」という
             山深い辺境に住む人を訪ねる番組が好きで時々 見るのですが
             そこで自由に 川で魚を捕ったり 広々とした畑で
             それこそ サルやイノシシたちと戦いながら自然の中で暮らしている人達を見ると  
             都会に住む人達よりはるかに人間としての豊かな生き方をしているなあ と
             思い 改めて豊かさとは何かと思ったりしています
              今回も美しい山岳写真を始め 楽しい記事を有り難う御座いました           





              桂蓮様             
 

               有難う御座います
               新作が見えませんので旧作を逍遙していましたら
              不眠症とツボの話しが出ていましたので拝見しました
              以前 拝見した記憶がありますが改めてとても面白く拝見しました
              耳の後ろ 顎との接点 ここは重要なツボのようです
              わたくしも毎朝 目覚めた直後や洗面の後など人差し指と中指で耳を挟むようにして
              必ず十回以上の 力一杯のマッサージをしています           
              ツボへの刺激 現代科学の信奉者は否定的かも知れませんが
              侮れません わたくしは実際にそうして神経痛も治して来ましたし
              現在もこの夏の猛暑で傷んだ膝の痛みを治しています
              気温の低下による体の負担の軽減もあるのかも知れませんが
              最近はほとんど痛みを感じなくなりつつあります
              いずれにしても人の体も血行を良くして手入れをしなければ 
              衰えるばかりです 車と同じ事です 車でも手入れをしなければ
              錆び付くばかりです
              自分でやる 何事も人頼みでは長くは続かないし
              自分の望む好結果も得られないのではないでしょうか
              有難う御座いました
               冒頭の様々なお写真 拝見する度に心洗われます
             
















遺す言葉(468) 小説 いつか来た道 また行く道(28) 他 無は無限大

2023-10-08 13:08:00 | つぶやき
            (2023.6.24日作)



 無は無限大 限界はない  
 存在が限界を定(き)める
 無の心
 一つ一つに反応
 囚われの心
 制限 限定
 自由な羽ばたき不可
 軌道修正 束縛される
 無心 無
 純白 無
 可能性 無限大
 何色にも染まる



              

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            いつか来た道 また行く道(28)



 
 
 炎が消えて炉の中に灰を見た時、これで計画の第一段階が終了した、と思った。
 残る懸念は中沢の交友関係だった。それでも、それは余り心配しなかった。
 おそらく中沢同様、彼等の誰もが脛に傷を持つ存在に違いないと推測した。
  中沢の不在を嗅ぎ付けても声高に騒ぎ立てる事はないのではないか。
 どの道、中沢の交友関係なら、裏街道を生きているような人間達に思えた。         
 中沢自身、友達らしい友達の居ないような事も言っていた。   
 それも安心材料の一つになっていた。
 わたしの平穏は保たれた。
 何事もない日々が続いた。
 安心感と共に妄想に苦しむ事もなくなった。
 わたしはまた、レストランで食事をしたり、仕事仲間と一緒に映画の試写会に行ったり、劇場へ足を運んだりしていた。
 街路樹の陰に男の姿を見たのは中沢栄二を殺害してからひと月以上が過ぎた日の夜だった。
 来春のブラウスの売り込みに来た業者が帰った後、一息入れる為にタバコに火を付け窓辺へ行った。
 クリスマスの飾り付けや年末の装いなどを凝らした街は華やいで見えた。
 しばらくはその街並みの華やぎを見下ろしながら吹かす煙草の煙りと共に、順調に進んだ商談への満足感に浸っていた。
 煙草の灰が長くなり、短くなった煙草に気付いて慌てて手にした灰皿の中で火を消して窓辺を離れようとした時、ふと、思いがけず眼に飛び込んで来た一つの景色に心が留まった。
 おやッ、なぜだかその時、そう思った。
 一本の街路樹に身を寄せて黒っぽい服装をした一人の男がタバコ を吹かして立っていた。
 普段、何処にでも見られるありふれた光景だった。
 それでいながら何故かその時、そう思っていた。
 わたしは窓の横の壁に身を隠して男の様子を窺った。
 男の動きに不自然さは見られなかった。男はただ、通りを見詰めたまま街路樹に身を持たせ掛けて退屈そうに煙草を吹かしていた。
 しばらくはそんな男の様子を見詰めていた。
 依然として、男の様子に不自然さは見られなかった。
 気のせいだ、とわたしは思った。と同時に、心の奥の何処かではまだ、怯えの意識が抜け切っていないのだろうか、と自分自身の気持ちを思って沈み込む気分になっていた。
 二度目に窓辺へ行ったのは四十分近くが経った午後七時過ぎだった。
 シヤッターを降ろす前に用心の為にカーテンの隙間から覗いて見ると男の姿は既になかった。
 やはり気のせいだ、となぜか安堵する気分に包まれていた。
 その日、それでもわたしは車を出す時、何時ものように正面の出口から出る事をしなかった。裏の出口を使っていた。無意識裡の行動だった。何故、そうしていたのか、自分にも分からない。自然な気持ちでそうしていた。無意識裡の警戒心かも知れなかった。
 男の姿を再びその場所に見たのは、三四日経ってからだった。
 男は同じような服装で同じように煙草を吹かしながら立っていた。
 昼間見た時には居なかった。
 午後六時過ぎの退社時間に近い時刻だった。
 男のその黒っぽい服装と共にわたしは再び眼にした男の姿に、もしや刑事では ? という警戒心に捉われていた。
 胸の鼓動が早鐘を打った。
 わたしは黙ったまま窓辺を離れた。
 まだ社員達も居た。
 その日もわたしは社員達が帰った後、最後まで事務所に残っていた。
 帰る時間になって先程眼にした男の存在が気になって再び窓辺に行った時、男の姿はなかった。七時に近い時刻だった。
 いよいよ帰る時になって事務所の扉を閉め、鍵を掛けてハンドバッグに合い鍵をしまいながら人気のない廊下を歩いている時、ふと、思わぬ不安に捉われた。
 もしや、先程、姿を見せなかった男がこの人気のない廊下の何処かに身を隠して待ち構えているのではないか ?
 勿論、理由のない不安だった。
 それが、中沢を殺害して葬った事による無意識の怯えによる不安だという事はすぐに理解出来た。
 日頃、平静な気持ちで日々を送って居ながら、依然として心の奥底の何処かでは無意識裡の怯えに怯えている自分自身を、改めて意識せずにはいられなかった。
 その無意識裡の不安に怯えながらその日、わたしは自分の車を使わなかった。
 依然として先程見た、正体の知れない男の姿と共に、あの男が刑事だとは限らないだろうし、わたしの様子を窺っていたという証拠になるようなものも無いのだ、と思いながらもなお、怯える心のまま警戒心を解く事が出来ずに駐車場の裏口から出て、タクシーを利用して自宅に帰った。
 その夜は眠れなかった。同じ男の姿を二度、同じ場所に見た、という事実が胸の底に凝(しこり)となって絡み付いていた。
 何でもないのだ、思い過ごしにしか過ぎない、わたしのあの秘かな行動が他の人に知られるはずがない。
 そう心に言い聞かせて眠りに入ってもすぐにまた、奇妙な夢を見ては眼を覚ました。
 何度かそんな事を繰り返した。
 それでも朝が明けると何時もの様に身支度を整えて出社した。
 何時もと同じ様に仕事をした。
 その間には何度も窓辺へ行って外の様子を窺った。
 男の姿はなかった。
 やっぱり、気のせいだったんだ、と自分に言い聞かせた。
 そしてまた三四日、男の姿を見る事はなかった。
 その電話が鳴ったのは、午後九時を過ぎていた。
 わたしは自宅に居て夕食も済ませ、テレビを点けたまま最新のモード雑誌に眼を落としページをめくっていた。
「はい、杉本です」
 わたしが応えると電話の相手は、
「杉本美和さんのお宅ですか」
 と言った。
 男の声だった。
「はい、そうです」 
 今頃、聞き慣れない男の声で電話を掛けて来るなんてなんだろう、と軽い不審の気持ちと共に答えると、
「ブテック・美和の社長さんですね」
 と、男の声は言った。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             桂蓮様

              新作 拝見しました
             勉強 人は一生勉強ですね
             もう ここで良い という事は無いですね
             総ての事象はそれぞれ何処かで少しずつ違っている
             その度に人は勉強をしている という事ではないでしょうか
             書物を読んで得る知識 実際に体験して得る知識      
             体系化出来る知識はどちらでしょうか ? わたくしは常々
             知るという事は自身の血肉と化す事だと思っています
             その点で書物から得ただけの知識はまやかしものだと思っています
             どんな偉い学者の言葉より実際にその場に立ち会っている人間の言葉を信じます
             その言葉には実践者でしか知り得ない深い真実 叡智が必ず含まれています
             漁業にたずさわる人 農業に係わる人 工場で小さなネジを造る人
             その場に係わる人の言葉には実践者でしか知り得ない
             深い真実が隠されています その小さな真実は理論 理屈の上には表れません
             実践者の感覚でしか掴み得ません そしてそれが出来た時にこそ
             初めて知っている という事が出来るのだと思います
             そうです 体系化出来るのです 実践者は必ず細かい部分
             眼に見えない部分までも説明してくれます それが
             知っているという事の真の姿ではないでしょうか
             その点で現在の世の中はなんと似非(えせ)知識人の多い事か !
             何処かから見聞きして来た情報を得意気に語って知っている振りをする
             世の中そんな人間達で溢れています テレビやインターネット
             知ったかぶりの知識人達のなんと多い事か 新作を拝見しまして
             改めてそう思っているところです      
              大変 興味深い記事 面白く拝見しました
             有難う御座いました
             また何時もわたくしの駄文にお眼をお通し戴く事に
             改めてお礼申し上げます



               takeziisan様


                コメント有難う御座います
               さすが物語を読み慣れた方の御感想 的確にお読み戴いていると
               嬉しい気持ちになります    
               結末についてはどうなるか筆を進めて見なければ分からない部分です
               大方のシナリオは出来ていますが 物語は主人公の動きによって
               作者自身 思いも掛けない方向へ進んでしまうものです
               多くの作家の方々がそう言って居ます また
               そうでなければ作品としては生きたものにはなりません
               作者が考えて作るものではなくて作中人物達の動きを追っているうちに
               作品が出来上がってゆきます ですから粗筋に従って題名を付けたりしていても
               結末はどうなるかは分からない部分です
                 思わぬ方角に進んでしまう事もあります            
                御丁寧にお読み戴き感謝しています
               今回も様々な記事 楽しく拝見させて戴きました
               ドングリ 少ない
               やはり異常気象でしょうか 木の実が少ない為 
               人里への熊の出没も増えているという事ですので
               また野菜なども今年は例年になく品薄になっていますね                          
               その高値にびっくりします
               自家製の梅酒で一杯 最高の贅沢 喜びではないでしょうか               
               それにしてもイノシシ リアルな足跡 傍目にはその環境の素晴らしさが
               実感出来るのですが 実際問題としては そんな暢気な事など言ってられない
               そういう事でしょうね 
                悲しき口笛 天才少女 美空ひばり
               面目躍如たるものが有ります 以前にも書きましたが
               完全に大人の歌になっています 何よりもこの頃の歌には飾り気がなくて
               素直に耳に入って来ます 画面を見ていて懐かしさと共に  
               当時を思い出して胸が熱くなりました
                後年 美空ひばりを初めて舞台に見た時には
               そこにいて歌っている 小柄な女性がどうしても実物の美空ひばりとは思えない
               奇妙な感覚を味わった事があります
               自分の頭の中の美空ひばりの存在の大きさと
               実物の一人の小柄な女性とのギャップに混乱していたのです 
               不思議な感覚でした
                脚 腰 痛っ 痛っ ! 年齢と共に確実に 肉体の衰えてゆく事が実感出来ます
               わたくしもこの夏の猛暑による肉体の衰えのせいか 
               膝の痛みに悩まされました でも 宣伝しきりの薬など使うのも嫌だし と思い
               柔軟体操 マッサージなどで紛らわして来ました
               暑さも収まり さてこれからどうなるか ?
               幾分 以前より楽になった気がします
                これから歳を重ねるばかり どうぞ御無理をなさいません様に
               何時も楽しい記事共々 有難う御座います
               御礼申し上げます
                なお 前回のお礼を書いた文章で一部
               「です」の所で「す」の字の抜け落ちている部分がありました
               何時も細心の注意を払っている心算ですが
               大変失礼しました 改めて直して置きましたが
               この器具の便利さと共にちょっとした事でミスにつながる
               恐ろしさを実感しました





遺す言葉(467) 小説 いつか来た道 また行く道(27) 他 独創性

2023-10-02 17:20:54 | つぶやき
            独創性(2010.11.12日作)


 
 
 世の中に真に独創的なものなど存在しない
 総ては人々が営々と築き上げて来た叡智
 知識の上に成り立つものであり
 その上書きにしか過ぎない

 だからと言って今現在
 様々に創り出されているものに価値が無い
 という事にはならない 何故なら
 その時代には その時代にしかないものが有り
 その時代にしかないものが初めて 人類
 人間が営々と築き上げて来た知識の上に付け加えられ
 見事に表現された時には それは
 新しいものであり
 価値を持つものとなる




