遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉313 小説 心の中の深い川(3) 他 星空

2020-09-27 12:09:29 | つぶやき
          星空(2010.5.24日作)

   わたしがまだ小さく 祖母と二人で
   九十九里の海辺に近い村に暮らしていた
   この国がまだ 貧しかった頃
   星空は 限りなく美しかった
   冬の夜
   祖母が農作業の手伝いをしていた家で
   貰い湯をして我が家へ帰る夜道
   見上げる
   寒さに凍て付き 冴え渡る空には
   大小様々
   数限りない星の瞬きがあり
   無数の星の群れの中を横切って
   白い粉(こ)を流したように広がる
   星の帯 銀河が蒼黒の天体を
   一杯に覆っていた
   まだ 都会にネオンサインの光りも乏しく
   家々の座敷に電燈を燈すになって
   それ程に歳月を経ていない頃
   湯上りあとの手拭がたちまち凍り付く
   霜の降りた枯れ草の中の小道を歩きながら
  「あれがサンチョウレイ(三ツ星)」  
  「あれがヒシャクボシ(北斗七星)」 
   星の並んだ形を指差して 祖母が
   教えてくれた 遠い昔の記憶
   今のわたしは 祖母のあの頃の年齢を生きている
   祖母と暮らした村を離れて
   都会の夜を生きる今
   わたしの眼に映るのは
   祖母と二人で眼にした あの夜空の
   星の瞬きとは異なる
   地上に溢れる幾千万もの光りの瞬き
   人の手によって生み出された光りの帯
   すでに 祖母は遠い昔に逝き その姿の
   次第にわたしの
   記憶の中から薄れてゆきつつあるように
   あの星空もまた
   遠い記憶の彼方へと押し流されて行く
   永遠に変わらぬもの
   常に換わりゆくもの
   蒼黒の天体は都会の夜を生きる
   わたしの頭上に今も
   変わる事なく開けていても
   あの星空は地上に溢れる光りにさまたげら
   見る事は出来ない
    --遠い国の何処か
      見知らぬ土地の何処かへ行けば  見る事が
      出来るのか ?ーー
   永遠に変わらぬもの
   常に変わりゆくもの
   延々と続く人の営みが
   なにかを生み なにかを壊し
   わたし自身の肉体も
   老いた
   あの夜空にきらめく
   無数の星の瞬き
   遠い国の
   見知らぬ土地の何処かで
   ふたたび
   あの輝きに出会えたとしても
   わたし自身に過ぎた歳月
   この国の上に流れ この国の形を変えた
   歳月は
   戻らない



          -----------------



         心の中の深い川(3)

 有吉が由紀子の何処に興味を持ったのかは分からなかった。有吉が二度三度と来て、その都度、顔を合わせるうちに由紀子の身辺に話題が及んだ。
 由紀子は当時、学校に通い、洋裁を勉強していた。バーに勤めたのは、生活費と将来、店を持つ為の資金を稼ぐ為だった。由紀子、二十四歳の時だった。
 由紀子には始め、一流デザイナーを目指すなどという大それた気持ちはなかった。店を持つ事によって、自分一人が生きてゆければ、というだけのささやかな願いからだった。中学を卒業してからの、十数種類に及ぶ職業の遍歴。人生は厭世の色で塗り潰されていた。 孤独、翳り 性格の暗さは、由紀子を一層、不遇へ追い遣るようだった。打ち解けない性格ゆえの同僚達との行き違い。寡黙から来る度重なる盗みの疑い。訪れる人もない部屋での、生死をさ迷うような肺炎による無断欠席の果ての解雇。死にたいと思った事は、幾度となくあった。だが、それは、今に始まった事ではなかった。不遇な幼女時代から由紀子の心の奥に根差していたものだった。母の死に於ける、息を引き取る間際の苦しみ悶える姿。それが唯一、由紀子を死の誘惑から遠ざけるものだったのだ。
 そんな由紀子が、漫然とパン屋の店員でいる事に不安を覚えたのは、二十二歳の時だった。その店で由紀子は最年長者だった。
 当時の由紀子には、頼るものなど、何もなかった。次々と襲い来る運命の変転。それによる人間への不信、幼い由紀子の心の裡にはそれらのものが火傷のよう染み付いていた。当然ながらに、結婚への夢など、抱けるはずのものではなかった。技術を身に付ける事。それが唯一、自分が生きてゆくのに必要な事のように思えた。
 由紀子は自分の好みと共に、洋裁への夢を膨らませるようになっていた。
 一枚のブラウスを縫い、ささやかな報酬を手にする。月々、何枚かのブラウスを縫う事によって、自分が生きて行くのに必要なものが得られるような気がした。
 幸い、様々な職業の遍歴の中でも、それだけが唯一、自分の頼りとするものと思い、せっせと蓄えて来たい幾ばくかの貯金があった。その金を頼りに、パン屋の店員も辞め、洋裁学校に入学した。その後は、眼に付いたスナックの女性募集に応募した。昼の学校通いと、夜の仕事で生活費を手にするには好都合に思えた。
 銀座のバー「ゆめぞの」には、一年程してから移った。新聞のホステス募集広告を眼にしたあとだった。洋裁学校入学と共に手元の貯金の少なくなっている事に不安を覚えると共に、将来、店を構える時の必要資金を考えての事だった。
 「ゆめぞの」で得られるものは、由紀子の想像をはるかに超えるものがあった。
 その生活に馴れて来ると由紀子は、次第に、自分でも思い掛けない程の心の落ち着きを得るようにもなっていた。心と生活のゆとりが、今までになく由紀子を柔らか味のある人間に変えていた。由紀子自身、自分の将来に仄かな明かりのようなものを見るようにもなっていた。
 有吉が由紀子に興味を示したのも、実はその、由紀子の寡黙と翳りに他ならなかった。夢を抱いて以来の由紀子には、寡黙と翳りの上に柔らか味が加わって、不思議な魅力を醸し出すようになっていた。わざとらしく、大仰に振舞う同僚達の多い中で、由紀子の控えめなその態度は、黒い宝石のように輝いた。明るい輝きの中に隠し持った暗い輝きーー。まだ、ベテランとは言えない由紀子の新鮮さと共に、その輝きが有吉の心をくすぐったとしても不思議はなかった。
 有吉は由紀子に興味を示したとしても、若い男達を真似ての物欲しげな行動に走る事はなかった。有吉にどのような下心があるのかは分からなかったが、由紀子が有吉の眼鏡に適ったという事実には変わりはなかった。
「わたしが力になれるような事があったら、相談に来なさい」
 有吉は言った。
 有吉はその時には、由紀子の生活も、持つ夢をも知っていた。
 由紀子にもまた、ある料亭での食事の後、酔った有吉に介抱を求められた時に、それを厭う気持ちはなかった。愛情とは言えないまでも、有吉の気持ちに尽くす心があった。"初めて" の不安も妨げにはならなかった。
 由紀子は洋裁学校を卒業すると間もなく、六本木に店を構えた。バーの仲間達の誰も知らなかった。立場上、有吉が表面に出る事はなかった。

