遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉300 小説 報復(8) 他 今日 この頃

2020-06-28 12:25:22 | つぶやき
          今日 この頃(2020.6.13日作)


   かつて 若かりし頃
   しばしば 眼や耳にした
   あの人 が 亡くなった
   この人 が 亡くなった
   歳月を経て 今 眼や耳にするのは
   消え逝く命の消息 訃報
   そうか 人生 百年時代 かつては 
   五十年 七十年 八十年 と 言われ
   今では人の一生も 百年
   一世紀が語られるようになった--
   とは言え 誰しも 人の老いゆく その歳月の
   経過 過ぎ行く歳月に 抗う事は 
   出来ない 不可能
   過ぎ行く歳月 その長い経過を経て
   衰えゆく身 肉体の兆候は 日毎
   深くなるのみ 再び あの肉体の 心の 精神の
   輝いていた時代 あの日々に
   戻る事は 出来ない 年に一度
   新年の挨拶 年賀状が 今年は来ない
   電話をしても通じない 便りの途切れた そんな折り
   ふと 心に浮かぶのは もしや・・・・・
   不吉な想い 厭な 想像 もはや 人の生の
   長い歳月を経て来た今 その途上に浮かぶのは
   負の想いのみ 輝く人生 その想いの
   浮かび来る事は ない 人生 その
   長い歳月を経て来て 今 そんな
   歳になった 年代になった と 思う 
   今日 この頃



          ------------------



          報復(8)

