遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(351) 小説 優子の愛(3) 他 北朝鮮と拉致問題

2021-06-27 13:00:33 | つぶやき
          北朝鮮と拉致問題(2021.3.6日作)


 無法者国家 北朝鮮
 日本人が拉致されてから
 何年になるのか ?
 いっこうに 解決の糸口が
 見えて来ない
 拉致された人々の 家族の悲しみ
 苦しみは どれ程のものか また
 本人の悲しみ 苦しみは ?
 想像も出来ない 何故
 何十年も解決 出来ないのか ?
 第一に あの 人の道 常識を超えた
 無法者の国 北朝鮮 その国に
 原因があるのは 明々白々
 人の道を わきまえない 独裁者の国
 人道 人の命より 独裁者 自身が 第一 
 総てを自身 身の保全のために
 装い 固める そんな愚者の指導する国 北朝鮮
 その国が 解決 その 進展を阻む
 第一の要因 --元々 拉致 などという
 野蛮行為の実行が 論外 言語道断
 第二の要因は ? 
 この国 日本の 政治 その貧困さ
 政治家達の 能力不足 そこに
 起因している まず
 間違いない 口先だけの政治
 行動 実行力の伴わない 政治家達の
 非力 それが 強欲 自身の保身に命懸けの
 人的 独裁者の下では 手も足も出せない
 ひっくり返り 裏返しにされた 亀の様 
 口を パクパク 手足を バタバタ 
 なんの成果にも 繋がらない 遅すぎる
 総てが 遅すぎる 既に何年 ? 何十年 ?
 経過している・・・ 親から子 子から孫
 何代にも亘る 世襲独裁者の下 まるで
 醜い豚のように肥え 太った愚鈍 独裁者には
 世界の常識 人の道は通用しない それを
 承知 納得した上で 今 何を為すべきか
 為すべき行動 その方法は 何処にあるのか 深く 
 考え 相手の弱点 弱みを掴み 把握して
 そこに切り込む 解決の 道を探る
 今 あの国 北朝鮮では 国民
 一般市民が 食べる物にも事欠き 日常生活が 
 困窮 逼迫の 状態にあるという
 独裁者自身 その現実を認め 
 発言している
 自身は豚のように 醜く太り 国民は 痩せ細る
 この不条理 非人道 貧しい国民 一人の命も
 醜い豚に似た独裁者 の 命も 一つの命は
 一つの命 変わりはない 貧しい国民の 命を救う・・・・
 その為に今 何が必要なのか ? この国
 日本が出来る事は ? 今 この国 日本では
 飽食の時代 膨大な量の食品が日々
 廃棄されている 米の在庫も豊富
 こういう時にこそ この国 日本の政治は 行動
 動いて かの国 独裁者国家を 有利な交渉
 話し合いの場に 導き出し 話し合う べきだ
 この国 日本が かの国 独裁者国家の
 飢えに苦しむ 貧しい人々 その人々に
 食料の援助を 申し出る
 交換条件に 拉致被害者
 その人達の 返還を 要求する
 食料と 人との 交換
 この国の余剰食品が 独裁者国家の 
 貧しい人々を救い 拉致された
 なんの罪もない この国の人々 と 
 その家族の 苦境を救う 今 この時
 かの 独裁者国家の 一般市民 人々が
 飢えに苦しむ この時期 絶好の
 機会ではないか 行動する
 直ちに行動する 動きのない所 そこには
 物事の 動きもない
 動くべし  行動すべし 既に 時間はない
 皆 年老いた 政府よ 政治よ 政治家達よ 直ちに
 動くべし 行動すべし



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          優子の愛(3)


 優子はその孤独の中にいる時にだけ、安らぎを得ているように見えた。
 沖津はそんな独特の雰囲気を持つ優子を殊更、口説いてみようとは思わなかった。何よりも沖津の意識の中で恋愛に対する感情がそれ程、大きな位置を占めていなかった為だった。幼い、とでも言えるのかも知れなかったが、沖津に取っては仲間の大勢と騒いでいる方がより楽しみを得る事が出来た。サークルのリーダーでもない沖津が、特別に優子の興味をひく事もなかった。
 沖津は大学を卒業すると、業界では中堅クラスの広告代理店に就職した。当然の事のように優子の存在も忘れていた。そんな沖津が優子に再会したのは全くの偶然からだった。
 九月の金曜日の午後だった。銀座四丁目の人込みの中で突然、前方から来た女性に声を掛けられた。驚いて足を止めた沖津の前に、化粧をして見違えるように華やかになった優子が立っていた。
 優子はその時、日本橋にある商社に勤めていた。沖津がいる銀座三丁目にある広告代理店とは、さして遠くない距離にあるビルがその本社だった。
 二人は偶然の出会いを懐かしみ、近くにいて今まで出会う事のなかった不思議さをも話題にして話しは盛り上がった。
「銀座へはよく来るの ?」
「ええ、週末にはたいがい来るの」
「僕も一週間が終わるといつもこの辺りをぶらぶらしているんだけど、今まで会わなかったのが不思議だね」
 その時は喫茶店で過ごし、食事をした後、沖津がよく足を運ぶバーで時間を潰し、再び深夜近くに四丁目の角で別れた。
 
