遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(424) 小説 華やかな噓(5) 他 歌謡詞 積み木の家

2022-11-27 12:08:13 | つぶやき
          積み木の家(2022.11.23日作)                                     


 壊れた愛のかけら 集めて 
 積み木の家を積んでみたって                     
 それがどうなると言うの 
 所詮 あの人はいない                         
 背中を過ぎる虚しさだけが          
 悪魔のようにしのび寄るのよ  

 涙にぬれて一人もとめる
 積み木の家の愛は虚しく
 夜の静けさが辛い
 なぜか あの人は去って
 雨戸をゆらす夜風の音に
 孤独な胸が切なく痛む

 忘れることを望む心で
 積み木の家を壊してみても
 辛い思い出が残る
 所詮 あの人は遠く
 なきがらだけの思い出ならば
 過ぎゆく過去に埋めたい





          ーーーーーーーーーーーーーーーー





          華やかな噓(5)


 
 
 川野は徐々に窮地に追い込まれてゆくような苦しさを覚えながら、それでもなお懸命に虚勢を保つ事だけに心を砕いていた。
「そんなにひどい事を言ったんですかね。もう、まったく覚えていない。人間なんてずるいもので、自分に都合の悪い事はみんな忘れてしまう」
 川野は決してその時の事を忘れてはいなかった。自分の不遇意識が強まるにつれ、当時の事はより鮮明に脳裡に甦って来た。
 四十歳を過ぎても川野は家庭を持つ事も出来ず、相も変らぬその日暮らしの根無し草生活を続けていた。
 もしあの時、明子の望むままに家庭を築いていたら、今頃はもっとまともな人生を生きていたかも知れなかった。それがどのような人生であれ、多分、今よりは増しな人生だったに違いない。子供を育てる事に追われ、売れない詞を書く事などもやめていたかも知れなかった。川野にとってはむしろ、その方が幸福だったのではなか・・・・。
 川野はふとした折りに、今はもう決して取り戻す事の出来ない、明子との間に出来た子供の年齢を数えてみる事があった。
 十一歳 ? 十二歳 ?                           
 街なかの人込みでその年頃の子供を見かけると、幻の自身の息子や娘の姿が思い浮かんだ。かと言って、明子との結婚生活が必ずしも、幸せに彩られたものばかりとは限らないーー。そう否定してみても、現在の自分の生活がそれ以上のものだという保証は何処にもない。愚かな夢に翻弄されたこれまでの人生の虚しさだけが色濃く心に残った。
「でも、昔の事をこうして静かに落ち着いた心で話し合えるのも、お互いが歳を取ったという事でしょうか」
 明子は言った。
「そういう事なんでしょうね」
 川野も寂しさを滲ませた微笑を浮かべ、明子の視線から眼をそらし、短くなった煙草を灰皿に押し付けながら言った。明子の視線に自分の本心を見抜かれるのが怖かった。
「でも、あなたが幸せでいてくれて、本当に良かった」
 川野はようやくの思いで再びそう口にしたが、ともすれば滅入りがちになる気持ちを抑える事で精一杯だった。
「川野さん、御結婚は ? 勿論、なさってらっしゃるんでしょう」
 ふと思い付いたかのように明子は言った。
 川野は虚を突かれた思いで戸惑った。
「ええ、まあ」
 とだけ、曖昧に答えるより仕方がなかった。
「お子さんは」
「いないんです」
「おつくりにならないの ?」
「そういうわけじゃないんだけど」
 軽い笑みに紛らして言った。
 明子がふと、自分の腕時計に眼をやった。
 先程までの色とりどりに装った人々で混雑し、賑わっていたロビーでは人影がまばらになっていた。明子はその静けさを気にしたようだった。
 微かな響きで流れる音楽だけが聞こえていた。静かな落ち着いた雰囲気が戻っていた。
 ロビーを包む巨大なガラスの外は既に夜の気配で満ちていた。
 タクシーが明かりを点してしきりに行き交った。
「これから、どちらか御予定はあるんですか ?」
 川野はなんとなく明子の上に、家路を急ぐ家庭の主婦の姿を垣間見る思いがして、誘いの意味を込めてではなく聞いた。
「いいえ、もう帰ります。本当はもっと早く帰る心算でいたんですけど、久し振りに銀座へ出て来て、なんとはない懐かしさに愚図愚図していたら、川野さんにお会いしたものですから」
 明子は言った。
「御免なさい。思わぬ邪魔をしてしまって」
「とんでもない事です。思いがけずお会い出来てとても懐かしかったです」
 明子は正直、思わぬ出会いに懐かしさにも似た感情を抱きながら言った。
「これから帰って夕飯の支度では、もう遅いですね」
 冗談を浴びせるように川野は言った。
「ええ、でも心配はないんです。お手伝いさんがしてくれていますから」
 明子はそのような心配は無用だとでもいうように、事も無げに言った。                                  
 川野はその言葉に笑顔で頷いたが、瞬間、気持ちの中では再び、嫉妬にも似た感情がうごめいていた。
 手伝いを雇う程の恵まれた生活環境に明子は生きている。
 明子はそんな川野の胸の裡などおもんばかる様子もなく、
「ちょっと失礼していいでしょうか。荷物を取って来ようと思うので」 
 と言うと軽く頭を下げ、席を立ってクロークルームへ向かった。
 すぐに結婚式の引き出物と思われる物などを手にして戻って来た。
 川野は立ち上がって明子を迎えた。
「車で来ようかと思ったんですけど、途中、何があるか分からないと思って電車で来たんですけど、やっぱり車にすれば良かった」
 明子は両手に持った荷物を見せて笑いながら言った。
「浦和まではどの位かかりますか」
 川野は明子のその様子を見ながら笑顔で聞いた。
「家へ着くのには二時間と少しぐらいです」
 二人はそのままロビーを出て、タクシーが待つ乗り場へ向かった。
 タクシーを待つ間、川野はかつての何時か、明子と二人、こんな時間を過ごした事があったような思いに捉われた。
 タクシーが来ると明子は迷いもなくドアの開いたタクシーに乗り込み、そのまま座席に収まった。
 ドアが閉まると同時に車が動き出した。明子は微かな笑顔で軽く会釈した。    
 手は振らなかった。
 タクシーが建物の角を曲がり、見えなくなると川野はそのまま大通りに向かって歩き出した。
 なんとはない空虚感があった。
 もう再び、明子に会う事はないだろう。
 明子が遠く、去りゆく存在に思えた。
 かつての二人には今日別れても、明日また会えるという希望ががあった。
 川野は空虚な胸の裡を抱えたまま、無数のネオンサインが煌びやかな光りを放つ銀座へ向かって歩いて行った。
 これから何処へ行こうか ?
 バーテンダーの仕事は休みを取っていた。行く当てもなかった。