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(27)



 
 
 何人かの来訪者と会って商談も進めた。
 輸入するハンドバッグの広告の為、広告会社の社員とも会った。
 その日一日で溜まっていた仕事も大筋、方が付いた。
 翌日には思いも掛けない自由な時間が得られた。
 午前中の仕事を済ますと午後からの仕事を秘書に託してⅠ時過ぎに事務所を出た。
 専務の高木は外出中で特別な言付けも秘書には託さなかった。
 わたしの動きは誰にも知られたくはない !
 心は固まっていた。迷いはなかった。気持ちの落ち着きと共に冷静な判断力も戻っていた。
 一旦、自宅へ帰って服装を変えた。
 ジーンズのスラックスに厚手の茶のセーター、化粧を落として素顔にした。
 イヤリングも、ダイヤを散りばめた指輪も外して、何処にでも見られる普通の主婦の印象にした。
 目元を隠す為にぼかしの入った薄茶の度なしの眼鏡を掛けた。
 普段、強い日差しを避ける為に使っている眼鏡だったが、地味造りの服装には少し不自然に思えた。でも、仕方がなかった。素顔をさらす勇気はない。
 そのあと、薄手の手袋とビニール袋を用意した。ビニール袋は中沢の部屋にまだ残されていると思われる写真やネガフィルムを探し出して入れる為だった。中沢の上着から取り出した財布に入った合鍵も持った。
 自宅を出たのは三時少し過ぎだった。
 タクシーを利用した。
 免許証から住所を探した出した中沢の居たアパートは中央区新川にあった。
 狭い路地の奥にある古ぼけた建物を探すのに苦労した。
 灰色にくすんだ二階建ての木造アパートは中央の玄関入口を中心に一、二階それぞれ左右に四つずつの部屋を持っていた。
 そのどれもの窓が閉じられていて人の気配が感じられなかった。
 門扉のない薄汚れたブロック塀に囲まれた入口からそれでも人目を気にしながら入ると急いで玄関に向かった。
 三メートル程の距離だった。
 玄関に入ると左右にそれぞれ下駄箱が備えられていて名前が書かれていた。
 その上には郵便受けらしきものもあった。
 中沢の名前を探すと建物の左手、二階の部屋の一番奥が中沢になっていた。
 依然として建物の中に人の気配は感じられなかった。
 働き盛りの独身者ばかりが住む建物なのかと思ってみたりもした。
 玄関を上がると平底のパンプスを手に持ってすぐに中央にある階段を昇った。
 二階廊下を左手へ向かうと突き当りに薄れかけた墨で中沢栄二と書かれた表札の室があった。
 茶色の汚れた合板扉にはくすんだ色の真鍮のノブが付いていた。
 下には鍵穴があった。
 その鍵穴を見て愕然とした。丸い穴の下に小さな切れ込みのある形式のものだった。
 中沢の持っていた合鍵にはこの形式に会うものはなかった。総てが板状のものだった。一目で判断出来た。
 それでもポケットから合鍵を取り出して確かめてみた。
 やはり合う形はなかった。
 困った事になった !
 途方にくれた。鍵穴を見詰めたまま呆然としていた。
 まさか扉を破って押し入るわけにはゆかない。
 ふと気が付いて誰かに見られていないか振り返った。
 依然として静まり返った建物の中、廊下に人影は見られなかった。
 試みに部屋の中に誰か居ないか、小さくドアを叩いてみた。
 中からの反応はなかった。
 ノブに手を掛け、廻してみた。
 ドアも動かなかった。
 一旦、ドアの前から離れた。
 人目を警戒して階段の方へ戻った。
 階段を降りて手にしていたパンプスを下に置き足を入れようとした時、中沢と書かれた郵便受けの文字が眼に入った。
 途端に頭の中を過ぎるものがあった。
 もしや、郵便受けの中に入ってやしないか ?
 早速、郵便受けに手を延ばし、留め具をひねって開けてみた。
 中は広告のチラシでぎっしりと埋まっていた。
 中沢の長い不在を証明するもののように思えた。
 普段、中沢がどのように行動していたのかは分からなかったが、昨日や今日の不在で放ったらかしにされた郵便受けのようには思えなかった。
 広告はそのままにして手を差し込み、中を探った。
 右の片隅に微かに手に触れる堅いものがあった。
 握ってみると紛れもなく合い鍵状のものだった。
 これだ ! と思った。
 すぐに手を引いて取ったものを見てみると紛れもなくドアの鍵穴と一致する合い鍵だった。
 小躍りしたい程の喜びだった。そのまま郵便受けの蓋を閉めて階段を駆け上った。
 
 合い鍵で開けて入った部屋は四畳半の狭い部屋だった。
 台所らしきものはあったがトイレはなかった。
 薄汚れた布団が二つ折りにされて片隅に放り出してあった。
 間口半間程の押し入れを開けてみると、二段になった上には毛布や衣類が雑多に押し込められていて、下には様々な物の入ったダンボール箱や踵の取れて破けた革靴などが積み重ねられてあった。
 写真やネガフィルムは十四五センチ程の四角い段ボール箱に入れられていた。
 取り出してみると、よくもまあ、こんなに、と思える程の写真やネガフィルムだった。
 その写真やフィルムはそのままビニール袋に詰め込んだ。
 中には見知らぬ女性の顔も散見されて、わたしのものばかりではないらしい事が分かった。
 それでもかまわずに詰め込んだ。
 その箱が空になると他の箱も探してみた。
 幾つもの箱が破けた下着や漫画雑誌、スポーツ新聞、即席ラーメンの空容器などで埋まっていた。
 全部の箱を探し終えた時にも、怪しげな写真やネガフィルムは見付からなかった。
 よし、これでいいだろ・・・納得する思いと共に、麻薬に関するものの何一つ見付からない事に気が付いて、不思議な思いに捉われた。クスリに関しては彼が細心の注意を払っていたらしい事が、なんとなく理解出来た。
 気が付いた時には、部屋の中は既に薄闇に包まれていた。
 こんな時間になってしまった !
 慌てる気持ちと共に急いで掻きまわした後を整えて押し入れを閉めた。
 そのまま薄汚れた布団が隅に寄せられてある異臭のこもった部屋を出た。
 誰かに見られた気配はなかった。
 首尾は上々だ、とほくそ笑む思いだった。
 急いで玄関へ戻ると、パンプスがそこに置かれたままになっているのに気が付いてギョッとした。
 誰かがこれを眼にしなかっただろうか ?
 でも、今更、仕方がなかった。そのまま急いで足を押し込むと合い鍵を元の場所に戻して逃げるようにして玄関を出た。
 誰にも会わずにアパートを出る事が出来た。
 門を出ると小走りに路地を走って大通りへ出た。
 タクシーを探しながら足早に歩いた。
 ようやく来たタクシーを捕まえて座席に腰を埋めた時には思わず安堵の溜息を漏らしていた。
 
 写真もネガフィルムもビニール袋と共にマンションの敷地内にある焼却炉に投げ込んだ。




            
             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





               桂蓮様


                リッチな家 なんとなく想像出来ます 
               アメリカ ヨーロッパなどの映画を観ますと
               日本人の感覚からすると宮殿なのかと思われるような豪邸が
               しばしば登場します きっと あのような家なのだろうなと思っています
               いずれにしても住めば都で多少貧しくても不便でさえなければ
               住み慣れた場所が一番いいのではないでしょうか
               高望みをすれば限(きり)がないですものね
                新作 拝見しました
               苦痛がないのにビックリ その感覚 理解出来ます
               心が解き放されたような軽やかさを覚えますよね
               それにしても長い苦痛から解き放されて良かったです
               何事もその動きに任せ 無理は禁物 無理は必ず反作用を伴いますね
               良い御文章です まさしく真実です
               一つの正しい事に辿り着くまでには何事に限らず
               出だし 基本が大切ですね 基本の出来ていない事は
               土台のない建物と一緒で必ず何処かで崩れ ボロが出て来ます
               バレーに限らずなんでもそうだと思います
               改めて自覚している次第です
                大雨 昨日のこちらの新聞にもニューヨークが大雨だと出ていました
               日本でも所によっては大雨による災害が数多く出ています
               でも わたくしの居る所では雨が少なく夏の間は屋上にある花木への水やりが
               大変でした とりわけ暑かった今年の夏 体力的にもさすがに応えました 
               今は幾分その暑さも収まり なんとなくホッとしているところです 
               お気遣い戴き 有難う御座います
               どうぞ桂蓮様も御無理をなさらず楽しんでバレーをお続け下さい  
                 有難う御座いました




                takeziisan様


                 今回も様々 楽しませて戴きました
                悲しき・・・・ 少年兵とクラウンは知りませんでした
                インデアン 森山加代子 懐かしいですね
                まだ幼い面影 坂本九 共にもうこの世には居ない
                夢のようです
                 ダソイ わたくしの方ではソダイ(そうだ)という言葉は使いますが
                ダソイは知りません それに へっこめろ
                やはりお国のほうの言葉遣いでしょうか 初めて聞きます
                ひっこめろ がわたくしには耳慣れた使い方です
                それにしても方言にはそれぞれの地方の匂いがあっていいものだと思います
                 ゴーヤジャム まさに贅沢 羨ましい限りです             
                大腸がんを手術していますの野菜はほぼ食事の中心になっています
                勿論 肉 魚 大豆などタンパク質も欠かしませんが
                それだけに新鮮な野菜は羨ましいです
                 トウワタ 初めて見ます 美しい花です
                わが家では三日ほど前に今年二回目の月下美人が開花しました
                なにしろこの花は夜ふけの花で朝方にはしょぼんとした姿を見るばかりです
                 以前 この欄にも掲載しましたが
                月下美人は艶な花
                香りと姿で魅惑する
                だけどおまえは寂しい花
                夜ふけにひとり そっと咲く
                 というところです
                それに今はタマスダレの白が雨ごとにどんどん増えて      
                わが家の屋上を彩っています
                 名月 こちらでは見られました
                 ワクチン 一度もやっていません  
                むしろ副作用の方を怖れています
                 ここだけの話し・・・・・
                打ち明け話しは相手を選ばないと・・・・
                川柳 毎回 楽しく拝見させて戴いております  
                 楽しい記事共々 有難う御座いました  









遺す言葉(466) 小説 いつか来た道 また行く道(26) 他 禅家の言葉

2023-09-24 12:00:22 | つぶやき
            
            禅家の言葉 


 坐禅をして 解脱を求める
 坐禅をやって 心を空にする
 それを専一にして 他に何もしない人は
 愚者である
 そういう者は 論ずるに足りない


 生きている間は坐って(坐禅して)横にならない
 死んでゆけば横になって坐ることがない
 悪臭を放つ一組の骸骨
 下らぬ事に心を労してなんの役にたつ

                   六祖 慧能


 ただ結跏趺坐(坐禅)して
 仏を求めるなら
 仏を殺す事である
 ただ坐って
 そういう状態に入る事をやめない限り
 とうてい 真実に至る道は開けない


 ただ結跏趺坐するだけなら
 瓦を鏡にしようとするようなものだ 

                   南獄懐譲



 坐禅とは
 意識の凝視状態 静観主義
 無に滞って進む事を知らない
 これはエクスタシーかトランス(忘我 恍惚)のようなもの
 禅には転回がなければならない
 平静な状態に停滞するのは禅ではない

 禅とは日常である
 
                   鈴木大拙



     禅とは日々の生活の中にあるもので
     日常を離れてただ坐る 坐禅をするだけなら無意味だ と
     禅家は悉く言う

               (2023.9.24日) 





            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(26)
 


 
 
 午後一時過ぎに一度、眼を覚まし、空腹に耐えられずに冷蔵庫を開けた。
 チーズとリンゴを口にして後は歯も磨かずにベッドに入った。
 頭の中が空っぽだった。
 何も考えが浮んで来なかった。
 中沢の事は思い出したくもなかった。
 意識的に避けていた。
 彼に関する事の総てはもう、わたしには関係ない。
 午後七時過ぎにまた眼を覚ました。
 部屋の中は真っ暗だった。きっちりと厚手のカーテンで覆われた窓からは街灯の明かりさえ入って来なかった。
 暗黒の 地の果てに取り残されたかのような感覚だった。
 それが束の間の錯覚でしかない事は、瞬く間に耳に入って来る車のクラクションやエンジンの音ですぐに知れた。
 ベッドに身を横たえたまま、しばらくは動かないでいた。
 ほんの一日前に実家の母の元で同じように布団に横たわっていた自分が思い出された。
 奇妙に懐かしかった。
 母が傍に居てくれるという安心感があの時のわたしを包んでいた。
 だが、今のわたしには誰もいない。
 暗闇だけがわたしを包んでいる。
 一枚の扉を開けて外へ出れば、無数の人間がそこには居るはずだったが、その人達がわたしの心の慰めになってくれる事はない。
 数限りなくいる人間達の誰もがわたしには遠い存在にしか思えなかった。
 田舎の家を取り囲むあの静寂に満ちた広い空間にたった一人で居る母と同じ存在感を抱かせる人間は、この人間の吹き溜まりのような喧騒に満ちた都会の中では何処にもいなかった。みなが皆、わたしに取っては影と同じ存在のようにしか思えなかった。
 わたしはまた、眠った。
 今度、眼を覚ました時には午前二時を過ぎていた。
 眠り疲れて身体が痛くなっていた。
 重い体を起こしてベッドを下りると浴室へ向かった。
 熱いお風呂に浸かって体の芯に残る疲労の残滓を総て洗い流してしまいたかった。
 