 何年ぶりかで再会した優子は見た眼にも華やかさを身に付けていたが、内面的にも格段に明るくなっているように見えた。沖津はその印象を好ましく思った。
「また、会えるといいね」
 沖津はバーのカウンターで軽い酔いと共にそんな事まで口にしていた。
 優子も沖津のその言葉を拒む事はなかった。会社での机の上の電話番号も教えてくれた。
 沖津は名刺を渡した。
 二人の関係はそれから三年近くに及んだ。沖津は肉体にまで及んだ関係の中で、次第に優子との結婚も考えるようになっていた。二人の関係を邪魔するものは何もないように思えた。ただ一つ気懸かりがあるとすれば、優子が学生時代に見せた、あの独特な雰囲気だった。誰をも傍に寄せ付けない孤独の影を帯びた雰囲気。再会当時、消えていたと思っていたその影が、優子との関係が深まれば深まるほど、その関係の中で時折り何かの拍子にふっと、姿を見せた。沖津が傍にいる事も忘れたかのように、遠い眼差しの何かを見る眼をした。学生時代、数々の男達が振り廻された、あの独特の眼差しだった。沖津に取っては初めての経験だったが、やはり気に掛けずにはいられなかった。ある時、沖津が別れ際、自分のアパートの部屋へ誘った時、優子はそれを拒んだ。
「だって、わたし、夜明けの白々した時間の中での別れなんて嫌だわ」 
 そう言って、深夜の街角で背中を見せて去って行く優子の後姿には、何故か、誰をも寄せ付けない孤独な影が透けて見えるような気がして、沖津は改めて愕然とした。
 そんな事で、ますます親密さを増す優子との関係の中で、最後の決断の出来ないでいた沖津に、その決断を迫って来たのは優子の方からだった。
 何時ものように食事の後、バーのカウンターに並んでいる時、優子はまるでそれが軽い世間話しでもあるかのように口にした。
「わたし、結婚する事になるかも知れない」
 したたかな酔いの中で口にする言葉なら、沖津も聞き逃す事は出来た。だが、まだ、カウンターに着いたばかりの時の言葉だった。
 沖津は息の止まる思いだった。カウンターに両肘をつき、カクテルの入ったグラスを両手で囲ってうつむき加減で、呟くように口にした言葉には、奇妙な真実感がこもっていた。
「結婚 ?」
 沖津は思わず聞き返した。
「ええ」
 優子は言った。
「結婚って、誰と ?」
 沖津は意味が分からずに言った。
「あなたの知らない人よ」
「いったい、どういう事なの ?」
 沖津はまだ、よく呑みこめずに聞いた。
「御免なさい」
「御免なさいも何も、訳が分からないよ」
 沖津はつい、剣呑な口調になっていた。
 優子は黙っていた。
「なぜ、誰と結婚するの ? 俺との事は遊びだったの ?」
「遊びなんかじゃないわ !」 
 優子は強い口調で、抗議するように言った。
「じゃあ、なぜ、誰だか知らないけど、結婚する気になったの ?」
「あなたは結婚なんて、一度も言ってくれなかったじゃない !」
「今頃そんな。初めから何もかも承知で付き合ってくれたんじゃないのかい。それじゃあ聞くけど、今、俺が結婚してくれって言ったら、うん、と言ってくれるかい ?」
 優子は答えなかった。
「やっぱり、そうだろう。今日まで俺を愛している振りをして、心の中では何時も拒絶していたんだ。後姿には常にそんな影があった。だから俺はそれが気になって言い出せなかったんだ」
「拒絶していただなんて。あなたが好きだった事は本当よ」
 優子は涙を含んだ声で言って抗議した。
「じゃあ、何故、他の男と結婚するの ?」
「結婚するって決めた訳じゃないわ」
「それならすぐに、俺と結婚してくれよ」
「そんな事、急に言われたって」
「やっぱり、俺と結婚する気なんてないんじゃないか」
「大きな声を出さないでよ。ほかの人に見られるわ」
「見られたっていいよ。ほかの人には関係ない事なんだから」
 沖津は興奮と怒りを抑え切れずに言った。
「いったい、どうしてその男と結婚しようという気になったの ? どういう男なの ? 抜群のエリート ? 大会社の社長の御曹司 ? それとも映画俳優みたいな美男子 ? 年は幾つなの ?」
「四十七歳人よ。再婚者よ。子供はいないわ。前の奥さんは亡くなっているわ」
 優子は怒りを抑えられない沖津に対抗するように、自身も怒りを含んだ口調で言葉を並べた。
 沖津は優子の意外な言葉に再び、言葉を呑んで優子をかえりみた。
 優子は顔を上げ、正面を見たまま怒りの表情を滲ませていた。
「どういう事なの ? いったい、何が理由なの ?」
 沖津は優子の意外な言葉に改めて気を落ち着けるようにして言った。
「理由なんてないわ」
 優子は言った。それから優子自身も気を取り直すようにして言葉を続けた。
「その人、都内に幾つものビルを持っているわ。マンションもあちこちにあるし」
「そういう事か」
 沖津は納得したように言った。
「そういう事だったのか。要するに金持ちだという事なんだ。そういう資産家なら、誰だって結婚してみたくなるだろうからな。俺だって、そんな女が現れたら迷わず結婚するもんな」
 沖津は軽蔑的に続けた。
「そんな風に言わないでよ。あなたが好きなんだから !」
 優子は怒りを滲ませ、泣きながら激しい言葉を沖津に投げつけた。
 バーテンダーやホステス、他の客などがその声で一斉に二人の方へ視線を向けた。
 沖津は慌てて優子の肩を抱いてなだめるように軽く揺すった。