 三島明子は京浜東北線の電車の座席に腰を降ろすと、緊張感のほどける思いで大きく息を吐いた。





           ーーーーーーーーーーーーーーー




           takeziisan様


            お忙しい中 何時もつまらぬ文章にお眼をお通し戴き
            有難う御座います
             今回もブログ 楽しませて戴きました
            拝見した眼では確かに土壌が良くないように思えます
            前にも書きましたが小石も多いようで
            自分の田舎の柔らかな黒土の良さをしみじみ思い出します
            その中での豊富な野菜 御苦労も確かに多いのではと想像出来ます
            豊富なジャム 羨ましい限りですが今時 桑の実ジャム
            びっくりしました 子供の頃 ドドメと言って
            口の周りを真黒 ? にして食べた事を思い出します
            わが家の隣りに桑畑があっものですから
            美味しかった記憶が残っています
             秋の気配いっぱい                         
            秋は嫌いではない季節ですが迫り来る冬を思うと憂鬱に
            でも秋の景色が醸し出す憂愁は何ものにも代えがたい魅力に満ちています
            この感情は好きです
            「枯葉」まさに今の季節そのものの憂愁に満ちています
             でも ピアフは初めてだと思います
            モンタン グレコ 高英男を思い出します 
            公演で聞いた高英男の最後の箇所を唄う時のデクレッシェンドは今も耳に残っています
            懐かしい曲です
             秋の詩 昭和四十年というと・・・・
            文学青年だったのですね
            御自分でお読みになっても なつかしいのではないでしょうか
             川柳 皮肉の利いた眼差し 皆さん 上手なものです
            日頃の不満を笑い飛ばす
            誰にも迷惑を掛けない憂さ晴らし
            いいですね
             今回も楽しませて戴きました
            有難う御座います