 一点はピンクやブルーの色彩の絵で、公園の木陰に憩う人々の姿が淡い詩情を込めて描かれていた。
 律子は自分の部屋へ掛ける積りでいた。
 あとの一点は、舞台の書き割りのようなカッチリとした街並みの絵だった。
 義人が気に入り、「川辺」の本社の応接室に掛けるのだと言った。
 その後で銀座の街に出て画廊を廻り、オランダの十七世紀の風景画を一点、購入した。その絵は自宅の応接室に掛ける事で二人の意見が一致した。
 午後四時近くにホテルへ帰った後、シャワーを浴びたりなどしてくつろいだ時間を過ごした。
 午後五時になると、義人は一足先に独りでロビーへ降りて行った。
「水野が早く来たりして、待たせると悪いから先に行ってるよ」
「わたしも、着替えてすぐに行きますから」
 律子はそう言って鏡に向かった。
 午後五時半少し前に律子は自宅へ電話をした。
 家政婦の野間さんが出ると、子供達を呼んでくれるように頼んだ。
 勝人が電話に出た。
 律子は、明日帰る予定だけど、お土産は何が欲しいのか、と聞いた。
「美っちゃんとよく相談して、あと十分ぐらいしたら、ここへ電話をしなさい。うちのパパだけど、札幌の川辺義人を呼んで下さいって言えば分るから」
 律子はそう言ってホテルのフロントの電話番号を教え、急ぐ用事があるからと言って電話を切った。
 五時半になると律子は部屋を出た。
 水野益臣とどんな顔をして会ったらいいのかと思うと、さすがに緊張した。
 エレベーターを降り、ロビーへ向かう間の、毛足の深い絨毯を踏みしめる足元が覚束なかった。
 広いロビーへ出ると、大勢の人の中に義人と水野の姿を探した。
 右手の喫茶部になったほぼ真ん中辺りのテーブルで、煙草の煙りを立ち昇らせている義人の姿がまず眼に入った。
 続いてすぐに、丸いテーブルを三等分に切った一角に横顔を見せている男の姿を見て、水野益臣だと分かった。
 テレビの画面で何度か見ているせいか、十何年ぶりかで会う印象はなかった。
 陽に焼けた水野の顔は、テレビの画面で見るよりは引き締まった感じがしていて、好ましくさえ思えた。
 薄茶の上着に黄色いシャツを着て、胸元をループタイで飾っていた。
 義人との長い空白期間を置いての再会が水野にも嬉しいのか、二人は共に楽し気な笑顔を見せていた。急き込むように言葉を遣り取りしている姿が、いかにも幼馴染らしく見えた。
 律子は暫くは足を止めたまま、そんな二人の姿を見守っていたが、背筋に力を入れると意を決して二人の方へ歩いて行った。まるで、舞台へ向かう役者のようだ、と律子は自分を思った。
 水野の前に立った時、律子は驚く程に冷静だった。部屋を出る時の不安な胸騒ぎもなく、足元の覚束なさもなくなっていた。
 義人が先ず律子に気付いて言った。
「ああ、来た、来た」
 水野はその声に促されたように側面を見せていた顔を律子の方へ向けた。
 瞬間、水野は眼の前に起こった事が理解出来ないような顔をした。自分の眼を疑うかのようだった。
 律子は微笑みも見せなかった。軽く会釈をしただけだった。同時に、水野の顔が苦痛にゆがみ、醜く引きつった。
 義人は十数年ぶりで会った旧友と、少なくとも愛する妻を前にして得意気だった。
「ここに座れよ」 
 と、律子に視線を向けたまま言って、水野と律子の間に流れた微妙な雰囲気にも、水野の面に現れた顕著な変化にも気付かなかった。
 律子は椅子を勧める義人の言葉に小さく頷きながら、テーブルの傍に立ったまま、
「初めまして。川辺義人の妻で御座います」
 と、丁寧に頭げ、義人が紹介の労を取るより前に機先を制して言った。
 水野は律子の挨拶にどのように応じたらいいのか戸惑う風で、しどろもどろの体だった。
 律子はそんな水野のすっかり落ち着きを失くした態度に、今、自分が意図した事が眼の前でその通りに実現していると思うと、何かしら勝ち誇ったような気持ちと共に、優越感のような感情さえ覚えていた。
 水野はそれでも、律子の挨拶にぎごちなく軽い会釈を返した。
 妻の律子を見詰めていた義人が、そんな水野の挙動に気付いたのかどうかは律子にも分からなかった。律子はただ、落ち着いた様子で夫に勧められた椅子に少し気取って腰を下ろした。
「改めて紹介するよ。妻の律子。今度、東京へ出て来るのにも、おまえに会う事が条件の一つになっていたんだ」