 その夜以来、沖津が優子と会う事はなくなった。





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           桂蓮様

           有難う御座います
           新作が見えませんでしたので
           旧作を拝見しました
           以前にも読ませて戴いた記憶がありますが
           「常にあるもの無いもの」
           良い言葉が並んでいます 
            冬になると色は消える
            消えたように見えても
            消滅しない 春になると また
            緑が出て来て 色とりどりの
            花が咲く 
           いい言葉ですね この詩的な言葉
           改めて感動します
           英文と対比しながらゆっくりと読ませて
           戴きました
            貴重な御意見 有難う御座います
           死は準備してもしなくても勝手に行きたいところへ
           ゆく 全く その通りだと思いますす 
           人はただ誠実にその日を生きる それより外 
           出来る事はないのではないでしょうか 
           日日(にちにち) 是 好日(こうにち)禅の言葉ですね
            わたくしは現在 自身の生を残り少ないものとして
           その日々を悔いのないように生きる
           それだけを考えて生活しています
            冒頭 読み出した時 ちよっと違うのかな と
           違和感を抱きましたが 最終部分で納得出来ました
            何時も貴重な御意見 有難う御座います



           takeziisan様

           有難う御座います
           今回も様々な花々 楽しませて戴きました
           今更ながらにその豊富な事に驚きです
           コスモス もう咲いているのですね
           この花とカスミソウ 一番好きな花です
            畑の雑草 なんだこりゃ という思い
           その生命力に改めて驚きます
            ジャガイモ 今年は高いです
            キュウリの「キューちゃん」材料豊富なゆえの
           贅沢 羨ましい限りです 相も変わらずの"羨まし節"
            イノシシ退治 まずは一安心 
           おめでとう御座います というところでしょうか
            中学生日記 思い出す事ばかりです でも
           教員の運動会はなかったですね
            「よか」はあった気がしますが「わかいそい」
           なかったですね
            八州秀章 当時 好い歌を幾つも発表して
           いました ラジオ歌謡の体験者としては
           懐かしい名前です サクラ貝の唄も良いのですが
           雲の美しさに感銘しました
            ビートルズが分かればお若いです 私はせいぜい
           プレスリーぐらいまでですかね
            「基本練習」何時までやるの ? もうそろそろ
           「タイムトライアル」ぐらいにいってよ 
           という思いで拝見しています でも 身体を動かす
           わたくし共の年齢になれば大事なことですね
           わたくしも毎朝 一時間半程 身体を動かしています
           そのせいか、先日の健康診断で満点を取りました
           今のところ 何処も悪い所はありません 大腸がんを
           切除して今年で五年ですが 腸の検査はこのご時勢 
           ちょっと休んでいます 濃厚接触が怖いもので
            川柳 楽しいですね クスリと笑えます
            何時もお眼をお通し戴き 有難う御座います
            

 
            
     
            
           
   


 


遺す言葉(350) 小説 優子の愛(2) 他 雑感八題

2021-06-20 12:31:30 | つぶやき
          雑感八題名(2020~2021.6.1日作)


 1  学ぶ 
       学ぶ という事は
       自己の特性を見極める行為
       自己の特性を見極める事なく    
       漫然と知識を詰め込む行為は
       根のない草木に水をやる行為

 2  キャンバス
       人の生は白いキャンバス
       そこに
       どのような絵を描き
       どのような色を塗ろうと
       自由だ

 3  教育
       教育とは
       土台も固まらず 総てが柔らかい時代に
       物事の基礎 基本を教え込み
       人が人の世を生きる上で必要な
       総ての要素を養い育む事
       子供の時代に放任し
       物事の基礎 基本も教え込まず
       大学での基礎勉強など
       論外 言語道断

 4  希望
       希望とは 人が生きる源
       命の保証書
       希望のある事は
       人の命の保証される事であり
       希望を失くした時 人は
       死への旅路を辿り始める

 5  在る
       この世に神仏はあるのか 
       無い
       在るのは
       人の心だけ
       心が
       神を生み 仏を生み
       鬼を生む 悪魔を生む

 6  念仏
       念仏とは何か
       心の中 意識の中に
       仏を埋め込む行為
       仏とは何か
       あまねく
       世の中を照らす存在

 7  生き方
       東風(こち)吹けば 西に傾き
       西風吹けば  東に傾き
       竹はしなやか
       柳に風と受け流す
       雪折れ 風折れ 柳になし
       大地に巡らす根があれば

       抗(あらが)えば 波立つ 川の流れかな

 8  小説
       街を造る作業

    詩 
       ビルを建てる作業





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          優子の愛(2)
               (前回の文章の中 二箇所
               入力ミスがありましたので訂正しました)


「いろいろ、考えてみたんですけど。でも、どうしても娘の結婚式に出席して戴きたくて」
「僕に ?」
「ええ」
「二十年以上も前に終わった事なのに」
 沖津は少なからぬ戸惑いと共に言った。
「はい。でも、あの時の子供が今度、結婚するんです。それで是非、お出で戴きたくて」
「しかし・・・僕なんかが行ったら、かえって迷惑なんではないですか」
 沖津はなお、戸惑いから抜け切れないままに言った。
「そうじゃないの。是非、来て戴きたいんです」
 なぜか、優子の言葉には必死な気配さえが感じられて沖津は、一層の混乱と困惑に捉われた。
「主人が亡くなってもう十年になるんです。それでわたし今、娘と二人だけなんです」
 優子は言った。
「御主人、亡くなったの ?」
 沖津は初めて知る事だった。
「はい」
「そうだったの」
 そう言ってから沖津は、
「じゃあ、お婿さんを迎えるんだ ?」
 と、親しみを込めて言った。
「いえ、出す方なんですけど、二人でマンション住まいをするらしいんです」
 優子は言った。
「そうですか」
 と沖津は言ったが、沖津にしてみればどうでもいい事だった。
 先日、優子から電話があったその夜、沖津は帰宅すると妻には内緒で結婚式への招待状を取り出して見た。その時、父親の名前のない事には気付いていたが、その事に特別の関心があるわけではない沖津にしてみれば、改めて拘る程の事ではなくて気にもしていなかった。二十年以上も前に優子が沖津との関係を断ち切って結婚した相手は、都内に幾つものマンションを持つ資産家だった。年齢が倍近い程に離れていて、それから思えば優子の「夫が亡くなった」という言葉も、あながち特異な事でもなく思えた。
 その夜、沖津は帰宅すると妻の道代に言った。
「結婚式の招待状の主が分かったよ。元、俺の課にいて今は大阪に行っている社員だった」
 それを聞くと妻は、
「やっぱり、会社の方でしょう」
 と、先見の明を誇るように言った。
「うん」
「主席するんですか」
「しようと思う。せっかく、東京で式を挙げるっていうんだから。明日、出かける時に返事を出そう」
 妻は沖津の言葉を露ほども疑っていなかった。
 沖津は優子との電話口では出席すると返事はしなかった。
 
