遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 61 風立ちぬ

2015-08-30 13:21:34 | 日記
          風立ちぬ(2000.9.10日作)

            堀辰雄「風立ちぬ」により


   光り輝く高原の

   風の流れの中にいて

   遠い山脈(やまなみ)見つめてた

   あの日あなたが呟いた

   言葉なつかし 

   風立ちぬ

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   落ち葉降りしく白樺の

   道にしぐれの来る頃は

   一人しみじみ偲びます

   あの日あなたが呟いた

   言葉なつかし

   風立ちぬ

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   二度と帰らぬ幸せと

   思う心の淋しさで

   今日も見ている八ヶ岳

   あの日あなたが呟いた

   言葉なつかし

   風立ちぬ

   

遺す言葉 60 決断 視点

2015-08-23 13:01:47 | 日記
          決断(2012.1.14日作)


   国連難民高等弁務官だった

   緒方貞子さんは言った

   決断を下す時

   最後は勘だ

   禅の世界に於ける 直覚

   直覚 経験 体験の中から

   生まれる 不立文字

   言葉 文字に出来ないものによって

   最後の決断を下す

   究極 ものみなすべて

   最後の決断は

   理論理屈を超える





          視点(2012.1.14日作)


   物事をどの視点で捉えるか

   視点の取り方によって物事は

   百八十度転回する 現代に於いて

   最も重視されなければならない視点は その根底に

   命の尊厳 尊重という概念を据える事だ 命は

   世界を形造るものの すべての基本

   


   

遺す言葉 59 九十九里浜

2015-08-16 13:15:21 | 日記

          九十九里浜(2010.3.13日作)



   八月 真夏の太陽は白昼の空気の炎

   陽炎を立ちのぼらせ

   砂浜の砂は その揺らめきの中で

   白く輝いた

   防砂林の松林の中の道を抜け

   渚へ降りてゆく子供らは

   広大な砂浜の砂 熱砂で

   足裏を焼かれ 跳びはね歩いた

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   一月 真冬の寒風に吹き寄せられ

   白い砂は蛇のように動いて

   その居場所を変えた

   砂浜には 砂上に這いつくばる雑草の間に

   幾つもの風紋が表れ

   無数の小さな砂丘が形造られた

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   九十九里浜 果てしなく広がる海

   白く砕けては また生まれる波の繰り返し

   その響き

   渚をたどる足元には

   寄せては引いてゆく潮の小さな動き

   見渡す限り さえぎるものの

   なに一つない視界の中に 砂浜は

   千鳥の群れを遊ばせ やがて

   陽炎の中に かすんで見えなくなり

   ときおり 姿を見せる小さな川は

   川とも言えない 浅い流れを作って

   透明な水に

   無数の 小魚たちを泳がせながら

   海に溶け込んでいた

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   昭和二十年代 千葉県匝瑳郡白浜村

   過ぎ去った日々の追憶に甦る風景

   帰り来ぬ時への郷愁

   村は幾度かの町村合併政策で

   その名が消えた

   白い広大な砂浜は 波に浸蝕されて

   小さくやせ細り 芥を散乱させて

   かつては訪れる人の姿もまれだった砂浜には

   昔日の面影はない

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   過ぎ逝く時が

   永遠のなに一つない事を認識させながら

   わたし自身も老いた

   


遺す言葉 58 あの夏 八月十五日  一つの風景

2015-08-09 12:44:15 | 日記
          あの夏 八月十五日 一つの風景(2009.8.10日作)