 普段には見る事も出来ないような気持ちの昂ぶりを幼馴染の前で見せている義人は、何も気付かないかのようで、面白そうに言った。
 律子はそんな夫の、初めて見るいかにも嬉しそうな様子を眼の前にしながら一瞬、自分が義人に道化を演じさせているような気がして来て心が痛んだ。
 律子は義人の行動力や、気持ちのおおらかさには普段から称賛の気持ちと共に、尊敬にも近いような念を抱いていた。何百人もの社員の頂点に立つ人だけに、人の心の機微にも通じていて、他人から嘲笑を受けるような鈍感さは義人にはなかた。
 そんな義人が今、自分の妻というだけで、律子と幼馴染の前で無防備になっている。
 律子は義人への申し訳なさと共に、義人を弁護してやりたい気持ちを覚えた。
「テレビでよく拝見するせいか、なんだか初めてお会いするような気がしませんわ」
 律子は出来る限りの柔らかい微笑に自分の心の内を包んで言った。
 水野の顔には思い掛けない紅潮が走った。
 律子は瞬間的に、危機に直面した動物のように身構えた。
 水野の口から何が飛び出して来るのか ?
 水野の顔面の紅潮が怒りを表す事は明らかだった。
 義人はその水野の表情をどのように受け取ったのだろう ?
 だが、水野の顔からは、紅潮は一瞬の間に消えていた。
 水野が自制したのかどうかは分からなかった。
 その時、ロビーにアナウンスの声が流れた。
「札幌の川辺義人様、お電話が入っております。ロビー、フロントまでお越し下さいませ」
「あら、電話だわ」
 律子はわざと驚いた表情を見せて言った。
「うん、なんだろう ?」
 義人は無論、心当たりなどないと言った様子で応じた。
「事に依ると、子供達からかも知れないわ。東京のお土産に何がいいか、パパと相談してみなさいって言って置いたから」
 律子は、如何にも幸福な家庭の主婦と言った表情と共に、穏やかな口調で言った。
「子供達 ? 困った奴らだなあ」
 義人はまんざら不満でもないように苦笑いと共に言って、
「ちょっと、失礼するよ」
 と水野に言い、席を立って行った。 
 水野は軽く頷いた。水野に取っても、義人が席を外す事は望む所に違いなかった。
 律子は背中を見せて遠ざかってゆく義人を確認してから言った。
「どう ? 驚いて ?」
「なぜ、こんな事をしたんだ ?」
 水野は義人がいなくなった事で、一気に昔を取り戻したかのように、怒りを含んだ厳しい口調で言った。
 律子は慌てなかった。総てが思惑通りに進行していた。
「あなたに、今のわたしの幸福な姿を見て欲しかったのよ。北海道で"川辺"って言えば知らない人はないわ。わたしはそこのオーナーの妻なのよ。これ以上の幸福はないわ。人生って、皮肉なものね。何が幸運に繋がるか分からないわ」
 律子は精一杯の皮肉を込めて言った。
「川辺は俺達の事を知ってるのか ?」
「知らないわ。なぜ、いちいち、あの人に知らせなければならないの。あなたとの事は、わたしに取ってももう、はるか昔の事なのよ。今更思い出したくもないし、殊更知らせて、あの人を苦しめたりなどしたくはないわ」
 水野は返す言葉に詰まったのか、顔を紅潮させ、怒りに満ちた表情で黙っていた。
「あの人は、とてもわたしを大切にしてくれるわ。わたしに取っても、あの人は大切な人なのよ。わたしは今、この恵まれた生活を大事にしたいと思うだけなの。今更、昔の傷を開いて見せて、この幸福を滅茶苦茶にしたくはないし、あの人を苦しめたくもないわ」
「もし、俺が喋ったらどうする ?」
 水野は怒りに満ちた表情で言った。
「どうぞ、御自由に。あの人の前であなに会おうというのですもの、それ位の事は当然、頭の中に入れてあるわ。でも、昔のスキャンダルが表に出て困るのはどっちかしら。わたしは北海道の一都市に住む一人の主婦に過ぎないけど、それに比べてあなたは今、テレビで日本国中に顔を知られた人気者よ。もし、あなたが過去を表沙汰にしていいって言うんなら、わたしは三村明代さんに頼んで、それ相当の手を打つわ。あなたを徹底的に痛めつける心算よ。それに第一、あなたが川辺に喋ったとしても、あの人は恐らく、あなたの言葉よりもわたしの言葉を信じてくれるわ。もし、あなたの言う事を信じたとしても、わたしとあなたとの間にどのような経緯があったかを話せば、あの人は分かってくれると思うの。あの人はあなたのように、いい加減で、無責任な卑怯者ではないわ」  
「なぜ、俺が卑怯者なんだ !」



