遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(436) 小説 私は居ない(10) 他 生きるということ

2023-02-26 12:18:16 | つぶやき
        
          生きるということ(2022.4.6日作)


 
 人が生きるということ
 十代 二十代 三十代 四十代 五十代
 時 時間をかけて一つの城
 自分の城を築く作業
 時と共に人は 自身の城を築き 完成させる
 しかし 時 過ぎゆく時間は
 待ってはくれない やがて時は
 人が築いた城 自分の城 その城を
 崩壊 朽ちさせ 消してゆく
 六十代 七十代 八十代 九十代・・・・
 自身の築いた堅固な城も
 過ぎゆく時 時間の経過の中で
 少しずつ 少しずつ 朽ちてゆき やがて時が
 過ぎゆく時間が 人間 人の力を奪い 周囲の景色を変え
 城を包む世界を変えてゆく 少しずつ 少しずつ
 自ら築いた堅固な城 その城をも 砂の城へと変えてゆく
 足下から崩れる砂の城 崩れてゆく砂の城
 生涯かけて築いた城が そうして 消えてゆく
 少しずつ 少しずつ 消えてゆく その景色 その姿
 その姿と共に人もまた 朽ち 衰え 消えてゆく・・・・
 人の世の常 後に訪れるものは 残されるものは
 永遠の闇 無 無 無




        ーーーーーーーーーーーーーーーー




         私は居ない(10)



 その元女将の言葉は、その場に思わぬ活気を与えた。
 伯父も女も好奇心に満ちた視線を元女将に向けた。
 私も勿論、予想をしなかった言葉だっただけに、思わず沸き上がる期待感と共に言っていた。
「その写真、今、探して貰えますか ?」
「ええ、写真帳ならすぐに出せますよ。でも、そこに〆香の写真があるかどうか」 
 元女将は言った。
 その言葉を受けて女が言った。
「わたしは川万さんで何枚かの写真を撮っています」
「そうですか」 
 元女将はそう言うとすぐに腰を上げた。
 私達は部屋を出て行く元女将のうしろ姿を好奇心に満ちた視線で見送ったが、誰もなんとも言わなかった。
 元女将が程なくして古びた、かなり大型の写真帳を手に戻って来た。
「有りましたよ。たった一枚ですけど、〆香の当時の写真が有りました」
 元女将は椅子に腰を降ろす前に嬉しそうに言った。
 椅子に腰を落ち着けると元女将は早速に、写真帳をテーブルの真ん中に置いてページをめくり始めた。
 中程で手を止めると、写真帳の向きを変えて私達の方へ差し出し、右側のページの上の一枚の古ぼけた写真に人差し指を置いて、
「これが当時の〆香です」
 と言った。
「眼鏡を掛けなくちゃ分からん」
 伯父が上着の内ポケットを探って老眼鏡を取り出した。
 女は即座に元女将の指差した写真に体を乗り出して見入ったが、
「ああ、これはわたしです」
 と言った。
 私は女の横から体を乗り出して元女将の指差した写真を見た。
 はがき大程のやや茶色がかった写真には芸者姿の女の上半身が写っていた。
 その下には昭和十三年正月 川万にて 〆香 と記されいた。
 眼鏡を掛けた伯父が手を延ばして写真帳を手元に引き寄せ、改めてその写真に見入った。
「ああ、これは〆香だ。間違いなく〆香だ」
 伯父も即座に言った。
 写真の中に見る〆香はまだ若く、頬もたっぷりとしていたが、今現在、私の横にいる〆香と名乗る女性に通う面影が何処かに垣間見られた。私自身も写真の中の若い女が現在、〆香と名乗る女性と認める事に異論を挟む事は出来ない気がした。
「これは正しくあなたですね」
 私は写真に眼を落したまま口にした。と同時に私は、何故、元女将が写真の中の女を〆香と言いながら、今現在、眼の前にいる女性を〆香と認めないのか、不可解な気がして、
「女将さん、この方は、この写真の〆香とよく似ているじゃないですか」
 と、元女将に言った。
「そうでしょうか、確かに似ている所はあるのかも知れませんけど、だけどあなた、何よりも〆香はもう、亡くなっているんですよ。これは実際にわたしが係わった事で、この事実だけはどうする事も出来ませんから」
 元女将は敢えて依怙地になっていふうにも見えなかった。信念の滲み出ている言葉だった。
「でも、ほら。顔の輪郭といい、鼻筋辺りといい、歳による変化はあるけど、この人と同じだ。それに、この唇の右下の薄いホクロ、この人にもある。ねえ、伯父さん」
「うん。だから俺はこの人は〆香だってさっきから言ってるだろう」
 伯父は私の言葉を批難するように言った。
「写真の中の〆香は確かに〆香です。でもさっきも申しましたように、当時の〆香はもう、亡くなっているんです」
 元女将は頑固に言い張った。
 その時、女が口を挟んだ。
「失礼ですけど女将さん、女将さんの当時のお写真は御座いませんでしょうか」
「わたしの写真ですか。有りますよ」
 元女将はそう言うと改めて写真帳を手元に引き寄せ、ぺーじを前の方にめくり戻した。
「これがわたしの当時の写真です」
 元女将はそう言うとまた、私達の方へ写真帳を向け直した。
 そこには四十歳ぐらいの和服姿の、如何にも女将といった感じの女性の写真があった。
「ああ、これは若い頃の女将だ」
 伯父が一目見て、当時を懐かしむかのように柔らかい笑顔を浮かべて言った。
 私は写真の中の女将と現在の元女将とをそれとなく見比べた。
 女の場合と同じように元女将に付いても同じ状態が生まれていた。私には双方を否定する事が出来なかった。
「どうですか ?」
 私は女に尋ねた。
「この方が、当時、わたくしがおりました川万さんの女将さんです」
 女も言った。
「それで、この方が、写真の中の女将さんと違うんですか ?」
 私は元女将に聞いた時と同じように女にも聞いた。
「はい。何度も申しますようですが、川万さんの女将さんはお亡くなりになっておりますので」
「ちょいとちょいと、あなた。縁起でもない事を何度も言わないで下さいよ」
 と、元女将は機嫌を損ねたように言った。
 それはお互い様だったが、女は、
「わたくしは女将さんの事を申し上げているのでは御座いません。わたくしが
居りました時の女将さんの事を申しているので御座います」
 女も反発するように言った。
「これはわたしです」
 元女将が言った。
「いいえ、違います」
 静かな口調だったが、女も譲ろうとはしなかった。
「そうです。わたしに間違いはりません」
 元女将は言った。
 私は元女将と女との間の不穏な雰囲気を察知して、
「なぜ、こうも総てが違うんです。写真の中では総てが一致するのに」
 と、悲観的に言った。
「写真の中の女将も〆香も間違いなく、女将であり、〆香だからだよ」
 伯父は言った。
「だとすると、この方達が違うんですか ?」
 私は言った。
「違いありませんよ」
 元女将が言った。
「違いありません」
 女が言った。





