遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 217 小説 新宿物語 夜明けが一番哀しい 他 

2018-11-25 12:00:46 | 日記

          新宿物語 (その1)

               (小説を併載する事にしました

               お眼をお通し戴けましたら幸いです

               宜しくお願い申し上げます)

 

          夜明けが一番哀しい (1)                                      

   

 わたしは今の新宿を知らない。かつて、その街に生きた人間ではあるが、遠い昔にそこを離れたまま、今では自分の人生への希望の喪失と共に、その街への興味もなくしてしまっている。ただ、なにかの折りにふと眼にする、現在の新宿の街の映像や、誰かが口にする「新宿」という言葉を耳にすると、鮮やかに甦るいくつかの思い出がある。そして、その思い出の中に浮かび上がる彼らや彼女らは今、何処でどうしているのだろう、と考える。彼らは無事、この苦難の多い人生を生き抜く事が出来たのだろうか? 彼らが新宿の夜の街の吹き溜まりに吹き寄せられたゴミのような存在であっただけに、ひとしお、その消息が思い遣られる・・・・・

 

 "ディスコ 新宿うえだ"は都内に散在する様々なディスコテークからみれば、いかにも小さな店だった。新宿、歌舞伎町に建つ五階建てのビルの地下にあって、それほど豪華な設備が整っているわけでもなかった。それでも多くの若者たちを引き付けていたのは、地の利を活かした便利さと気安さのせいに違いなかった。

 マスターの上田さんは、四十歳前後の無口な人だった。噂によれば、かつて暴走族のリーダーとして鳴らした人で、交番襲撃や高速道路の料金所突破などを指揮して、何度か刑務所の門をくぐったという事だった。

 無論、無口な上田さんは、みずからそんな事を口にした事はなく、現在の上田さんにそんな面影を見る事もまた、出来なかった。それでも上田さんの表情にはどこが、少し翳りを帯びたように見えるところがあって、それが、そこにたむろする若者たちに奇妙な親近感のようなものを与えていた。

 

 彼らは偶然、この店で出会った、世間の常識から言えば、いわゆる"落ちこぼれ"と言えるのかも知れない若者たちだった。土曜日の夜になると、何処からともなく、"ディスコ  新宿うえだ"にやって来た。決して目立つ存在ではなく、彼らに言わせれば、「お堅い連中」が、やかましいだけのディスコサウンドにのってわんさか踊っている間中は、いつも隅の方で小さくなっていた。店内に繰り広げられる、少なくとも上辺だけは華やかな饗宴にも、彼らはなんの関心も示さなかった。たまたま、親からはぐれた子犬が雨宿りの軒先を見つけでもしたかのように、ただ、店内の片隅で居心地の良い自分たちの巣を暖めているように見えた。ピンキー、トン子、安子にノッポ、そして画伯にフー子・・・・・ お互いの名前も知らないままに彼らはいつからか、そう呼び合うようになっていた。

 午前零時にディスコ音楽が鳴り止んだ。点滅するレーザー光の証明が消えて明るい蛍光灯が点されると、お堅い連中が帰っていった。あとにはいつもと変わらず、荒れた海辺に打ち上げられた木ぼっくいのように、散らかり放題のテーブル席のあちこちに取り残された彼らの姿があった。

 言い出しっぺは例によってトン子だった。

「ねえ、ねぇ、横浜へ行ってみない? 横浜の港へ外国航路の船を見に行こうよ」

 トン子とはその名のとおりに、豚に似た丸っこい体つきから付けられた呼び名だった。彼女には他にも、九官鳥というあだ名があって、その騒々しいおしゃべりには誰もが辟易させられた。成田市に近い農村に実家があって、土曜日の夜になるといつも二時間以上をかけて新宿へ通って来るのだった。

「横浜?」

 安子と向き合って椅子に掛けていたノッポが振り返って言った。

「うん、わたしいっぺん、外国航路のきれいな船を見てみたいって思ってたのよ」

「外国航路の船がいるの?」

 安子が突っ掛かるような、棘のある言い方をした。

 安子は不感症だった。そのため、いつも不機嫌だった。彼女はこれまで自分の人生に、心からの満足感を抱いた事が一度もなかった。時々、ノッポと寝る気になったが、それは気が滅入って哀しくてたまらず、そうしなければいられない時に、そうするだけだった。そんな時は彼女でも、他人との繋がりが欲しいと思うのだ。