 志村とは個人的な付き合いの他に、仕事の上でも重要な相棒となった。B商社の女性部門への進出は、華やかな話題と共に、既成メーカーに取っての脅威ともなった。無名の西村由紀子の存在が始めて認識された。
 志村は相棒としてはやかましかった。月の半分近くは海外へ出ている事が多くて、それだけに様々な情報にも精通していて、注文は厳しかった。名の売れた一流デザイナーには、さすがに遠慮するような所もあったが、まだ駆け出しとも言える由紀子には容赦がなかった。自分の意見を押し付けてくるような事もあった。感覚的にも鋭かった。しばしば、二人の間では衝突が起こった。それでも最後には結局、双方が折り合って決着が付いた。
「じゃあ、兎に角、それでやってみよう(みましょう)。納得出来ないけど」
 由紀子は自分の意志によって一つのものが生み出されてゆく事に、限りない喜びを抱いた。自分が創り出すもので、世界が一つ一つ広がってゆくような気分を抱いた。志村はその良き相棒だった。自ずとその存在が由紀子の心の中に消し難く住み着くようになっていた。
 有吉は、由紀子の仕事に口を出す事はなかった。小さな仕事に係わっていられる程に暇人ではなかった。
「どうだい、たまには食事に来ないか ?」
 時折、電話の掛かって来る事もあった。
 由紀子の心の裡には、B商社の仕事の成功と共に、多少の野心も芽生え始めていた。経済界に著名な人物を味方に突けて置く事が不利益になるはずはなかった。
 有吉とレストランのテーブルに向き合う由紀子には、自信と共に、女性としての魅力も漂うようにさえなっていた。
 有吉には、自分が手を貸す女性がそのように変わってゆく姿を見る事を、秘かに喜んでいるような節もないではなかった。
 志村が由紀子に仕事の相棒以外のものを求めなかった事で、由紀子が不満を覚える事はなかった。その事を格別に意識する事もない程に、二人の関係は自然だった。友人とも、恋人とも、相棒ともつかない奇妙な連帯感。事実、由紀子は志村を傍に感じているだけで 満たされた。志村の男としての部分が何処でどの様に燃焼されているのか、由紀子には分からなかったが、その事に格別の思いを抱く事もなかった。
 総てが調和が取れていた。それが志村との関係の総てだった。そして、由紀子は幸福だった。一瞬一瞬がきらめきを感じさせるような時間。それが由紀子に取っては志村との時間だった。そこに不安の影の生じる事はなかった。


          四

 鏡の表を打つ小さな礫(つぶて)。それから生じる幾条もの鋭い亀裂。失われた世界。錯綜し、飛び交う幸福の断片。眼の前を流れて行く無色の時間。佇む由紀子。
 由紀子には、何をどの様に責めたらいいのか分からない。 
 乾いた諦念があるだけだ。
 涙さえ浮かんで来ない。
 どうにもならない事だった。