          --------------------



          takeziisan様

          今回もブログ 大変楽しく
          拝見させて戴きました
          健康診断 わたくしも24日に受けて来ました
          今年はコロナの影響で一部 省略されたものもあります
          今週 金曜日には結果を聞きに行きます
          わたくしの大腸ガンもこの検査により見付ける事が出来
          今では健康体です 但し 大腸の検査は毎年
          続けています それにしても 結果の分かるのが
          大支部遅いようですね わたくしの所では一週間も   
          あれば判明します
          相変わらずの見事なお写真 霧の写真はいいですね
          農作業、なんだかんだと言いながら とても楽しそうな
          御様子が伺えます どうぞ これからも御報告
          宜しくお願い致します 毎回 楽しく拝見させて
          戴いております


          桂蓮様

          いつも御丁寧なコメント戴きまして
          心より感謝申し上げます
          恩師がお亡くなりになられたとの事
          さぞ 御心痛の事と存じます 人の死
          どんな遠い人の死でも心にさざ波を立て
          痛みを生じさせるものですが 恩師の死となれば
          なおの事だと思います どうぞ 桂蓮様 御自身の
          心身共の御自愛をお忘れなさらない様      
          お気を付け下さいませ
          御主人様との事 なんだかおのろけを聞かされている
          ような気分になりました それにしても 
          お羨ましい限りです どうぞ 御主人様を
          御大切にして上げて下さいませ これは男としての
          わたくしからのお願いでもあります
          「無」 この禅の基本 何事に於いても大切なものですね
          無の心には鬼も住めないだろうし 鬼の住む心が
          人間に様々 愚劣な行為を行わせているのでは
          ないでしょうか この世を無と認識すれば
          様々なものは無価値となり 自分の心に沿った
          真実のみに生きる事が出来るようになるのでは
          と思うのですが
          わたくしの文章を大変お褒め下さいまして
          誠に恐れ入ります ただ 自分の心の真実を    
          書いてゆきたいと思っているだけの事でして
          お褒めに与るような事では御座いません
          有難う御座います
          ブログ 暫くお休みとの事 淋しくなりますが
          以前お書きになられたものを追い追い
          拝見させて頂きます ただ いつか申しましたように
          英文に照らし合わせての勉強読書でして
          一向に捗りません
          ブログの再開 お待ちしております
          
       
 
          


 


 

 
 

 
 

 
 


  
   

    
    

遺す言葉299 小説 報復(7) 他 柳に風 ほか

2020-06-21 12:35:49 | つぶやき
          柳に風(2020.6.10ー15日作)


          ほどほどの

   草は丈が高ければ 高いほど
   風に なぎ倒され易くなる
   地面に這いつくばれば 這いつくばるほど
   踏み付けられ易くなる
   中庸の丈の草 その強みは
   風には強く 踏み付けられ 易くもない
   人が生きる その世界では ?

          風に柳

   柳の木は 右に 左に
   前 後ろ 風の吹くまま そのままに
   揺れて 動いて それでもなお
   自身はしっかり 大地を掴み 離さない
   大地に根を張り 動かない
   人もまた 同じ事
   右に 左に 前 後ろ
   自在 自由に 心を配り
   眼を配る それでも根本 自身の腹
   胸の思いは 動かない 動かさない
   動いて 動かず 動かず 動いて
   凝り固まる事がない
   凝り固まれば 動けない
   囚われ身では 動けない

          水辺の葦

   風に揺れる水辺の葦は
   右に左に揺らいでも 水の中
   しつかり大地に根を下ろし
   陸の岸辺を守ってる



         ----------------



          報復(7)