 沖津は自身、なぜ、今は遠い他人でしかない優子の娘の結婚式に出席しようという気になったのか、その心理が自分でもよく分からなかった。無論、興味本位、などとという軽い気持ちではなかった。何かしら、必死さを感じさせる優子の気配と共に、自分の心に絡み付いて来るものを、沖津は感じ取っていた。それが何なのかは自分自身にも分からない。それでいて、心に絡んで来るものがある。その絡んで来るものに突き動かされた形で結婚式への出席を決めていた。
 考えてみれば何時も、優子に振り廻されて来た、という思いが改めて沖津の心に浮かんだ。今度の事にしてもそうだったが、過去に於いてもそうだった。思いも掛けない優子の言葉に振り廻され通しだった。ーー沖津の心にはそんな思いが浮かんだ。だが、それでいて何故か沖津には優子が憎めなかった。何処かしら、人を素直に寄せ付けないような奇妙な雰囲気があって、それが沖津に限らず、誰をも彼女から遠ざけるようなところがあった。奇妙な孤独の影、とも言えるようなもので、一度は誰もがその影に魅かれて吸い寄せられたが、それと共にまた誰もが、その不思議な影の近寄り難さに音を上げて離れていった。ーー沖津が優子との関係を深めるようになったのは、ただ、偶然の結果にしかすぎなかった。そして、それらの事柄からは既に二十年以上の月日が流れていた。



          三



 沖津が川田優子と最初に出会ったのは、大学の趣味のサークル「パーティーの会」での事だった。それは出会いとも言えなかった。二年後輩の優子がその会に入会して来た。沖津は特別、川田優子に興味を持つ事もなかったが、優子にはその頃から既に、人を惑わせるような独特の雰囲気があった。何処か愁いを含んだようにも見える優子の美貌が入会と共に、たちまち男子部員達の注目の的になっていた。月に一度行われるダンスパーティー、ディナーパーティー、ティーパーティー等の会場では必ず、何人かの男子学生達の輪が彼女のまわりに出来ていた。優子の何処か、孤独感を漂わせた雰囲気が男子学生達の気を惹いてやまなかった。誰もが簡単に友達になれそうな気にさせられるのだった。そしてまた、誰もが必ず、彼女の漂わす孤独感に満ちた影の前で立ち往生をさせられていた。優子といる時、その相手は誰もが、自分が優子の世界から締め出されているような疎外感を味わった。しばしば優子は、眼の前にいる相手を忘れでもしたかのように、ふと、遠くを見るような茫然自失の眼差をした。それは、喫茶店でテーブルを挟んで向き合っている時にさえそうであった。それがいつも相手の男性を戸惑わせた。男性達は誰もが優子が自分といる時間に退屈しているのではないかという思いの中で屈辱感を味わった。男性達はそうして次第に優子に近付かなくなった。
 だが、実際には優子はその時、その場に退屈していた訳でもなく、相手の男をないがしろにしていた訳でもなかった。優子の視線はその時、男達の存在を越え、その場を越えて、自身の見えない心の裡にそそがれていた。そしてそれは、優子が意識して、そうしている事ではなかった。優子自身の身の内に備わった独特の性癖とでも言えるようなものだった。





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            桂蓮様

            コメント 有難う御座います
            世の中の指導者達 これからは
            ますます仕事がし辛くなってゆく事でしょうね
             今回 ブログ 二篇 とても楽しく
            読ませて戴きました バレーと坐禅
            対極にあるようですが 物事の基本 本質
            そんなに変わらないものなのですね 動と静 
            人間の身体 意識の中では総てが
            繋がっているものなのかもしれません
             55歳になって
            人の品位 付け焼刃で出来るものではないですね
            人の心はそのまま 表に現れます
            心の中に何を持っているか 常に人は他人を
            見ています 油断は出来ません
             うぬぼれ要因 自覚がある以上 大丈夫ですよ
            自覚のない人間こそが恐ろしい 厄介ものです
             人間の品性 見た目や経歴などに
            左右されるものではないですね 心の有り様
            それこそが知らず知らず 表に出ます
            自戒したいものです
             何時も有難う御座います


            takeziisan様

            有難う御座います
            鬼のいぬ間は・・・・   
            軽妙な御文章 笑みと共に拝見しました
            ビリー ヴォーン 懐かしいですね
            この頃の演奏には良いものが多いです
            今の騒がしいばかりの音楽とは情緒が
            違います 小雨降る径 わたくしは
            高英男 芦野ひろし などよく聞きました
            当時が甦ります
            山羊 わたくしの小学校でも飼っていました
            当番があって 日曜日に当るとわざわざ
            小屋から出したり 入れたり 学校へ
            行かなければなりませんでした ひどく
            力が強く 引きずり廻される程でした
            川柳 相変わらずユーモアと皮肉 特権ですね
            野菜の収穫 新鮮な色を見るとなぜか
            心洗われる気がして野菜同様 新鮮な気分に
            なります
            今回も楽しませて戴きました
             有難う御座います
            
            

             
             

 
 
 


 
 
 
 
       

       

 4  
         

遺す言葉(349) 小説 優子の愛(1) 他 衰退国 日本

2021-06-13 12:23:47 | つぶやき
          衰退国 日本(2021.6.10日作)