          ----------------


          桂蓮様

          コメント有難う御座います
          わざわざわたくしの要望を叶えて下さって
          有難う御座います
          お手数をお掛けしてしまい申し訳御座いません
          心底より感謝 御礼 申し上げます
          そちらにお住まいの御様子
          様々にお書き戴きまして   
          とても楽しく また 興味深く読ませて戴きました
          いゃ 広大な土地 羨ましい限りですが
          ご苦労も多いのですね
          テレビや映画などでアメリカの家庭の様子などを
          眼にしていて日頃から羨ましさばかりを   
          募らせていましたが、事情がよく分かりました
          星空 いいですね
          都会暮らしでは叶わぬ夢です
          今回 冒頭に掲載した文章は以前に書いたものですが
          桂連様の御文章を拝見してふと こんな文章を書いた 
          事があったと思い、探し出し掲載してみました
          今でも桂蓮様のお住まいのような場所へ行けば
          美しい星空を見る事が出来るかも知れませんが
          わたくしも歳を取った今となっては 
          祖母と二人で見たあの冬の夜の美しい
          心に沁みるような星の輝きを見た感動は
          再び戻って来る事はないだろうと思っております
          いろいろ有難う御座いました
          これからもどうぞ くれぐれもご無理のない程度で
          そちらの御様子をお伝え戴けましたら嬉しく存じます

          takeziisan様

          いつも有難う御座います
          追想山旅 良いですね 迫力満点の写真
          魅了されます
          家に篭ってばかりの生活の中で
          このような写真を拝見すると心底
          心が洗われます いろいろお持ちの様ですので
          これからも是非 掲載お願いしたく思います
          ナット キング コール 懐かしいですね
          この頃がわたくしなどに取っても
          最良の時代だったような気がします
          様々にあの頃を思い出します
          読書は時代物がお好きなのでしょうか
          わたくしは生憎 時代物は名だたる
          名手達が多いにも係わらず全く
          眼を通した事がないのです
          無論 吉川英治から始まって
          大仏次郎 柴田連三郎 藤沢周平 平岩弓枝 
          宮尾登美子 いろいろ名前ばかりは知っていますが
          ーーただ現代の作家達はほとんど知りません
          それだけにここに紹介戴いている本の
          粗筋は妙味深く読ませて戴いております
          
  
          


   
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
   
      
   
   
   
   
   
   
           

遺す言葉312 小説 心の中の深い川(2) 他 雑句10題

2020-09-20 12:02:51 | つぶやき
          雑句10題(2020.8月作)

  Ⅰ 雲の湧く 彼方に発ちて 七十五年
           (特攻隊 2020.8.15日作)

  2 来てみれば 清水湧く音(ね)が 君の声

  3 さわさわと 清水湧く音(おと) 君の声

  4 白鷺の ポツンと一羽 八月田

  5 秋風に 夏の名残りの 雲の峰

  6 秋風に さやさや揺れる 黄の稲穂

  7 父母の待つ ふるさと遠く コロナ夏

  8 逝く夏の 夕立あとの 蝉むくろ

  9 一生の 虚しさ鳴いて 尽きる蝉

 10  生きている 歓喜の限り 蝉の声
    (人はどうでしょう、一生を嘆いて終わるか
     感謝の気持ちを抱いて 喜びのうちに終わるか
     人 様々)





         ----------------

         心の中の深い川(2)

 窓ガラスの外に見下ろす通りには、数限りない車と人の動きが見られた。
 志村の姿がその中で、再び、由紀子の眼に入る事はなかった。
 由紀子は力が失せたように、テーブルに向かったままでいた。
 脱け殻になっていた。
 様々な思い出だけが飛び交った。
 志村に初めて会った日の事が急に拡大され、脳裡に浮かんで来た。
 ほぼ一年前。八月の終わりか九月の初めだった。男性ファッションで売って来たB商社が、その年の暮れに女性部門に進出する計画を持っていた。それに先立ち、都心のMデパートを会場に、フッァションフェアが行われる予定だった。志村辰巳はそのフェアの係りの一人だった。
 デザイナーは由紀子の他に三人いた。
 それぞれが一流の名を持つデザイナーだった。無名の、しかも年の若い由紀子が起用された事に周囲は驚いた。その裏に、有吉宗二朗の力が働いていた事は、極一部の事情通にしか知られていなかった。
 最初の打ち合わせが行われたその日、志村はネクタイにスーツのきちんとした装いで現れた。
 由紀子は黄の薄手のセーターに黒のパンタロン、首に 濃紫のネッカチーフという軽装だった。
 二人の男性デザイナーに、あと一人の女性デザイナーは中年だった。
 それぞれが強烈な個性を持っていた。
 それに対して、駆け出しの由紀子には、海のものとも山のものとも付かない危うさがあった。
 そんな由紀子に、志村は何くれとなく気を使い、相談に乗ってくれた。それでも、その関係は催しの済むまでの職業上の付き合いでしかなかった。
 新年になって、志村からの年賀状が届いた。
 有村宗二朗の力は、それ以降も働いた。
 由紀子は取り敢えず、一年間のB商社との契約に成功した。
 一月の終わり、由紀子は志村に再会した。B商社のフェアに出品した男性デザイナーの一人の発表会の会場でだった。
 志村は二週間程、ヨーロッパを廻って来た、と言った。
 友人とも恋人とも付かない関係が続いたのはそれ以降だった。
 B商社の契約デザイナーという由紀子の立場は、志村に会うのには好都合だった。自然にその機会に恵まれ、回数が重なった。
 会えば二人で食事をし、クラブなどにも足を運んだ。
 志村が有吉宗二朗の事に触れたのは、一回きりだった。なんとなく、気軽に会う様になってから間もなくの頃、
「君、有吉さんを知ってるんだって ?」
 と聞いた。
 由紀子はギクリとした。同時に、志村といる時、有吉が全く自分の意識の中になかった事にも気付いた。
「どうして ? 誰に聞いたの ?」 
 由紀子は少し身構えて問い掛けた。
「専務に聞いた。君が有吉さんの紹介だって」
 志村の言葉には由紀子を非難する色合いはなかった。
 それでも由紀子は、志村が何処まで有吉との関係を知っているのか、気になった。
 由紀子には何も分からなかった。
 由紀子は途端に、自分が何か、弱みを握られた人間のような気がして来て、思わず、居直ったとでも思えるような口調になって言っていた。
「ええ、有吉さんには、何くれとなく力になって戴いているわ」
 志村はまだ、何も疑っていないようだった。
「どうして有吉さんと知り合いになったの ? 誰かに紹介して貰ったの ?」
 当時、有吉宗二朗は六十七歳だった。経済界でも名の通った人だった。その名刺には幾つもの肩書が並んでいた。
「死んだ父の知り合いの方に紹介して貰ったの」
 嘘はなんのためらいも無く口を出ていた。
 志村は淡白で物事に疎いのか、或いは、総てを知っていて呑み込んだのか、それ以上は聞かなかった。軽く頷いたきりだった。
 由紀子はその時、もし、有吉との事が知られて、それがもとで志村との間が壊れるのなら、それはそれで仕方がないと思った。有吉との関係を知っている者は、そんなに多くはないはずだったが、志村の言う専務、田畑はそれを嗅ぎ付けているのだろうか ?
 由紀子はその田畑にも会っていた。田畑は五十歳代の品のいい紳士だった。
 志村はだが、それ以降、有吉の事を口にする事はなかった。ひと月の半分程を海外に行っている事が多くて、帰ると、その度に電話をくれた。
 志村と会う事は由紀子に取っても楽しみの一つになっていた。海外のファッション事情を聞けるという事もあったが、志村の厭味のない人間性が、自ずと由紀子の心を解きほぐしてくれるような処がって、二人でいると何かしら、謂われもない安心感で満たされた。