 浴槽の縁に頭をもたせ掛けての長いくつろぎの入浴の後、部屋着を纏い冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。
 蓋を開け、そのまま口に押し当てて喉の奥に流し込んだ。
 冷え切ったビールの清涼感が喉を通って体全体に染み渡るような感覚だった。
 生き返ったという気がした。
 生きる事への微かな意欲が身体の芯から湧き上がる思いだった。
 今日は事務所へ出よう、秘かに呟いていた。
 
「どうしたんですか ? その手」
 専務の高木史郎も秘書の浅川すみ子も目敏くわたしの手の変わりようを見て言った。
「ううん、なんでもないの。母の具合いが悪かったものだから少し畑仕事をして来たのよ」
 何も無かった。何もありはしなかったのだ。
 わたしは事務所へ向かう車の中で何度もそう呟いては自分に言い聞かせていた。
 平静を保つ事。どんな事があっても平静を保つ。取り乱したり、言い訳がましい事を言ったりしたりしてはいけないのだ。
 わたしは二人の質問にも何時もと変わらない穏やかな声で応じていた。
「慣れない事はするもんじゃないですね」
 二人はそれぞれに同じような言葉を口にした。
「でも、仕方がなかったのよ。収穫してしまわなければならない物があったものだから」
 仕事はそれだけで何時も通りに順調に動き出していた。
 宮本俊介に依頼されている店舗買収の進捗状況に付いて高木専務に尋ねた。
「今、ちょっと様子をみているんですがね」
 高木は言った。
「値段 ?」
「そうです」
「やっぱり五千万の違い ?」
「そうなんです。予算が三億だって言ってあるんですけど、ちょっと無理かなっていう気がします」
「田崎さんはなんて言ってるんですか」
「少し様子を見た方がいいとは言ってるんですがね」
「とにかく、店舗としては申し分ないと思うので旨くやって下さい」
「それは大丈夫です。いずれにしても新しい状況が分かり次第ご報告致しす」
 その後、机に向かって留守の間に溜まっていた様々な書類に眼を通し、何本もの電話を掛けた。
 表面的には何時もと変わらないわたしだったが、心の中でのわたしは常に揺れ動く気持ちに右往左往していた。
 もう、仕事を止めて中沢が居たアパートへ行ってみようか ?
 行っても、旨く部屋へ入れるかしら ?
 危険を伴う仕事だとは認識していたが、辞めてしまう訳にはゆかないという思いが常に勝っていた。その為にあいつを殺害したのだ !
 結局、その日、仕事を終えた時には午後九時を過ぎていた。溜まっていた仕事がわたしの時間を奪っていた。
 机を離れ、窓辺へ行って外を覗くと、夜の街にはオンサインの様々に入り乱れた光りがまぶしい程に満ちていた。
 もう、中沢の居たアパートへ行くのには遅い、諦めの気持ちが起こった。
 窓のブラインドを降ろして机に戻り、大型の鞄を手にして部屋の出口へ向かった。
 専務も秘書も、帰っていた。事務室にはわたし一人だった。
 静寂が満ちていた。わたしのハイヒールの床を踏む音だけがひと際大きく響いた。
 扉に近付き、いざドアを開けようとしてノブに手を掛けて、瞬間、思い掛けない不安に襲われた。
 この静まり返った建物の廊下、ドアを開けたその向こうに誰か、見知らぬ男達が立っているのではないか・・・・
 自身の身に迫る危機を意識した。
 ノブに手を掛けたままドアの向こう側の気配に耳を澄ました。
 耳に入って来る物音や人の気配はなかった。
 誰も居るはずがない。
 自分に言い聞かせて静かにノブを廻し扉を開けた。
 室内灯に照らし出された長い廊下に人影はなかった。
 当然の事だ、と納得する思いだけが強かった。
 同時に少しの事にも怯えている自分を改めて意識せずにはいられなかった。
 エレベータ―で地下へ降り、駐車場へ向かった時にも同じ緊張感を味わった。
 車の陰に誰か、この間の中沢のように隠れているのではないか ?
 そんな人間のいるはずがない、と分かっていながらなお怯える気持ちをひたすらに抑えていた。
 地下駐車場から地上へ出てネオンサインの華やかな街の混雑に紛れ込んだ時になってようやく、何故か、解放されたような気分になった。
 この洪水のように流れる車の列の中ではわたしの華やかな車も単なる一台の、その他、数多く走る車の中の一台にしか過ぎないのだと思うと心が休まった。初めて得る安堵感だった。気持ちも軽くなっていた。

 翌日、わたしの気持ちは昨日一日とは見違える程の落ち着きを取り戻していた。
 理由のない怯えからも解放されていた。仕事も順調に捗った。




           
            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様

               
             様々な懐かしい曲 よく見付けていらっしゃいます
             当時はそれ程 心にも留めず聞き流していたような曲が多いのですが
             今 改めて聴くと当時の思い出と共に懐かしさに捉われます
             懐かしさと言えば 秋海棠の詩 若き日の感情がそれぞれに醸し出されていて
             ロマンティックな雰囲気と共に一瞬 フランスの詩の訳かと思いました
             以前にも書きましたが ロマンティックな方なのだと思います 
             人間 歳を重ねると未来は次第に狭くなり 過去の事ばかりが
             懐かしく蘇ります それも甘い思い出ですが 再び還る事の出来ない寂しさ
             これは歳を重ねてみなければ分からない事です
             雨 秋分 なかなか降らない雨 こちらもここ二 三日雨の匂いに包まれています
             秋分 秋 稲のおだ掛け(はさ掛け) 懐かしい風景です
             かつては何処でも見られた風景ですが 
              ちょっとの仕事が二時間 時間は瞬く間に過ぎてゆきます  
             それだけ人もその瞬間に老い 衰えているのでしょうか
             それにしても何か熱中出来るものがあるという事は           
             幸せな事ではないのでしょうか 何事にも
             人間 意欲を失くしたら終わりですものね
              寄り合い家族 次回 楽しみにしています
              今回も楽しませて戴きました
              有難う御座いました




     
                桂蓮様


             コメント有難う 御座います              
             大きければ大きい程 手間も費用も掛かる
             それでもそこに住める 羨ましい限りです
             それにしてもパートナーの方が良い方でお幸せです
             何時も拝見する度に何かしら幸せな気分に包まれます
             他人(ひと)の事とは言え 悪口は聞きたくないものです
             世の中には自分勝手な人間が多いですから 他人を労わる心を持った人の話しを聞くと 
             聞く方の心も暖かくなります
             日本でもババアレッスン 流行っているそうです
             身体を動かす バレーは最適だと思いますが それにしても
             何故 そんなに という思いです やはり自分の肉体をしなやかに動かす
             自由に体が動く その喜びなのでしょうか
             わたくしなども年々 身体が堅くなって来て一つ一つの動作が
             次第に困難になり 歳を取るという事の実態に今更ながらに驚いています
             新作 拝見しました
             バレーも禅も姿勢が大切
             何事も本質を辿れば行き着く先は同じ地点に辿り着くのではないでしょうか
             心 姿勢 心があっても姿勢が崩れていては目的地に到達出来ません
             姿勢が整っていても心が無ければ空蝉です
             心と姿勢 大事な事ですね 改めて認識しています
             今回 偶然にも禅僧の言葉を取り上げました
             禅でもバレーでも心此処にあらずでは駄目ですね
             心を無にしてしかも空ではない
             いずれにしても難しい事です 一朝一夕には出来ない事です
             様々な身体的不調を抱えてよく頑張っていらっしゃいます
             敬服です
             これからもお体に気を付け 頑張って下さい
             有難う御座いました



         

遺す言葉(465) 小説 いつか来た道 また行く道(25) 他 短文六題

2023-09-17 12:09:54 | つぶやき
            短文六題(2020年~2023年作)



 Ⅰ 物事は諦めたら終わり
   喰らい付いてゆく
   その時にこそ
   成功への道が開ける
   開かれる

 2 今日は過去であり
   未来だ

 3 今日も何もなかった
   この幸せ

 4 さあ 生きるのだ
   今日という日を生きる
   今日は昨日の今日ではない
 
   「禅」
 
 5  岸うつ波
    浜の松風ごうごうと
 
 6 波がさらっていった





          ーーーーーーーーーーーーーーーー




   
           いつか来た道 また行く道(25)



 
 
 母は家の前の畑にいて何かの収穫をしていた。わたしの車が止まった事にも気付かなかった。
 クラクションを二度鳴らして母の注意を喚起した。
 車を降りて最初に母に頼んだのは食事がしたいという事だった。
「一晩中、車を運転して来たのでお腹が空いちゃった」
「朝の残りがあっけど冷めちゃってるよ」
 母は言った。
「なんでもいいの。お腹に入れば」
 一晩中、神経を張り詰め、極度の緊張感の中で車を運転して来た深い疲労感と共にわたしは力のない声で言った。
 母が沸かしてくれたお湯でお茶漬け二杯を白菜の漬物と一緒に掻き込んだ。
「あん(何)でまた、そんなに腹ば空かして ? 途中、どっか(何処か)食うとごろはね(無)がったのが」
 母は言った。
 食事の後、少し寝かせて欲しい、と母に頼んだ。
「夜通し運転して来たので疲れちゃった」 
「どご(何処)さ行って来ただぁ」
 母は言ったが、わたしが夜通し車を運転してまで帰って来なければならない理由に付いては問い質そうとはしなかった。
 夢にうなされる事もなかった。
 正体もなく眠り続けた。
 眼が醒めた時には午後の六時を過ぎていた。
 周囲は真っ暗だった。
 隣りの部屋の電燈がわたしが荒野で眠っている訳ではないと気付かせて安心感を誘った。
 体中が痛かった。
 布団の柔らかさと温もりが心地良かった。
 このまま何時までもこうしていられたら、と、ふと甦る幼い頃への記憶の懐かしさと共に、身体中に感じる痛みに改めて、これからのわたしを待ち構える日々の現実の厳しさを思わずにはいられなかった。
 わたしが起きてゆくと母は台所で何かを刻むまな板の音を立てていた。
 わたしの顔を見ると、
「ああ、ちょうど良がったよ。晩餉の支度が出来たとごろだ」
 と言った。
「ぐっすり寝ちゃったわ。もう、すつかり暗くなっちゃって」
 わたしはいい訳のように言った。
「昼に起ごしにいったら、あんまりよぐ寝でるで起ごさなかっただよ」
 母は言った。
「そう」
 わたしは笑顔で言ってから、
「今、何時かしら ?」
 わたしが居た頃のままにある古びた柱時計を見ながら言った。
 時計の針は六時半を過ぎた位置にあった。
「これがらけえ(帰)るのが ?」
 母はわたしの様子を見て敏感に察したらしかった。
「うん、明日、ちょっと大事な用事があるもんだから」
「今夜、ゆっくり寝で、明日の朝けえるわげにはいがねえのが ?」
 母は言った。
「うん。わたしも久し振りに母ちゃんの顔を見て、ゆっくりしたいんだけど、それが出来ないのよ。大事な仕事だもんだから」
 何も知らない母に嘘をつく心苦しさを懸命に抑えてわたしは言った。
「まったぐ忙しいこったなあ」
 前日の事といい、母は呆れたように言った。
 
 母と夕食を共にした後、九時少し前に家を出た。
 わたし自身、母とゆっくり語り合いながら一夜を過ごす事が出来たらどんなに幸せだろうと思いながら、それが出来ない自身の立場の苦しさを否が応でも認識せざるを得なかった
 食事の間中も絆創膏をはがした荒れた手を母に気付かれはしないか気が気ではなかった。
 いよいよ発つ時になってわたしは母に言った。
「ここに三十万円入っているからお小遣いに使って」
 暗い庭先で白い封筒を差し出して母に言った。
「三十万 ?」 
 母はわたしが言った金額に驚いたらしく、差し出された封筒を手にしながら何か疑うような顔でわたしを見詰めて言った。
「うん」
 わたしはただそれだけを答えて母の視線から逃れるように背を向けて車のドアに手を掛けた。
「だっておめえ、こんなに置いでいって後で困んねえのが ?」
 田舎暮らしのほとんど自給自足の生活をしている母に取っては、普段、滅多に手にする事のない大金だった。
「うん、大丈夫よ。仕事がなんとか旨くいってるから」
 車のドアに手を掛けたまま母に向き直って言った。
「そうが」
 母は言ったが、それでも心配そうだった。
 いよいよ車を出す時になってわたしはハンドルを握ったまま、運転席の窓を開けて母に頼んだ。
「それから、もう一つお願いがあるの。もし、誰か知らない人が訪ねて来てわたしの事を聞いたら、ずっとこの家に居て何処へも行かなかった、って言って置いて貰いたいの。仕事で疲れたって言って寝てばかりいたって。多分、誰も来る事はないと思うけど」
 母はわたしの訳の分からない言葉に少し驚いた様子で、
「あ(何)んでだね。あに(何)が都合の悪りい事でもあんのが」
 と聞いた。
「ええ、そうなの。仕事の都合上、是非、そう言って置いて貰いたいの」
「わがったよ。そんなら、そう言っておぐよ」
 母は納得したらしかった。 
 暗い庭先で母が見送る中、わたしは車を動かした。
 母は少し前屈みになった身体で右手を振って見送ってくれた。
 わたしはそんな母の次第に遠ざかってゆく姿をバックミラーの中で見詰めながら、自ずと溢れて来る涙を抑え切れずに思わず嗚咽していた。


