遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(364) 小説 十三枚の絵(1) 他 天才 パラリンピック

2021-09-26 12:31:03 | つぶやき
          天才(20210,9.12日作)


 天才がしばしば 孤高の境地に住したり
 奇行に走る と 思われたりするのは
 天才という存在が 並みの人間の思考
 あるいは 
 感情能力の世界を超えた 
 一段高い境地にいる 為に 
 他ならない
 天才は 自身の能力からすれば 極
 自然の世界を生きている それが
 並みの人間には 理解を超えた
 別世界の出来事 に思え 奇人 変人 奇行の人 と
 見られるのだ
 天才 孤高の人に取っては 極めて
 迷惑な話しに違いない



         パラリンピック

 
 パラリンピックが醸し出す感動は
 人間は意志さえあれば 
 不可能はない その自覚を目覚めさせてくれる 
 その事の中にある
 手が不自由 足が不自由 眼が 耳が不自由 等々
 それでも その障害を持った人々は 自分の意志で
 見事 困難を克服して見せてくれる
 そこに生まれる感動 並みの感動では捉え得ない
 一段と高く 深い感動 が ある
 諦めるな 人間に出来ない事はない
 総ては意思の問題 気持ちの問題
 やれば出来る !





          ----------------





          十三枚の絵(1)



 わたし達は狩猟解禁日を迎えると、十一月三日「文化の日」の前後、毎年、猟に出かけた。既に六年続くわたし達の慣習で、最近では年中行事のようになっていた。メンバーはわたしの他に、旅館を経営する森本浩三、地元の農家の辰っあん、そして、絵を描いている結城良介さんの四人だった。
 わたしと森本浩三は昭和三十五年卒業の大学同期生だった。辰っあんと結城さんは、わたし達より二つか、三つ年上のはずだった。
 森本浩三は大学を出てしばらくは、東京で商社勤めをしていたが、旅館を経営する父が亡くなると実家に戻り、跡を継いだ。
 地元に戻った森本は初め、辰っあんと二人、ライフル銃を担いで山の中を歩いていたが.そこにわたし達が加わり、結城さんが加わりして、四人になった。
 わたしは最初、免許もないままに森本に誘われ、後を付いて歩いていた。だが、そうしているうちに次第にその魅力に魅せられ、虜になっていた。
 結城さんがメンバーに加わったのは、わたしに遅れる事二年だった。
 結城良介さんは、日本橋で老舗を誇る乾物商の長男だった。絵を描く事が好きで、四年前に年老いた両親の世話を条件に、家督の一切を妹夫婦に譲ると、自分は房総の地に住むようになっていた。
 結城さんは一度も結婚した事がなかった。大学で経済学を学んだあと、本来なら家督を継いで家業を切り盛りしてゆく身だった。結城さん自身、そのつもりでいたらしかったが、大学四年、卒業の年に見たルドンの絵が決定的な影響を結城さんに与えていて、その運命を思い掛けない方向へ導いていた。一人の画家の絵が二十歳を越えた人間に決定的な影響を与える・・・、芸術には疎いわたしには分からない事だったがーー。
 無論、芸術に限らず、思い掛けない一瞬が人間に、決定的な影響を与えるのは、よくある事ではある。
 結城さんは寡黙な人だった。わたしが出会った最初から、悲しみを裡に秘めたような表情をしていた。わたしは初め、その表情が芸術家といわれる人に特有のものかと思っていたが、そのうちわたしは、芸術家の総てが総て、結城さんのような表情をしている訳ではなく、それが結城さん特有の表情である事をすぐに理解した。結城さんは思い通りに自分の絵が描けない事に悩んでいたのだ。
 結城さんの絵はわたしなどから見ると、いかにもきれいな絵肌で描かれていて美しかった。結城さんに言わせると、その美しいのがいけないのだ、という事だった。
「なぜ、美しいのがいけないんです ?」
「魂がない、という事なんですよ。美しさは美しさでも、魂のこもった美しさでなければならないんです」
「わたしなどから見れば、充分、心のこもった美しい絵に見えますけど、これ以上、どうすればいいんですかね」
 わたしは、お世辞ではなく言った。
「煎じ詰めれば、才能の問題でしょうね。才能のない人間が、いくら努力しても、結局は、才能以上のものは出来ないという事でしょうかね」
 結城さんは自嘲気味に言った。
「世間的に画家の名で通っている人の中にも、結城さんの絵よりよっぽど下手だと思うような絵がありますけど、難しいものですね」
 わたしは言った。
「わたしは、売るための絵は描きたくないんですよ。あくまでも、自分の魂のこもった絵を描きたいと思ってるんです。金儲けなら、実家の商売を継いだ方がはるかに効率的ですからね。でも、わたしは継がなかった。大学四年の時にルドンの絵を見て、魂を揺さぶられるような感動を覚えたんです。それで、もともと絵を描くのが好きだったものですから、道を踏み外してしまったという訳なんです。今では、ルドンの絵を見た事を後悔しています」
「どうしてです ?」
「だって、そうでしょう。ルドンの絵を見なかったら、実家の商売をしていて、こんな絵の描けない苦しみを味わう事もなかったはずです。平凡な商店の親父として、そこそこの生活が出来ていたでしょう」
「芸術って、怖いものですねえ」
「いや、もともと、わたしが向こう見ずだったんですよ。ルドンの絵に感動しただけで、自分の才能も考えずに絵描きになろうなんて思ったんですから」
 結城さんは大学卒業と同時に絵画教室に出席したりして、絵の勉強に打ち込んでいた。
「幼い頃からきっちりと、基礎を勉強しておけばよかったんでしょうけど、なにしろ、にわか仕込みの我流ですから、いい絵なんか、描けるはずがありませんよ。天才ならいざ知らず、わたしのような凡才ではね」
「そんなに苦しみながら、絵をやめようと思った事はないんですか」
「ええ、ありません」
 結城さんはきっぱりと言った。
「自分の世界を創り出す事の魔力とでも言いますかね。実業の世界でそれを実現する人もいるのでしょうけど」
「それにしも、結城さんの絵は、ルドンの絵とは随分、趣がちがいますね」
 わたしは結城さんが、ルドン、ルドン、と言うのを聞いて、ルドンの絵を見た事がある。花が人の顔をしていたりして、薄気味悪い奇妙な絵だった。
 結城さんの絵は、それとは対照的に明るい色彩て、花や風景が精密に描写されている絵だった。
「わたしも最初は、ルドンばりの絵を志していたんですけど、結局は、真似以上のものは出来ないと思って、ぜんぜん、別の方向へ舵を切ったんです。そうして方向は変えてみたものの、相変わらず、何処かで見たような、ありふれた絵の世界から抜け出る事が出来なくて、今日まで、だらだらとやって来てしまったような訳なんです。結局、これが才能の問題、という事なんでしょうね」
 結城さんは達観したような声で静かに言った。
 結城さんは絵を志した当初から、絵に没頭出来る生活を望んでいた。
 父は物分りの良い人で、
「おまえがそれで生活出来るのなら、それで構わないさ」
 と言った。
 だが、その父も結城さんの絵が何度も大きな展覧会で落選し、全く売れない事を知ると、さすがに痺れを切らして、そろそろ身を固め、家業を継ぐ事も考えるようにと勧めるようになっていた。何度も見合いの話しも持ち込んで来て、その度に、
「如才はないし、気持ちもしっかりしていて、商売向きの娘だよ」
 と言った。
 結城さんもそんな父の度重なる勧めを無下に断る事も出来ずに何度か見合いをした。だが、どれも旨くゆかなかった。結城さんの気持ちの定まらない事が原因だった。