          三


 有吉宗二朗との関係。
 それは初めから由紀子の心の内では割り切れていた。
 有吉にしても、由紀子に愛情を求めるなどと言う事はなかった。
 初老の男の単なる気紛れ、とでも言っていいようなものに違いなかった。
 だが、かと言って、由紀子が有吉の気持ちをないがしろにする、というような事はなかった。有吉には心から尽くしていた。
 有吉もまた、孫娘にも近いような由紀子をないがしろにする事はなかった。
 月々の手当てこそ出す事はなかったが、何くれとなく由紀子の相談には乗ってくれて、事実、由紀子がそれで救われた事も数々あった。B商社の一件がそうであった。事務所を持つ時がそうだった。由紀子がデザイナーとして独立する初歩から、有吉の力が何くれとなく、後押しをしてくれていた。
 二人の関係はそんな暗黙の了解のうちに成立していた。
 由紀子が銀座のバー、「ゆめぞの」に入って半年程した時、有吉が来た。
 有吉は一年振りに来た、と言った。
 経済界の大物が大事にされない訳はなかった。



          ------------------



          hasunohana様

          有難う御座います
          今回も楽しくブログ拝見させて戴きました
          グランビーの初秋
          本当に気持ちの良いお写真です
          こんな環境にお住まいになられている事に
          羨ましさを感じます 都会住まいの現在  
          わたくしに取っては夢見る環境です
          かつて子供時代 このような環境に生活していた
          経験がありますので その良さが実感できます
          お羨ましい限りです  
          バレーと禅 何事も基本は一緒ですね
          それこそ個人的見方ではなく 普遍的真実では
          ないのではないでしょうか
          「禅とは 人間の"根底"にある創造性に徹して
          これに順応 動作する事である」
          禅学者は言っています
          この創造性を圧迫する雑念が入る時 物事は狂い
          煩悶が生じて来る
          バレーも坐禅も無に徹し、その根底に在る
          基本的真実を掴み取る
          その時 本当のものが生まれる という 
          事ではないのでしょうか
          無の心には "そのもの その事" の真実が宿る
          無である事の大切さですね
          
          勝手ながらわたくしのお願いを申し上げますと
          これからもそちらの御様子の窺える
          お写真を御掲載いただけましたら などと
          思っております


          takeziisan様

          いつも 有難う御座います
          暑さ寒さも彼岸まで お写真
          堪能いたしました
          わたくしは特に 道端に何気なく咲く
          彼岸花が好きです
          わたくしが子供の頃いた地方では
          死人花と言って毛嫌いしていたものですが
          
          ワルナスビ という花があるのですね
          初めて知りました
          プール 人間味が溢れていいですね
          田舎芝居 わたくしの居た地方にも時々来ました
          あの頃は映画館も乏しく 地方回りの芝居などが
          大きな楽しみの一つでしたね
          御文章から わたくし共が過ごした当時の様子が
          懐かしさと共に甦ってまいります 素朴な時代でした
          野菜の摘み取り わたくしの屋上プランターでは 
          ニラが今獲れます
          地植え野菜とはもちろん 雲泥の差ですが
          それでもわたくしに取っては楽しみの一つに
          なっております
          これからは冬に向かって野菜の季節も終わりかも  
          知れませんが またのお写真 楽しみにしております
      

          
   
 
          
       
       

 
 
 

  