         
          四


 
 東京へ帰った日、わたしはひたすら眠っ過ごした。
 入口の扉には鍵を掛け、窓という窓を閉ざしてカーテンを引き、完全に外の世界を遮断した。
 これで誰に侵入される事もないと思うと、ようやく自分の城に帰ったという安心感を得た。
 もう、中沢の電話に悩まされる事もない。 
 電話は留守番電話のままだった。
 フッァクスが何通届こうが今のわたしには関係ない。
 ただ眠りたいだけだ。
 何も考えずに眠りたい !
 身体の芯から疲れ切っていた。
 中沢の家に忍び込む仕事がまだ残っていると思いながらも、身体も心も自分の思いのままには動いてくれなかった。



             ーーーーーーーーーーーーーーーーー



               takeziisan様                

 

                今回も豊富な内容の記事 楽しく拝見させて戴きました
               さて 何から書こう ?
               彼岸花 コスモス もうそんな季節か・・・
               以前にも書きましたが好きな花です それに記事にもある
               赤いサルビア これにカスミソウ リンドウを入れて 
               最も好きな花々です
               栴檀の実も懐かしいです 田舎のわが家の門の横に二本の栴檀がありました
               やがて黄色くなりシギが来て啄み落ちて・・・・
                タマスダレ わが家の屋上でも満開です
               猛暑の中で芽さえ見せていなかったものが
               少しの雨と共に一気に咲き出しました
               性の強さに感服です その白が華やか見事です 
                クサギの時間変化 お見事です              
                ススキの穂 秋ですね それにしても良い環境にお住まいです
                 幸せはここに 良い歌です
                大橋節夫 飯田久彦 共に亡くなりましたね
                飯田久彦は何処かレコード会社の社長まで務めましたが
                わたし等よりは若いはずなのに 
                いずれにしてもわたくし共には総てが
                過去の思い出になってしまいます
                ゴーヤ 二 三日前 珍しくスーパーに並んでいたので
                買って来ました
                御写真で拝見する様々な野菜の新鮮さとは程遠い
                惨めな鮮度です
                 食味が全然異なります
                羨ましい限りです
                 寄り合い家族
                時代小説を読んでいるような感覚です
                面白く拝見させて戴いております 次回が楽しみです
                 何時も有難う御座います
                駄文にお眼をお通し戴く事への感謝と共に
                御礼申し上げます














                





  

遺す言葉(464) 小説 いつか来た道 また行く道(24) 他 人間 不安

2023-09-10 12:40:48 | つぶやき
           人間とは(2022.10.4日作)


 人間とは
 自分の不足も省みず
 他人の不足を批判するのが
 得意な生きもの


           不安

 
 いろいろ思い巡らし
 あれこれ思案 考慮するから
 不安が生まれる
 心を空っぽ 空にする
 不安の生まれる余地は 無い
 あれこれ 思い巡らし 対処する のでは なく 
 その時 その場 純粋 真っ新(さら)な 心 
 囚われの ない 心 で 眼の前 
 只今現在 その場 その時 事象に向き合い 
 適切 的確 に 対処する そこに
 不安の生まれる余地は ない
 思い悩むな 煩うな 余計な思惑 心の負担
 正しい判断 養う努力を怠るな



            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(24)



 

 バスローブ姿のまま浴室へ行くと、中沢の頭から流れ出た血で辺りが汚れていないか確かめた。
 何処にもそれらしい跡はなかった。
 シャワーなどで洗い流されたに違いなかった。
 ひとまずの安心を得るとバスローブの腕を巻くって浴槽の栓を抜いた。
 敷物も洗い桶も椅子も濡れたままだったが、元の場所に戻して整えた。
 何時来るかは分からなかったが、別荘番の老夫婦が来る時までには乾いているだろう。
 浴室内の総てが元の形態を取り戻すと、これで良し、と呟いて浴室を出た。
 その足で運動室へ行ってスーパーマーケットのビニール袋を探し出し、再び浴室へ戻って汚れた運動着や軍手、タオルなどを詰め込んだ。
 別の袋には汗まみれの下着を入れた。
 運動着やタオルの数が違っていても別荘番の夫婦には分からない事だ。 
 その場で先程脱いだ自分の服に着替えた。
 下着は着けないままだった。
 鏡に向かって髪にブラシを入れた。
 イヤリングも付け、腕時を嵌めた。
 指輪は絆創膏だらけの指には入らなかった。
 口紅も眉も引かなかった。
 化粧道具は車の中だ。
 どうせ、暗い夜道を走るのだ。人の眼など気にする事はない。
 それにしても、絆創膏だらけの手が何をするにしても不自由だった。自分の手ではないかのようだった。
 こんな手で東京へ帰って仕事が出来るのかしら ? 人前に出せる手ではない。
 脱いだバスローブは丁寧に畳んで脱衣所の棚に戻した。
 一度、肌に触れた事が気になったが、洗っている暇はない。
 広間に戻って時計を見ると三時半を過ぎていた。
 そろそろ出ようか ?
 もう少し休んでいたかったが時間がない。
 これから先、疲れた体で暗い夜道を走る緊張感を思うと心が重く気が滅入った。
 それでもぐずぐずしている暇はない。
 脱衣室に置いたままになっていた二つのビニール袋を持って来てテーブルの上に置き、再び時間を確かめた。
 それにしても、朝の遅い今の季節で良かった、と思った。
 春から夏にかけての季節だったら、間もなく東の空が白みはじめるだろう。
 いけない ! シャベルを家の横に立て掛けて置いたままだ。
 又してもの失態に体中が凍る思いがした。
 手にした二つのビニール袋をテーブルの上に置いて、すぐに玄関へ走った。
 玄関の前には汚れた長靴が脱いだままになっていた。
 これも片付けなければ・・・・
 先程、泥を拭き取たとはいえ長靴の汚れは一目瞭然だった。
 再び広間に戻ってビニール袋から濡れたタオルを取り出し、手にして玄関へ戻った。
 長靴の汚れを丁寧に拭き取って靴入れにしまった。
 その足でシャベルの置いてある場所へ向かった。
 シャベルの泥も丁寧に拭き取ってから物置に収めた。
 玄関へ戻ろうとして、ふと、先程、中沢の死体を埋めた場所の様子が気になって確かめてみる気になった。 
 小走りに走って現場へ向かった。
 分厚い落ち葉で覆われた現場は暗闇の中、木立の間から漏れる僅かな星明りで見る限り、何処がどうなのか見極めるのは難しかった。
 安心感に満たされた。
 よし、これで良し、深い満足感と共に呟いた。
 その満足感と共に現場を後にした。
 
 四時少し前に別荘を出た。
 中沢の車は車庫に残したままだった。
 適当な時期を見計らって始末をする心算でいた。
 深い山の中の人眼に付かない場所で谷底へでも突き落としてしまうのだ。
 そうだ、あいつの車の中には麻薬が入っているはずだ。
 急に思い出したが、わざわざ時間を掛けて取りに戻る気にはなれなかった。   
 車を処分する時に一緒に処分してしまえばいい。
 まだ、夜の明ける気配はなかった。
 周囲の山々の黒い影と夜空の濃い蒼の中に煌めく星が鮮やかだった。
 明け方は近いようだった。寒さが増して来た。
 下着を着けない体にはその寒さが浸みた。
 車の暖房を入れた。
 一気に、寝静まった家々が影だけを見せている部落の中を走り抜けた。
 高速道路は使用しなかった。人眼に付かない場所を走る事だけを考えていた。
 長野市を過ぎて間もなく、ようやく薄っすらと夜明けの気配が感じられるようになって来た。
 車の流れは国道へ出てからも少なかった。
 速度に任せて前方だけを見詰めていると、暖房の暖気に暖められた神経が弛緩して来て、知らず知らずに瞼が閉じそうになった。
 ハンドルを握る手から力が抜け、前のめりになって慌てて我に返った。
 何をやってるんだ ! 居眠りをしていて事故でも起こしたら大変な事になるぞ !
 自分を叱責した。
 助手席に置いた紙袋から缶コーヒーを取り出して口に運んだ。
 その缶コーヒーも、もう終わりだった。
 松本市に入って間もなく、パトロールカーに追走された。
 なんだろう ? 速度違反はしてない筈なのに・・・・
 まさか、わたしのして来た事を嗅ぎ付けた訳でもないだろうが。
 パトロールカーの動向を探りながら慎重に車を走らせた。
 もし、車を停められ、職務質問されたらどうしょう ?
 後ろに入っているびしょ濡れの下着や、汚れた運動着などを見たら警官はなんて思うだろう ?
 急に胸の動悸が高まった。
 緊張感で息苦しくなった。
 ハンドルを握る手に力が入った。
 警察の車の追走はわたしに取っては長い間続いた。
 比較的、大きな交差点に来た時、パトロールカーは右折をして行った。
 ああ、良かった。
 体中の緊張感が一気にほぐれた。
 と同時に早くも、周囲のなんとはない小さな出来事に気を使い、神経過敏になっている自分に気付いて愕然とした。
 これからの日々、毎日をこうして小さな事にも怯えながら暮らしてゆかなければならないのかと思うと気持ちが打ちのめされ、暗澹たる思いに陥った。
 そして更には、わたしの別荘がある長野県内で、普段は滅多に眼にする事もない白い大きな外車が朝早く、国道を走っていた事が警察の眼にはどのように映っていたのかと考えると、また新たな心配の種が湧き上がった。
 深い印象を残してしまったのではないか。
 もしもの時には、その事が思わぬ結果を・・・・。
 あれこれ思えば思う程、心配の種は増すばかりだった。

 実家に着いた時には九時を過ぎていた。
 長い道程だった。




            
             ーーーーーーーーーーーーーーーー

            



             takeziixn様


              「ユール・ネバ・ネバ・ノウ」
             知りませんでした プラターズは好きだったのですが
               「九月になれば」 これも知りませんでした        
             評判になった映画はほとんど観ていると自負していたのですが 
             ジーナ ロロプリジーダ 世界一美しい女性と言われた女優ですね
             ロック ハドソン アメリカには綺羅星の如く良い男優が(勿論女優もですが)居ますよね
             さすがハリウッドです
              牧野富太郎 よく出掛ける気になりました
             好奇心 衰えていないという証拠でしょうか
              それにしても腰痛 感覚分かります わたくしもそれ程ではありませんが
             以前はそんな事もありました それも自己流体操を続けるうちに
             何となく良くなって来ました
             今は膝に微妙な痛みがありますが 歩けないほどではりません
             この痛みも自己流で克服しょうと頑張っているところです
             それにしても千メートル よく泳ぎます 感服です
              この間 日経新聞に一日歩く歩数は一万歩は要らないと出ていました
             七千から八千で有効だと言う事でした。
             万歩計はそれを造った会社がそう定め為 それが定着したのだと言う事でした
             日々 農作業をしたり お歩きになっている事が腰痛にも係わらず
             体力を維持してるのかも知れませんね
              川柳 相変わらず楽しいです
             皆さん 良い眼を持っていらっしゃいます
              寄り合い家族も期待しています
              美しい花々 新鮮な野菜 眼を楽しませて戴きました 
              有難う御座いました




             
             桂蓮様


              体調不良の折り コメント有難う御座います
             どうぞ御無理をなさらぬ様にして下さい
             それにしても体調回復にはバレーは最適ですね
             わたくしもやはりクラシックの方を好みます
             何よりも優雅で美しいです
             そこが好きです
              記事の冒頭の写真 何時も楽しく心地良く拝見させて戴いています
             日本の四季の風景も実は素晴らしいのですが 御写真で拝見する
             アメリカの風景には自然の風景でありながら 何処か異なった風情が
             感じられるのです 日本の宝石のような風景とは違った大きな空気が何故か
             一つ一つに感じられます
             そこが楽しいのです
             アメリカ映画などでよく見る眼も眩むような風景
             その雄大さに心惹かれのと同じような心理だと思います
              新作が見当たりませんでしたので 過去の御文章を読ませて戴きしました
             死 炭素への還元
             死は平等 死の前では誰もが謙虚にならざるを得ません
             どんな富豪であっても著名人であっても また路上に生きる
             貧しい人々であっても 定めらた命の終わりに抗う事は出来ません
             死は総てを流し去って逝きます 故に人はせめて    
             今生きている この瞬間を大切に生きる事より他に出来る事は
             ないのではないでしょうか
             それでも世の中 この世界はいろいろ人間の手の及ぶ事のない不
             思議さに満ちているものですね 
             生かされている事に感謝感激 良いお言葉です
              再読にもかかわらず改めて面白く拝見させて戴きました
              有難う御座います