          ---------------



          桂蓮様

          お気遣い 有難う御座います
          日本もようやく秋めいて来ました それでも最近
          何かと天候は不順です まるで世界中の
          シッチヤカメッチャカに 呼応しているようです
           心の洗剤 つくづく あればいいな と思います
          過去は美しい などと言う人もいますが 
          わたくしにとっては 過去は苦痛の海です
          若くて不遜だった当時の出来事のあれこれが
          心に痛く突き刺さって来ます 過去を洗剤で
          洗い流す事が出来たら どんなに楽な事でしょう
           縁 アメリカとの違いがあるとの事 認識の仕方の    
          違いでしょうが 面白く拝見しました アメリカは
          もっと軽く受け止める という事でしょうか ?
           筋トレ 読書 坐禅 まあ なんて忙しい事
          その合い間の家事 「欲張り桂蓮」 日常が
          眼に浮かぶようで思わず笑みがもれます 
          お元気な証拠 どうぞ この日常を大切にして下さい
           エホバ アメリカにもあるのですか エホバ
          よく知りませんが 変な宗教団体ですよね
          御主人様 御立腹との事 良識ある人なら こんな
          怪しげな団体 誰でも腹が立ちます
           日常の何気ない事 お書き下さっているのを
          大変 楽しく拝見させて戴いています
           それにしても ボタン一つでこうして海を越えた
          国の出来事が拝見出来るなど 便利な世になりました
          同時に、思わぬ出来事に巻き込まれる怖さも
          ありますけど
           何時も 有難う御座います



          takeziisan様


          何時も応援戴き 有難う御座います
          ブログ 今回も楽しく 拝見させて戴きました
           従兄弟のタツコ 中学生日記 いい御文章と 
          写真 当時がまざまざと甦ります 当時はこの国自体      
          貧しかったですが 人の心は穏やかに 優しかった
          そんな気がします 殊に 地方ではそうだった気が     
          します それにしてもタッコさん 早すぎますね
          善人は早く亡くなり 悪人 世に蔓延る でしょうか
           クリは剥くのが大変ですね でも 豊かな里の秋
          その象徴ですね 里の秋と言えばブログ内の「里の秋」         
          この童謡の作詞者は わたくしの故郷の隣りの隣り町の
          出身者です ですから この歌を聴く度に ああ この  
          歌は この地方の情景を歌っているんだなあ と
          思いながら いつも故郷を懐かしんで聴いています
           よく詩をお書きになっていますね 是非
          ブログに遺しておいて下さい 当時の世の中の状況が
          分かります
           サルビアは赤が好きです 群生で咲き誇っている 
          その景色に魅せられます ですので 「海辺の宿」にも
          一情景として取り入れました 
           農作業 大変なお仕事を続けられる 水泳のせい で
          しょうか お元気です                   
           季節季節の畑の様子 懐かしい風景で
          楽しませて戴いております
           何時も お眼をお通し戴き 有難う御座います 
    
          

 
 
 
 

 
 
 
 

遺す言葉(363) 小説 荒れた海辺(完) 他 神 及び バチカン

2021-09-19 12:26:14 | つぶやき
          神 及び バチカン(2021.9.10日作)



 宗教 神 主義 等の名の下
 人間の可能性を奪い  拘束する
 愚かな事だ 人間は 人間が生きる
 基本条件の下 総ての面に於いて
 自由 平等でなければならない
 宗教 神 主義主張 イデオロギーより
 人の命 人の生きる権利の保持が大切 第一


 神はいったい 人間に対して 
 何をしてくれた ?
 神を信じよ そう 言うなら 神はなぜ
 この世の中で飢えに苦しみ 
 明日の生活もままならない人々を
 放置 見捨てて置くのだ この世に
 神など存在しない 人を救えるのは 人
 人という存在 人以外 ない
 空虚な概念 神などという存在に 囚われ
 踊らされるな 惑わされるな


 バチカン 何をしている ?
 ただ 祈るだけ 祈る事しか出来ない
 それなら要らない 人は 行動すべし
 貧しき人を救う 人としての評価を決定付けるのは
 その行動力 実行力 神 宗教の総本山 自負するなら
 バチカンに住する人々よ せめて
 貧しい人々への贈り物 救済用として 財宝に囲まれ 造られた
 金ピカ装飾品の一部でも 飢える人 貧しき人々への
 贈り物 救済費用として使い 施す事は出来ないのか ?
 ただ 祈るだけ 空虚な権力 空虚な威厳など
 必要ない





          ------------------




          荒れた海辺(完)


 翌日、斎木は午前十時に宿を出た。
 女将達三人が門の外で見送ってくれた。
「その橋を渡って右へ折れる道路を少し行きますと、バスの停留所がありますから、そちらへ行った方が近道ですよ」
 斎木が昨日、来た道を戻ろうとすると女将が、川に掛かった橋を指差して言った。
「でも、急ぎませんから、ゆっくり歩いて行きます」
 斎木は言った。
「お若いから、少しぐらい歩いても大丈夫だ」
 老人が笑顔で言った。
 少し歩くとすぐに汗が滲んで来た。
 八月下旬とはいえ、夏の太陽が照りつける砂利の敷かれただけの県道は白く乾いて埃っぽかった。
 斎木はそれでも、歩いている事が少しも苦にならなかった。心の中では、何かがふくらんでいた。来る時とは違って、周囲の景色が生き生きと輝いて見えるのが不思議だった。生きている事が輝いて見える事は斎木に取っては初めての経験だった。人の心の優しさに触れた喜びが、斎木の心を昂揚させていた。