 衰退国 日本
 この国 日本 は もはや
 先進国では ない
 政治は言うに及ばず
 経済 教育 の 面に於いても
 世界に誇り これが日本だ と
 言い得るものが ない この国 日本の
 高校生達が 必死に目差す「東大」それも
 世界で見れば
 六位 か 七位 これが
 この国 日本の最高大学 と
 思われて来た 東大 の 地位
 経済に於いても 然り
 政治に於いても 然り
 堅固 緊密 堅牢 その理念の下
 強力に人々 国民を導き得る指導者
 人材が いない 低迷 ぬるま湯体質
 その中で 互いの身体を暖め合っている
 次第 次第 に 没落してゆく この国 日本
 あらゆる指標が 下降の線を描き
 中進国なみに 沈んでいる
 (コロナ対策を見れば歴然)
 かつて この国 日本が
 世界を席巻した 高度成長時代
 千九百八十年代 この国の大学生達は
 その好景気下 夜な夜な 日々 浮かれ 遊び歩き
 地道な勉学に励む学生の姿は 稀だった
 一億総大学入学 と ばかりに
 誰もが大学を目差した時代 その時代の
 学生の質の低下 好景気に浮かれ なんの
 苦もなく育った世代 その世代が今
 政治 経済 その世界で この国 日本を
 動かし 指導する立場 の 年齢に達している
 若き日々の 気の緩み 苦労知らず
 それが そのまま
 今現在 この国を治める指導者達に
 反映され この国の姿に 跳ね返って
 来ている
 苦労 苦悩を知らない世代の 指導者
 そんな指導者達が創るこの国 日本は
 このまま 何処まで 落ちてゆくのか ?
 ---否 それでも 希望の
 ない 訳では ない
 数少ない 優れた指導者 そんな人達 の
 二人 三人 と 散見出来る 今現在 その人達の
 後に続く者達も やがて
 出て来るのでは ないか もはや
 先進国ではない この国の その姿に
 業を煮やし 発奮する人達も やがて 現れる
 のでは ないか この国 日本の人々に
 再び 立ち上がる その 気概 能力 が
 無い とは 思われない 
 やれば出来る 
 そう 信じたい



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          優子の愛(1)

           一

 尾沢、滝口両家の結婚披露宴への招待状を手にした時、沖津順三は、
「何かの間違いじゃないのかなあ」
 と、心穏やかでない思いで呟いた。
 結婚する当事者二人の名前に心当たりがなかった。
「会社の方じゃないんですか」
 妻の道代が傍で、関心がなさそうに呟いた。
「いや、こんな名前は営業部にはいない」
 沖津順三は銀座に本社がある、中堅クラスの広告代理店の営業部長だった。
「でも、まさか、結婚式への招待状を間違って出すような事はないでしょう」
 妻は重ねて言った。
「うん、そうは思うけどね。まあ、いいや、そのうちに分かるかも知れない」
「返事の期限は何時までなんですか ?」
「十日までになっている。あとひと月近くある」
 その夜はそれで終わった。
 一週間が過ぎる頃には沖津は招待状の事など忘れていた。
 部長と言えども先頭に立って営業に出歩く沖津は、連日、仕事に追われていた。五十一歳の身体には、何日も続く午後十時過ぎの帰宅は少々、重荷に感じられた。それでも弱音を吐ける立場ではなかった。会社は三年前に新社長を迎えていて、その攻撃的姿勢と共に業績は飛躍的に向上していた。自ずと社内にも溢れる活気と共に、攻撃的姿勢が満ちていた。沖津はその社長の下で営業部長に抜擢されていた。
「部長、電話です」
 梨本課長が受話器を差し出して言った。
 沖津は席を立っていって、課長の手から受話器を受け取った。
「沖津です」
 そう答えると電話の相手は、
「わたくし、川田です」
 と言った。女性の声だった。
「川田さん ?」
 沖津は名前に心当たりがないままに繰り返した。
「はい。お分かりになりません ? 川田優子です」
「ああ」
 沖津は思わず言って、後は言葉を呑んだ。
「お分かりになりました ?」
 川田優子は微笑みを湛えたような口振りで言った。
「しばらくでした」
 そう言ってから沖津はまた、言葉を呑んだ。
 社内では私用電話は特別な事のない限り、厳しく制限されていた。
「お久し振りです」
 川田優子の口調と声には昔を感じさせる、親しみと懐かしさとも言えるような響きが込められていた。
 沖津は戸惑った。今、沖津が立つこの場に於いては、もっとも相応しくない会話だった。それでも沖津は出来得る限りの平静さを自分に強いて穏やかな何気ない口調で言った。
「お変わりありませんか ?」
「はい、お陰さまで」
 川田優子は相変わらず同じ口調で言ったが、その後でなぜか急に言いよどむような口調になって、
「あのう・・・結婚披露宴の招待状、届きましたでしょうか ?」
 と、呟くように言った。
 沖津は息が止まった。それから思わず、
「ああ、あなたが・・・・」
 と大きな声で言っていた。その声の大きさに気付くと慌てて自分取り繕って、何気なさを装い、
「あなただったんですか。ちょっと分からなくて、誰かと思っていたところなんです」
 と、社内の周りを気遣い、極めて事務的色合いを滲ませながら言った。
「御出席戴けますでしょうか」
 川田優子はなおも、遠慮がちな口調と共に沖津の気持ちを促すように言った。
 沖津はなぜか苦い思いに捉われて、不快な感情を抱いた。
 勤務中のこんな時間に、という思いは無論、すでに遠い昔に終わって、それぞれ二人が別の人生を歩んできた歳月だった。今更なんで・・・・、その思いが強く沸き起こり、不快感はなお一層掻き立てられた。
「はい、それはよく検討してみて後ほど御返事を差し上げたいと思いますので、宜しかったら、電話番号をお教え戴けますでしょうか」
 沖津はまるで仕事の話しでもあるかのように事務的に言った。
 優子も沖津のその改まった口調には改めて気付いたようで、
「御免なさい。お忙しい時間にお電話したりして」
 と、狼狽の気配を滲ませて言った。
「いえいえ、いいんです。ちよっと電話番号だけを教えて戴ければ、改めてこちらから御返事致しますので」
 沖津はやはり事務的態度を装いながら、今度は穏やかに言った。
 川田優子もそれで気を取り直したようで、落ち着いた口調で連絡先の電話番号を口にした。
「時間は何時頃がよろしいでしょうか ?」
 沖津はメモした電話番号を見詰めながら言った。
「何時でも結構です。家にいますから」
 受話器を置くと沖津は体中から汗が吹き出すのを意識した。
 自分の席へ戻るとしばらくは呆然としたまま、何も考えられずいた。