           ーーーーーーーーーーーーーーーーー





           takeziisan様


            今回も懐かしさを呼び覚ます数々の記事 楽しく拝見させて戴きました
            今週の明星 よく見付け出しました 懐かしい歌声です
            娯楽の乏しかった時代 毎週 楽しみにしていたものでした
            藤本二三吉 そこで聞いた記憶があります 当時
            赤坂小梅 市丸 勝太郎 音丸 などとそうそうたるメンバーが揃っていたものですが
            二三吉は一番早く亡くなってしまいました
            後の藤本ふみ代が娘ですね
             昼下がりの情事 ヘップバーンと共にクーパーです
            少し前にクーパーの 遠い太鼓 という映画を観てクーパー主演の映画には
            どんなものがあるのかなどと 思い浮かべていました 当然
            昼下がりの情事も含まれていました 偶然を面白く思いました
             水泳三十年 よく続きました それでもまだ基本の練習 ?
            いい加減にしてくれよ と言いたくなるのでは ?
             つららーーかねっこおーり 初めてです 面白い表現です
            一覧を拝見していますと 以前 拝見したにもかかわらず
            結構 似たような表現が在るものだ と改めて思いました
            狭い日本国 共通する部分も多いものですね
             自然の景色 鳥たちも寒そうです
             クンシラン 外に出しっ放しのせいか まだ蕾さえ見当たらないようです
            昨年は確か今頃には蕾が見られた気がするのですが       
            今年は寒さが強いのでしょうか  
             何時も楽しい記事 有難う御座います ホッと
            くつろげる瞬間です
            毎週 自分の思いだけを綴った退屈な文章にお眼をお通し下さる事への感謝と共に
            御礼申し上げます
             有難う御座います







遺す言葉(435) 小説 私は居ない(9) 他 トルコ地震とプーチン

2023-02-19 12:27:36 | 小説
          トルコ地震とプーチン(2023.2.10日作)