          五



 松林の中の、斎木が昔、辿った道はなくなっていた。
 腰の辺りまでも覆いつくす芒や萱の群れが荒れ放題に繁茂していた。
 松の木の幹は太く、枝は大きく伸びて鬱蒼とした暗さをつくっていた。
「この松林の向こうへ行くって言ったって、これじゃあ、どうやって行くのよ」
 奈津子は困惑顔で言った。
「堤防へ出て、そっちの方から行ってみようか。昔は、道があったんだけどなあ」
 斎木は言って、奈津子の先に立ち、橋のたもとの方へ戻った。
 堤防へ出ると、左への道を辿った。
 堤防には人が通る事もないのか、雑草が繁茂していた。
 川の流れの半分を埋めて、両岸には葦が一面に生い茂っていた。かつては何艘もの小型漁船が碇泊していた面影は見る事も出来なかった。
 ゆっくりと迂回した堤防を辿って行くと、松林の向こうに海と川口の一部が見えて来た。
 更に歩いて行くと、川口が現れた。
 川口には大きなコンクリートの防波堤が築かれていた。
 テトラポットがその根元を埋め尽くして海に突き出ていた。
 斎木が昔、足を踏み入れ、波が寄せて来る度に小さな魚影が群れを成して走り抜けた浅瀬は何処にもなかった。
 辺りを圧倒する巨大なコンクリートの塊の防波堤だけが、整然とした姿で海に突き出ていて、打ち寄せる波を押しとどけめながら激しい飛沫を巻き上げていた。
 斎木は防波堤の手前で堤防の斜面を下り降りると、松林の中へと入って行った。
「昔は、こんなコンクリートの防波堤なんかなくて、きれいな浅瀬が広がっていたんだけどなあ」
 昔を惜しむように斎木は言った。
「だって、結婚する前の事でしょう。何年、昔になるの ?」
 斎木の後に続いて歩いていた奈津子が言った。
「それはそうだけど、ずいぶん、変わっちゃったよ」
「変わらない方がおかしいわよ」
 奈津子は言った。
 松林を抜けると眼の前に雄大な海の景色が広がった。
 斎木はだが、その海を前にして呆然と佇んでいた。
「どうしたの ?」 
 すぐに追い着いて来た奈津子が、斎木の浮かない様子の顔を見て言った。
「砂浜がこんなに狭くなっちゃってる」
 斎木は言った。
「もっと、広かったの ?」 
 斎木と並んで立った奈津子は言った。
「そうだよ。こんなものじゃなかった」
 斎木は呟くように言った。
 心が解放されるように広々とした砂浜の景色は何処にもなかった。その侵食された砂浜の景色に斎木は、思わず息苦しさにも似た感覚を覚えていて、胸の塞がれるな思いがした。悪夢を見ているようだった。
「でも、昔、見た事だから、広かったように思えるんじゃない ? ほら、よくあるじゃない。子供の頃には随分、大きく感じられたものが、大人になってから見ると、こんなに小ちゃかったのかって」
「うん。でも、やっぱり、 こんなものじゃなかった」
 斎木にはやはり、納得出来なかった。
 二人の前には松林によって遮られた砂浜の砂が小高く盛り上がり、小さな砂丘をつくっていた。靴を履いた足ではその砂丘を下って行く事は出来なかった。
 斎木は松林に沿って、砂地に生えた雑草を踏みしめながら、墓地のあった方角へ向かって歩き出した。
「こんな所へ連れて来られるんだもの、スラックスで来てよかったわ」
 と、奈津子は服に絡まり付いて来る雑草を払い除けながら言った。
 秋の気配が濃い砂浜にはやはり、人影はなかった。
「あれっ、何かしら ? 船じゃない ?」
 奈津子が遠くの砂浜の中程を指差して言った。
 斎木が奈津子の指差す方を見ると、外枠だけを残した漁船が半分、砂に埋もれるようにして、傾き、放置されていた。
「うん。漁船の壊れたのだ」
 斎木は言った。
「随分、砂に埋もれてるわね」
 奈津子は言った。
 妙に淋しい光景だった。
「もっと歩くの」
 奈津子が辟易したように言った。
「うん、墓地があるはずなんだが」
 斎木は松林の中と前方に眼を凝らしながら言った。
 海を見下ろすようにして小高い丘の上にあった墓地は何処にも見当たらなかった。
 砂浜の至る所で吹き寄せられたゴミや、砂に埋もれかけたコーヒーなどの空き缶が眼に付いた。
 海水浴シーズンの人出が連想された。
 斎木には記憶に残る砂浜の美しさの失われた事を惜しむ気持ちだけが強かった。
 周囲をトタンで囲った粗末な建物が眼に入って来た。
 近付いてみると、錆びたトタンで覆われた建物の中には何もなかった。
 周囲にはあちこち、掘り返された跡らしきものが残っていた。
「墓地なんか、ないじゃない」
 それを見て奈津子が、改めて、疲れたように言った。
「そうだなあ、無くなってしまったのかなあ」
 斎木は言った。
「でも、墓地が無くなるなんて、ないんじゃない ?」
「そうだよなあ」
 と、斎木も言ったが、諦めの気持ちが強くなっていた。
 斎木はようやく、引き返すつもりになって微かな疲労感と共に、遠い海の広がりに眼を向けた。
 果てしなく続く海の広がりはそれでも昔のままだった。渚には相変わらず打ち寄せては引いてゆく波の繰り返しがあった。
 斎木はふと、昔の自分を思い出して涙ぐんだ。
「もう、帰ろうか。余り遅くなってもいけないから」
 斎木は言った。
「そうね」
 奈津子も言った。
 何故か狭苦しく思える砂浜と墓地を見つけ出す事の出来なかった失望感だけが斎木には深かった。
 斎木が戻りかけたその時、
「あら、あれじゃない ?」
 と、奈津子が斎木の背後で突然、弾んだ声で言った。
 斎木がその声に振り返ると、奈津子は松林の中に見え隠れする墓石の数々とも見えるものの方を指差していた。
 斎木には息を呑む思いがした。
「そうだ。あれだ」
 斎木も思わず弾んだ声で言っていた。
 二人は何時の間にかその場所を通り過ぎていた。
 墓地は昔には想像も出来なかったような松の巨木に囲まれて、前方に迫り出している枝の陰になっていた。
「ほら、やっぱり、砂浜は狭くなっているんだよ。昔は、あの墓地と砂浜との距離はこんなものじゃなかったんだから」
 斎木は改めて確信した。
 二人は歩きづらい松林の中を通って、その場所に辿り着いた。
 墓地には歩くのもままならない程に、墓石と卒塔婆が林立していた。その光景に斎木は圧倒された。
「髄分、墓石が増えちゃったなあ」
 斎木は思わず言った。
「どれがそうなのか、分かる ?」
 奈津子が言った。
「どうだろう。ちょっと、分からないかも知れないなあ」
 斎木は言った。
「名前を見れば分かるんじゃない ?」
「名前ももう、忘れてしまったよ」
 斎木は言ったが、ふと、東京大空襲の時に亡くなった三人の名前が書かれていた事を思い出した。確か、墓地の中程にあったはずだ。
 斎木はその中程に向かって、一つ一つの名前を確認しながら歩いて行った。
 新しく、はっきりと文字の読める墓石には、それらしい名前は見当たらなかった。今更ながらに斎木は、歳月の経過を思わずにはいられなかった。
 それにしても、今、現在、あの場所に宿がない、という事は、女将も既に、亡くなっているという事ではないのか、と思いながら斎木は、改めて注意を凝らして探してみた。
 やはり、見当たらなかった。
 女将がもし、亡くなっているとすれば、当然、あの老人も亡くなっているのでは、と斎木は思った。老人は、奥さんと一緒の墓に埋めてくれと、女将さんに頼んであるんですよ、と言っていたがーー。
 斎木は老人の言葉を思い出しながら、その墓地に付いても思いを巡らした。
 だが、名前も場所も知る事のなかった老人の墓地など、なお更に分かるものではなかった。ただ、時間だけが過ぎていた。
「どうしても、その墓地を探さなければいけないの ?」
 奈津子が言った。
「いや、そんな事はない」
 斎木は言った。
「じゃあ、もう、そろそろ、行きましょうか。余り遅くなっても困るから」
「そうだな」
 斎木は言った。不満はなかった。
 あるいは、土地の人に聞けば分かるかもしれないが、と斎木は思ったが、そこまでする気にはならなかった。
 過ぎて逝く歳月の中で、失われたものが返る訳ではない。
 斎木はただ、心に焼き付いている人達の優しさに満ちた思い出だけを、これからも大切にして生きてゆきたい、と思った。
 あの時斎木は、東京へ帰ってから自分でも驚く程の心の変化をみせていた。
あの、海辺の宿で触れた人達の心の優しさが無意識のうちに、斎木の心の凍り付いた凍えを溶かしていた。工場内でもそれまでほとんど無口で、誰とも話す事のなかった自分が、何時の間にか積極的に先輩工員達に話し掛けるようになっていた。自ら進んで仕事も手伝うようにもなっていて、もともと真面目だっただけに、その仕事ぶりが誰からも好意を持って受け入れられた。今では斎木は二十三人の工員達を統括する工場長の地位に就いていた。
「ほら、ここに道があるわよ」
 奈津子がほとんど消えかけたような小さな道を、大きな木々の間に見つけて言った。場所から見て、かつて女将が歩いて行った道に違いなかった。
 斎木はその道を確認すると奈津子の後に従って、車の置いてある、今ではすっかり舗装のされている県道へ向かって歩いて行った。