遺す言葉(463) 小説 いつか来た道 また行く道(23) 他 遠い風景

2023-09-03 12:39:47 | つぶやき
            遠い風景(2008.9.30日作)

 
 
 
 八月の陽光に輝く青い海
 沖合はるか彼方を一そうの白い船が行く
 障子の開け放された
 海風の吹き抜けてゆく座敷には誰もいない
 昼寝から覚めたばかりの五歳のわたしがいた
 わたしは何かの事情で銚子に住む
 子供のいない伯父夫婦の家に預けられていた
 遠い昔の記憶

 歳を経て 都会の雑踏に生きる今
 ふと 甦るあの時の光景
 あれは原初の風景
 孤独はいつしか
 わたしの親しいものになっていた




            ーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(23)



 
 寒さを覚えて浴槽に入った。
 小さく染み出る血は湯の中でも止まらなかった。
 湯は中沢が入ったのかどうか分からなかったが、汚れてはいなかった。
 何時まで経っても止まらない血に苛々して両耳に手を当てると、思いっ切り湯の中に顔を突っ込んだ。
 乱暴に頭を振って髪を揺すった。
 身体の内にも外にもこびり付いた汚れをそうして払い落としてしまいたかった。
 苦しくなって顔を上げた。
 苛立ちはなお、収まらなかった。
 浴槽から出ると今度は、シャワーを手にして栓をひねり再び、頭の天辺から浴びせかけた。
 両手の肉刺から滲み出る血はその間にも細い筋となって腕を伝い、流れ落ちた。

 潰れた肉刺の痛みの為に身体を洗う事もせずに浴室を出た。
 中沢が使う為にと見せかけに置いたバスタオルで身体を拭き、脱衣所の棚からバスローブを取り出して身に着けた。
 下着は着けなかった。
 汗に汚れた下着など着ける気にはなれない。
 夏の間、入れ替わり立ち替わり、大勢の人達が来るこの別荘では、脱衣所に麗々しく下着など置いておくわけにはゆかなかった。
 それに今回はまさか下着の用意までには気が廻らなかった。
 バスローブを羽織ったままで運動室へゆくと、そこで初めて傷だらけになった手の治療をする気になった。
 血はタオルやバスローブで拭い取られたのか、何時の間にか止まっていた。
 小棚から三種類の塗り薬を取り出し、順々に皮膚が破れて白い肉が剥き出しになっている傷に塗り込んでいった。
 それぞれの薬がそれぞれに染みてその度に息を殺し、顔をゆがめてしばしの間、痛みに耐えた。
 薬が塗り終わったあとには絆創膏を貼った
 見るも無惨な手になった。
 仕方がない、と思った。
 その後、割れた爪の手入れをして広間へ戻った。
 ソファーに身体を投げ出すようにして座り込むと一挙に力が抜けて、暫くは身動きする事さえもが億劫だった。
 どれ程かの時間が経って、ようやく幾分かの気力を取り戻すと途端に激しい空腹を覚えた。
 母の元を発ってから食事らしい食事はしていなかった。中沢用に買ったバンのその店で自分の為にと買った一個のアンパンを口にしていただけだった。
 ソファーの背凭れから体を起こすと身を乗り出して、中沢が手を付けてからそのままになっていたテーブルの上の紙袋を引き寄せて中を覗いた。
 まだ何個かが残っていた。
 その中の一つを取り出して口に運んだが、口の中はカラカラに乾いていた。メロンパンのバサバサした感触だけが口中に広がって旨く呑み下せなかった。
 大急ぎでパンの入った袋の中から缶コーヒーを取り出して蓋を開け、口の中に流し込んだ。
 テーブルの上には先程、中沢が口にした缶コーヒーの空き缶だけが残っていた。
 何故か急に、先程まではそれを眼にしても気にする事もなかったものが中沢の存在と共に意識の中に甦って来て、わたしの心を捉えた。同時に、中沢の衣服から抜き取った物が玄関に置いたままになっている事にも気が付いた。
 立ち上がって急いで玄関へ行き、それらを手にするとソファーに戻った。
 手にして来た物をテーブルの上に置いて再びパンにかじり付いたが、空腹でいながら食欲はなかった。缶コーヒーで流し込みながらようやく一個のパンを食べ終えた。
 無性に煙草が欲しくなった。
 車の中に置いたままだった。
 仕方なく二本目の缶コーヒーを取り出して口に運んだ。
 煙草の代わりだった。
  二本目の缶コーヒーを飲み終えるとテーブルの上に空き缶を戻して大きく溜め息をつきながら、ソファーの背凭れに再び身体を預けた。
 疲れた ! と思った。
 心底疲れていた。このまま何も考えずに眠ってしまいたかった。
 頭が旨く回転しなかった。
 心底疲れていながら、神経は研ぎ澄まされていた。何故か、苛々した感覚が抜けきれなかった。
 ガラスの破片の切っ先のように神経が尖っていた。
 眼をつぶって苛々する神経と共に回転の鈍い頭で、夜が明ける前までにはこの村を出てしまわなければならない、と考えていた。
 もし、わたしの大きな車が朝の早い村の人達の眼に触れたら、わたしがこの村へ来た事の重大な証拠を残す事になる。
 ええ、その朝、大きな白い外国の車がこの村を出て行くのを見ました、
 村の人達は悪気のないままに素直にそう証言するだろう。
 そこからわたしのこの計画が綻びて行くーー。
 それでは拙いのだ。
 その為にも、夜の明ける前にこの村から出てしまわなければならない。
 突然、広間正面の高い所でカッコウ時計が時を告げ始めた。
 その唐突さに不意を突かれ、驚いて顔を上げると、カッコウは三時を知らせただけでまた、箱の中に身を隠してしまった。
 ああ、もう三時だ !
 疲労感と神経の苛立ちに朦朧としていた頭が冷や水を浴びせられたように立ち直り、緊張感に包まれると再びの時間との競いに意を注いだ。
 寒かった。自分自身に意識が戻ると急に寒さを覚えて身震いした。
 たった一枚のバスローブを身に纏っただけで、どれだけの時間、ソファーに凭れていたのか ?
 疲れた体でソファーから立ち上がると、もう、帰り支度をしなければ、と思った。
 少なくとも四時にはこの村を出てしまわなければならない。
 その前に、ここであった事の証拠となるものの総てを消し去ってゆかなければ・・・・
 この時ようやくわたしの頭は冷静さを取り戻していた。




           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             桂蓮様


              新作 拝見しました
             知識と肉体は別物 肉体が知識に追い付けない
             やはり手術のせいで肉体 筋力が落ちているからではないのでしょうか
             筋力が回復すればまた元のように踊れますよ
             それまでの辛抱 努力ですね
             いずれにしても知識を身に付けるにはそれなりの努力が必要ですよね
             御文章の通りだと思います わたくしも常々 口にしているのですが 
             知識を得たからと言って それを実生活の中で活かす事が出来なければ
             なんの役にも立ちません
             アメリカではどうか知りませんが 我が国日本では
             知識だけ豊富でそれを実社会に活かす事の出来ない
             頭でっかち知識人のなんと多い事か そのような人間は口では立派な事を言っても
             実際の場面では何も出来ません 現在の日本社会の低迷も  
             そこから来ているのだと思っています
              納得のゆく御文章を面白く拝見させて戴きました
             何時も 有難う御座います
             一日も早く元の健康体に戻れる事 自由な動きの出来る日の来る事を
             願っております 



               takieziisan様


               桜色の風が吹く
                全く知りませんでした
               最近は映画館へ足を運ぶ事も無くなりました
              若い頃は話題作は残らず眼にしていたものですが               
               イノシシ 記事を拝見する度に思わず笑い出してしまいます
              イノシシの狡猾さ キャツもなかなか遣りおるのお という思い                      
               アオギリ ミヤマアカネ 藤の実 幼い頃眼にした風景を思い出します            
               八月川柳 懐かしい匂いに満ちています
              当地では蝉しぐれ 聞く事など出来ません
              子供の頃の夏のあの蝉の声の喧しさ 前にも書きましたが
               もう一度 あの自然環境の中に身を置いてみたいものです
              サンマも今は高嶺の花 時代は変わりました
               諸田作品 読みましたね
              他の作家などの作品と合わせるとどれだけの数になるのか
              この猛暑の中 わたくしは本を開いてみる気にもなれません
              もっともわたくしの読書は今は小説類に眼を向ける事もないせいか
              せいぜい二 三ページしか進みません
               寄り合い家族 複雑な環境 さて どう展開
              人の世は物語に溢れていますね              
               美しい写真の数々 今回も楽しませて戴きました
                有難う御座いました










遺す言葉(462) 小説 いつか来た道  また行く道(22) 他 自在な心 知識

2023-08-27 13:09:49 | つぶやき
             自在な心(2023.2.21日作)


 人間 性善説
 人の善意を信じる
 他方 性悪説も存在する
 善と悪
 善を信じ 悪に備える
 この世は総て多面体
 前後 左右 裏表 上と下
 まさかーー
 甘い考え
 危機への道を辿るだけ
 備えは常に万全に
 囚われるな 心は柔軟自在
 常に 開いて置け


             知識


 アメリカの詩人の言葉
 
 読み書きしただけで得た知識は
 後ろ足で立つ犬と同じ
 長続きしない

  (体験 経験で得た知識こそが本当の知識)




          ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




          いつか来た道 また行く道(22)




 そうだ、中沢が身に付けていた服や靴も埋めてしまわなければーー。
 シャベルを地面に突き立てて家の中へ駆け戻った。
 脱衣所に脱ぎ捨ててあった中沢の衣服を一掴みにして玄関へ戻り、靴も手にした。
 よし、これで良し、他に埋める物は ?
 車に思い至ったが、まさか車を埋める訳にはゆかなかった。
 あとでなんとか処分の方法を考えよう。
 車庫の鍵はわたしが持っているので、その点では安心出来た。
 何もない事を確認すると外へ出た。
 そのまま先程の現場へ戻り掛けてふと、重大な事に気が付いた。
 中沢の車の運転免許証と住まいの鍵を手に入れる仕事が残っていた。
 今度の事には最初からそれが一つの目的として組み込まれていた。
 中沢の住所も住まいもわたしは知らなかった。
 中沢を殺害したあと、彼の住居へ忍び込み、保管されていると思われる写真やネガフイルムを取り戻す事が目的の一つだった。その為にも中沢の住所を記録した物が欲しかった。
 思い掛けない自分の失態に気が付いて急に不安になった。
 他に手抜かりはないか ?
 玄関へ戻って明かりを点け、中沢の上着のポケットを探り、財布を取り出して免許証を探した。
 財布の中には他にも二枚の一万円札と千円札一枚、百円を交えて幾つかの硬貨があった。
 それらを抜き取り、そばの靴入れの上に置いて更に別のポケットを探って鎖に繋がれた三つの合鍵を取り出した。
 総てのポケットが空になったのを確認すると、これで良し、と呟いて、中沢の衣服と靴を手に先程の現場へ急いだ。
 穴の傍へ戻るとそのまま暗い穴の底に横たわる中沢の動かなくなった白い裸体の上に衣服と靴を投げ入れた。
 よし、これで良し ! 更に呟いて立て掛けてあったシャベルを手に取り、すぐに積み上げられた落ち葉と共に今、掘り出したばかりの土を穴の中へ投げ込み始めた。
 掘り起こした土を投げ入れる作業は掘る作業に比べて格段に楽だった。落葉と共に投げ入れられた土はたちまち、先程苦労をして汗だくになりながら掘った穴を埋め尽くしていった。
 周囲の高さと変わりなく土が埋められると、落ち葉を搔き集めてその上に載せ、周囲の状態と変わりがない程に均していった。
 暗闇の中で一見、穴を掘った場所の見境がつかなくなると、これでいいだろう、一先ずの安心感と共に呟いて、シャベルを動かす手を止めた。
 またしても全身、汗だらけになっていた。
 それでも、大事な仕事を終えた後のトレーニングウエアの腕で拭う汗の感覚は心地良かった。
 思わず、傍にあった大きな樹の根元に身を寄せて座り込むと、体中を満たしている深い疲労感を癒す為に暫くは腑抜けのようになって何もせず、何も考えずに眼を開けたまま、白樺の木立の間に広がる闇の空間を見詰めていた。
 どれだけの時が過ぎたのか、時間の感覚は全く掴めなかった。ようやく体の中に湧き起こる気力を意識した時、初めて樹の根方を離れて立ち上がる気になった。  
 中沢を埋めた場所を再度確認すると、一目では全く周囲と見分けが付かない程に均されていた。その場所を見つめながら、これで誰にも気付かれる事はないだろう、と深い満足感と共に納得して、傍に突き刺してあったシャベルを手に取りその場を離れた。