遺す言葉(311) 小説 心の中の深い川(1) 他 時間

2020-09-13 11:39:58 | つぶやき
          時間(2020.9.1日作)

   現代人は 
   時間に管理されている・・・・
   事実か ?
   一日二十四時間 三百六十五日
   定められた時間
   動かし難い時間
   時間は今そこに
   今ここにある
   人は時間の中に生まれ
   時間の中で育ち
   この世を去る
   人に係わる時間
   時間に係わる人
   時間は人を縛り
   限定する
   人は時間の中を泳ぎ
   生きる
   時間の中で働き
   時間の中で楽しむ
   時間の中で喜び
   時間の中で悲しむ
   時間の中で嘆き
   時間の中で怒り
   時間の中で笑う  
   人が意識する時間
   時間は人間存在
   人間存在は時間
   一日二十四時間 三百六十五日
   動かぬ時間
   動かぬ時間を人が管理分割
   支配する
   主体は人
   時間に係わる人が居なければ
   人に係わる時間はない
   時間は無色透明
   白地のキャンバス
   人が時間を染めて
   演出する



          ----------------



          心の中の深い川(1)

          一
 
 志村辰巳と居る時、由紀子は幸福だった。身体全体が浮き立つような気分で満たされた。
 何をされる訳でもなかった。志村がそばに居る、それだけで良かった。
 そんな時、由紀子は自分自身でさえ、少しはしゃぎ過ぎている、と思う事がないではなかった。無口で醒めた人、というのが、周囲の人達の間では通説になっている由紀子にしては、珍しい事だった。
 志村辰巳 三十二歳。
 西田由紀子 二十七歳。
 ほぼ一年の交際だった。
 由紀子はだが、自分が志村との交際の中で何を望んでいるのか、自身でもよく分からなかった。あるいは、何も望んでいなくて、ただ、顔を合わせている事が出来さえすれば、それで良かったのか ?
 その一年間、二人の間には、どれ程の深い関係も生まれなかった。まさに互いがそばに居る、というだけの関係にしか過ぎなかった。独身の青年期も過ぎた、とも言える男女にしては珍しい事に違いなかった。互いに激しく相手を求め合っても不思議はなかった。男である志村辰巳にしてみれば、なおの事であった。
 しかし、志村がそうする事はなかった。
 由紀子は今にして思う。やはり、自分の心の内のものが、志村をして、そうさせなかったのか ? あれ程、自分では明るく、心を開いている、と思っていたのに。そしてまた、由紀子は思う。
 たとえ、志村が求めて来たとしても、与える事はなかっただろうと。
 由紀子には、志村が自分と有吉宗二朗の関係を、何処まで知っているのかは分からなかった。ある所までは知っていたにしても、深い所までは知れるはずがない、とだけは思っていた。
 由紀子との交際の中で、志村が有吉宗二朗との関係を口にする事はなかった。それだけに由紀子は、志村は自分と有吉との関係は知らないものと思い込んでいた。事実、実際問題として、もし、知っていれば、これまで二人の関係が続く事はなかっただろうし、今度の結婚申し込みも行う事はなかっただろう。
 志村は言った。
「専務が、知り合いの人の娘さんと、ぜひ、見合いをするようにって言うんだ」
 唐突にその言葉を聞いた時、由紀子は動揺した。と同時に程なくして、妬みにも近い気持ちが生じた。自分が何か、突き放されたような感じがして心が乱れた。その乱れた感情を押し殺して由紀子は、
「そう」
 と言うのが精一杯だった。
「僕も、もう三十二歳で、いくら仕事で忙しく海外を飛び回ったりしていても、それで、断る理由にもならないし、しかも相手は、仕事の上で引き立ててくれる上司なんで、一応は、曖昧に答えておいたんだ。見合いが厭な訳じゃないけど、僕の気持ちの中には君がいたので、君の気持ちも聞いてみたいと思ったんだ」
 一度は突き放された、と思った由紀子の心がその言葉にふるえた。希望が眼の前に広がるようだった。愛されている、と実感する事の幸せ。
 即座に承諾の言葉を返す事は造作もない事だった。そして、その言葉は由紀子自身をも、幸福の頂点に導くはずのものだった。
 だが、由紀子はためらった。幸福感に酔う自分と、その幸福を恐れる自分とがいた。
 由紀子は迫りくる様な激しい志村の自分を見つめる眼差しを意識しながら、うつ向いたまま、言葉を途切らせていた。
 志村に取っては、由紀子の態度は全く理解の出来ない意外なものに見えたようだった。幾分、感情を昂らせた口調で、
「君からすぐに返事を聞く事が無理な事だと僕は思わない。僕らの間には一年以上もの歳月があるんだ。その間には、君の心の中でも、好きか嫌いか、はっきりと判断が付いているはずだ」
 と言った。
 普段、物静かな志村にしては珍しい事だった。
「嫌いだなんて・・・・」
 由紀子は思わず抗議をする口調になって言っていた。
「じゃあ、なぜ黙ってるの ? 僕の言葉を素直に受け止められない何かがあるの ?」
 それが、志村自身の身の上に関しての事なのか、由紀子自身に関しての事なのか、一瞬、由紀子には判断が出来なかった。
 由紀子は更に深い沈黙に陥らざるを得なかった。
「もし、今すぐ返事が出来ないっていうんなら、来週まで待つから、その時にはぜひ、はっきりとした返事をして欲しいんだ」
 期限を切る事で、総ての決着を付ける志村の決意が感じ取れるような言葉だった。
 そして今日、九月十日、土曜日。赤坂、乃木坂の通りを見下ろすレストランで総てが終わった。由紀子は、
「どうぞ、お先に帰って下さい」
 初めて志村と会った時のように、改まった口調で言った。
 志村は最後まで、男らしい物静かな態度を崩さなかった。
「僕は出世に眼が眩んだんじゃない。三十二歳っていう年齢は、結婚するのに決して早い歳じゃないし、僕には君の心の中にどのような変化が、或いは秘密があるのか分からないが、ただ残念に思うだけだ。君がいつも、見えない何かを見詰めているらしいのは分かっていた。でも、君はいつも僕に対して率直だった。僕はその率直さを信じていた」
 そして最後に、
「信じなければ良かった。他の女と同じように付き合えば良かった。僕は君の何か、暗い、翳りのような部分を余りに大事にし過ぎたんだ」
 と言った。
 由紀子は自分でも、志村に大事にされているらしい事は、薄々、感じ取っていた。それ故にこそ、志村と居る時、由紀子は大きな幸福を感じ取っていたに違いなかったのだ。だが、今となっては、由紀子にはそれが怖かった。
 有吉との関係。それは大きな恐れではなかった。ただ、志村の愛に包まれて、幸福の中にすっぽりと納まりきってしまう事に由紀子は、何故とはなしに、ある種の恐れのようなものを感じ取っていた。そして、それは多分、恐れ以前の、心の深部に根差した怯えのようなものに違いなかった。由紀子自身の力ではどうにも抑え切れない心の傷のようなものだった。
 由紀子は志村の申し入れに対して、
「わたし、結婚はもう少し待ちたいと思うの」
 と言った。
「なぜ ? 僕じゃ不足だって言うの ?」
 志村の言葉には、思い詰めたような鋭さがあった。
「そうじゃないわ。そんな風に取らないで・・・」
「じゃあ、何故 ? デザイナーとしての仕事に邪魔だって言うの ?」
 由紀子を見詰める志村の眼差しは厳しかった。
「いいえ、そうじゃないわ。そうじゃないけど、気持ちとして踏み切る事が出来ないんです」
 自然に言葉は他人行儀なっていた。
「いったい、どういう事なの ?」
 由紀子は離れて行く志村との距離を感じ取っていた。
「御免なさい。あなたはどうぞ、その方とお見合いをして下さい。わたし、決して、志村さんを騙したりなどしていた訳ではないんです。心から志村さんが好きでしたし、尊敬もしていました。それだけは分かって下さい」
 由紀子は思い詰めた真剣な表情で志村の眼を見詰め、訴えた。
「だとしたら、この一年間はなんだったんだろう ? ただ、友達だけのものだったんだろうか ?」
 志村は現状が信じ兼ねるように言った。
「いいえ、違います。違うわ」
 由紀子は自分の真実をさらけ出すような思いで必死に言った。
「見合いがどうなるのかは分からない。でも、もう君に個人的な感情を持って会う事はないだろう」 
 志村は悲しみに沈んだ様子で呟くように言った。