「身軽になって、もう一度、最初からやり直すのよ。早い時期なら、気持ちの整理を付けるのにもいいと思うから」
 必ずしも堕胎を正当化していない明代の口から、そんな言葉を聞くのはおかしかったが、自分を思う明代の友情に律子は感謝した。
 睡眠薬を口にしたのは、死にたいと思ったからではなかった。ただ、眠っていたいと思っただけだった。
 少しばかりの量ではすぐに眼が覚めてしまいそうで不安だった。昏々と眠って、いつか眼が覚めた時には別の世界が開けている・・・・・そんな願望が心の底の何処かにあって、その上、それが、水野益臣を驚かせ、狼狽させてやりたいという、水野への仕返しの気持とも重なり、律子は自分の眠りが死の寸前にまでいく事を願っていた。
「あなたのせいで、この人は自殺しようとしたのよ」
 恐らく、昏睡状態の律子を発見した時、明代は旨く取り計らってくれるだろう。
 明代の性格からして、彼女が水野に連絡し、水野を問い詰めるだろう事は律子にも想像出来た。
 気の小さい水野は明代の前では多分、手も足も出ないだろう。  
 それを思うと律子は、何かしら爽快感にも近いような感情を抱いた。
 分量を少しでも間違えれば、正真正銘、死の世界へ陥る事は分かっていた。
 それでも律子は少しの恐怖も感じなかった。自分がこの世界からいなくなってしまうなどとは考えられなかった。
 入り口のドアに鍵は掛けなかった。死ぬ積りはないのだから、その必要はなかた。
 用心のために寝室の部屋のドアにだけ、内側から鎖状の掛け鍵を掛けた。
 それが幸いした。
 発見が遅れれば死ぬところだった、と医師は言った。
 明代が最初に発見した。
 勤務先に電話をしても、自宅に掛けても、返事のない事を不審に思った明代が駆け付け、ベッドに横たわる律子を発見した。
 胎児はショックで流産した。
 思い描いた筋書き通りには運ばなかったその出来事は、律子の心に深い痛手を残した。
 律子はやむなく函館の実家に戻り、しばらくの静養を余儀なくされた。
 明代との友情はその後も続いた。
 東京で著名な女性評論家の三村明代は、講演会などでもしばしば来道した。
 体調を回復し、立ち直ってからの律子も、自分が関係する団体の講演会などには明代を招請した。
 明代は律子の回復と現在の律子の活躍を誰よりも喜んでくれた。
 律子はだが、今度の東京行きでは明代には会わない積りだった。水野益臣への拘りを明代に知られるのが怖かった。律子の心の内にある、この水野への報復の思いを知った時、明代はなんと思うだろう ?
 律子を思いの外、情の強(こわ)い女だと思うだろうか ?
 それとも、まだ、水野への思いを断ち切れないでいると見て、女々しく思うだろうか ?
 いずれにしても律子には、現在の自分のこの幸福を壊したくないという思いだけが強かった。
 水野は、律子が睡眠薬を飲んだあと、流産して入院している間も見舞いには来なかった。事の一部始終は律子が思い描いた通り、明代が水野に一切を知らせていた。
 だが、水野は明代からの知らせを受けるとそのまま、何処かへ姿をくらましていた。
 水野が明代と律子の前に姿を見せる事はそれ以来、一切、なかった。
 律子がテレビで最初に見た水野が、あれ以来の水野益臣の姿だった。


          三

 
 A デパートの祝賀パーティーは、国内の代表的なデパートの催し物だけに華やかだった。経済界からは無論のこと、政界、芸能界、スポーツ界、マスコミ界、それに芸術各分野の著名人も数多く主席していて、Tホテルの大きなホールは一杯だった。
 川辺義人はしばしば東京へ来ている関係もあって、思いの外、東京の人々の間でも顔が広かった。
「わたしの妻です」
 律子は義人から、名前だけは普段から馴染みの著名人に紹介されるたびに、丁寧に頭を下げて挨拶した。テレビ、新聞、雑誌などで名前を知られた著名人と対等の立場で挨拶出来る気分は悪くはなかった。
 東京にいた頃の律子は、雑誌記者として、自分一人だけでそんな人々の元へ押しかけていたが、それとこれとでは立場が違った。現在の自分が、一段、高い場所に足を掛けている気がして、それが律子の虚栄心を満足させた。
 律子はパーティーの会場を出るまで、上気したように頬を紅潮させていた。
 義人はAデパートとの関係の親密さもあて、途中で会場を抜け出す訳にもゆかなかった。中締めが入るまで残っていた。明日、明後日と仕事の予定がない分だけ、寛いでいる風でもあった。
 明日は午前十一時半にAデパートの美術部へ行き、二、三点の絵を見る予定になっていた。その足で銀座の街へ出て、画廊に足を運ぶ積りでいた。
 水野益臣とは、夕方五時半に律子たちが滞在しているホテルのロビーで会う約束を、夫の義人が取り付けていた。
 水野は午後十時からのテレビの生番組が入っていて、それまでの僅かな時間を利用して会うのだった。
 律子は一週間前に、義人からそう聞かされた時、
「水野さんにお逢い出来るのね」
 と言った。
「うん、女房がサインを欲しがってるんだ、って言って、むりやり時間を割いて貰ったんだ。もう何年も会ってないんで、奴もびっくりして戸惑ってたよ」
「気持ちよく承知してくれたのかしら ?」
「昔のよしみでなんとかなったよ。奴もなかなか忙しいらしいよ。売れっ子になってお目出度うって言ったら、素直に喜んでたよ」
「そう」
 律子は何気なく言って、義人に感謝の眼差しを向けた。
 夫の義人の前で水野に会う事に律子は危険を覚えない訳ではなかった。
 水野が二人の過去を口にすれば、現在の幸福な生活に翳が射さないという保証はなかった。
 律子はそれでもなお、水野益臣と会う道を選んでいた。現在の、義人との仲睦まじい夫婦姿を水野の眼の前で見せてやりたかった。水野の思い掛けない展開に周章狼狽する姿を見て嘲笑(わら)ってやりたかった。
 律子はその上、水野益臣が義人の前で、二人の過去を口にするだけの勇気は持ち合わせてはいない、と睨んでいた。あの男に、そんな気概がある筈がない。
 義人はAデパートのパーティーに出席するという口実の下、律子が取って置きのアクセサリーや衣装を選択する事を怪しまなかった。 
 水野と会う時は勿論、それを身に付ける積りでいた。
 あなたが捨てた女はそのお蔭で今、こんなにも恵まれた生活環境の中で生きていますよ、と無言のうちに誇示してやりたかった。