         二



 川田優子はなぜ、二人の間にあった二十年以上もの空白時間をかえりみず、娘の結婚披露宴への招待状を送って来たのだろう ?
 沖津にしてみれば亡霊に出会ったような感覚だった。
 妻の道代と結婚して以来、沖津は川田優子を思い出す事はなかった。五歳違いの道代との間には大学生の娘と、高校生の息子がいて、半年程前には二十一回目の結婚記念日を二人の子供達と共に過ごしていた。現在、沖津は東京近郊の一戸建て住宅で何不足のない日々を送っていた。
 そんな沖津にしてみれば、過去には深い関係にあったにしても、とっくの昔に時効になっているはずの事柄など、今更、事改めて持ち出されたくはないというのが本音だった。ちよっと迷惑、というのが沖津の心境だった。川田優子への懐かしさの気持ちも薄れていた。
 それでも沖津は川田優子の電話に対して、こちらから返事を差し上げます、と言った手前、放って置く事も出来ない、と思った。さんざん迷い、思案したあげくの果てに川田優子に電話をした。
「はい、滝口です」
 声ですぐに優子と分かった。
「沖津です」
「ああ、沖津さん」
 そういった声には、嬉しさと一緒に安堵感のこもった響きが混じっていた。
 それからすぐに優子は自分から言葉を継いだ。
「この間は突然、お電話などして申し訳ありませでした。御迷惑とは思ったんですけど、お宅の方へはしづらかったものですから」
「よく、電話番号が分かりましたね」
「会社の交換台で聞いて」
「それにしても驚いた。招待状といい、電話といい、いったい、どういう事なの ?」
 言葉を交わしているうちに沖津は自然に、昔に近い口調に戻っていた。それが二人だけの間では違和感がなく感じられた。二十数年振りの空白が何故か気にならなかった。





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         takeziisan様

         コメント 有難う御座います
         前作 お写真で拝見したキジの幻想的な美しさと
         草原から連想して「化野」の形で表現してみました
         少しでもその雰囲気が出ていればよいのですが ?
          いつも詰まらない作品にお眼をお通し戴き
         有難う御座います 小説を書く というより
         これまで自分が生きて来た八十年余の歳月の中で
         認識した人間というものの存在 その心に
         焦点を当てて書いてみたいと思っていますので 
         物語的にはどうしても退屈なものになってしまうのでは    
         と考えています 前作でも離婚によって心に傷を
         負った男の無意識的願望が基調に流れています
         それと この人間の生きている今という時も
         結局は 束の間 一瞬の幻ではないか  
         総ては死と共に消え去って逝く
          そんな思いも込められています
          中学生日記 懐かしさは何時も通りです
         あの頃が如実に甦ります
          奥様は何処かお悪いのですか ?
         くれぐれもお気を付け下さい
          あれは石の造形物ですよね ふくろうに見えます
          「南国の夜」昨年も拝見したと記憶しいていますが
         いつ聴いてもいい曲です ハワイアン全盛時が
         懐かしく思い出されます
          コロナ予防接種 しない積もりです
         血圧が低く常に上100前後 下55位しかないので
         夏などそれでなくても辛いです 常にふらふらする感覚が       
         あります それでも病気は何も持っていませんので
         ーー五年前に大腸がんを切除しましたが
         健康診断の医師は百歳まで生きられますよ と言ってます
         それに人嫌いの傾向のあるわたくしは他者と接触する
         機会もあまりないものですから 
          お写真 楽しませて戴きました
          有難う御座いました
          



         桂蓮様

         有難う御座います
         アニメ まったく分かりません
         見た事がないのでちんぷんかんぷん
         ただ、歌でもそうですが 現在の
         若者たちとわたくしの世代とでは
         まったくの別世界です 総て世の中は動き
         変わってゆく それも進歩の
         一つの過程かも知れませんが
          英語発音の訛り
         面白く拝見致しました
         努力の不足 その部分もあるのかも知れませんが
         天性のものもあるのではないでしょうか
         外国の方が話す日本語でも 日本人が
         驚く程の日本語を話す人もいますし 
         何年たっても訛りの抜けない人もいますし
          エリグール 言い得て妙です
         笑いました お二方の暖かい雰囲気が
         伝わって嬉しくなりました
          何時も 有難う御座います
 
         
       
          

         
         
 


         


  
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

遺す言葉(348) 小説 化(あだしの)野(完) 他 嫌だな

2021-06-06 12:14:44 | 小説
        嫌だな(2021.5.20日作)