 玄関へ戻る前にシャベルを元の場所に戻して立て掛け、傍にあった落ち葉でこびり付いた土をきれいに拭った。
 玄関先では衣服や髪に絡み付いているかも知れない落ち葉や泥を丁寧に払い落とした。
 泥まみれの長靴は玄関を汚さないように入る前に脱いで外へ置いた。
 広間に入ってからも汚れた服装でソファーに掛ける気にはなれず、すぐに浴室に向かった。
 浴室では総てが中沢を引きずり出した時のままになっていた。
 風呂の種火も付いたままになっていた。
 蓋の取られた浴槽からは湯気が立ち昇っていた。洗い場の隅にはシャンプーの泡までこびり着いていた。
 つい先程、何時間か前まではそこに居た中沢の姿が洗い場にポツンと置かれた椅子の上にない事が、奇妙な喪失感を伴って胸に迫って来た。
 思わず漏れそうになる嗚咽を必死に堪えた。
 あいつが悪いのだ ! 総て、あいつが悪いのだ !
 彼への激しい憎しみを込めてこみ上げる嗚咽の中で呟いていた。
 眼の前には綺麗に磨かれた大きな鏡が銀色の光りを放っていた。
 その光りに気付くと共に、等身大の自分の姿がそこに写し出されている事に気が付いてハッとした。
 普段、見馴れているわたし自身だった。だが、明らかに普段のわたしとは違った、見すぼらしく疲れ果ててやつれた顔をしたわたしだった。
 思わずその姿にギョッとした。
 普段、鏡の中で見馴れている艶(あで)やかなわたしの姿は何処にもなかった。
 まるで夢を見ている気がした。
 だが、夢ではなかった。明らかな現実だった。
 その現実に気付くとわたしは途端に自分が身に纏っている物の総てに不快感を覚えて夢中になって脱ぎ捨てていた。一刻も早く、見すぼらしく薄汚いた自分自身を葬り去ってしまいたかった。
 トレーニングウエア、靴下、下着、総てを次々とその場に脱ぎ去っていった。
 素裸になるとそのままシャワーを手に取り、汗で汚れて乱れたままの髪の頭の天辺から浴びせかけた。
 血だらけになっていた肉刺(マメ)の潰れた、シャワーを握った手が湯の熱気で沁みた。
 その痛みで改めて手を見ると、幾つもの肉刺が潰れている事は勿論、普段、わたしが大切にしている爪までが、先程の用心にも拘わらず、無残に割れていた。
 どうしょう ? こんなになってしまった。
 泣きたい思いだった。
 これでは人前に出せない !
 シャワーを止めると元の場所に戻し、改めて自分の両手を見詰めた。
 先程まで止まっていた肉刺の血が湯の熱気で温められたせいかまた滲み出て来た。
 足元に転がっていた下着を取って滲み出る血を拭った。
 血は拭っても拭っても滲み出た。




            ーーーーーーーーーーーーーーー



             takeziisan様              


              有難う御座います
             懐かしい曲 以前は当たり前にように耳にしていたものですが
            最近は余り聞く機会がありません
               聞かせてよ愛の言葉
             ルシエンヌ ボワイエ 初めて聞きました
             岸洋子の唄も懐かしいですね 早くに亡くなってしまいましたが 
             それから後は越路吹雪の唄で有名ですね
             郷愁ばかりではなく 昔の歌には情緒があります
             今のがなり立てるだけの歌とは違います
               奥白根山 あの絶壁に立つ快感 想像出来ます
             一度経験したら病み付きになるのでしょうね
             登山経験のないわたくしにも想像像出来ます
              雑草の逞しさには恐れ入りますが 朝食前の一仕事
             まだまだお元気 瑞々しい収穫物の為にも頑張って下さい
             8000歩を歩く気力があれば大丈夫 ウエストポーチ
             着けて歩く姿が眼に浮んで来て微笑ましく拝見しました
             「寄り合い家族」わたくしは平岩弓枝の本は読んでいませんので
             何とも言えませんが なんとなくその文章の匂いが感じられるような気がしています
             次回を楽しみにしています
              有難う御座いました





              桂蓮様
  

               コメント有難う御座います
              バレー 良い趣味を見付けられましたね
              手術の後の事 充分 注意をして御無理をなさいませんように
              舞台写真 拝見出来る日を楽しみにしております
               新作 拝見しました
              人間自分の意志次第でどうにかなるものですね
              心の持ちようが大切 それと努力 努力の出来ない人間は結局
              変わる事も出来ないのでしょうね
              桂連様も三回変わったという事 その柔軟性があれば何処に居ても
              生きてゆけます
                それにしても良いお方に巡り合えてお幸せです
              まめなお方のようでなんとなく暖かいお二方の日常が浮んで来ます
              いつも羨ましい気持ちで拝見しているそちらの自然環境 その中での生活
              自然環境の維持も大変でしょうが 日常 生きると言う事は
              そういう小さな事の積み重ねの上に成り立っているものなのでしょうね
              毎回 拝見するのが楽しみです
               有難う御座いました
















遺す言葉(461) 小説 いつか来た道 また行く道(21) 他 雑感六題

2023-08-20 12:51:48 | つぶやき
            雑感六題(2016~2020年作)


 Ⅰ 風に流れる 雲
   動かない 雲
   形は変えても
   雲は雲
   雲は雲である事に於いて 雲
   雲の本質は不変
   人間存在 かく在るべし  

 2  化粧を施し 
   衣装を纏った言葉で
   語るよりも 
   赤裸の言葉 言葉の本質
   言葉の芯だけで
   語りたい
   施した化粧は やがて
   剝げ落ち 纏った衣裳は やがて
   古びて ほころびるだろう
 
 3  詩は誰にでも書ける しかし
   他人に感動を与える詩を書くのは
   難しい
   一つのフレーズ 一つの言葉には
   その人の生きて来た人生
   その人の心 が
   投影される

 4  紫陽花の
     雨に濡れいて
     母の逝く

    5  母の逝った五月
     紫陽花の雨の中に
     母が居る




            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(21)



 
 
 疲れ切っていた。
 その場にへたり込んでしまいたかった。
 でも、そうしてはいられない !
 気持ちが焦った。
 一刻も早くこの仕事を片付けてしまわなければならないのだ。
 全身汗になっていた。息を切らしながら顔中を流れ落ちる汗を、トレイニングウエアーの腕で拭った。
 下着が肌に染み付いて耐え難い不快感をもたらした。
 その下着を指でつまんで引きはがしながら今来た道を引き返した。
 シャベルを取って来なければ・・・・。
 手の甲や腕のあちこちが焼けるような感覚で小さく痛んだ。
 木の枝や野茨などで傷付けたのに違いなかった。
 穴を掘る時には手袋をした方がいい。シャベルを使う為にもその方がいい。
 ひ弱なわたしの手ではたちまち皮膚が破けてしまうだろう。
 トレーニングルームへ戻ると手袋を探した。
 何処かに軍手があるはずだ。
 運動器具の手入れや、家の周囲の掃除をする時などに使っていた。
 安売り店で一束十組幾らで買った軍手が見付かった。
 一組を抜き取って片方を左手にはめてみた。
 延ばした爪が邪魔だった。
 これでは爪が折れてしまう。
 その前に軍手が破けてしまうかも知れない。
 それでも素手でシャベルを握るわけにはゆかない。軍手を使うには爪を切るしかない。
 決心は揺るがなかった。小さな道具箱から爪切りを探し出して、その場で薄紅のマニキュアを塗った爪を大胆に切り落として整えた。
 準備はそれで出来た。二組の軍手を手にするとそのまますぐに玄関へ向かい、先程の長靴を履いて玄関を出て小走りに先程用意して置いたシャベルのある場所へ向かった。
 シャベルを手にすると中沢の死体が置いてある場所へ急いだ。
 
 穴を掘る作業にどれだけの時間を費やしたのか ? その事にだけ集中していて時間の感覚が全く掴めなかった。
 土は落ち葉の体積で出来ているだけに思いのほか柔らかかった。
 それでも縦横に張り巡らされた樹々の根がしばしば仕事の邪魔をした。わたしの体力では大きな根は切断出来ずに、しばしば位置をずらして作業を続けた。途中で何度も投げ出したくなった。
 何とか作業を続ける事が出来たのはただ、わたしがわたし自身として生きる為にはなんとしても、この仕事をやり遂げてしまわなければならないのだーーその思いからのみだった。
 わたしのひ弱な手は思った通りにたちまち幾つものマメを作っていた。
 軍手を嵌めた効果もなかった。
 やがて、そのマメがつぶれて血が滲んで来た。
 手袋の濡れた不快感で分かった。
 腕も脚も腰も疲れを感じ始めると、少しの休息ではなんの役にも立たずにすぐにシャベルを放り出してまた座り込み、傍にある樹に身を寄せ掛けて身体を休めた。
 汗はトレーニングウエアにまで染み込んで絞れる程になっていた。
 その汗を気にする気力もなかった。
 荒い息が収まると普段のわたしからは、もう動く事も無理だと思われるような状態の中で、それでも気力を振り絞り、シャベルに縋って立ち上がった。
 血に濡れた軍手の不快感が気になって、潰れたマメの痛さを気にしながらその軍手を外すと穴の中へ投げ捨てた。
 傍にある大型の木の葉で血だらけの手を拭って新しい軍手を嵌めた。
 さあ、もう一息だ、最後の仕上げをしてしまおう・・・・自分を励ました。
 闇はまだ深かった。夜明けは遠いに違いない。
 それでも闇に馴れた眼は周囲の状況をはっきりと把握していた。
 
 中沢の死体は既に硬直の兆しを見せているのだろうか ?
 どうにか、これで良しと思える穴を掘り終わって傍へ戻り、その両手を掴んだ時、何故かそんな気がした。
 死体と穴との距離は二メートル程かと思われた。
 あちこち、掘りやすい場所を探した結果だった。
 この死体を穴の傍へ運んで行って落とし入れるのだ。
 両腕を取って少し運んだ時、足を持った方が運び易そうだと気が付いた。
 すぐに足元に向かい、両足を掴んで死体の位置を変えて運ぼうとした瞬間、思わぬ不快感を覚えて思わず吐きそうになり、咽喉を鳴らした。
 死んだ肉体の裸のまま動かなくなった不気味さが突如として、わたしの意識を捉えていた。
 暫くは握った足も放り出して吐き気の収まるのを待っていた。
 ようやく気分が収まると、さあ、早くやってしまおう、ぐずぐずしている暇はない、自分に言い聞かせ、励まして再び行動に移った。
 ようやく穴の傍へ死体を運び終えるといったん、手を放して穴の中を覗き込んだ。
 一メートルの深さ、とまではゆかなくても死体を覆い隠すには充分な深さがあった。
 闇に馴れた眼はこの時、夜行動物の眼でもあるかのように思わぬ能力を発揮していた。いちいちの行動を確認するのに、なんの不足も不便も感じなかった。
 先程、運んで来て雑草の上に放り出して置いた中沢の死体の傍へ戻ると、そのまま転がす様にして穴に近付け、転げ落とした。
 闇の中でもほの白く見える中沢の肉体は間違いなく、周囲の落葉や雑草などを巻き込みながら転落して穴の中に納まった。
 その様子を確認すると、これで良し ! と呟いた。
 罪悪感も後悔も、感傷もなかった。仕事を完遂した時の気分に似て満足感のみが心を満たしていた。
 さあ、後は土を掛けるだけだ。
 一気に気力を取り戻し、再びシャベルを手に取った。




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 
           桂蓮様

          
          体調不良の中 御眼をお通し戴き有難う御座います 
           知識の力動 先週 読ませて戴きました
          AIの知識 分かるという事は自身の肉体に染み込むという事ですね
          分かったような気分と分かるという事の間には大きな落差があります
          物を読んだり見たりして知った事は分かったという事ではないのですね
          知ったというだけの事にしか過ぎません
           今話題のAIも知る事は出来ても分かったという部分には踏み込めないのでは
          ないでしょうか
          知識を寄せ集めて結論を出す事は出来てもそれから先の考えない事は出来ない
          考えないで考える そうです 禅の世界です
          データーの寄せ集めのAIには禅の世界へ到達する事は出来ないでしょう
          核心を突いた御文章 深い共感と共に拝見しました
          星四つ 満点です
           ところで 御身体の具合いは如何ですか くれぐれも御無理をなさらず
          何時までもこのブログを続けて下さい 楽しみにしておりますので  
           有難う御座いました




            takeziisan様

           今週も楽しませて戴きました
           「寄り合い家族」
           良いですね 文章に無駄がありません
           話しの運びにも遊びが無くて一気に引き込まれます
           次回 拝見させて戴くのが楽しみです
           作文とは違います 見事に小説 物語が語られています
           遣っ付け仕事では出来ません 以前 何か関係されていたのでしょうか
           あるいは様々な作家の作品に数多く眼を通されているからこその
           この力量ないのか お見事です
            民謡を訪ねて 懐かしいですね いい番組でした
           わたくしの母も民謡愛好家で全国大会などでも何度も優勝 入賞をしています
           母のカップやトロフィ専用の棚が今でもそのまま残っていて
           ホコリ払いが大変です
            越中おわら 江差追分 良いですね その外 各地にそれぞれ良い歌がありますが
           中でも九州の 刈り干し切り唄 東北の 南部牛追い唄などが特に好きです
           ちょっと思い浮びませんが その他にも佐渡や四国をはじめ
           様々なよい民謡があります 大事にして欲しいものです
            空襲 終戦の日 以前にも書いているので改めて書きませんが
           写真の光景は実際にわたくし自身 身を置いた光景です
            冬の正月 夏の盆 少年時代の懐かしい思い出が蘇ります
            ジャム 贅沢三昧 羨ましい限りです イノシシ出現
           迷惑この上ない事ですが それだけ自然が豊か 恵まれた環境という事ではないのでしょうか 
            帯状疱疹 わたくしは二十代の頃 この病気に罹りました
            身体の右半分に疱疹が出て激しく神経が刺激され
            たまらなく痛い病気です 治ってからも二十年ぐらいは後遺症で皮膚の感覚がありませんでした
            二度と罹りたくない病気です もっとも一度罹れば耐性が出来るという事ですが
            お気を付け下さい
            今週も美しい花々 楽しませて戴きました
           有難う御座います
