遺す言葉(423)小説 華やかな噓(4) 歌謡詞 夜汽車の別れ

2022-11-20 11:51:43 | つぶやき
          夜汽車の別れ(2022.11.15日作)                               


 最終列車のベルが鳴る 
 暗い夜空が冷たく冴える
 唇かんで哀しみに 
 涙ぐんでる愛しいあなた
 あなたと生きた二年の月日
 幸せ満ちた日毎に夜毎
 だけどそれさえもう終わる
 あなた残して汽車が出る

 いつかは終わる愛と知り
 燃えたはげしい心とからだ
 重ねた頬の思い出も
 今は虚しく涙ににじむ
 あなた残して出てゆく汽車の
 窓から見ればあなたは遠い
 はるか彼方の明かりのように
 夜のホームに消えてゆく
  




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           華やかな噓(4)




 またしても一つの結婚式が済んだらしく、礼装した人々がエレベーターから吐き出されて来るのが見えた。
 ロビーのガラス越しに見える戸外にはすでに黄昏が気配を見せていた。                                       
 ヘッドライトを点した車が通り過ぎた。                                     
 川野は何本目かの煙草に火を付けた。 
「今日は日柄がいいのかなあ。結婚式が多いみたいだ」 
 ロビーの賑わいに眼を戻すと川野は言った。
「大安なんです」
 明子も川野の言葉に促されたように、ロビーの賑わいに眼を向けて言った。
「ああ。それで」
 川野は納得顔で言った。                                 
「わたくしも今日、結婚式に招かれて来たんです」
「そうだったんですか」
 明子の華やかに見える装いもその為だったのだと、納得がいった。
「主人の遠い親戚の方のお嬢さんで、わたくしは知らない方なんですけど、主人がどうしても都合が付かなくなってしまって、代わりにわたくしが来たような訳なんです」
 川野は煙草を吹かしながら明子の言葉に笑顔で頷いた。
「わたくし、今は浦和に引っ込んだまま、滅多にこちらへは来ないものですから、今日は結婚式が早く終わったので久し振りに銀座へ出てみようかなあ、と思って、少し歩いて来たところなんです」
 最初は堅さばかりが目立った明子のうちに、次第に昔のような柔らかさが戻って来ているのを川野は見ていた。
「どうでした、銀座は ?」
 それで川野も、その明子に対して昔の二人のような親しみを込めて聞いた。
「しばらく来ない間に、随分変わってしまってびっくりしました」
 明子は心底、驚いているように言ってから、思い掛けない偶然を面白がるかのように、
「川野さんにお会いするなんて思ってもみませんでした」
 と言った。
「僕も初めは人違いかと思った」
 思い掛けない場所での偶然の出会いに川野自身、戸惑っていた事を思い浮かべて言った。
「このホテルは、よく御利用なさるんですか」
 明子は聞いた。
「ええ、まあ、時々」
「何処かへお出かけになるのではなかったんですか」
 明子は単純に川野の言葉を受け入れているようだった。
「いえいえ、違います。新しく売り出す歌手の事で、ちょっと打ち合わせに来たものだから」
 川野はなお、有能なプロデューサーを装いながら言った。
 明子は川野の言葉に疑いを抱く事はなかった。一瞬の曇りにも似た影が明子の表情に走るのを川野は目敏く見ていた。
 思い掛けない明子の表情に川野は優越感にも似た感情を抱いて、
「御主人は何をしてるんですか」
 と余裕の気持ちで聞いていた。
 再び、明子の顔に戸惑うような束の間の表情の浮かぶのを川野は見たが、そのすぐ後に明子の口にした言葉が今度は川野の自信を打ち砕いていた。
「建築家です」
 そう言った明子の口調に澱みはなかった。
 その言葉に続けて明子は、
「いろいろな所のビルなどを設計していて、年中、忙しく飛び廻っているんです。それで今日も、急な打ち合わせの仕事が入ってしまって、来られなくなってしまったんです」
 と言った。
 今度は川野が心を搔き乱された。
 先程の優越感も一瞬の間に消えていた。
 明子が身に着けている高価なものと判断出来る服装や装飾品が、明子の言葉を疑わせなかった。それと共に川野は、口とは裏腹の現在の恵まれない自分の境遇と比較して明子に対する妬みにも近い感情を抱いた。        
「建築家の御主人なんて素晴らしいじゃないですか」
 と言った時の口調には、上ずりと共にぎこちなさがあった。
「そうでもないわ。年中、出歩く事ばかりが多くて、半分は未亡人みたいなものです」
 明子は笑顔の中に精一杯の満ち足りた思いを込めて、愚痴めいた口調で言った。 
 川野はそんな明子の口調の中にも、明子の幸福な家庭の姿を垣間見る思いがして気持ちが沈んだ。
 今の明子には、自分の存在など、在っても無きが如しのものに違いない。
 川野は辛うじて心の平静を保つと、精一杯の自信に満ちた態度を装い、
「でも、あなたが幸せな結婚をしてくれていて良かった。僕はあなたに昔の事をなんてお詫びしていいのか分からない。僕が若くて愚かだったという事です」
 と力のない声で言った。
 明子はその言葉を聞いても感情を乱す事はなかった。
「昔の事なんか、もういいんです。それはあの当時、あなたを恨みました。子供なんか自分には関係のない事だって、全く取り合ってくれなかったんですから。あの時、あなたの言った言葉を覚えていて ? たとえ、それが俺の子供であったにしても、俺は子供なんかに係わっていたくはないんだ。俺には俺の人生がある。どうしても子供を産みたいって言うんなら、勝手に産めばいいだろう。俺は子供なんかに係わっていて、自分の人生を台無しにしてしまいたくないんだ。そう、あなたは言ったのよ」
 明子は静かな微笑と共に言葉一つ乱す事もなく言った。
 その明子の落ち着き払った態度と静かな口調は、川野に取っては、乱暴な罵りの言葉を浴びせ掛けられるよりもなお一層の痛みを伴って胸に突き刺さって来るものだった。
 最早明子は、過去の傷痕を何時までも引き摺っているような境遇とは無縁の彼方へ飛び去っているーー。
 今、川野の前にいるのは、昔の愛に心を乱す明子ではなかった。昔の愛の苦しみを、落ち着いた静かな微笑で包み込む事の出来る程に恵まれた環境に生きている。
 川野は、次第に募って来る自分の感情の中の悲哀を意識せずにはいられなかった。



         ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 
         takeziisan様


          有難う御座います
         秋の気配濃厚 秋一色という趣
         この 秋のなんとはない寂しさ 好きな風景です
         美しい写真の数々 拝見しました
         公園の手品師 フランク永井ですね 
         ついこの間 何回か前ですが BSにっぽん こころの歌
         でもやっていました
         ぎっしり敷きつめられた銀杏落ち葉 いい風情です
          小さな靴屋さん 忘れていました 思い出しました
         懐かしいですね
          キウイ大豊作 まあなんと大量・・・どうします ?
         以前 田舎にあった柚子を兄妹揃って採りにゆき それこそ
         蜜柑箱何個もの大量の柚子を採って来て 近所に御配りしたことを思い出しました
         それも今では懐かしい思い出 柚子の木は切り取られ 現在跡地には
         太陽光パネルが張られています
         それにしても 葉物野菜のオンパレード 町中に住む人間から見れば
         羨ましい限りの景色です
         食する楽しみ 作る楽しみ 自然に触れる楽しみ
         町中に居る人間には味わえない楽しみ 贅沢です
         どうぞ大切にして下さい
          今回もいろいろ楽しませて戴きました
         と同時に恵まれた環境に少しばかりの羨望も覚えます
          何時も拙文にお眼をお通し戴き 御礼申し上げます
          有難う御座いました

遺す言葉(422) 小説 華やかな噓(3) 他 歌謡詞 あなたと生きる

2022-11-13 12:20:56 | つぶやき
            あなたと生きる(2022.11.8日作)