 テレビのニュース等を見ていて 
 嫌だな と思い 素直に
 受け入れられない ものがある
 西洋・・・ヨーロッパ 中東などの政治家 あるいは
 経済交渉などで首脳や 関係者 等が
 顔を合わせた時 互いに抱き合い 
 頬と頬を押し付け 挨拶を交わす場面
 嫌だな と思う
 それには それ相当の 理由があるのだろうが
 何故か 頭に浮かんで来るのは
 動物達の挨拶 
 互いに相手の身体をなめ合い 匂いを
 嗅いだりする場面 その場面が
 浮かんで来て 嫌だな という
 感覚に捉われる その点
 日本の挨拶は 相手を敬い
 尊重しながら 両の手をたたみ 
 頭を垂れ 挨拶する
 美しい と思う
 人間としての 理性に基づき 相手への
 敬い 尊敬を表わす
 ベタ付いた感触 がない ベタベタ
 ベタ付いた不快な感触 それは
 日頃 よく観るアメリカ映画 その中にも
 しばしば 見られて 辟易
 不快感に捉われる しきりに現れる
 抱擁場面 キスの場面 愛情表現 それには
 もっと別の 表現方法もあるはず と思う
 単純にキスと抱擁 いかにも
 アメリカらしい単純さ と
 呆れる それに あと一つ 暴力
 必ず 取っ組み合いの 格闘を する
 やたらに 銃を 撃ちまくる
 アメリカ映画の欠点
 アメリカ社会に 銃犯罪の絶えない一つの
 要因に違いない
 銃が自由に買える国
 アメリカ



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          化(あだしの)野 (完)




 ポリーは昨夜、八時過ぎに宿へ戻った。わたしだけが戻らない事でみんなは心配を深めたが、とにかく、朝まで待ってみよう、という事になった。
 わたしはみんなに詫びを言ってから、昨夜からのいきさつを話した。
「みずうみ ?」
 わたしの話しを聞いて、宿の主人や村人達は怪訝な顔をした。
「湖なんてものは、この村の何処にもねえよ」
 みんなは言った。
「いや、あの杉林をずっと奥へ行くと大きな湖に出る。岸辺の色付いた樹々が湖面に様々な色を落としていて、見事な眺めだった」
 と、わたしは言った。
「だけっど、そんな話しは聞いた事がねえ」
 みんなはそれでも、わたしの話しを信じようとはしなかた。
 わたしの腕を見ると、ジャンパーもセーターも破け、血が滲み出ていた。
 傷口は小屋で見たとおり、ふさがっていた。肉が破けたようには見えなかった。
 女の適切な処置のお陰かと思うと改めて感謝の気持ちが湧いたが、みんなはそれも、ただの引っ掻き傷としか見なかった。
 わたしの意識の中ではそれでもなお、確信の揺らぐ事はなかった。
 もし、あれが事実でないとしたら、今、ここにこうして居る事も事実ではない事になるーー。

 その日は、東京へ帰らなければならなかった。みんなを案内して確認のために湖へ行っている時間はなかった。わたしは宿の主人に、
「来年、春になったら、女の人に礼を言うために、また来ます」
 と言って、その時には一緒に行ってくれるようにと、頼んだ。


          二

 
 わたしと妻は結局、離婚した。
 二人の間に通い合うものは既になくなっていた。
 お互いの個性がぶつかり合って、感情の亀裂が少しずつ深くなっていた。
 十二年の結婚生活だった。
 子供はいなかった。妻が望まなかった。外国系企業で皮革製品の輸入販売に携わっていた妻は、仕事に忙しかった。
 翌春、わたしは三月の早い時期に村を訪ねた。仲間は誰も誘わなかった。
 東京での慌しい生活の中に身を置いてみると、村での出来事が遠い感覚の中で、遥かなものとして思い出された。あの時の現実感もいつの間にか希薄になっていた。しかし、わたしの意識の中では今もなお、その出来事への認識にはいささかの揺らぎもなかった。
 宿に着くとわたしは翌日、さっそく主人と二人だけで林の中へ入った。ポリーも連れて行かなかった。--宿にはポリーも含めて四頭の猟犬がいた。
 冬の間中、手入れのされなかった林の中は昨年のままに、枯れたススキが生い繁っていた。
 歩行は依然として困難を極めた。
 朝の光りを背にして歩いた。去年歩いたのとは逆の道筋だった。
 林を抜け出た場所は覚えていた。早春の今と去年の秋の終わりとでは昇る太陽の方角に多少のずれはあるだろうが、湖はそんな小さなずれによって見失われてしまう程に小さなものではなかった。
 わたしと主人はひたすら、ススキの深い杉林の中を歩き続けた。ほとんど、言葉も交わさなかった。眼の前に丈高く生い繁るススキを掻き分け、足元に絡まり付いてくる蔓草を振り払いながら、歩く事だけに気を取られていた。昨年の経験からわたしは、もし、湖が近くなれば、上空の明るい空間が杉の巨木の間からでも見えて来るはずだ、と考えていた。
 その湖はだが、なかなか姿を見せて来なかった。歩いても歩いても見えて来ない湖にわたしは、次第に募る疲労感だけを深くして、その疲労感が遂には苛立ちとなって、焦りにも似た思いに包まれていた。
「湖なんてものは、この村の何処にもねえよ」
 村の人達の言った言葉が始めて実感として迫って来て、不安になった。
 やっぱり、みんなが言うように湖はなかったのだろうか ?
 あの湖は、傷の痛みがもたらした幻影だったのか ?
 わたしは幾分、弱気になっていた。その弱気が言葉になって、
「もう、そろそろ、見えて来てもいい頃だがなあ」
 と、思わず愚痴のように言っていた。
 すると宿の主人は、
「あと少し行くと高い崖の上に出て、下には隣村のが小さく見えるはずですよ」
 と言った。
 それから間もなくだった。
「ああ、こんな所に、こんなものが」
 宿の主人は言うと、ススキの繁みの中に身をかがめて何かを拾い上げた。
 わたしは主人より少し遅れて離れた場所にいたが、主人が高くかかげて見せる一見、ボロ屑のように見えるそれがなんだか分からずに、
「なんです ?」
 と聞いた。
「キジですよ。キジの死骸ですよ。--去年、撃ったというキジじゃないですか」
 主人は言った。
 わたしは主人のその言葉に興味をそそられ、急かれる気持ちのままに乱暴にススキを掻き分け、主人の傍へ急いだ。
 主人が手にしていたのは、見事な大きさを持った雄キジの死骸だった。 
 その死骸はだが、既にすっかり色あせ、羽毛は破れ果てていて、その上、枯れ木のように干からびた肉体は、大方が何かに食い荒らされていた。骨だけが残された無惨な姿だった。
 わたしはそんなキジの死骸を見ながら、あまりにも悲惨なその姿ゆえに、素直に主人の言葉に頷く気になれなくて、
「でも、あの草原で撃ったキジが、こんな林の奥深くまで逃げて来たんだろうか ?」
 と言った。
 わたしの眼の奥には暗緑色の、金属的に輝く見事な羽毛を夕陽に煌めかせながら、懸命な飛翔を繰り返し、必死に杉林の中へ逃れて行ったキジの姿が、まだ鮮明に焼き付いていた。
 主人はだが、その点に関してはあまり拘っていなかった。
「そうですね。草原からここまではかなりの距離がありますからね」
 と言うと、無造作に死骸を投げ捨てて再び歩き出した。
 わたしは主人が放り出した、今ではボロ屑にしか見えないキジに未練を残しながらも、今も鮮明に眼の奥に焼き付いているあの見事な姿とは違って、微かに悪臭を放つその死骸を持ち帰る気にもなれないままに、黙って主人の後に従うより仕方がなかった。
 