          完





         -----------------




         桂蓮様

         有難う御座います
         旧作 縁の原点とめぐり逢い
          それらの縁は一体全体何によってうごかされて
         いるのだろうか
          縁とは不思議なものですね 良い縁 悪い縁
         この縁の不思議さ 理解出来ません それで人間は
         神を創ったのではないでしょうか すべては
         神の思し召し 神を持ち出さなければ この世は
         理解出来ないような不思議な事ばかり 悪知恵の
         働く者たちはそれを利用して 神の名の下 自分達の
         利益を図る 人を支配しようとする 眼には見えない
         縁 この恐さ
          私の肉体の使用期限の切れるところか
         縁からの解放 それまでは逃げたくても逃げられない
         縁の虜 奴隷 それが人間なんですかね
          もたもた そろりそろりの合わせ読み
         楽しませて戴きました 
          今回 偶然にも神に付いて投稿しました
         これも何か不思議な縁ですかね
          人が気にならなくなる
          私にも脳があるかー
         いいですねえ 笑えますねえ その自然体
         人は自然のままが一番美しく見えます
         つくったものは何処か不自然 必ず ボロが出ます
         悟りを持った人達は自分をつくったりなどしません
          いつもお眼をお通し戴き お忙しい中コメントまで
         有難う御座います



         takeziisan様

         有難う御座います
         二つの詩 読ませて戴きました
         文才が無いなどと御謙遜ですが
         御立派なものです 是非これからも
         埋もれているものを掲載して下さいませ
         勿体ないです
          小野 山中 古川 笹原 懐かしい名前ですね
         金メダルを取り あるいは優勝するなど その度に
         自分の事のように誇らしく思ったものでした
          トンボ捕り 夏の夕暮れ 田圃の上一面を覆いつくす
         本やんまの群れを思い出します 
         ヤンマ ヤンマかえれ 鬼ヤンマかえれ と言いながら
         竹ざおの先に繋いだ囮のヤンマを振り廻していたあの頃が
         甦ります
          アームストロング ダニー ケイ 芸達者が揃って
         いました わが青春と共に良き時代でした
          様々な写真 川柳  今回も楽しませて戴きました
          何時も愚にも付かない文章にお眼をお通し下さる事に
         感謝いたします 有難う御座います
          
  
    

 

 
 

 
 
 
  
        

遺す言葉(362小説 荒れた海辺(6) 他 選良としての国会議員

2021-09-12 13:28:12 | つぶやき
          選良としての国会議員(2021.10.7日作)


 国会議員は
 選良 エリート で なければ
 ならない しかし 国会議員は
 国民 市民 の 下僕 その立場を
 忘れては ならない
 国民 市民の下僕
 その意識の上に立ち 国民 市民の
 最善 を 考え 行動する
 真のエリート 選良は それの 出来る人
 国会議員・・・ 国民 市民より
 高い地位 位置に居る そんな 人間 存在
 では ない あくまでも 国民 市民に 選ばれた
 国民 市民の為に働く 下僕
 国民 市民の支持なくして その存在は
 あり得ない