          二

 
 志村が去った後も由紀子は白いテーブルクロスのテーブルを動かなかった。



          -----------------


          takeziisan様

          コメント 有難う御座います

          古い日記 拝見させて戴きました
          同じような状況が眼に浮かんで来ます
          今となっては 懐かしく良き時代だったな と
          懐古趣味ながら思います
          何よりも人間が素朴だったような気がします
          それにしても イベントが豊富でしたね
          わたくし達の方では卒業式に伴う行事以外には
          こんな催しはありませんでした
          珠算 懐かしい言葉です
          わたくし達の方でも珠算は盛んで中学三年生の時に
          一級の試験を受けましたが
          暗算の点数が僅かに足りず 合格を逃しました
          もう一回あれば、と思いましたが その時にはもう
          卒業でした
          「幸せはここに」懐かしいですね
          あの当時は歌謡曲全盛の時代で 今思っても
          いい歌が沢山作られましたね 現在の歌の
          愚痴だか寝言だか判らない様な
          締りのない歌とは大違いです

          何時も下らない文章に御目をお通し戴き
          感謝致します
          自分の内面にある総てのものを出し切るまでは
          下らない文章でも ここにお世話になって
          遺して置きたいと思っております
          takeziisan様のような読書家のお方に
          御目をお通し戴ける事に心より嬉しく思い
          感謝と御礼を申しあげます
          これからも お気の向いた時で結構ですので
          御目をお通し戴けましら、とお願い申し上げます
          有難う御座いました
         

          
          


 
 



 

 

 

 
 
 
 

 
   
   