 だが、彼女は決して、ノッポの愛撫を心でも体でも受け入れる事が出来なかった。いつもノッポの喘ぎを遠い夜汽車の過ぎて行く音のように聞いていた。そして、ノッポの感激に満ちた表情を自分のかたわらに見ると、この背丈だけはバカデカイしょぼくれ男が、当分、自分から離れてゆく事はないだろう、と思って安心するのだった。

「いるかどうかは分からないけど」

 トン子はしどろもどろに言った。

「クイーン・エリザベス号でもいるって言うんなら話しは別だけどさ」

 ノッポが安子の機嫌を取るように、皮肉をにじませて言った。

「クイーン・エリザベス号なんているわけないじゃない」

 安子はノッポの言葉尻をとらえてやり込めた。ーー 続く

 

 

          平凡(2018.11.10日作)

 

   平々凡々

   平凡が珠玉の宝物(ほうもつ)である事は

   平凡を 失ってみなければ分からない

   平凡の中に一つでも 自身の歩む

   その道を

   見付ける事が出来たら

   それに勝る 人生はない

   威張るな 偉くなるな

   人間は偉くなったら 終わりだ

   偉くなろうとする 心が大切

   偉くなろうとする 心を 持ち続ける

   その心がある限り 人間は

   偉くならないで 済む

 

   人間 初心 道

 

    

 

 


遺す言葉 216 ピカソの言葉 他 雑感十二題

2018-11-18 12:11:16 | 日記

          ピカソの言葉 他 雑感十二題(2018.10.3日ー11.10日作)

 

   1 手早く描いた一枚のスケッチに

     高額の値が付くのを羨んだ人に

     ピカソは言ったという

    「一本の線を描くのに

     二十年もの歳月をかけたんだ」

     世紀の大天才 ピカソにして

     この言葉あり

     凡才 押して知るべし

   2  創作に係わる者たちが

     より過激に変身してゆくのは

     その地点に留まっていては

     自身の存在が枯れてしまいそうな焦燥感に

     捉われるからだ その焦燥感に突き動かされ

     真の芸術家は より深く高度なものを目差して変貌する

     一地点に留まり 次々に同じものを創り上げてゆくのは

     コピー屋と呼ぶにふさわしい

   3 職人は同じものを作りがらも日々

     より完璧なものを目差して仕事をしている

     職人にとっては 失敗は許されず

     人に笑われる事が最大の恥だ と

     ある職人は言った

   4 実際の行動 行為を経て体得した知識には

     書物上から得た知識理論の遠く及ばない地点の

     深さ 重さを持った真理がある

   5 どんな職業の人であっても

     長い歳月をかけてその道の技術を習得し

     真摯 誠実に その職業を生き

     外の人には出来ない仕事をした人は

     尊敬に値する

   6 命 

     人は生きているだけで

     人の心に灯を燈すことが出来る

   7 人間は死ぬために生きている

     自身の命の終わりに際して

     苦悩 後悔のないように

     より良い最期を迎えるために

     日々 充実した生を生きるのだ

   8 人間が生きているのではない

     命という存在があって その命が生きている

     人間が生きる事に意味などない

     意味などあったら人は

     息苦しくて生きてはゆけない

     意味などないから人は自由に

     自分自身を生きられる

   9 何処に居ても 何をしていても

     一日一日が幸福である事が

     人間の生きる真の意味だ

  10 文明の進歩 科学の進歩とは人の

     人間の不安を日毎夜毎 増大させてゆくもの

     以外の何ものでもない

  11 人が生きる究極の目的は 

     生涯を幸福に生きる事にある

     幸福とは 各人各様 人がこの世に生きる数だけ

     幸福の姿がある

  12 人間の幸福を伴わない世界では

     科学の進歩 芸術の発展にも

     意味はない

   

 

     

     

 

 

     

     

     