      幸せの 香り運んで 金木犀
      
      わが思い 届けて香れ 金木犀

        金木犀が匂って来ました





          ----------------





          荒れた海辺(6)



 墓地は松林を背にして、海を見下ろす小高い丘の上にあった。
 古びた卒塔婆や墓石が並び、夏の強い陽射しの中でひっそりとした佇まいを見せていた。
 斎木は再び足を運ぶと、その墓地に向かって歩いて行った。
 歩き始めて間もなかった。斎木はまた、思わず立ち止まっていた。墓地の中程にある墓石を前にしてうずくまる人の姿を見たのだった。
 その場所と斎木との間にはまだ、かなりの距離があった。それでも斎木にはすぐにそれが、宿の女将だと分かった。
 女将は手を合わせる事もなく、ただ、何かをじっと見ていた。
 しばらくしてから女将は立ち上がった。
 斎木は女将が自分の方へ来るのかと思い、一瞬、狼狽し、慌てて芒の繁みの中に身を隠した。
 女将はだが、斎木に背中を見せると別の道を辿って、やがて松林の中へ消えていった。
 斎木は女将が再び戻って来ない事を確認すると、墓地へ向かって歩いて行った。
 墓地では海辺に特有の雑草が砂地を覆っていた。
 女将がうずくまっていた場所に辿り着くと、まだ新しい墓石の前には花が活けられてあった。線香の炊かれた跡も新しかった。
 斎木は墓石の上に女性のものと思われる名前を確認した。裏側に廻ってみると、そこには幾つもの名前が刻まれていた。
 昭和二十年三月十日没
 田村有三 享年五十六歳
   加代 享年五十歳
   春子 享年二十一歳
 そして一人だけ
 昭和三十一年八月二十一日没
   由紀子 享年二十六歳
 と、記されてあった。
 斎木には多分それが、女将の肉親に違いないだろう事はすぐに察しがついた。そして、昭和二十年三月十日というのは、あの、太平洋戦争の時の東京大空襲、その時、亡くなったという事なのだろうか、と、思いを馳せた。
 ただ一人、昭和三十一年に亡くなった人の存在が斎木には理解出来なかったが、女将はこの人の供養の為にここに来ていたのに違いないとは推測出来た。
 斎木はしばらく、墓地の中を歩いて墓石に刻まれた名前をあれこれ読んでいたが、それにも飽きると墓地を出て、再び、砂浜の方へ戻った。
 松林を抜けると海は相変わらず、激しく砕ける波のしぶきを見せて遠く水平線の彼方にまで、遮るものの何一つ無い青の広がりを見せ、続いていた。砂浜にも人の影一つなかった。その人影のない砂浜は昨日と同じ様に波の寄せる渚の黒と水には濡れない白い砂の対比とを見せてやがて、陽炎の中に溶け込んで見えなくなっていた。ただ、斎木がふと、右側に視線を向けた時、その陽炎の中に影のように揺れて黒く見えるものがあった。斎木は、おやっ、と思った。
 黒く揺れ動くものの影は海の中にまで延びているように見えた。
 斎木は興味をひかれるままに、宿の下駄を履いた足が砂の中にめり込むのも厭わずに墓地を形作る砂の斜面を駆け下りると、渚の方へ歩いてゆき、目指す方へ向かって歩いて行った。