 トルコ  シリア地震 
 救出困難と思われる
 過酷な状況下
 一つの命が救い出される
 心の緊張 緊張のタガがはじけて
 喜び 昂ぶる心が舞い上がる それが
 幼い子供であれば なおの事
 肩を寄せ合い 身体を重ね 
 必死に尽くす救助の人達 市井の人々
 日常 事がなければ 市井を生きる
 平凡な市民 その人達の必死に尽くす姿の
 尊さ 崇高さ 人の命の重さを知る人達
 それに比べて プーチン ロシア大統領
 無意味な戦争 他国への侵略 侵攻を企てて
 残虐 非道を繰り返す 人の命の尊さ 重さを計れぬ
 愚かな人間 それが一国 国の大統領
 人の命の尊さ 重さ その尊厳を守る為
 必死に尽くす一般市民 市井の人々
 自身の欲望 野望の為 人の命の重さも顧みぬ 愚かな
 一国の大統領 
 一体 どっちが高貴で崇高か !
 空虚な名称 地位に惑わされるな




          ーーーーーーーーーーーーーーーー




           私は居ない(9)



「はい、存じませんね。わたしが知っている〆香は横川社長さんとの間に出来たお子を産んで、その難産が因(もと)で、お子さん共々、亡くっなってしまっていますから」
 元女将は迷いのない口調で言った。
「女将、それはあんた、何か勘違いをしてるよ。俺はあんたと〆香の手を通してこの子を受け取ったじゃないか。それに、この子は現に今、此処にこうしているんだから」
 伯父は元女将を責めるような厳しい口調で言った。
「いいえ、そんな事はあり得ません。わたしはこの方にも、お二人が亡くなった事は申し上げましたんですが、先生は何か、御記憶違いをなさってらっしゃるんですよ」
 元女将は静かな口調で伯父を諭すように言った。
「いや、記憶違いなんかじゃないよ。〆香もここに居るし、この人もここに、こうして居る。俺の記憶違いなら〆香もこの人もここには居ないはずだ。女将は昔の事を忘れてしまってるんだよ」
 伯父はそれぞれ口にした二人の方へ顔を向けてから、元女将に視線を戻して言った。
「いいえ、忘れてはいませんよ。今でも当時の事ははっきりと覚えて居ります。亡くなった〆香のお子さんも〆香もわたしが灰にして、一切の手続きを済ませたのですから。お葬式こそ、〆香の郷里の銚子で行われましたが」
「失礼ですが女将さん、それは〆香ではない、他の誰かの事では御座いませんか。あるいは、時代が違うのではないでしょうか。わたくしが御厄介になっていた当時の女将さんは昭和二十何年かかに亡くなっておりますので」
「そんな事はありませんよ、あなた。何も違っていませんよ。少なくともわたしは昭和五年から三十年以上も川万の女将として、一切を取り仕切って来たのですから。あなたこそ、何かの勘違いをしているんじゃないですか」
「わたしは確かに、その期間のある時期、川万さんに御厄介になっていました。川名先生も存じていて下さいます事ですので、間違いのない事です」
 元女将と女の遣り取りには少なからずの感情の昂ぶりが混じるようになって来ていた。
 伯父はやや憮然とした表情で二人の遣り取りに聞き入っていたが、
「そうだ、この人は〆香に間違いないよ」
 と、女の言葉を保証するように言った。
 元女将はその言葉を聞くと、
「じゃあ、わたしは違うって言うんですか」
 と、伯父に食って掛かるように聞いた。
「いや、違わない。確かに川万の女将だった」
 それから伯父は言葉を継いで、
「ただ、俺には分からないのは、なんで二人がお互いにそんな頓珍漢な事を言い張っているのかという事だよ。お互いが子供を産んだの産まないの、死んだの死なないのって勝手な事を言ってる。当時の証人の俺ここに居るのにも拘わらずだよ」
 と、二人を責めるように言った。
「でも先生、わたしは本当の事を申しているのでして、先生も何かの思い違いをなさっていらっしゃるのでないでしょうか」
 二人が同じような事を言った。
「いいかい二人共、もし、俺の言う事が間違っているって言うんなら、女将も〆香も偽者だっていう事だよ。そっくり同じような形をした人間の偽者だ」
「そんな事はありませんよ。わたしは正真正銘の川万の元女将ですよ」
「わたくしも〆香です。間違いは御座いません。もし、わたくしが偽者だと言う方がいらっしゃれば、その方こそ偽物です」
「俺は偽者なんかじゃないよ。れっきとした川名登だ」
 伯父がむっとしたように言った。
「いったい、これはどうなっているって言うんです。全く訳が分からないじゃないですか。それぞれが全く違った事を言っていて、何もかもが辻褄が合わない。どういう事なんですか ?」
 私は痺れを切らし、思わず口を挟んだ。
「勝手な事など言ってないよ。本当の事を言ってる」
「わたしも本当の事を言ってるんですよ。少なくとも今のわたしに取っては、あなたがお聞きになっていらっしゃる事は、わたしにはなんの関係もない事ですので」
「わたくしが一度も子供を産んだ事がないのは確かな事で、嘘をついてもなんの益にもならない事です。それにわたしはここにちゃんと、こうして居ますので」
「失礼ですが、あなたの郷里はどちらですか ?」
 元女将が女に尋ねた。
「銚子で御座います」
「銚子 ? 銚子のどちら ?」
「XXXで御座います」
「死んだ〆香の郷里は何処ですか ?」
 私は元女将に聞いた。
「XXXです」
 元女将が女が同じ地名を口にした事に、不思議そうな気配を浮かべて言った。
「番地は分かりませんか ?」
 女が元女将に聞いた。
「番地までは・・・。何しろもう、昔の事ですし」
 元女将は言った。
「あなたの方の番地は分かりますか ?」
 私は女に聞いた。
「XXX二丁目です。でも、そこにはもう、誰もいません。両親も兄夫婦も亡くなり、その子供達もみんな東京へ出て来てしまっていますので、わたくしの幼い頃を知る人は誰もおりません」」
「そうですか」
 私は言った。それから、この混乱状態の中で真実を見付け出す事にほとんど絶望的な思いに陥りながら、
「何か、当時の様子が分かるような書き物なんかないかなあ」
 と、独り言のように言った。
 誰も答えなかった。互いに期待し合うようにそれぞれが、それぞれの顔に視線を移した。
 しばらくの沈黙が続いたあとで元女将が、ふと気付いた、という風に、
「ことに依ると、当時の〆香の写真がまだ有るかもしれませんよ」
 と言った。