   

    


遺す言葉 215 歌謡詞 夢の街 横浜・帰っておいでよ 青い鳥

2018-11-11 12:28:53 | 日記

          夢の街 横浜(2018.10.20日作)

 

   遠い港の灯りが揺れる

   夜霧が白く流れる街を

   このままいつまで歩いていたい

   横浜 横浜 あなたとふたり

   夢の幸せ恋の街

   -----

   船の汽笛がにじんで消える

   ホテルの窓に灯りがともる

   なぜだか泣きたい幸せすぎて

   横浜 横浜 口づけ受けて

   夢にただよう恋の街

   -----

   夜が更けゆく波止場のあたり

   白い夜霧に灯影がうるむ

   このままいつまで肩寄せ合って

   横浜 横浜 優しい愛に 

   夢がふくらむ恋の街

 

          帰っておいでよ 青い鳥(2018.11.2日作)

 

   幸せの青い鳥

   かごから逃げて どこへ行ったの

   枯れ葉がくるくる ころげる街に

   夢をなくした あの娘(こ)がひとり

   空は夕やけ もう日が暮れる

   -----

   幸せの青い鳥

   も一度かごに 戻っておいで

   夏の海辺の すてきな彼の

   愛の便りを つばさに乗せて

   今はさびしい もう秋だから

   -----

   幸せの青い鳥

   どこかで誰か 見たでしょうか

   おさげの可愛い あの娘の眼から

   白い涙が あふれて落ちる

   街は日暮れて もう星明り

   

   

   

 

   


遺す言葉 214 勘三郎二代 十八世 追善公演に寄せて

2018-11-04 12:37:07 | 日記

          勘三郎二代(2012.12.11日作)

               十八世勘三郎七回忌追善公演(11月1~26日)に寄せて

 

   何気なく眼にした

   テレビの画面では十七代目 中村勘三郎が

   軽妙な踊りを披露していた

   見るともなく眼にした画面に

   息を呑み 引き込まれた

   見たものは 演者の消えた

   踊りの主人公 そのものの動き 姿

   臭気の全くない舞台

   テレビの画面を突き抜けて

   主人公が眼の前に迫り来る感覚

   後年 十八代目 中村勘三郎の名前が持て囃され

   評判になり始めた その頃 同じ舞踊が

   十八代目により

   テレビの画面に展開されていた

   若さに満ちた舞い姿 若さが持つ

   色香 軽やかな身のこなし

   十七代目の枯淡とは異なる舞台模様

   テレビの画面が映し出す

   模様の差異 それはそのまま

   芸の上での差異でもあった

   匂い立つ若さ 軽快な身のこなし その裏に

   透けて見える 演者の姿 

   抜け切れない臭気

   踊りをおどる意識の漂う舞台

   青臭い・・・・勘九郎の影を引きずり

   以来 高まる世評とは裏腹 十八代目への

   肯定の気持ちは生まれなかった

   -----

   テレビの画面に再び

   十八代目 勘三郎の姿を見た時には

   幾年月もの時が流れていた

   古典芸能番組

   演じる芝居の主人公

   勘九郎の影の消えた

   勘三郎 そのものの顔が

   そこにはあった 豊かな才能

   その才能の片鱗が 垣間見える舞台

   以前にも増して盛り上がる世評を

   敢えて 否定するものは何もなかった

   -----

   親から子へ 子から孫へ

   代々 引き継がれ 育まれたに違いない

   豊かな才能 その才能に更なる磨きが掛かり

   大きな役者への飛躍

   そんな予感が生まれた矢先

   平成二十四年 2012年 十二月五日 死去

   -----

   十八代目 中村勘三郎は生まれ持つ才能

   その完成の待たれた

   これからの役者であった

 

          すべて良し(2012.10.11日作)

 

   早熟の天才 駆け抜ける

   束の間の栄光

  

   愚鈍の才 積み重ねた努力

   苦難苦闘の日々

 

   成し遂げられた 一つの道

   朝日に輝く道

   夕陽に浮かび上がる道

   

   追憶の中

   終わり良ければ 

   総べて良し

 

   やがて来る道  

   無