遺す言葉310 小説 その夏(完) 他 信仰とは 他

2020-09-06 11:59:04 | つぶやき
          信仰とは(2020.8.17日作) 他

   信仰とは 自分の帰依するものに
   心の中で約束する事によって
   自身の肉体 精神の中に眠る力を
   呼び覚ます行為であり
   自分の帰依するものが
   何かの御利益(ごりやく)を授けてくれる訳ではない
   帰依するものはあくまで
   対象としての 無機質的一つの存在にしか過ぎず
   それ自体が 何かの力を持つ訳ではない
   だからと言って
   世の中に存在する様々な信仰の対象物が
   無価値だ と言う事にはならない
   その物に向けられた人々の帰依する心
   その物が その心を受け止めている限り
   その物は 尊重されなければならない
   その物には 人々の心が 込められている
   その込められた心の重さが
   仏像であれ 寺社であれ それぞれの物に
   大きな価値を与えている
   何人(なんびと)であれ
   人の心をおろそかにする事は
   許されない

          ---------

   国家を歌う事は国民への礼儀だ
   国家とは国民である
   国民を忘れた国家は存在しない
   権力者はしばしば 
   自分が国家だと錯覚しがちだ

          ----------

   坐禅とは
   自身の生きる本質を極める行為だ
   一日一日 自身の生きる本質を見極めながら
   その根本理念に少しでも近付いているかを問う事が
   坐禅をする事の意味だ 無の中で自分を見つめる
   昔の高名な禅家(ぜんけ)も言っている
   日々の努力をないがしろにして ただ膝を組むだけでは
   古狸が穴蔵の中で居眠りをしているのと一緒だ 



          -----------------



          その夏(完)

「今更、人の噂なんか、いちいち気にしちゃあいねえい。わたしがどうしょうもねえ女だって事は、あんただって、よぐ知っていべえい」
 つね代は背中を見せたままで、不貞腐れたように言った。
「バガ、それどこれどは違うわい」
「どう、違うのがい ?」
「世間じゃあ、おめえが強姦されだっつう、もっぱらの噂だ」
「どごで、それば聞いだい ?」
 つね代は米を研ぐ手を止めて振り返った。
「横田でパチンコばやってるど、みんなが噂ばしてだわい」
「あんて、噂ばしてだだい ?」
 つね代は良一郎に食って掛かるようにして聞いた。
「あれが強姦されだっつう女房の亭主だって、みんなが、俺あの事ば言ってただ」
「そっで、あんたは黙ってだのがい ?」
「当だりめえでねえが。みっともなぐて、面(つら)も上げられねえよ」
 つね代は急に捨て鉢な様子で笑い出した。
「バガバガしい。あんたまで、本気でそんな事ば信じでんのがい ?」
「だあ、あんで、駐在所さ駆げ込んだんだ ? みんな、そう言ってだわい」
「あんた、その噂が何処がら出だのが知ってんのがい ?」
「そんな事、知るもんがあ !」
「わたしが最初に駐在所さ行って訴えだだい。そっで、駐在所で調べ始めだもんで噂になっただい」
 つね代は得意気に嘲る口調で言った。
「あんで、そんな事ばしただあ ?」
「あんでもありゃしねえい。あんとなく、騒がして見だがっただげだい」
 つね代は事も無げに言うと、また、背中を向けて米を研ぎ始めた。
「バガアマ ! それが駐在所さ知れだら、あじょうすっだ!」
「知れだって構いやしねえい。わたしが言わなげれば知れっこねえだがら」
「俺あ、知んねえど。おめえがデマかませでしょっ引かれだって、俺あ知んねえど」
「結構だい。そのうぢ駐在さ行って、あれは全部デマだったって言ってやるつもりだい」
「バガな真似ばすんな。余計な事などすんな。そうすりゃあ、世間はすぐ忘れでしまう」
「そっでは、面白くあんめえよ。わたしは始めから、そのつもりだったんだがら」
「にし(おまえ)っつうアマは、何処までバガだ !」
「バガで結構だい。バガだがら、どうしょうもねえ、能無しと一緒になっただい」
「あにお、このアマ !」
「はんなぐんなら(殴る)、はんなぐってみなよ」
 つね代は振り向き、肩を突き出した。
 良一郎はつね代の気迫に圧倒されたように、たじろいだ。
「バガアマ !」 
 良一郎は怒鳴り散らすとその場を離れた。
 良一郎が座敷に戻ると、たね婆さんが縁先でもろ肌脱いで、団扇を使っていた。
「まだ、あにば喧嘩してるだ ?」
 たね婆さんに取っては、今更、驚く事でもなく、呆れ果てたように言った。
「つね代のバガが !」
 良一郎はそう言ったきり、奥の部屋へ行ってしまった。
「あんな嫁,追ん出す事も出来ねえ、おめえが悪りいだ」
 たね婆さんは悟り切ったように言った。

 良一郎は奥の部屋へ行くと、座敷に大の字になってひっくり返った。
 夏の夕闇は半分、宙に浮いたようになかなか暮れようとはしなかった。座敷には澱んだような熱気と薄闇が漂っていた。
 つね代は、たね婆さんが言うように、事実、良一郎の手には負えない女だった。総ての面に於いて良一郎を凌駕し、良一郎は翻弄されがちだった。見合いの時は兎も角、結婚してからのち、つね代がとかくの噂を持った女である事を知ってからも、良一郎はつね代を責めるよりも、そんな女であるがゆえに、つね代を失いたくないような微妙な思いを抱くようにもなっていた。
 良一郎自身、結婚前、既に横田町で何人かの、その筋の女達との関係を持っていた。それだけに、その筋の女達とは異なる女であり、それでいて、何かと世間の噂になりがちな女を自分のものとしている事の何かしら、誇らしいような気分と共に、一概に、つね代を責める気持ちには踏み込めないでいたのだった。