          ーーーーーーーーーーーーーーーーー



    
           桂蓮様

          有難う御座います
         不眠症 辛さが想像出来ます
         バレーなどのハードな運動をしていても眠れないのでしょうか
         他人事ながら困ったものだと思います
         眠りは総ての面に於いての基本となるものですものね
         どうぞ 御無理をなさらぬ様に
          ブログ開設から1000日 良い言葉が並んでいますが
         この内容と不眠症 無関係ではないと思います
          以前にも書いたと思いますが 桂連様の絶えず物事を
         深い次点で捉えようとする御性格が多分に影響しているのではないかと
         思います
          物事を突き詰める この性格を持つ人は小さな事でも神経を煩わし
         知らず知らずのうちに心に負担を強いている
         そんな事が眠りの中にも影響しているのではないでしょうか
         気楽 それこそ禅の世界の無 何事も無い 今日も精一杯生きた
         その満足感の中で 気持ちを落ち着かせ 眠ろうとはせずに
         静かに眼を閉じていれば良いのではないでしょうか
         眠ろうとはせずに眠る 眠たくなれば眠れる ここにも坐禅の心が活きて来ます
         ただ静かに無の世界に身を委ねる どうぞ何事にも御無理をなさらぬように
         お大事にして下さいませ



           takeziisan様


            有難う御座います
           いろいろ懐かしい音楽 音楽は明瞭に当時の事を
           彷彿させますね 音と共に無意識の裡に当時が蘇ります         
           音楽の効用ですね
           愛情物語 リバティバランスを射った男 慕情
           何度も観ています
           日本映画にしてもそうですが 当時の作品の方がしっかりと
           作られている気がします 現代の作品はなんとなく軽い感じが否めません
           俳優もそれぞれ良いですしね わたくしがもう一度観てみたいと思う作品は
           今日拝見した俳優の中ではジェニファー ジョンーズの「終着駅」です
           これはなかなか観る機会がなくて もう一度観てみたいです
            我が心のジョージア 妹の為に・・・そうだったのですね
           初めて知りました
           やは りレイ チャールズ です 素朴に唄っていて心に沁みる
           やたらに つくって 唄われると臭みだけが鼻に付きます
            ひな祭り 当地では勝浦のひな祭りが有名で一度 兄妹みんなで見に行った事があります
           やはり豪華に飾られた祭壇や神社へ上る石段に処狭しと飾られた雛人形が見事でした
            それも既に遠い昔 幸い兄妹も皆 元気ですがいい思い出です
           人間 歳と共に想い出はただ 切ないものに変わってゆくばかりです
           どうぞ 何時までもお元気で この楽しいブログを
           お続け下さいませ
            何時も有難う御座います