 窓に鳥かご 掛けましょう
 お部屋に花を 飾りましょう
 あなたのために レースを編んで
 あなたのために 市場へ行くの
 ああ この幸せな 愛の日々
 わたしはいつも あなたと生きる      

 閉ざした心 開きましょう
 淋しい過去は 捨てましょう
 あなたとつくる 小さなお城
 あなたと行くの はるかな旅路
 ああ この喜びの 愛の日々
 わたしはいつも あなたと生きる
 
 愛の小鳥を 呼びましょう
 瞳と瞳 見つめましょう
 あなたと仰ぐ まぶしい光り
 あなたと綴る 愛情日記
 ああ この幸せな  愛の日々
 わたしはいつも あなたと生きる 
        
                                    


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            華やかな噓(3)
 


 それだけに、
" 赤ちゃんが出来たみたい "
 明子の口からその言葉を聞いた時、すぐには自分の身に起きた事だとは思えなかった。
「誰 ?」
 と、まるで他人事のように聞いていた。
「三カ月だって」
 すでにこの時、明子は川野の心のうちを読んでいたのかも知れなかった。重く沈んだ声で力なく言った。
「明子が ?」
 川野は聞いていた。
「うん」
 川野に取っては、想像さえしていなかった事だった。日々、忙しくあちこちを飛び廻って、自由に生きている・・・・そんな明子の口から、そのような言葉が出て来るとは思ってもいなかった。
 川野はしばらく、息を呑んだまま黙っていた。
 それから聞いた。
「で、どうすんの ?」
 結局、それが二人の二年に近い夢のような日々の生活に終止符を打っていた。
 川野にしてみれば、想像だにしていなかった明子の言葉に、自身の夢を奪われたくはないという思いが強かった。
 次々とヒット曲を連発する売れっ子作詞家、川野の夢見る未来は輝きに満ちていた。その未来を思いも掛けないたった一つの言葉で失いたくはなかった。子供が出来れば、自身の自由は奪われるだろう・・・。
 明子はだが、産みたいと望んだ。
 二人の間に思いがけず生まれた隙間風。その齟齬は明子自身の身体をも蝕んでいた。
 明子は流産した。
 一時は生命の危険にも見舞われた。
 明子の学生時代の友人、田代友里江が川野のいるバーを訪ねて来て知った。
 友里江は明子の代理人という形で、慰謝料や入院費の一部を要求した。
  川野が相手にしないでいると、田代友里江はバーを訪ねて来て、一杯の水割りで川野の仕事が終わるまで待っていた。
 川野は他の従業員達がいる手前、田代友里江を追い返す事も出来なかった。
 川野は結局、田代友里江のそのしつこさに負け、バーを辞めて行方をくらました。
 ほぼ、二カ月後に腰を落ち着けたのが、渋谷のバーだった。アパートも変わっていた。
 これで、厄介払いが出来た、という思いがあったが、気持ちは荒んでいた。
 折悪しく、新人歌手のデビュー作の仕事が入ったのがこの頃だった。
 その仕事は三回の書き直しの挙句、不採用になった。
「こんな程度の詞なんか、今どき、家庭の主婦だって書くよ。当たり前の事を当たり前に書いたって、面白くもなんともありやしない。もっと十六歳の少女の個性を引き出すような力がなくちゃあ、駄目なんだよ。せっかく、チャンスを遣ったんだけど、今回は降りて貰うよ。もう、時間がないんだ」
 明子のとのトラブルで気持ちが荒んでいた事が原因とばかりも言えなかった。川野自身の才能の問題に違いなかった。
 川野は崖から突き落とされたような痛手を心のうちに受けていた。
 自分を突き落としたようなプロデューサを憎んだ。
 自分が降ろされた歌手のデビュー作を耳にした時、川野は、
「なんだよ、こんなの。まるでハートも何もありゃしない。ただの言葉の羅列じゃねえか」
 だが、売れっ子作詞家の手になるその作品は、発売と共にたちまちヒットチャートを駆け上っていった。
" こんなものが詞だっていうんなら、詞なんかやりたくねえや "
 川野は福岡の高校を卒業後、漠然と芸能界に憧れて東京へ出て来ていた。
 だが、当初目差した歌手にもなれず、勉強のためと思って入学した俳優養成所でも芽が出ず、アルバイトで始めたパーテンダーが何時しか正業のようになっていた。
 そんな折り、当時売り出した若手作詞家が次々とヒット曲を連発して、脚光を浴びるようになっていた。
 川野はその姿に刺激を受けて、一時は諦め掛けていた芸能界への夢を再燃させていた、
 作詞家なら、俺にも出来るかも知れない。
 その結果、幸か不幸か、バーの馴染客のディレクターに売り込んだ二、三の作品がB面での採用となって、川野は一気にその気になっていた。
「この人、作詞家なのよ」
 バーのホステス達がからかい半分で酔客達に紹介する言葉が心地良く耳に響いた。
 川野は何時しか、作詞家気取りになっていた。
 しかし、その幸運も長くは続かなかった。
 最初のB面採用から順調に三つ四つの作品は採用されたが、顔馴染のディレクターが移動になると、採用はぱったり途絶えた。
 川野自身の才能も早くも行き詰まりをみせて、枯れかけていた。
 以来、明子と再会するまでの十五年間、川野は相変わらずバーテンダーを生業としながら、未だに作詞家への未練をも断ち切れずにだらだらと生きていた。
 結婚はしていなかった。
 当然の事ながら、何人かの女達との交渉はあったが、そこに深入りする気持ちもまた、湧いて来なかった。
 川野に取っては最早、日常の総てが虚構でしかなかった。真実とは・・・?
 明子と過ごしたあの短い日々が今では、川野に取っては彼が過ごして来た人生の中での最も充実した、もはや帰り来ぬ幸福な日々であったのかも知れなかった。
 ホテルのロビーには何時の間にか、まばゆい明かりがシャンデリアの灯を点していた。