遺す言葉(460) 小説 いつか来た道 また行く道(20) 他 プロの道

2023-08-13 12:19:28 | つぶやき
            プロの道(2023.8.1日作)



 物事には それぞれ
 その道の プロの道がある
 はた目には何気ない 小さな事が
 プロの眼から見た時には 容易に
 許容 し 難いものとなる
 その道には その道の定め 掟がある
 その定め 掟を会得し得た者のみが
 真のプロ
 あらゆる物 総ては 知識ではない
 自身の身に付いた 習性
 その道のプロとは
 その習性を身に付けた人
 考えるより先に 身体が動く
 手足が動く
 感覚は 知識を上まわる  




           ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 
            
            いつか来た道 また行く道(20)




 

 中沢の体がソファーの中でどうにか安定すると、そのままにして置いて玄関へ向かった。
 玄関ではゴムの長靴を取り出して、すぐに履けるようにした。
 更にはドアを開けた。 
 明かりは点けなかった。
 遠目にでも人の居る気配を感じさせては拙い !
 居間に戻るとすぐに中沢の死体を担ぎ出す作業に取り掛かった。
 一旦、力の抜けた死体をソファーの背もたれに寄せかけて正常な姿勢に戻してから背負う事にした。
 動かなくなった中沢の足元に背中を向けてひざまずき、うしろ向きのままで中沢の両手を探って自分の肩にもたせ掛けた。
 それで中沢を背負う形になった。
 立ち上がるのが一苦労だった。
 彼はわたしより背が高い上に、いくら麻薬中毒者とはいえ男性だった。わたしよりはやっぱり体重があった。
 彼を背負ったままで前屈みになり、立ち上がろうとしたが何かの支えがなければ無理だった。
 中沢を背負ったまま眼の前のテーブルににじり寄り両手を付いて、どうにか立ち上がる事が出来た。
 中沢の足首より先は、床の上を引きずられる形になったが、それは仕方がなかった。
 中沢を背負って運ぶ作業は重量が肩や背中に掛かったとはいえ,思いの外、支障が無くて済んだ。仕事は順調に進んだ。
 玄関に辿り着くと靴入れに掴まり、中沢を背負ったままで長靴に足を入れた。
 どうにか長靴を履き終わるとすぐにドアが開け放しになっている玄関を出た。
 辺りは星明りの他は何も無い闇だったが、建物の裏側を目指して歩き始めた。
 普段から見馴れている勝手知った別荘の敷地内だった。闇の中でも方角は分かった。
 裸のままでわたしに背負われている中沢の足首が落ち葉を掻き分ける音がした。
 長時間の力仕事をした事のないわたしに取っては、動かなくなった中沢を背負って歩く仕事は思いの外の重労働だった。早くも身体中に汗の滲み出ているのが意識された。
 それでもわたしは休まなかった。今夜中に終わらせてしまうのだ !
 自分に向かって何度も何度も言い聞かせるようにして呟いていた。
 おおよそ五十メートルか六十メートルだろうか、建物と屋敷内に茂る白樺の樹々との間の小道を辿るとやがて、ようやく闇に馴れて来た眼に建物の裏手にある白樺の林の樹々の一本一本が映るようになって来た。
 あと少しだ ! 
 林の全体像は見えなくても、その姿は想像出来た。
 ようやく半分の行程に辿り着いた、という思いだった。
 いったい、時間はどれ程経っているんだろう ?
  時間の感覚は全く掴めなかったが、それでも夜が明けるにはまだ充分な時が残されている事だけは分かって安心感を誘った。
 
 白樺の林の中は思いの外、明るかった。白い木肌が闇に映えるせいなのか ?
 樹々の梢の間からは一面に散りばめたように蒼空に瞬く星の輝きが眼に映った。わたしがこの地に来て、何時も感動する夜空の星明りだった。
 その明かりを眼にした時、何故かわたしは幸せとも言えるような気分に包まれた。気力の充実感を意識した。
 さあ、一刻も早くこの仕事をやり遂げてしまおう。
 不安な思いはなかった。仕事の完遂への自信が漲った。
 なおも中沢の死体を背負ったまま白樺の樹々の間を縫って奥へ奥へと進んだ。
 別荘地と隣接する雑木林とも言える山林との間を仕切る境界線までは、やはり四、五十メートル程の距離があった。その一番奥へ向かって進んだ。
 境界線はコンクリートの土台の上に四段に張り巡らした太い棘を持った針金で仕切られていた。外側からも内側からもその針金を潜り抜けて行き来する事は、それなりの用具を備えなければ一見、不可能に思えた。
 その境界線のコンクリートの元には風に吹き寄せられた落ち葉が一段高く積もっているのが、夜目にも判別出来た。
 すぐにその場所が仕事の場所としては最適だと、判断した。
 既に、わたしの全身は汗だらけになっていた。額から頬を伝わって汗が流れ落ちた。 
 その汗を拭う事もせずにひたすら、中沢の裸体を背負って自分の仕事の完遂の為に白樺の樹々の間を進み続けた。
 目的の場所まで来た時には、境界線との間は二メートル程になっていた。
 その距離を悟った時、思わず安堵感に捉われて、よし、此処でよし ! と呟いていた。全身からは一気に力が抜けて背負った中沢の裸体を放り出していた。と同時に今まで全身体に掛かっていた中沢の体重から一気に解放された、その解放感と共に全身からも力が抜けて思わずよろめき、危うく傍にあった一本の木に掴まって転倒するのを防いでいた。





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             takeziisan様

             
              白山 二週間だか三週間だか前にNHKで放送していました
              普段 あまりテレビを観る事がなく 民法 NHK  合わせても週に定期的に観る番組は
               三 四本しかありませんが その中の一つの番組で放送していました
              咲き誇る野草の数々 美しいと思って観ていました
              あの環境の中に身を置く 身も心も洗われ 巷の灰塵も拭い去られるのでは 
              という気がします
              美しいだけではなく 豪快な風景 こうして見ていますと
              自分自身もその環境に身を置いたような気分になって来ます
              その実際の旅 いい思い出ですね
                長崎の鐘    
              当時 藤山一郎も心を込めて歌っていたように思い
              その歌が一層、身に沁みた記憶があります
              それにしても戦争を仕掛ける人間のおろかさ 話しにもなりません
               ブト わたくしの地方では ブヨ でした
              近年 この猛暑のせいかブヨは勿論 蚊もいないように思います
              蚊取り線香も 昔懐かしい蚊帳も不用です
              雨 恵みの雨 実感出来ます
              それにしても畑へ行けば どうする どうする ?
               持てる者の贅沢な悩み  その新鮮さと共に羨ましい限りです  
              体操 年齢と共に肉体も衰える一方です タンパク質系の食事と運動              
              年齢と共に欠かせないもののような気がします
              わたしは毎朝 一時間半程の全身体操を行っていますが
              その前に朝 起きた布団の上で猫体操と共に 正座して
              その上に両手を突き ボートを漕ぐ時のように体を前後させて            
              腰の運動もしています その結果かどうか 腰痛もありません
              以前は神経痛などもあったのですが 今は消えました
              ただ 年齢と共の筋肉の衰えはどうする事も出来ず
              重い物を運んだ時にはすぐに腰が痛くなります
              それもひと時休めばすぐに治りますが
              いずれにしても時の流れは速い 人の肉体は衰えるだけ
              それが実感です
              どうぞ 御無理をなさらず 何時までもお元気で
              この記事が末永く続いてゆかれるよう願っております             
               楽しいひと時を有り難う御座いました





遺す言葉(459) 小説 いつか来た道 また行く道(19) 他 責任

2023-08-06 12:28:09 | つぶやき
             
  
           責任(2023.7.30日作)


 
 
 人にはそれぞれ
 その立場に於ける 責任 というものがある その
 責任を全うし得た時 人は
 人としての役割り 務めを果たし得た
 尊敬に値する人 となる
 地位 職業 職種 等によって
 人の価値 名誉は 決定されるものではない
 世俗的に高い地位 職種にあっても その
 役割り 務め 責任を全う出来ない人間は
 世俗的に低いと見られている職種 地位の  
 責任を全うし得た人より 人としての価値 評価は
 劣るものとなる
 何気ない事柄 仕事に於ける責任の全う
 人に於いては最も大切 重要な事




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           いつか来た道 また行く道(19)

  

 

 わたしは中沢の手からシャワーの器具を取ると、すぐに彼の髪に水の細い糸を浴びせ掛けた。
 中沢は耳を押さえ、前屈みになったままで不平も言わなかった。
「眼をつぶっていてよ」
 わたしは中沢と戯れでもするかのように弾んだ声で言って、すぐにシャンプーをふり掛けた。
 そのまま髪に指を入れ、力を込めて洗い始めた。
 わざと大量にふり撒いたシャンプーはたちまち泡立って中沢の頬を流れ落ちた。
「なんだ、そんなにいい匂いでもないよ」
 中沢はうつむいた姿勢のままで期待に反したかのように言った。
「これで洗ってリンスをするといい匂いがするのよ。だから珍しいのよ」
 わたしは言って委細かまわず、なおも中沢の髪を洗いながらわたしの行為実行の機会を探った。
 シャンプーの泡はさらに中沢の頭から盛り上がって、顔の側面を流れ落ちた。
 中沢はそれが眼に入ったのか、手で拭った。瞬間、この機会だ、とわたしは思った。
「ちっょと待って。そのままでいてよ。今、乾いたタオルを持って来るから」 
 わたしは中沢のうつむいた姿勢を見守りながら素早く立ち上がった。
 急いで浴室の入口に戻り、先程、用意して置いたタオルにくるんだ鉄亜鈴を手にした。
 中沢を振り返るとそのままの姿勢でいた。
 わたしは声も掛けなかった。中沢の背後に忍び寄るとタオルにくるんだままの鉄亜鈴を両手で握り、そのまま一気にうつむいたままでいる中沢の後頭部めがけて振り下ろした。
 狙いは違(たが)わなかった。両手に伝わる感触は鈍かったが、それでもタオルに包まれたままの鉄亜鈴は芯に堅さを残していて、その重さが中沢の頭部に決定的な打撃を与えていた。
 中沢は声を上げる事もなかった。僅かに息を呑むようなうめき声を上げただけで一瞬、体を硬直させ手足を小さく震わせたが、次の瞬間には腰掛けていた台を跳ね飛ばしてタイルの上に崩れ落ちていった。
 崩れ落ちた後は身をもがく事もなかった。
 わたしはそんな中沢を見つめたまま、呆然と立っていた。
 自分が何をしたのかさえ、その瞬間には分かっていないようだった。
 やがて、浴室のタイルにうつむいた姿勢で横たわり、もはや身動き一つしなくなった中沢の首の辺りから少しずつ、白いタイルを伝わって広がって来る血の色がわたしの眼に飛び込んで来た。
 その血の鮮明な赤色(せきしょく)を認識した時、わたしは初めて我に返って自分のした事の重大さに思い至った。
 だが、わたしに後悔への思いはなかった。これは、わたしが綿密に計算し、計画した事だ、この後の始末をどうするのか、これからまだ、大切な仕事が残っている。
 自分に言い聞かせてすぐに次の行動に移った。
 まず、タイルの上に顔を横に向けて白目を剥き出し、横たわっている中沢の口元に手のひらをかざして呼吸を確かめた。
 呼吸はなかった。
 微かな満足感 さえ覚えて、これで良し ! と呟いた。
 そのままタオルに包まれた鉄亜鈴を持ってトレーニングルームへ行った。
 タオルから鉄亜鈴を取り出すと元の場所に戻した。
 タオルは証拠品となるのが怖いので、中沢と一緒に埋めてしまおう。
 浴室に戻ると改めて横たわる中沢の傍に立ち、わたしより五センチ近くも背の高いこの肉体をどうして運び出したらいいんだろう ? と思案にくれた。
 取り敢えず、裸のまま引きずって広間へ運び出す事を考えた。
 それから後は ?
 どうやってこの広い敷地の中の人目に付かない白樺の林の一番奥まで運んで行くのだ !
 長い思案の果てにソファーに座らせ、それから中沢の肉体を背負い、運び出そうと考えた。
 中沢の口から流れ出した鮮血はもう止まっていた。
 横たわった中沢の体を少しずらし、シャワーで血の跡を流した。
 乾き切っていなかった血はそれで流れ落ちた。
 次に横たわる死体の両足首を持って広間のソファーへ運んで行く・・・・その時わたしは、大きめのバスタオルを敷いてその上に中沢を載せる事を考え付いた。
 裸の肉体を運ぶよりは幾分でも床の上を滑りやすくなるのでは。
 それに床自体も汚さなくて済む。
 わたしは更衣室へ戻ると大型のタオルを一枚引き出した。
 それを手に浴室へ戻ると入口にタオルを敷いて早速、仕事に掛かった。
 一メートル七十センチを少し超える中沢の肉体は思いの外、重量感を感じさせなかった。
 もともとやせ型だった上に、なお、やせたように思えるのは麻薬のせいかなのだろうか ?
 皮膚にも肉体にもわたしが知り合った当初よりは大分、衰えが見えるような気がした。
 タオルに載せて引きずった肉体を居間にある一番近くのソファーまで運ぶ仕事は順調に進んだ。
 次にはこの血の通わない肉体をソファーに座らせる作業だった。
 まだ、柔らかさも暖かみも残しているとは言え、死んだ人間を直に自分の胸に抱え込む作業には少しのためらいを覚えた。
 でも、ためらってなどいられる場合ではない、と自分に言った。夜が明けるまでには一切の仕事を片付けてしまはなければならないのだ。
 気持ちを奮い立たせて横たわる中沢の死体を抱え起こし、そのまま抱き上げた。 
 よろめきながらもどうにかソファーに座らせる事が出来た。
 座らせると同時に中沢の肉体は力なく片側へ崩れてソファーの肘掛けで支えられた。