遺す言葉(434) 小説 私は居ない(8)  他 心

2023-02-12 12:30:00 | 小説
           心(2023.2.6日作)


 人の一生は短い
 人間 百二十歳が命の限界
 それなら人は せめて その
 短い命の中で これが
 あの人の手に為るもの 
 と言える 何かを一つ
 残そうではないか そこに 
 その人独自の暖かみ
 温もりの感じ取れる何か
 ーーたとえ庭の木一本でもーー
 その何かを残す事で 人は
 今は亡き あの人 この人 その
 姿を思い その心を
 感じ取る事が 出来る
 人は心 心は人 人の心は  
 人から人へ 胸から胸へ 通い合う
 通う心 触れ合う心 
 姿 形は見えなくても
 通う心 触れ合う心は永久不変
 永遠(とわ)に繫がり
 結ばれる



             ーーーーーーーーーーーーーーー




            私は居ない(8)





「実は、女将にお会いしていろいろお話しを伺って帰ったあとで、三、四日すると私の所に見知らぬ女が訪ねて来たんです。それで、話しを聞いてみると女は、自分が〆香だって言うんです。だから私は川万の元女将は〆香は死んでるって言ってますよって話したんですが、女は、それは何かの間違いだって言って譲らないんです」
「〆香だって ?」
 元女将は呆れた様子を見せると、私の話しの途中にも係わらず言葉を挟んで来た。
「ええ」
「それは、あなた、嘘ですよ。インチキです。偽者ですよ」
 元女将は少し気色ばんだ口調で早口に言い立てた。
「私も始め、そう思ったんです。何しろ、女将さんに詳しい話しを聞いて帰った後なので。でも女は、やっぱり何かの間違いだって言って譲らないんです。それに、川万の当時の女将は二十五年前に死んでいるとも言うんです」
「ちょっと、ちょっと、待って下さいよ。わたしが死んでる ? 二十五年前に ? なんて事を言うんです。わたしは現に此処にこうしているじゃありませんか。全く、なんて嫌な事を言うんです !」
 元女将は腹立たしげに言った。
「女も全く同じような事を言ってました。川万の元女将は、〆香は死んでいると言ってますって言うと、わたしは現に此処に居ますって。それで私も困ってしまって、それならと思い、当時の〆香を知っているっていう私の伯父に会って貰ったんです。すると伯父は女を一目見て、この人は〆香だって言うんす。それで私は一層、こんぐらがってしまって女将さんにもその女に会って貰えないかと思い、伺っような訳なんす」
 元女将は私の申し出に躊躇う気配も見せず、むしろ積極的な様子で言った。
「ええ、構いませんよ。わたしの方にはなんの不都合もありませんし、わたしも死んだなんて言われては良い気持ちのものではありませんから。それにしてもあなた、気を付けた方がいいですよ。何かの騙(かた)りかも知れませんから」
 それから元女将は私がここまで〆香に拘る事に疑念を抱いたらしく、
「いったい、何故、そんなに〆香って言う芸者の事を知りたいんですか」
 と聞いて来た。 
「いえ、ちょっと訳がありまして」
 私は事の真相が分からないままに、私の出自に対する疑念を公にはしたくない思いだった。
 私は川万の元女将という女性の許諾を得ると早速、それぞれの日程を聞き、調節して元女将に連絡した。
 元女将は、わたしは足が少し弱いので、出来ればこちらへ出向いて欲しいという希望だった。
 それから二週間後の日曜日、わたしは車でまず三光町の伯父の家を訪れ、その後、築地にある女のマンションへ向かった。
 元女将に来訪を告げると、元女将自らが玄関へ出て迎えてくれた。
 元女将は三人で並んで立った玄関先で、伯父の顔を見ると、
「まあ、川名先生。これはこれはお珍しい方が !」
 と言って、心底、驚いた様子を見せた。
「いやあ、お久し振り」
 と伯父も笑顔で応えて手を握り合った。
「その後、お変わり御座いませんか。テレビなどでは時々、拝見しております」
 女将は言った。
「いや、もう、駄目だね。すっかり老いぼれた」
 と言って、伯父は嬉しそうに笑った。
「こちら、伯父様が川名先生と申しますと、横川社長さんの・・・・」
 元女将は驚いたような顔で言って、伯父の顔に視線を移した。
「そう、横川の一人息子」
 伯父は言った。
「そうでしたか」
 元女将は初めて納得したように言って笑顔を見せ、私を見詰めた。
 それからすぐに、
「さあ、どうぞ、どうぞ」
 と言って、扉の開かれたままになっていた玄関の内へ三人を導いた。
 その間、女と元女将の間に通い合うと思われるものは何もなかった。私達三人の中で女は門外漢のようにさえ見えた。
 私達はすぐにこの前、私が通された部屋へ案内された。
 テーブルの上には真新しい花が飾られていて、私達を迎える準備を元女将が抜かりなく済ませていたようだった。
 三人が並んで丸テーブルを囲むと元女将は、
「お食事は ?」
 と聞いた。
「済んでます」
 私は言った。
 お茶の道具が運ばれて来た。
 お手伝いの若い女性が部屋を出てゆくと早速、女将が口を開いた。
「まさか、横川社長さんのお坊ちゃまとは存じませんでしたので、失礼を致しました」
 元女将は改めて私に向かって言った。
 私はは早速、本題に入る心算で、                    
「この方が〆香さんです」
 これまで門外漢でいた女性を紹介した。
 元女将は軽く頭を下げて女に挨拶をしたが、すぐに、
「あなたは昔、うちに居たのですか ?」
 と聞いた。
「はい。昭和十六年まで、この川万さんに御厄介になっていました」
 女が初めて口を開いた。
「〆香としてですか」
「そうです」
「失礼ですが、わたしはあなたを存知上げませんが」
 元女将は不審の色を浮かべたまま、幾分、厳しい口調と共に言った。
「わたくしも女将を存知上げません」
 女は、はっきりとした口調で言った。
「おいおい、二人は一体、何を言ってるんだよ」
 伯父が二人の遣り取りに入って、呆れたような口調で言った。
「お互にああして、毎日、顔を合わせていたじゃないか」
「わたし達がですか ?」
 元女将が信じ兼ねる思いの表情を滲ませて言った。
「そうだよ」
「いえ、そんな事は御座いません。わたくしは女将さんを存じ上げておりませんので」                                  
 女が言った。
「わたしも、この方を知りませんよ」
 元女将も女に口調を合わせるように言った。
「二人とも全く、何をとぼけているんだよ。女将、あんたは本当にこの人を知らないのかい。この人は〆香だよ」
 伯父は元女将にねじ込むように言った。