         
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           takeziisan様

          
            有難う御座います
           美しい写真の数々 楽しませて戴きました
           銀杏並木 素晴らしいですね 何本あるのでしょう
           遠く山なみの見える風景が風情を添えます
           このような景色の中を歩いてみたいものです
           夜明けのうたの写真 見惚れる美しさです
           自然が創り出す美 生半可な人間の手の及ばないところです
           普段はテレビを滅多に見ないのですが この季節になるといつも
           番組表を見て自然を映す番組を探しています
            毎年毎年 何度見ても新たな感動と興奮に息を呑み
           感嘆の声を上げています
           月蝕も見ましたがすでに何回か眼にしている風景で
           テレビで騒ぐ程の感動は覚えませんでした これも
           長く生きている事の功罪でしょうか
            柿 羨ましいです 庭に一本欲しい木ですが 狭い庭  
           場所がありません 以前にも書きましたが
           日本の風景の原点という気がします
            足がつる・・・ 年齢と共に夜 寝ている時につる事が多くなりました 
           あの痛さときたら息を止めて耐えているより仕方がありません 
           困ったものです 
            ワクチンは一度も射っていません 外出して他人と会う事もほとんどありませんので 
           副作用との功罪を考え射ちません 幸い 
           健康体ですので
           不要物整理 我が部屋はゴミ屋敷同然 でもこれがまた
               便利でもあります 当分 ゴミ屋敷の住人として過ごすつもりでいます
           意地でもまだ 終活はしない心算で日々生きています
            何時も楽しい記事有難う御座います また
               毎回 記事に御眼をお通し戴く事に重ねて御礼致します






           桂蓮様


           有難う御座いす
          ポワント達成 素晴らしいですね
          いよいよバレーダンサー登場 というところでしょうか
          それにしても人間の可能性というのは凄いものですね 
          バレーもそうですがサーカスなどで見るあの驚異的な体の動き
          ちょっと想像も出来ない動きを平然とこなします          
          要するに人々が出来ない と言ってる事は やっていない
          とい事なんではないでしょうか 努力次第で人はなんでも出来る
          そう思いたいものです
           抽象芸術は奥が深いですね でも 世間には抽象芸術を語った   
          まがい物ががなんと多い事か
           新作が見えなかったので 旧作 他人の悟り を
          拝見しました
           悟りに他人は関係ない 他人は他人 それでよいのではないでしょうか
          吾は吾 花は咲けば散ってゆく 鳥は日暮れになればねぐらへ帰る
          言いたい事があればどうぞ御勝手に あなたはあなた わたしはわたし
          わたしはわたしの真実 わたしの道を歩いて行きます
          お先にどうぞ
           それでよいのではないでしょうか
          無 無は無限の有を含んでいます
           お忙しい中 何時もお眼をお通し戴き
          御礼申し上げます 有難う御座います