          四



 陽炎の中に黒く揺れていた影は、川口に沿って木組みを連ねた護岸だった。
 それが海の中にまで延びていた。
 激しく砕ける波がその木組みに当っては、あちこちに幾つもの小さな渦巻きを作っていた。そこだけが一際、荒々しく見えた。
 斎木が足を止めたその場所は、護岸の際とは違って浅瀬になっていた。透明な水が下の砂地を透かして見せていた。小魚の群れが幾つも、その透明な水の中を泳ぎ廻っていた。
 何艘もの小型の漁船が川口から少し上がった松林の下の岸辺に繋がれていた。
 時刻は午後二時を過ぎていた。
 斎木は砂浜から川岸へ出るとそこを辿って宿へ戻った。
 自分の部屋に落ち着くと途端に、昼食抜きの空腹を覚えてすぐに食堂へ降りて行った。
 食堂では、調理人の老人が一人、テーブルの一つに向かい、椅子に掛けて頭を垂れ、居眠りをしていた。斎木の珠すだれを掻き分ける音に気付いて老人は素早く、眼を覚ました。
「ああ、いらっしゃい」
 居眠りをしていた事を取り繕うかのように老人は、曖昧な笑顔を見せて言った。
 斎木は何か食べられますかと聞いてから、メニューの中からそうめんと西瓜をを頼んだ。
「海へでも行ったんですか ?」
 斎木の陽焼けした顔を見て老人は言った。
「はい」
 斎木は素直な気持ちになっていた。
「水が冷たかったでしょう」
 老人は笑顔で言った。
「いえ、泳がなかったんです」
「そうですか」
 老人は満足気に言ってから、
「八月も半ば過ぎになると、クラゲが出て波も高くなるし、泳ぐのにはあんまり良くないんですよ」
 と言った。
 斎木は黙って頷く事で老人の言葉に答えた。
「もう、海辺には人もいなかったでしょう」
 老人は言った。
「墓地があったので、見て来ました」
 斎木は言った。
「ああ、あの墓地ね」
 老人は心得顔で言った。
「小高い丘の上に海を見下ろすようにして、墓石や卒塔婆が建っていたでしょう」
「はい」
 と、斎木は言ったが、女将を見掛けた事を言おうかどうか、迷った。すると老人が、
「女将さんの姿を見ませんでしたか」
 と聞いて来た。
「はい、見ました。花と線香を上げていました」
 今度は素直に言えた。
「そうですか」
 老人は言ってから、
「今日は、妹さんの三回忌なんですよ。それで女将さんは今、お寺へ行ってるんですがね、妹さんのお墓へは毎朝、ああしてお参りをしているんですよ」
 斎木はようやく納得出来た思いで頷いた。
 老人は言葉を続けた。
「あのお墓にはわたしの女房も眠っていて、わたしも間もなく行くところなんですがね」
 と言って、楽しそうに笑った。
 斎木は老人の言葉になんと答えたらいいのか分からなくて黙っていた。
 老人は斎木が黙っている事も気に掛けずに、何故か満足げな表情で茹で上がったそうめんを水に晒し、ザルに載せて水を切ると、薬味のネギを刻み始めた。
 間もなく、老人は四角い黒塗りのお盆に一切れの西瓜とそうめんを載せて運んで来た。相変わらずゆっくりとした動作だった。
 老人は調理場の中へ戻ると、水音を響かせながら洗い物を始めた。
 老人は話し好きらしかった。それとも、この人気の乏しい田舎の宿にいて、話し相手が欲しかったのか ? 自分から言葉を続けた。
「わたしもこの宿へ来てから長いんですがね、歳も八十に近くなるし、今では一日も早く、女房の傍へ行く事を楽しみにしてるんですよ」
 と、半分冗談のように言って笑った。
「子供さんはいないんですか 」
 斎木は思わず聞いていた。
 斎木が自ら進んで人に問い掛ける事など、これまでにない事だった。自分でも驚いた。
「いえ、いますよ。三人いるんですよ。それぞれ東京でなんとかやっていて、年寄りを一人にしておくのは心配だから来るようにって、言ってくれてるんですがね、でも、わたしは、女房の墓を守ってここに居たいと思ってるんです。それで、女将さんにも頼んであるんですがね。わたしが死んだら、女房と一緒の墓に埋めてくれってね」
 老人は静かに言った。言葉に揺らぎはなかった。
 斎木はそうめんを口に運ぶ箸を動かしながら、その話しを聞いていた。
 老人は洗い物を済ませるとカウンターの中の椅子に腰を降ろして、白い半そでシャッの胸ポケットから煙草を取り出し、一本を抜き取ると口にくわえて火を付けた。襟元には赤い蝶ネクタイがあった。
「お兄さんは煙草は ?」
 その時には斎木も食事を済ませていた。
「いえ、吸いません」
 斎木は言った。
「そうですか。煙草など、やらない方がいい」
 老人はそう言ってから、いかにも旨そうに煙りを吐き出した。それからまた、自ら進んで言葉を続けた。
「ここは、わたしの女房の生まれ故郷なんですよ。女房は自分の命がもう長くはないと知った時、この、生まれた村へ帰りたいって言ったんです。それでわたしも、勤めていた東京のホテルの仕事を辞めてここへ来たんですが、女房はここへ来ると満足したのか、程なくして死んでしまいました」
 亡くなった人へ思いを馳せるのか、老人の眼には涙が浮かんでいた。
 斎木はそんな老人の話しを聞きながら、それが少しも苦にならなかった。むしろ、心の柔らかくほどけてゆくような心地よさを覚えていた。
 その心地よさに誘われて斎木は自分からも老人に話し掛けていた。
「さっき、お墓を見た時、その石に亡くなった人の名前が書かれていて、昭和二十年三月十日って書いてあったんですけど、あれは東京大空襲で亡くなった人なんですか ?」
 老人は「そうです」と言った。
「女将さんのお父さんと、お母さん、それに五歳違いの妹さんだって言う事です。あと一人、別の日付で名前が書かれていたでしょう。その人が今日、三回忌をしている妹さんなんです」
 と、老人は言った。それから一息入れるように間を置いて、
「女将さんも終戦直後は大分、苦労したようです。一番下の妹さんが脊髄カリエスになって、その病院代を払うのにどんな仕事でもした、って言ってましたから。でも、ここへ来てからの女将さんは、たとえ、病気の妹さんを抱えていても、幸せだったのでは、と思いますよ。金銭的に苦労する事もないし」
 と言って、静かに煙草の煙りを吐き出した。それからまた、何かを考えるかのように一呼吸置いてから、
「妹さんは亡くなる直前に、それまで閉じていた眼を開いて、お姉さん、長い間、有難う、と静かに言って微笑みを見せると、また眼を閉じて、そのまま、眠るように亡くなってゆきました。妹さんは床に就き切りだったんですが、仲の良い姉妹だったんですよ」
 老人は女将姉妹に思いを馳せるように静かな口調で言った。
  老人と斎木の二人だけの食堂には、開け放された窓々から吹き込む心地よい海からの風があった。波の音が聞こえていた。その波の音に溶け込むように、喧しく鳴き立てていたセミの声が一瞬、突然に途切れた。
「ああ、女将さん達が帰って来たようだ」
 と、老人は何かの気配を察したかのように言った。
 間もなくして、再び騒がしくセミたちの鳴き立てる声が起こった。
 その時、珠スダレを別けて覗く女将の顔が見えた。
「只今。いま帰りました」
 と、老人に言ってから、斎木の姿を認めて、
「いらっしゃいませ」
 と、柔らかい笑顔で言った。
 斎木は黙って頭を下げた。
 その時、女将さん、と呼ぶ若い女の声がした。昨日、最初に姿を見せた女性に違いなかった。
「あの若い女の人は ?」
 斎木はなんとなく聞いていた。
「ああ、あれは近所の娘(こ)でね。手伝いとして働いて貰ってるんですよ。あの娘は昨日、玄関先にあなたを迎えた時、あなたが余り疲れたような顔をしていたもので、自殺するんじゃないかって、びっくりして、女将の所に駆け込んだんですよ」
 と言って、笑った。
 斎木も思わず顔を崩したが、昨日の自分の姿では、そう見えても不思議はないと思った。
「さきちゃん !」
 何処かで誰かを呼ぶ女将の声がした。
 斎木はそれを潮に席を立った。
「じゃあ、僕はこれで」
 斎木は老人に頭を下げて言った。
「そうですか。いろいろ、詰まらない話しをしてしまって退屈だったでしょう」
 老人はそう言ってから、
「明日、帰るんですか」
 と聞いた。
「はい」
「そうですか。来年でもまた、気が向いたら来て下さい。こんな、何も無い所ですが釣りぐらいは出来るので」
 老人は言った。
「はい」
 斎木は答えた。
「最も、来年まで、わたし自身が生きているかどうかは分かりませんがね」
 老人は楽しそうに言って笑った。

 その夜、老人が帰ったのは午後十一時過ぎだった。斎木が眠れないままに布団に横になっていると、玄関のガラス戸の開く音がした。気になってカーテンの透き間から覗いてみると、庭の踏み石伝いに門の方へ歩いて行く老人の姿が見えた。
 老人は門の傍で立ち止まると何かを探って、門燈を消した。
 老人の姿はそのまま、夜の闇の中に消えていった。
 この宿から三百メートル程離れた所ろに家があると老人は言っていた。