           ーーーーーーーーーーーーーーーー




           takeziisan様


            有難う御座います
           過ぎ逝く時の速さに今更ながらに驚かされます
           河津桜まつりの写真 もう四年前になりますか
           拝見しております 記憶に残っています
           人もこうして気付かぬ間に老いてゆくのでしょうね
            愛の賛歌 越路吹雪 今 このように華を持ったエンターテイナーがいるでしょうか
           あの時代が懐かしいです
           わたくしは今 かつてのラジオ歌謡にはまっています
           無論 パソコン上での視聴ですが 懐かしさを誘われます
           隠れた名曲が幾つもあります 川柳ご同様 引導パソコンに近い機種です
            百人一首 むしろ添えられた写真に感嘆 よく御撮りになりました
           川柳は相変わらず楽しく・・・ ニュウーフェス どうぞ御用心を
            栴檀の実 懐かしいです 以前にも書いていますが
           子供頃いたわが家には門前に二本の栴檀があり 沢山の実が生り 落ちました
           その実を思い出します  
            初雪 こちらは雪なし 驚きです
            都々逸 漫談などいろいろありましたね あのような情緒はもう
           無理なのでしょうか 公共放送のNHKは 民放番組を真似したような
           愚にも付かない娯楽番組などを放送せず このような芸能の持続継承に                            
           力を入れて貰いたいものです
            お忙しい中 何時もお眼をお通し戴き御礼申し上げます
           有難う御座いました









       

遺す言葉(433) 小説 私は居ない(7) 他 仕事 芸術作品

2023-02-05 12:58:53 | つぶやき
         仕事(2022.12.11日作)