遺す言葉(421)小説 華やかな嘘(2) 他 歌謡詞 夜の嘆き 

2022-11-06 11:59:55 | つぶやき
          夜の嘆き(2022.11.1日作)



Ⅰ 夜よこの 果てしない嘆き
  おまえは余りに辛い 辛すぎる
  命ギリギリ 生きて来て
  今はボロボロ ボロボロなのさ
  このわたし

2  何処へただ 流れゆく命
  浮かべる舟さえ今は 今はない
  荒れてすさんだ この川に
  未練ごころの 心も消えた
  このわたし

3  消えてまた 夢ともすネオン
    日暮れを急いで夜が 夜が来る
  派手な化粧の その下に
  誰も知らない 知らない顔の
  このわたし





           ーーーーーーーーーーーーーーー





           華やかな嘘(2)




「住まいですか ?」
「ええ」
「浦和です」
「勿論、結婚はしてらっしゃるんでしょう」
「はい」
「お子さんは ?」
「二人」
「男 ? 女 ?」
「上が男で下が女です」
 明子は軽快な口調で歌うように言った。
「もう、大きいんでしょう」
「男の子が十一歳で、女の子が九歳です」
 明子の顔には軽い笑みが浮かんでいた。
「そう」
 と川野は言ってから、明子との間だけで通じるような感情を笑顔に込めて、
「幸せそうですね」
 と言葉を続けた。
「そうですか ?」
 答えた明子の顔にも過去への微かな思いを込めて、当たり前ではないかと言って、川野を突き放すような笑みがあった。
 川野は明子のその笑顔と口調の中に何故か、自分が拒否されたような感覚を抱いて、ふと、一抹の寂しさを覚えた。
「今でも作詞をしてらっしゃるんですか ?」
 今度は明子が聞いて来た。
 明子は何気なくその言葉を口にしたようだったが、川野はその言葉の中にもやはり、明子の皮肉を感じ取らずにはいられなかった。
「いや、もう詞は書いていない」
 そんな明子に対抗するように川野は、精一杯の虚勢を込めて自信に満ちた口調で答えた。
「でも、音楽関係の仕事はなさってらっしゃるんでしょう」
「ええ、まあ」
 川野は曖昧に答えてうなずいた。
「どんなお仕事なんですか ?」
「ブロデューサーです」 
 川野はたった今、頼み込むようにして十篇の詞を渡して来た、このホテルに部屋を取っている若いプロデューサーの顔を思い浮かべながら言った。
「どんな人の作品を手掛けてらっしゃるんですか ?」
「いや、僕は新人を発掘して育てる方だから、名前の知れた歌手はいないですよ」
 川野は如何にも自信に満ちた態度を気取って軽くいなすように言った 
「でも、新人を発掘して育てるのも、楽しみが多いんじゃないですか」
 明子は言った。
「まあ、それは言えますよね」
 敏腕なプロデューサー気取りのままで言った。
 ロビーには結婚式の披露宴に出席したらしい人々の姿が数多く見られた。
 今日は日柄が良いのだろうか・・・・。
 川野はそんな人々を見ながらぼんやりと思った。あつ
「じゃあ、今は御希望が叶えられてお幸せね」
 明子は口元に笑みを浮かべたまま自然な口調で言ったが、川野にはそんな口調の中にもなんとはない明子の皮肉を感じ取る思いがあって、その言葉が痛いように胸を刺して来た。
「まあ、ボチボチ、なんとかやっています」
 と、川野は言ったが、気持ちは晴れなかった。
 明子にしてみれば、皮肉の一つや二つは言ってみたくなるのも当然だ、という思いが川野にはあった。
 二年に近い幸福な日々が、たった一つの言葉で、風に消されるローソクの火のように消えていったのだ。
 あの時、明子が何処か不安気な、頼りない声で、
「赤ちゃんが出来たみたい」
 と言ったのは、既に川野の胸のうちを読み取っていたのだろうか ?
「子供 ?」
 川野はまるで不意打ちを食らったかのように、明子の言葉に対して驚きの表情を見せて答えていた。
 あの頃、二人は互いに若さを満喫するように生きていた。
 明子は女性雑誌の記者をしていた。
 川野は作詞家の卵だった。新宿のバーでバーテンダーをしながら、既に二、三の作品をB面ではあったがレコード化していた。
 二人はそれぞれの部屋を行ったり来たりしながら、好きな時に会い、好きなように自分達の仕事をしていた。
 あの頃、川野には果てしない希望があった。超繁忙の売れっ子作詞家、そんな未来像が川野を酔わせていた。視線は唯一筋に華やかな作詞家人生に向けられていた。
 明子との関係はごく平凡なバーテンダーと客という間柄から始まった。
 バーのカウンターを挟んでの、ありふれた出会いが、何時しか深い関係になっていた。
 当時、明子は雑誌社で社会探訪的な記事を扱っていた。
 忙しく日本国中を飛び廻っていて、束縛を嫌う自由な女性に見えた。
 お互いがそれぞれ、時代の先端を生きているような思いのうちに、その生活に満足していた。
 二年に近い月日の中で二人の関係は揺るぎのないものになっているように思えた。
 川野はその間、明子が好きか嫌いか、自分の胸に問うた事は一度もなかった。ただ、日々、作詞家を目差し、気心の知れた女性との自由な生活を満喫しながら生きている、それだけで満足だった。