         ----------------





         桂蓮様

         有難う御座います
         新作 拝見しました
         自信過剰 自信不足 どちらも困ったものです
         でも 自信過剰 これは不足より 困った状態
         なのではないでしょうか 不足は何かを
         やり損なう 機会を逃す そういう場合が多く
         たとえ機会を逃しても自分に与えるダメージは
         小さくて済みますが 過剰がもたらす失敗は
         痛手がより大きくなるのではないでしょか
          今はどちらの状態でもない 中立 これは
         良い事なのではないですか その時 その時で
         判断する 自信 過剰でもなく 不足でもない
         冷静な判断が出来ます 桂蓮様が行う坐禅 結局
         その坐禅も 何事にも捉われない自分を造る そこに
         あるのだと思います 自身お歳の事を述べていますが
         結局 年齢と共の人間としての成長がそこに 見られる
         そういう事ではないかと思います 中立 何事も
         決めて掛からない これは良い事ではないかと思います
          いつも 何事も深く考察する 桂蓮様の
         習性のようすですね でも 是非 禅の無の心 これも
         大事にして下さい
          雑談 楽しいですね 桂蓮様の素顔が垣間見えて
         ふふんと笑ってしまいます 人間 あれも失敗
         これも失敗 それでいいのではないでしょうか
         完璧な人間なんて何処にも居ません どうぞまた
         楽しい雑談 気が向いたらお書き下さい
          有難う御座います



         takeziisan様

         有難う御座います
          今回も楽しませて戴きました
         松虫草の花咲く 喝采
         花に寄せる思い よく伝わって来ます
         お見事
          川柳 入選作より ゆるやか ゆるーい 他   
         はるかに楽しめます 思わず笑っています
         入選作なんてなんでしょうね
          彼岸花 わたくしの好きな花の一つです
         自然の無い街中に暮らしていますとーもっとも
         わたくしはコロナに係わらず 余り外へ出ませんがー
         彼岸花など滅多に眼にする機会はなく 幼い頃 日常 眼      
         にしていた田圃などの畦道に咲く彼岸花の
         あの美しい光景が懐かしく思い出されます
          今ではそれも夢の中の光景のように
         遠いものになってしまいました
          今回も美しい花の数々 蝶の姿 楽しませて戴きました
         有難う御座いました
   


 
 

 
 
 

 
 
 
 

  
 

遺す言葉(361) 小説 荒れた海辺(5) 他 逝くものは 他 一篇

2021-09-05 12:45:14 | つぶやき
          人は逝く(2021.8.20日作)


 人は逝く
 わたしは残る

 時は逝く
 わたしは残る

 総て逝く
 記憶が残る

 年老いた時間

 わたしは見つめる
 遠く過ぎ去る総てのもの

 迫り来るもの
 無


          過ぎ逝く時の中で

 人生は
 過ぎ逝く時の中で見る
 束の間の夢
 目覚めた時の中で見る 幻
 あの事 この事 そんな事
 過ぎ逝く時の中での 数々
 その数々の 過ぎ逝く時の中
 再び 戻る事はない 人はただ
 過ぎ逝く時の中 
 総ての過去を抱きつつ
 迫り来る崖 永遠の闇 無に向かい
 歩いて行く 過ぎ逝く時の中 今を
 過去の夢 幻としながら





          ------------------





          荒れた海辺(5)


 沖の彼方で時折り砕ける波が、蒼一色の広がりの中で白く小さく陽に輝いていた。
 八月も終わりの季節を思わせて、海の上には思い掛けない暗さがあった。それが、午後の時間の深まりと共に、一段と増して来るようだった。
「お風呂が出来ましたから、どうぞ」
 女将が迎えに来た。
 夕食が出る頃には建物全体に明かりが入っていた。
 遠い海が夕闇の中で次第に見えなくなっていった。
「食堂が午後十一時まで開いていますので、御用が御座いましたら、どうぞ、御利用下さい」
 夕食の膳を下げに来た女将が言った。
 入れ替わりに斎木を玄関に迎えた年若い女性が床を取りに来た。
 窓の外はまったくの闇になっていた。
 星空が鮮やかにその闇を彩っていた。
 昼間は気にする事もなかった波の音が、窓の下に押し寄せるように聞こえて来た。
 二階の窓から見下ろす庭先には、門灯が二つ、闇に向かって明かりを投げ掛けていた。
 その向こう、砂利道の県道を越えてすぐに、松林が黒い群れとなって砂浜に続いていた。
 斎木は布団に入ってもすぐには眠る事が出来なかった。
「午後十一時まで食堂が開いています」
 女将の言葉を思い出した。
 浴室に向かい合って、その食堂はあった。
 薄くなった白髪をきれいに撫で付けた老人が一人、カウンターの奥にいたのを斎木も眼にしていた。
 あの老人が板前なのだろうか、斎木は眠れないままにそんな事を考えていた。
 波の音が枕の下に迫って来るように聞こえていた。
 女将たちはもう、やすんだのだろうか、家の中に聞こえてくる物音はなかった。

 いつの間にか、斎木は眠りに就いていた。
 翌朝、眼を醒ました時には午前七時を過ぎていた。
 一瞬、雨の音かと思ったのは、波の音だった。
 カーテンを透かして朝の光りが感じられた。
 そのカーテンを開けると、外は陽光に満ちていた。
 青い海の広がりが松林越しに見えた。
 昨日の午後の思い掛けない暗さは、その青の中にはまだ、なかった。
 斎木は浴衣を脱いで自分の服に着替えた。
 洗面のために廊下を通って、階段を降りて行った。
 女将が襷がけで階段の下の拭き掃除をしていた。斎木に気付くと、
「お早う御座います」と、優しい気遣いの笑顔で言って、「よく、お寝みになれましたか」
 と聞いた。
「はい」
 斎木は、女将の優しい言葉掛けに戸惑いながらも、素直に答えた。
 斎木にとっては、他人から優しい笑顔の言葉掛けを受けるなど、これまでに無い事だった。
「お食事はどのように致しましょうか。お部屋へお運び致しますか、それとも、食堂でお取りになりますか」
 女将は続けて言った。
「食堂で取ります」
 斎木は迷いもなく、咄嗟に答えていた。昨夜、ちらっと見た、どこか穏やかな感じの品のいい老人の姿が この時、斎木の頭の中には浮かんでいた。
「そうですか、それでは、そのように準備して置きますので、いつでもどうぞ」
 女将の表情には相変わらず優しい微笑みがあった。
「それから、もう一晩、泊めて貰いたいんですけど」
 斎木は何故か、突然、そんな事を言っていた。自分でも意外に思える言葉だった。
「はい、それは構いませんけど」
 女将に、ためらう様子はなかった。
 斎木は安堵する自分の胸の裡を意識していた。