          七

 陸上競技の合宿は八月二十二日に終わった。
 それと共に、その夏も急速に秋の気配を深めて来た。
 つね代が三たび、駐在所を訪れたのもその頃であった。
 つね代はそこで、あの強姦事件が嘘であった事を広田巡査に告白した。
「いってえ、あんで、そんな事ばしただ !」
 広田巡査もさすがに色をなして言った。
「お騒がせして申し訳ありません」
 つね代は言って、神妙に詫びた。
「俺ばっかりなら構わねえが、本書の連中の手ば焼がしたどなるど、事はそう簡単に済まねえがもしんねえど。あじょうすっだ」
 広田巡査は言った。
「それは分がってます。だがら、今すぐ、捕まえでくれでもいいです」
 つね代は自分の非を素直に認めるように言った。
「まあ、それは兎も角どして、一応、本署の方さ連絡しておくだ」
 広田巡査は言ったが、つね代の奇妙な振舞には、首を傾げざるを得なかった。

「南総中の篠原がこの夏出したベストタイムがこれだ。十一秒七。この位のタイムならお前の方が速い。油断は禁物だが、勝てない相手じゃない」
 九月に入って間もなくね岡島先生は言った。
 郡の大会までに、あと一週間を残すのみになっていた。
 放課後の練習には今まで以上に熱が入った。運動場では暗くなるまで、各種目の練習が行われていた。
 信次が家に帰るのは連日、七時過ぎになっていた。
 家へ帰ると信次は食事をし、そのまま、風呂に入らずに寝てしまう事もあった。疲労は頂点に達していた。
「おらい(うちの)の信次は病気にでもなんなげればいいけっどよお」
 母親は心配して言った。
 世間ではまた、ひとしきり、つね代の噂が賑やかだった。
「あの強姦事件は狂言だったんだどよお」
 そんな噂は厭でも信次の耳にも入って来た。
「あん(なに)のつもりで、そんな事ばしただがよお」
「まったぐ、あんつう(なんていう)嫁だがよお」
 つね代はまた、行方が分からなくなっていた。
 良一郎もなぜかその後、家を出てしまった。
 二人が一緒だという事はなかった。なぜ、良一郎が家を出たのか、誰にも分かり兼ねる事だった。
 或いは、つね代を探し廻っているのだろうか ?
 誰にも分からなかった。
 家はたね婆さんが一人で守っていた。
 信次は朝夕、学校の行き帰りに、その家のそばを通った。家はひっそりと、息を潜めているかのように静かだった。
 信次には事の成り行きの深い意味は分からなかった。ただ、かっては憧れにも近い気持ちで見ていた、つね代に対しての、軽い失望感と、嫌悪の感情がうっすらと湧き起こった。その家のそばを通る事が何故か、苦痛に思われた。
 信次には、その気持ちの意味がよく分からなかった。ただ、つね代に対する噂の事は、極力、気にしないようにしていた。南総中学の篠原に勝つ事、その事だけに、熱い思いをたぎらせていた。
 

                 完



          ------------------


          桂蓮様
          コメント 有難う御座います
          このような御文章を拝見致しますと
          なんとなく心がほのぼのします
          飾りのない 良い御文章ですね
          気負った文章はどんなに立派な言葉を並べても
          心には沁みて来ないものですが この御文章
          心がそのまま感じ取れて 自然のうちに
          気持ちが伝わって参ります 
          楽しく読ませて戴きました
          もう寒くなるとの事 日本は連日
          三十五度前後の気温で 暑さに茹だっています
          「難しさと易しさの境目」
          全く同感です 良く知る人は
          その本質を知り抜いているので 短い言葉で
          その本質だけを語る事が出来ますが
          本質を理解していない人間は
          その本質の周りをうろうろするだけで
          どんなに言葉を重ね 難しい言葉を並べてみても
          真実に到達出来ない という事ですね
          
          これからも そちらの御様子など 
          御無理のない限り お伝え戴けましたら 嬉しく
          存じます 
          こちらに居ては知る事の出来ない事など
          いろいろ知る事が出来のは楽しい事です 
          どうか御無理をなさらず 気の向いた時に
          発信 お願いします
          有難う御座いました 

          takeziisan様
          
          今回も素敵なお写真 満喫しました
          電線 かねがねぼんやりとは思っていた事ですが
          このお写真のように明確に眼の前に突き付けられますと
          思わず感嘆の声を発してしまいます
          それにしてもお見事な五線譜です
          長い影 細工なしのお写真でしょうか
          ちょっと驚きです
          犬 間違ったという事ですが
          御近所にイノシシの出るような事は
          あるのでしょうか
          わたくしの近所では全く考えられない事で
          子供の頃いた田舎でも野生動物は皆無でしたので
          そのような環境には 一種の
          憧れにも近いような感情を抱いています
          お体の衰え お嘆きの御様子ですが
          全く同感です
          殊に八十代に入ってからは より顕著に
          年毎 その衰えを実感します
          七十代にはなかった事です
          実際 この先何年 ? そんな思いが   
          頻繁に頭の中をよぎる年頃になってしまいました
          どうぞ これからもお体にはお気を付け
          ブログを一日も長くお続けになられます事を
          心から願っております
          何時も 有難う御座います