   ラジオのある一軒の家には 中の大人たちが集まり

   正午の重大放送を待っていた

   わたしと兄と西瓜をかかえた一人の友だちは

   松林の中の道を栗山川へ向かっていた

   真夏の太陽が半ズボンをはいただけの

   裸の上半身を容赦なく焼いた

   砂の道が足裏をやけどさせるように熱かった

   青く晴れ渡った空のどこにも

   強烈な光りを遮る雲はなかった

   夏の真っ盛り 千葉県匝瑳郡白浜村木戸長塚下

   松林と田圃と畑の広がる風景の中に

   槙の木の塀を巡らした二十戸程の家々が点在する

   昭和二十年八月十五日昼

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   松林の中の道を抜け 栗山川の堤防が見える

   田圃の広がる道に出た

   その頃 九十九里浜に近いのどかな農村にも

   戦争の影は確実にしのび寄っていた

   九十九里浜にアメリカ軍が上陸して来るという噂が流れた

   日本軍の兵隊達が の中の大きな農家の離れを借りて

   駐屯するようになった

   時折 異常な低空で接近して来るアメリカ軍の飛行機から

   人が狙撃されたーーー幸い 死傷者は出なかった

   小学校の教室の壁が

   機銃掃射によって撃ち抜かれた

   時には誤って 松林の中に爆弾が落とされた

   栗山川の向こう側 隣村に飛行場があった

   その上空である時 空中戦が展開された

   何機もの飛行機が次々に 尾翼から火を吹きながら

   墜落して行った

   誰もが松林の向こう側 はるか彼方に見える光景に

   歓声を上げた

  「また 落ちたよ また 落ちたよ」

   日本軍の戦果を疑う者はいなかった

   (落ちたのは 日本軍の飛行機だった)

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   その年 三月十日の東京大空襲で

   深川にいた わたしたち一家は焼け出され

   この村の母方の祖母の家に身を寄せた

   東京の惨状に比べて この村には

   時折 戦死者の帰還や誤爆などがあったりしても

   まだ のどかさがあった

   ましてや 子供たちが戦争の帰趨に

   思いを馳せる事などなかった

   栗山川での水浴びは 子供たちにとっては楽しさに満ちた

   夏休みの日課の一つだった

   流れのゆるやかな

   魚の泳ぐ姿も見える川は

   戦争さえも忘れさせる程に透明で清らかだった

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   わたしと兄と西瓜をかかえた友だち三人は ようやく

   栗山川の堤防にたどり着き 斜面を上がった その時不意に

   向こう岸の松林の陰から

   アメリカ軍の飛行機が現れた

   飛行機は轟音と共に超低空で

   わたしたち三人の頭上を通過して行った

   一機 二機 三機ーーーー

   操縦士の顔も見分けられる程に巨大な 飛行機の影に

   わたしたちは度肝を抜かれた

   必死で堤防の斜面に身を伏せた

   友だちのかかえていた西瓜が斜面を転げ落ちて

   粉々に砕けた

   飛行機は遠ざかり 爆音も聞こえなくなった

   わたしたちは堤防を駆け下りて 今来た

   松林の中の道へと逃げ戻った

   ようやく その道に入った時 釣竿を肩にした

   天神前のお爺さんが向こうから来るのに出会った

  「あじょうしただ おめえ等?」

   お爺さんは わたしたち三人の血相を変えた様子を見て言った

  「アメリカの飛行機に撃たれそうになった」

   お爺さんは わたしたちの言葉を聞いて笑った

  「はあ 戦争は終わっただよ」

   わたしたちは 体中から力が抜けた

   粉々に砕けた西瓜に未練が残った

   お爺さんは何事もないかのように川へ向かった

   わたしたちは再び 川へ行く気にはなれなかった

   そのまま家へ戻った

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   昭和二十年八月十五日

   終戦の日の一つの風景

   

   

   

   

   


   

   

遺す言葉 57 事故・・・・いったい 何が?

2015-08-02 14:42:05 | 日記
          事故・・・・いったい 何が? (2013・10・3日作)


   なぜ その時 その場所なのか?

   なぜ その時 その人は

   その場所に居合わせ

   その行動に出たのか?

   その時 その人を その場所に導き

   その行動に走らせたもの

   そこに働いていた力は いったい

   なになんだろう?

   その事故の起こる一日前 あるいは

   一時間前 又は三十分 否

   十分 五分

   数秒前まで

   その人の身に そんな事が起こるなどと 誰か

   想像し得た人がいただろうか?

   その人自身 その事の起こる直前まで

   明日を夢見 未来を夢見て

   幸福な人生 豊かな生涯を

   思い描いていたに違いない

   しかし 事故は起こった

   その人は亡くなった

   そこに働いていた力は いったい

   なになんだろう?

   人の命 それを左右するものは

   いったい なになんだろう?

   人と場所 時の 三要素が一所で出会い 絡み合い

   引き起こされる偶然

   すべては人の力では制御出来ない

   単なる偶然の成せる業 あるいは

   その人の持って生まれた運命

   その人はその場所に赴き 事故は

   そこで起こるーーー生まれながらに定められた

   その人の持つ運命が

   そこで働いた?

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   思いもかけない人の死

   一瞬にして消える命

   人の命を司るものは いったい

   なになんだろう?

   単なる偶然

   それとも運命

   なんともし難い運命が

   人の生涯 一生を支配する・・・・・?

   命のはかなさだけが

   胸に迫る