 その日、律子と義人は午前中にAデパートへ行き、フランスの現代画家二人の作品を一点ずつ購入した。



          -------------------


          桂蓮様

          コメント 有難う御座いました
          桂蓮様は大変 御慎重なお方でいらっしゃる御様子が  
          御伺い出来ますが かえって その方が良いのでは
          ないでしょうか 十人の一般的友達を持つより
          本当に親しい 心の分かり合える 二人か 三人の
          友達の方が はるかに豊かな友情を得る事が出来ます
          そしてそれは 十人の心の薄い友達の友情より はるかに
          貴重な財産なのではないでしょうか いざという時
          究極の時点では 日頃の友情も省みず
          逃げ出す人間は多いものです その時点で頼れる
          真の友情を持ち得る二人か三人の友人の方が 真実
          貴重な財産と言えるのではないでしょうか 
          斯くいうわたくしも友達は多くはありません 最も
          既に亡くなった人も多く居ますので
          それにわたくし自身 根本的には人間嫌いの性格を
          多分に持ち合わせています
          お時間をかけて わたくしを観察なさるとの事
          どうぞ お手柔らかにお願い致します
          ブログのお写真 拝見しました 御主人様でしょうか
          仲睦まじい御様子 お羨ましい限りです
          何時も応援戴き 心より感謝申し上げます


          takeziisan様

          いつも有難う御座います
          先ず最初にお詫び申し上げます
          前回 わたくしが作家か というお言葉が御座いましたが
          ブックマークへの御登録の御礼を申し上げる事にのみ
          気を奪われ お答えする事を失念してしまいました
          わたくしは作家ではありません 人生の集大成を
          急いでいるところの人間です せめてもう少し
          九十歳まではと そこを目標にしている人間です
          その間にどの位 人生の整理が出来ます事やら
          
          落花生をお植えとの事 わたくしの所でも毎年 屋上の
          プランターで落花生を作っています
          わたくしが住む千葉県は落花生の産地ですが
          取れたての落花生を殻着きのまま茹でて食べのは
          何よりの楽しみとなっています
          良い御収穫を期待しております
          腰痛 困ったものですね 年齢と共の
          筋肉の衰えのせいか 年々 痛みが執拗になって
          来るような気がします どうぞ(自戒を込めて)
          お大切にしてください
          

 
          





 


 
 
 
 

 
 

 


   
   
   

遺す言葉298 小説 報復(6) 他 人間の評価基準

2020-06-14 12:45:47 | つぶやき
          人間の評価基準(2020.6.9)