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          桂蓮様

           有難う御座います
          新作 拝見しました
          目には見えないものを見せるエネルギー
           芸術の根本だと思います
          形の向こうに何かが見える その何かは人の内面に訴え掛けるもの
          これが無くてはどんなにきれいな物でも ただの
          見世物ではないでしょうか
           また真に美しいものには夾雑物の入る余地はない
          ただその物の持つ美しさだけが見えて来る
          こうなった時にこそ 真の芸術の誕生と言えるのでしょうね
          その美しさに到達する為には年齢は関係ない それぞれのものが
          それぞれ独自に持つ美しさがあるーー
           冒頭のカンディンスキイ いいですね
          何が描いてあるのか一見分かりかねますが それでも何かしら
                 訴えて来るものがある その訴えて来るものは ?
           わたくしに見えて来るものは音楽です
          何時もお眼をお通し戴き有難う御座います
          それにしても冒頭の掲載写真 毎回 楽しく拝見させて戴いております
          



           takeziisan様

            有難う御座います
           ハーレムノクターン
           ヌード劇場の定番 思わせ振りな踊り子の姿が浮かびます
            サニーレタス 摘まんでみたくなります
            ノラボウ菜 牛糞 ? 肥料として売られているんでしょうか ?
            昔のように道端に転がっているわけでもないでしょうから
             それにしても秋の収穫 柿と共に自然の恵みの豊かさ
            都会生活者には羨ましい風景です 御当地は遠方に山らしきものの見える風景といい
            モミジバフウの並木といい 自然が豊かなようです
            それだけに気候も厳しいのか 水道管の凍結防止 ちよっと驚きました
            こちらでは四 五十年前 布を巻いた記憶がありますが
            現在 そんな心配は昔物語で無用です ですから
            ちよっとびっくりしました
             大賞爺 おめでとう御座います
            川柳 やっぱり爺川柳の方が充実しているようです
            人は逝き わたしは残る・・・・
            こんな短い文章を書いてありますので 何時か
            掲載したいと考えているところです
             ハウゼ わたくしもレコードを持っています
            懐かしいですね
             セナコウチ ? 雪国の人々の映像ではよく見かけますが 
            わたくし共の方ではなかったですね
            ワラ草履は祖母が得意で よく造っていました
            祖母の草履はかっちりしていて 履き良く型崩れがしないと評判でした
            記事を拝見して思い出しました
             今回もいろいろ楽しませて戴きました
            有難う御座います