「どうやら、見えて来ましたよ」
 わたしの前方、三、四メートル程を歩いていた主人が、ようやく、といった様子でわたしを振り返ると言った。
 わたしは相変わらずススキを掻き分ける手元に注意を奪われていたが、その声で顔を上げ、主人の促す方角を見た。
 前方、十数メートル程かと思われる辺りに、確かに、杉の巨木の間を通して見えて来る明るい空間があった。と同時にわたしは、それが去年、わたしが眼にしたのとまったく同じ空間である事に即座に気付いた。--わたしは否応なしに沸き起こる湖への期待感と共に、急に眼の前が開ける思いがして、その思いに促されるままに、主人が口にした「高い崖がある」と言った言葉にも係わらず、急かれる気持ちに押されてなお一層、乱暴にススキを掻き分けながら、明るい空間に向かって進んで行った。
 しかし、わたしのそんな期待はすぐに裏切られた。はやる気持ちに押され、ひたすら明るい空間を見つめて足を運んだわたしの前に姿を見せたのは、やはり、主人が言った通りの切り立った崖と、そのはるか下方に朝日を浴びて小さく点在する十戸程の家々だった。わたしが、もしや・・・・の期待をかけた湖は何処にもその姿を見せていなかった。

 結局、その日、わたし達は湖を探し出す事は出来なかった。当然ながらに、女が居た小屋も女自身も探し出せなかった。
 宿の主人は、隣村の小さなを望む高い崖の上に呆然と佇むわたしに、
「湖を見たというのはやっぱり、傷の痛みから来る幻覚だったんですよ」
 と言った。
 わたしは主人のその言葉に、眼下に広がるを見詰めているだけで返す言葉を知らなかった。

 その日の午後、わたしは宿を発って帰路に着いた。車を運転するわたしの脳裡には、宿の主人が見付けた、多分、生きていた時には見事な羽毛の輝きを放っていたに違いない大きなキジの、今ではボロ屑としか見えなくなってしまっていた無惨な死骸と共に、切り立った崖のはるか下方に、朝の光りを浴びて小さく点在していた家々の姿が浮かんでいて、いつまでも消える事がなかった。そして、わたしは思った。もし、わたしがもう一夜、女の居たあの小屋に留まっていたとしたら、わたしも今頃はあの無惨な姿を見せていたキジのように白骨と化していたのだろうか ? そして、あの女は或いは、死んだキジの化身だったのだろうか ? と考えたりもしていた。



              完  





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           桂蓮様

           コメント 有難う御座います
           御文章から伺う限り
           桂蓮様はとても真面目一途な方の
           ようにお見受け致します
           何かを突き詰めずには居られない
           中途半端を嫌う でも この世の中
           そんな方には 生き辛い世の中ですね
           あまり気を張り詰めずに ゆったりと
           生きた方が良い場合もあります 無論
           いい加減は論外ですが こんな時こそ
           桂蓮様の"禅の心"ではないのでしょうか
           有るけど無い 無いけど有る
           いちいち 愚かな人間に付き合っていては
           身が持ちません
            今回「善と悪の表裏」読ませて戴きました
           以前にも読ませて戴いた記憶がありますが
           改めて納得大です 再読に耐え得るのは
           御文章がしっかりしていらっしゃるからでしょう
           英文と合わせ読みが楽しいです
            何時もお眼をお通し戴き 有難う御座います



          takeziisan様

          有難う御座います
          ブログ 楽しませて戴きました
          普段 来れないのでとても楽しい一時です
          今後も宜しくお願い致します
          玉ねぎ五十キロ いったいどうする
          と言いたいところですが わたくしにとって
          玉ねぎ五十キロは多い量ではありません
          毎日欠かさない食事の材料です
          兎に角 野菜は食べます
          ジャガイモの高い事には驚いています
          ジャガイモと言えば安いものとばかり
          思っていましたから
          それにしても日々の収穫 楽しい事ですね
          骨もおれるでしょうが
           感覚としてはもう入梅ですね
          そう思っています
          「雑草という草は無い」
          昭和天皇の言葉ですね
          とても良い御文章でした
          「生きているということは」
          始めて知りました
          それにしてもこの時代の人達が創る歌は詞の
          内容がしっかりしていて 聴いていても気持ちが 
          良いです
           ツベルクリン 同じ年代の懐かしさで一杯です
          「ネコよりまし」これには参ります
          楽しい一時を有難う御座いました 花々のお写真
          楽しませて戴きました