   人間が 人間として 人間を尊重
   敬意を持って生きる 最も大切
   尊い事だ 例え 高い
   社会的業績を誇る人間であっても
   人間 人への敬意を忘れ 人間の尊厳 
   尊重をないがしろにする人間は 人間として
   軽蔑 否定されても 否 とは言えない
   人間を人間として尊重 敬意を持ち
   人間の尊厳を持って生きる その人間に
   社会的業績が加味された時 その人間は 人間として
   最も高い評価を受けるに値する 
   社会的業績を持たない人間 その人間は 人間として
   最も大切なもの 人間への敬意 人間の尊厳 尊重を守り
   真摯に生きる その時 その人は 人間として
   立派な人間と言える 例え 社会的業績 皆無であったにしても
   社会的業績を持った人間 高い社会的業績を持ちながら
   人への敬意 人間の尊厳 尊重をないがしろにする人間より
   はるかに立派な人間 と 言える 
   人の命の尊重 尊厳を守る
   人がこの世を生きる 基本
   総てはそこから始まる

   縦軸 人間尊重100 横軸 社会的業績100
   その接点0から出る45度線 10 20 と数値を増す線の頂点
   縦軸 横軸100の交わる頂点 45度線のその頂点を生きる人間は
   人間として 最も 高い評価を受け得る人間


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          報復(6)