 今の自分の仕事を
 誰も分かってくれない と
 嘆く事はない それが
 真実の仕事であるなら 未来の
 今の人間よりは もっと賢く
 聡明な人達が 何時かきっと
 理解して くれるだろう
 今はただ ひたすら
 自分の仕事に打ち込み 磨きをかけ
 真実の道を突き進んでゆけば
 それでいい

        
         芸術作品(2022.12.15日作)

 
 芸術とは
 人間を映す鏡だ
 優れた芸術作品は
 どんな種類の作品であれ
 観る者の心を 人間性を
 的確に映し出す
 芸術作品を美醜で見るのは誤りだ
 人の内面 心の奥底に光りを当て
 照らし出すもの それこそ
 芸術作品





          ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             私は居ない(7)





 伯父はソファーの肘に両腕を置いたまま女の話しを聞いていたが、軽く頷くと、なる程と言って、それから言葉を続けた。
「多分、あなたとしたら、今更という気持ちがあるのかも知れない。だけど、この事はここだけの話しとして、どうか本当の事を言ってくれませんか。この人も本当の事を知れば気が済むだろうし、あなたに、今になって迷惑を掛ける心算もないので、いや、宜しかったら、失礼だが、多少のお礼を差し上げてもかまわないって、この人は言ってるんです」
 女は伯父のその言葉にもすぐに応じた。
「はい、そのお志はとても有難いと存じます。でも、実際に母親でないわたくしには母親だと偽る事は出来ませんのて・・・」
「困ったなあ。あなたにそう依怙地になられては」
 と、伯父は心底、困惑したように言った。
「いいえ、依怙地になっているのでは御座いません。おそらく、先生の方の何かの思い違いではないでしょうか」
 実際、そう言った時の女の表情には依怙地の影は微塵もなくて、むしろ、伯父を諭すかのような静けささえが浮んでいた。
 伯父はそんな女の表情をじっと見詰めていたが、ふと、何かに気付いたかのようにソファーで軽く身を乗り出すと、
「あなたは確か、昭和十五年頃、横川と交際していましたよね」
 と聞いた。
「はい」
 女は肯定する表情で静かに頷いた。
「横川の死んだのが昭和十五年だった。その前の年にあなたはこの人を産んで、自分一人の手で育てるとかなんだとかで、すったもんだしたじゃないですか。その当時の事はよく覚えているが」
 伯父は首を伸ばし女の表情を覗き込むようにして言った。
 言葉には確信に満ちた強い響きがあった。
 女はそんな伯父の、問い詰めるような言葉にも動じる気配を見せなかった。
「確かに、横川社長さんのお亡くなりになられたのは昭和十五年でした。わたくしと社長さんの交際はその前の二年足らずでしたからよく覚えております。わたくしは横川社長さんに奥様がいらっしゃる事も存じ上げておりましたし、奥様の座を奪おうなんて、そんなお怖れた気持ちを持った事も御座いませんでした。でも、わたくしはどうしても社長さんとの間に出来た子供が欲しくて、わたし一人の手で育てますから、と何度もお願いしたのですが、社長さんは、うんとは言ってくれませんでした。そして、そんなこんなをしている間に社長さんがお亡くなりになってしまわれたのです。わたくしは社長さんがお亡くなりになったと知ると、お腹の子供を失った悲しみと共に打ちのめされた思いで生きる気力も失くしてしまって、川万も辞めたのです。ですから、先生のおっしゃるのは誰か他の方では御座いませんか」
 伯父はその言葉を聞いても、なお強い調子で譲らなかった。
「いや、そんな事はない。わたしはこの人を引き取る時に川万の女将と一緒に立ち会っているんだから」
「わたくしがその席に居たのでしょうか」
 女は言った。
「居た。確かに居た。わたしはあなたに会っている」
「いいえ、それは先生の御記憶違いで御座います」
 女もまた、静かな口調だったが譲らなかった。
「記憶違いじゃない」
 伯父の口調は次第に熱気を帯びて来ていた。
 私はそんな伯父の様子を見ると少し気懸りになって来て、
「伯父さん、僕が会った川万の女将という人は、〆香もその子供も死んでいるって言うんですけど」
 と、横合いから口を挟んで念を押した。
 すると、私の言葉を受けて女が言った。
「それは若旦那様、川万の女将じゃ御座いませんよ。川万の女将は何度も申しますように、二十五年程前に亡くなっておりますので。わたくしが川万を辞めて郷里に帰り、二年程居て、また東京へ出て来て三年目に最初の結婚をしたのですが、その年に川万の女将が亡くなったのです。わたくしが結婚の知らせ方々、川万へ伺った時には女将は病床に居て、それから半年程後に亡くなりましたので、よく覚えております」
「でも、私が会った女将という人は、父の事や当時の〆香の事をよく知っていましたよ」
「いいえ、それは多分、違う人です」
 女の言葉はやはり、自信に満ちていた。
「間違いなく、川万の女将だって言ったのかい」
 伯父が言った。
「ええ。だって、〆香の事を聞いたらはっきりと家に居た、って言ってましたから。それに表札も間違いなく川万でした」
「しかし、〆香が死んだなんておかしいじゃないか。現に、此処にこうして居るのだから」
 伯父の口調は疑いに満ちていた。
「ええ」
 私は言ったが、正直なところ頭の中は何がなんだか分からなくなっていた。それで私は最後の結論を出すように、
「もし、宜しかったら、お二人でその川万の女将という人に会って貰えませんか」
 と尋ねた。
「ああ、構わないよ」
 伯父は気軽に請け合ってくれた。
「どうでしょう、お会いして貰えませんか。お忙しいところ、何度も済いませんが」
 私は女に聞いた。
「はい。わたしの方は結構で御座います。そうした方がいっそ、事がはっきりして宜しいんじゃないでしょうか。わたくしとしても、死んだなんて言われて、いい気持ちのものでは御座いませんので」
「そうして戴けると助かります」
 その日の話し合いはそれで終わった。が、いずれにしても真相は闇の中だった。
 翌日、私は川万に電話をしてもう一度、お会い出来ないかと聞いてみた。 
 何時でもどうぞ、という答えだった。
 その翌日、川万を訪ねると例の女将は既に承知をしている私の顔を見て、
「なんですね、また」
 と、親しみを込めた笑顔で言った。