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               takeziisan様


                有難う御座います
               美しい自然の数々 今回も満喫させて戴きました
               それにしても山の写真 随分 撮っていますね
               富良野の自然 うっとりしながら拝見していました
               日本のこの狭い国土の中 こんな場所もある
               まるで外国の景色を見ているようですが やはりそれでも何処か違う
               あの広大な国土の国 アメリカ辺りの景色とも違う
               日本独特の潤いを帯びた景色ですね 富良野美瑛は           
               最も訪れてみたい場所の一つですが それも今では夢の中の事です
               百日草は前回も拝見しましたが懐かしい花です 
               子供の頃 友達と種を分け合って栽培した
               最初の思い出の花です 丈夫で 栽培し易いですよね  
                朝食前の収穫 その気力に感嘆です 
               まだまだこれからだ これから峠の七曲り という唄がありますが
               この暑さの中 熱中症には御注意下さい
               それにしても扇風機で涼を取る  当地では無理です
               まるで蒸し風呂の中です 気持ちが悪くなってきます
               やはり 自然が豊かなんですね 雑木林の公園 蝉の声
               当地では蝉の声も聞こえなくなりました 大きな道路一つ隔てて           
               それなりの公園もあるのですが 蝉の声も聞こえませんし
               ツバメの姿を見る事も無くなりました 以前は
               それなりに見たり 聞いたりしたものですが
                この暑さの中 どうぞお体にお気をつけ下さい
               有難う御座いました 楽しいひと時でした
 

遺す言葉(458) 小説 いつか来た道 また行く道(18) 他 時は過ぎ逝く AI

2023-07-30 13:04:51 | つぶやき
             時は過ぎ逝く(2023.4.24日作)


 時は
 喜び 悲しみ 怒り 嘆き
 幸 不幸 総てを 幻 と 化し
 夢の如くに 過ぎて逝く
 人の行く道 その果てに浮かび
 迫り来るもの ただ 老い 死の断崖
 人の 世との別れ 訣別 さよならだけの人生
 死の断崖 総てを包む闇
 人の行く道 その果てあるもの

  
 人生は一瞬の夢 束の間のまぼろし
 過ぎ逝く時は 永遠に還らない                      



             A I

 A Iには 
 考えない事 が出来ない
 無意識裡の世界 人間には
 無意識裡の世界がある その
 無意識裡 無意識の世界こそが
 人間の本質 人間存在そのもの
 A Iには
 人間の無意識の世界に到達出来ない
 何故なら
 無意識の世界は数値では表せない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              いつか来た道 また行く道(18)  



 
 タオルを中沢に渡し、彼が風呂に入る支度にかかるのを待ってからわたしは脱衣所を後にした。
 一挙に緊張感が高まった。
 失敗は絶対に許されない !
 総てを此処で解決してしまうのだ。
 わたしはすぐにトレーニングルームへ向かった。
 先程、入口に置いたタオルにくるんだままの鉄亜鈴を手に取った。
 その時になって初めて、自分の服装が着替えてない事に気が付いた。
 まさか、こんな格好でこれからの仕事は出来ない。
 動きやすい黒のスラックスに身体の線のはっきり浮き出る濃紫のセーター、耳には何時ものように、わたしの誕生石のダイヤモンドを散りばめて揺れる白金のイヤリングがあった。更には、左の中指にはこれもダイヤが三個並んだ角型の大きな指輪が光っている。腕には金と白金を絡めたブレスレット・・・。
 先程、わたしは湯船を洗う時にも、物置からシャベルを取り出す時にも、これらを身に付けたままで動いていたのだ。
 改めてわたしは、目先の事にばかり気を取られていて、冷静さを欠いていた自分に気付いて身体中の凍る思いがした。
 自分では冷静な心算でいたがこんな落ち度があったとは !
 他に手抜かりは無いだろうか ?
 冷静に、冷静に、と自分に言い聞かせながらわたしは更衣室へ急いだ。
 更衣室では何枚ものトレーニングウエアが重ねて置かれてある棚のガラス戸を開け、厚手の蒼い一着を取り出してすぐに着替えに掛かった。
 時計もブレスレットもイヤリングもネックレスも外した。
 セーターは勿論、スラックスもストッキングも脱ぎ、トレーニングウエアに着替えた。
 着替えが終わると傍の鏡に自分の姿を映して点検した。
 よしっ、これでよしっ、小さく呟いて満足感と共に再び、トレーニングルームへ向かった。タオルに包まれて置かれてある鉄亜鈴を手にしてそのまま、脱衣室へ急いだ。
  脱衣室に入ると鉄亜鈴を入口に置いて、左隣りにある浴室の曇りガラス越しに中沢に向かって声を掛けた。
「どう ? お風呂の加減は」
「うん、ちょうどいい」
 相変わらず屈託を感じさせない中沢の暢気な声が返って来た。
「今、おばさんから電話があって、すぐに食事が来るって言うから」
 わたしは浴室のガラス戸を開けた。
 中沢は金色の枠がはまった鏡に向かって、石鹸の泡で両頬を真っ白にしながら髭を剃っていた。
「あら、何時ものおめかし ?」
 からかうようにわたしは言った。
 ひげ剃りはわたし達の間で習慣になっていた事だった。
「うん」
 すっかり以前の気分に還っているらしい中沢は軽く答えただけだった。
 わたしは改めて中沢のその無防備さを意識すると、身体中に沸き起こるような緊張感を覚えて身を堅くした。
 反面、中沢の弛緩した神経を絶好の好機だ、と捉える心も働いていた。
「今、着替えてきたので体を洗ってあげるわよ」
 わたしはトレーニングウエアの裾をたくし上げ、腕まくりをして浴室に足を踏み入れた。
 中沢はわたしの言葉には答えず、鏡に向かったまま剃刀を使っていた。
 その背後に立つてわたしは鏡の中で中沢を見ながら、
「どう ? とってもいい匂いのするシャンプーがあるの。使ってみない」
 と言った。
 まず、最初の誘いだった。
 鏡の横の棚には様々な洗顔用品や化粧水などが置かれてあった。
 中沢がそれらのものに手を延ばしていじくり回したらしい事は一目で分かった。
 わたしは中沢の返事も待たずに鏡に向かっている中沢の肩越しに、洗面台に置いたままになっている濡れたタオルを手にして傍にある石鹸をなすり付け、彼の背中をこすり始めた。
「ちょっと待ってよ。剃刀を使ってるのに危ないよ」
 中沢は怒って言った。
「じゃあ、早く剃っちゃいなさい。今、シャンプーを取って来るから」
  わたしはタオルを元の場所に戻して、彼の背中から離れた。
 無論、珍しいシャンプーなどあるはずがない。脱衣所の棚から国産の少しだけ高価なシャンプーとリンスを取り出し、手にして浴室に戻った。
 中沢は剃刀を使い終わって顔を洗っていた。その少し前屈みになった姿勢がわたしの眼に、わたしの行為に対する絶妙の姿勢をふと、印象付けた。
 この姿勢の中で一気にやる事が出来る !
 わたしの気持ちの中で決定的に実行の形態が固まっていた。
 成功への確信にも似た思いが生まれた。
 わたしは急かれる思いで中沢の背後へ行くと、
「ちょっと、そのままでいなさい。一緒に髪も洗うから」
 と言って、彼の前屈みの体を押さえた。
 中沢は今度は抗はなかった。わたしの砕けた口調に警戒心も失くしていたようだった。




          ーーーーーーーーーーーーーーーーー




         桂蓮様

          有難う御座います
         バレーに復帰 大丈夫 ? まず心配が頭を過ぎります
         御無理をなさらず 楽しみとしてお励み下さい
          わたくしも大腸癌を患いましたが 癌は取り除いてしまえば怖い事はありません
         ただ 発見が遅れ転移してしまった時が怖いのですが わたくしの場合
         転移もなく 手術で取り除く事が出来たので 今は何処にも不具合はなく
         至って健康な日々を過ごしています
          新作 言葉 国民性 なかなか奥深い問題でおいそれとは片付かない事ですね
         人は言葉で考える 何か国もの言葉を話す方々はそれぞれの言葉で話す時
         その話す言葉の国の人々の思考に従って自身の思考を構成しているのか
         多国語の話せないわたくしに取ってはとても興味のある事です
         それでも その国で生まれ育ち 育まれた人の性格はきっと根本に於いては
         他国語を話すようになっても変わる事はないのではないでしょうか  
         とても面白く拝見しました きっと根本の何処に残っているのではと思っています  
          それにしても他国で打ち解けて話しの出来る仲間が居るという事は幸せな事ですね
          この幸せが何時までも続くよう願ってます
          旦那様の御心配 分かります 暖かさが伝わって来ます
           大きな木 これでは倒れた時には家屋への被害も実感出来ます
          このような大きな木々に囲まれて生活できる日常を羨ましく思います
          稚拙な文章に何時も御眼をお通し戴き御礼申し上げます
          有難う御座います



            takeziisan様


             コメント 有難う御座います
            数々の物語にお眼をお通しの方に このような御感想を戴きますと
            ちょっと緊張感が増します
            わたくしとしては物語を紡ぐというよりは人間心理を追ってみたいと思っていますので
            物語としての単調さは否めないかも知れません
            いずれにしても人間 ふとした小さな事が思いも掛けない大事に発展してしまう事は
            よくある事です 最近でも一家で殺人に係わったという残虐事件が報じられました
             一人の上昇志向の強い女性が ふとした遊び心がキッカケで思わぬ運命の悲劇に
            追い込まれてゆく   
            その心理過程を嘘のない描写で追ってみたいと考えています 
            物語としてはこれまでと違って多少 長くなるかも知れません
            長編まではゆかなくとも中編にはなると思います
            その過程で文章に弛緩が生まれないか 重要な点だと思っています
            お眼をお通し戴き 有難う御座います
             「引き潮」「ダヒル サヨ 」 
            懐かしい曲ですね フランク チャックスフイルド
            わたくしにはやはりこのオーケストラですが 耳にしていて自ずと 
            故郷の海辺の光景が眼に浮んで来ました
            当時の砂浜は松林の間の道を抜けて 波打ち際まで降りてゆくのに
            百五十メートルもの距離がありました それが今では侵食されて
            五十メートル程しかないという事です それだけに
            曲を聴きながら昔の砂浜の限りなく美しかった光景を思い出していました
            ダヒル サヨ わたくしはやはり エセル中田 ですね
            フラを踊りながら歌っていた姿を思い出しました
             川柳 同感 冴えている そうだ そうだ 全く あの大国は
            どうしょうもない ! 強欲 バカに付けるクスリ無し       
             カブトムシ クワガタ 夏休みの朝 露に濡れている雑草を掻き分け
            カブトムシーーセイカジの来る木へ急いだ事を思い出しました
            わたくしの方ではカブトムシをセイガジ クワガタをハサミムシと読んでいました       
             サルスベリの木はショウの強い木です 田舎の墓地にサルスベリがあり     
            葉が落ちて掃除が大変だと言うので
            植木職人に頼んで掘り出して貰いました    
            ところが何年か後にまた生えて来て 昔の木とそっくりの木に成長してしまいました
            この話には後日談があって その木を運送途中でその車が事故に会ってしまいました 
            それでみんなはお墓にあった木を切ったのでバチが当たったんだよと
            話し合ったものでした
            この話は以前にも書いています
             連日の暑さ 熱中症に御注意して下さい
            それにしてもあの雑草 御苦労が偲ばれます
             何時も有難う御座います
            今週も楽しませて戴きました