 斎木が食堂の珠すだれを分けて入ってゆくと、カウンターに向かい、俯いて何かの仕事をしていた老人が顔を上げた。
 斎木の姿を見ると、
「いらっしゃいませ」
 と、穏やかな、斎木を労わるような笑顔で言った。
 地肌の透けて見える白髪は、昨夜、眼にしたのと同じように、きれいに七三に別けられていた。白いシャッの襟元には赤い蝶ネクタイが結ばれていた。顔には深い皴が見られて、すでに七十歳を越えていると思えた。
 斎木は 五脚あるテーブルの一つに向かい、椅子に腰を降ろすと、早速、メニューを開いた。
「食材の準備がなかったものですから、大した物がお出し出来ません」
 老人は謝罪するかのよう言った。
 斎木は御飯に味噌汁、目玉焼きなどの定食を頼んだ。
 老人がお茶を運んで来た。年齢を感じさせるゆっくりとした足取りだった。
 だが、カウンターに戻って、フライパンを握るその手の動きには熟練を感じさせる確かなものがあった。
 老人の仕事は速かった。待つ、という程の間もなく、定食が運ばれて来た。
 老人は再び、カウンターの中へ戻ると、洗い物をしながら斎木に声を掛けて来た。
「お一人で旅行してるんですか」
「はい」
 斎木は素直に答えた。
「お若いのに、こんな、何もない所へ来ても面白くないでしょう」
 老人は言った。
 斎木は答えに窮したが、咄嗟に、
「友達を訪ねた帰りなんです」
 と、取り繕っていた。
「そうですか」
 斎木の言葉を聞くと老人は何故か満足気に頷いて、
「もう、夏も終わりで、泳ぐのには水もちっょと冷たいしね」
 と言った。
 斎木は、そうした老人との言葉の遣り取りのうちに食事を済ませると部屋へ戻った。
 しばらくは窓枠に腰掛けて庭や、辺りの景色を見つめていた。その位置からは海は見えなかった。
 庭では芝生を縁取るサルビアの赤が一際、鮮やかだった。
 陽射しが暑さを増して来た。
 斎木は海辺へ出てみようかと考えた。
 宿の下駄を履き、玄関から踏み石伝いに芝生の庭を抜けて門を出た。
 粗い砂利を敷いただけの県道が、早くも埃っぽさを感じさせて白く乾いていた。
 その県道を横切り、斎木は松林の中へ足を踏み入れた。
 芒や萱に覆われて細い道が通っていた。足元を邪魔されながら、その道を辿って行った。
 両手に収まるぐらいの幹を揃えて、松の木が視界を遮っていた。
 やがて、海がその間から見えて来た。
 その道を歩いて行って斎木は、思わず足を止めた。
 行く手に墓地が見えていた。
 道はそこに通じていた。





         ----------------





          takeziisan様

          コメント 有難う御座います
           読み上手のtakeziisan様に そう仰って戴けると
          励みになります 有難う御座います
           いつまでこの暮らしが出来るのやら
          実感です でも 諦めたら終わり と思って
          毎日を精一杯生きています 八十代 今の時代
          まだ 若造 そんな気もします テレビの映像などで
          九十代 百歳に近い年齢の人達が 元気に
          動き廻っている姿を見ると まだまだ 老け込む歳
          ではないという気もします
           稲刈り 富山の常備薬 昔 懐かしい響きです
          あの当時は それが当たり前の事でしたね 
          懐かしい言葉の響きです 
           期外収縮 わたくしも時々 起こります
          血圧が低いものですか 低気圧が来たり 高温などに
          なったりします 今でも心臓の鼓動に異変を覚え
          慌てて 血圧を測ってみたりしますと 必ず 極端に
          低かったりします 毎年 健康診断を受ける医師は
          長生きが出来ますよ と軽く言いますが 低いのも
          楽では有りません 幸い その他 何処にも悪い所は
          なく 百点満点です と医師は言いますが
           タマスダレ 屋上にも咲いています 放って置く    
          だけなのですが 毎年 この時期になると白いきれいな
          花を咲かせてくれます
           月下美人 わが家では七月終わりに一度 
          咲いたのですが 今また 三 四 個の蕾を付けて
          います この不安定な天候の中で 旨く咲いてくれるか
          危惧しているところです ところで この月下美人
          この花に見せられて以前 このブログにも
           月下美人は艶な花 香りと姿で魅惑する
           だけど おまえは淋しい花 夜更けにひとり
           そっと咲く
          と 投稿した事があります
           今回もいろいろ 楽しい写真を見せて戴きました
          有難う御座います お互い 年齢を考え 慎重に
          でも 元気に生きてゆきたいものです  



        

                           桂蓮様

         有難う御座います
         ハリケーン お住まいに近い辺りだったのでしょうか
         大変だったようですね 日本のテレビでも映像を流して    
         いました 
          実際 世界中の気候の大荒れ 先が思い遣られます
          わたくしのコメントが何かのお役に立てば
         嬉しいのですが どうぞ お世辞 おべっかとは
         受け取らないで下さい わたくしは真実を常に
         心掛けるようにしています それに 人を批判するのは
         その人の行為や言葉が他者を著しく痛めたり 傷付けたり
         する以外 必要ではないと思っています むやみに人の
         欠点や弱みをさらけ出し 批判するのは百害あって一利
         なしです 誰もが欠点や弱みを持っています 他者に
         害を及ぼさない限り それを あえて騒ぎ立てる必要は
         ないのではないでしょうか 人は褒めて育てろ と
         言います 人の気持ちを豊かにするのは批判では
         ありません 良い所があれば褒める それで人の気持ちも
         育ち 心も豊かになります
          今回 新作が無かったので 旧作の回遊をした結果 
         私たちの物語「相対性理論」を拝見しました
         この理論はわたくしには全く分かりませんが 
         御主人様との出会いの原点 面白く拝見しました
         壮大なる宇宙に関する理論から 極 小さな人間同士の
         愛が芽生える 素敵な話しではありませんか 人の縁
         ですね それにあれは「絵」なのですか 写真のように
         見えます 見事なものです
          縁と言えば その下にありました 
         縁の原点と巡り会い 人の世は人知の及ばない所で
         構成されているのですね 相対性理論 人の縁
         人間存在など 極々 小さなものに思えて来ます
          いつも御感想をお書き戴き 有難う御座います