           ーーーーーーーーーーーーーー




             桂蓮様          

            新作 拝見しました
           不眠症 わたくしには無関係 何処でもわたくしは
           よく眠れます 以前 母が病院通いをしていた時
           付き添って行き 診察時間までの待合室でも椅子に座ったまま
           グウグウ居眠りをしてしまいますので こんな所でよく眠れるねえ
           と 母に呆れられたものでした
           今でも横になればバタンキュー寝入ってしまいます
            それにしても指圧 これはバカにしたものではありません 
           眼の 耳の 喉の 鼻の 首の 腕の 至る所の指圧を毎日欠かしません
           身体を揉みほぐす 大事な事です 血流の滞りが 万病の元ではないのでしょうか
           長年の神経痛も自己流の柔軟体操 指圧で治しました
           老化現象を除いて、悪い所は何処にもありません 健康診断の医師には
           百歳まで生きられると言われましたが 人の命ばかりは分かりません
            何時もながら冒頭の写真 いいですね なんだか夏の雲に近いものを感じます
           それにしても空だけの写真の中に広い空間が感じられて
           庭の広さが想像出来ます 日本の都市空間ではなかなか望めない景色です
            いろいろ お忙しい中 このブログの為に時間を割いて戴き感謝申し上げます
            有難う御座います



             takeziisan様

           今回も美しい自然の風景 数々の写真 楽しませて戴きました
           枯れた樹々の間に通う小道 子供時代に暮らした日々と自然が
           甦ります
            大連旅行 いい思い出ですね それにしも数多くの旅行経験
           人生の宝物ではないでしょうか 歳と共に自ずと遠出も出来なくなります
            アオジ 懐かしいですね 松林の多い自然豊かな地で暮らした子供時代
           ホオジロ ウグイス アオジなど 自分で編んだ竹籠に入れて
           飼育した記憶が蘇りました いい思い出です
            細ーく 長ーく・・・・無理をせず          
           七十代の終わりごろ 一年で一・五センチ身長が縮んだ事がありました
           幸い 体重 胴回り ここ何十年も変化がありません
           おかげで健康体です
            下駄 わが家にも桐の古い男物の下駄があります
           雨や小雪の日などには履いて庭に出ます
           素足に桐の下駄の感触は心地良いもので
            鳥の名前 ほとんど知っていた事に我ながら驚いています
            懐かしい歌のあれこれ 古いレコードなども持っていますが
           こういう機会でないとなかなか聴く時間がありませんので 
           懐かしく 楽しく拝見させて戴きました
            何時もながらに御礼申し上げます
            有難う御座いました