 律子は明代の口から、水野がそう言った、と聞いて悲観的な予感を抱いた。
 言質を取られるのを恐れる水野益臣の小ずるい姿が眼に浮かんだ。 
 律子は気弱になっていた。
「そんなにしてまで恩着せがましく言うんなら、会わなくてもいいわ。会いたくもないし、会ってもなんにもならないと思うの」
 明代は、そんな律子を励ますように強い口調で言った。
「弱気になっちゃ駄目よ。とにかく段取りをしたんだから、会うだけは会ってみなさいよ。そこではっきりとあなたの気持ちを言って、駄目なら駄目で心を決めればいいんだから」
 律子は明代に押し出されるようにして水野に会った。
 水野は律子が勤めている出版社に近い四谷の喫茶店に、丸めた週刊誌を片手に気乗りのしない様子で現れた。
 待っていた律子の顔を見ても微笑み一つ見せなかった。不貞腐れたように頷いて律子と向き合った席に腰を下ろした。
 律子は、そんな水野を前にして卑屈になっている自分を意識した。
 水野の顔には、律子が悩んだ万分の一程の苦悩の跡もなく、健康感に溢れていた。不機嫌にしているのはポーズだけではなかった。律子に会う事自体に気が進まない事の何よりもの証拠だった。
 律子は、そんな水野を前にして、やっぱり会わなければ良かった、と思った。不機嫌な水野の心が少しでも自分の方へ傾いてくれる事を願って、ますます、卑屈になってゆく自分を意識して、律子は惨めな気分に落ち込んだ。と同時に、これから先は再び、水野に会う事はもう、ないだろう、と心の内で気持ちを固めていた。責任感も誠実さも全く持ち合わせない様子の男など、今更、非難しても始まらない、という気持ちになっていた。
 律子は静かに言った。
「お腹の子供、もう、五か月になるわ。わたしは毎日毎日、その存在を体の中で感じているの。もし、あなたがお金のためだけで、わたしから逃げているのなら、そんな心配はしなくていいからって言いたいの」
「ずいぶん自信に満ちた言い方だね」
 水野は唇の片側をゆがめて皮肉っぽく言った。その後、すぐに言葉を続けた。
「だけど、問題はそんな事じゃないんだよ」
 微かに怒りを含んだような眼で律子を見て水野は言った。
「じゃあ、妊娠した女が厭になったという事 ?」
「そんな事じゃないよ。ただ、僕は自由でいたいと思うだけなんだよ。縛られるのが厭なんだ。愛にも子供にも家庭にもね。僕はまだ、カメラマンとして、何一つ満足な仕事をしていない。いい仕事をする為にも自由でいたいんだ」
「家庭を持ったら、いい仕事が出来ないって言うの ?」
「気持ちが仕事に集中出来なくなるからね。家庭に気を取られたりしてさ」
「そんな事、言い訳にしか過ぎないわ。家庭を持っても、いい仕事をしている人はいっぱい居るじゃない。M先生だって三人もお子さんがいるわ」
「他人(ひと)の事は言わないでくれよ。僕は僕なんだから。ただ、自由でいたいだけなんだよ」
 水野は師の事を言われて色を成した。
「じゃあ、お腹の子供、堕ろしてもいいのね」
「僕の子供だって、はっきりした証拠がある訳でもあるまいしさ」
 水野は気持ちを昂らせたまま、挑戦的な口調で嘲笑するように言った。
「まあ、なんて酷(ひど)い事を言うの。失礼よ !」
 律子は怒りで体中が震えるような思いで激して言った。
「わたしが、他の誰と付き合っていたって言うの。卑怯だわよ」
「なんで卑怯なんだよ」
 水野も食って掛かるような口調になっていた。
「だって、そうじゃない。逃げてばかりいて、何一つ、責任を取ろうとしない」
「逃げてなんかいないよ」
「逃げてるじゃない」
「なんとでも言えばいいさ」
「いいわよ。もう、いいわ。二度と会わないわ。あなたの顔なんか、見たくもないわ」
 律子にはそう言った自分の声だけが記憶に残っていた。他の事は一切が記憶になかった。気が付いた時には四ツ谷駅のホームにぼんやりと立っている自分を見い出していた。
 律子には、水野益臣がここまで卑劣になれるとは思えなかった。何処か気が弱く、優しかった水野の姿が強い印象を伴って律子の中には刻み込まれていた。あの優しかった水野益臣はなんだったのだろう。何処へいってしまったのだろう ?
 律子は心の中で、水野への諦めと共に、そんな気弱な水野に期待していた部分が自分の裡になかっのだろうか、と改めて思い返していた。今日、会った事にもそんな虚しい期待を抱いていた部分はなかったのだろうか。
 律子は四ツ谷駅のホームに佇んだまま、自分が何か、現実とは遠い何処かの世界を漂っているような気がしていてならなかった。信じられない夢の中に居るような気がしていた。
 律子は思った。もし、自分が妊娠しなかったら、水野は優しいままの水野益臣でいたのだろうか ? 妊娠した事が罪だったのだろうか ?
 結婚に就いて、子供を持つ事に就いて、二人が言葉を交わした事は一度もなかった。感情の赴くままに若い二人が、情熱をぶつけ合い、求め合っていた、それだけの事だった。律子の不注意、律子が迂闊だったと言われればそれまでだった。
 だが、律子は、初めて自分が肉体を許した男の愛を信じ切っていた。肉体を許し合った男と女の愛情は堅固なものと信じていた。甘さを指摘されても、初心(うぶ)だと笑われても、今となっては始まらない事だったが。
 学生時代には律子にも何人かのボーイフレンドがいた。だが、社会の一線で活躍する夢を見ていた律子は、恋人と言える程に深い関係を異性との間に持つ事を良しとはしなかった。高校卒業後、東京の大学を選んだのも、後々の就職に有利な様にとの思いからのみだった。律子は社会の様々な分野で活躍する先輩女性達に憧れていた。
 出版社での仕事は、そんな律子の心を満足感で充たしてくれた。
 何年かは夢中のうちに過ごしていた。
 仕事の面白さも分かりかけて、ようやく周囲を見廻す余裕の持てるようになった頃に現れたのが水野益臣だった。
 律子は今、改めて考える。仕事の面で余裕が出来た分だけ、自分の心の内に、緩みと隙間が生じていなかっただろうか ? 自分に甘えを許す心が生まれてはいなかっただろうか ? 浮ついた心でいて、水野益臣の本当の姿を見極めようとする努力をしていなかったのではなかったのか ? その結果が、今日の出来事に繋がっている、そういう事ではないのか ?
 律子は思った。
 水野益臣との関係を清算するために、お腹の中の子供を闇に葬るのは簡単な事だ。そすれば身軽になって、総てを一から新しくやり直す事が出来る。男性は何も、水野益臣ばかりではないのだ。
 そして、そう思った途端、律子はまた別の思いに捉われた。
 次々に自分の体の中から信号を送って来る眼には見えない存在が、律子の意識をまた、新たに眼醒めさせた。命という、その存在は苦境の中で苦悩する只今現在の律子に取っても、そんなに軽々しく見過ごす事の出来るものではないように思えて律子を縛った。
 三村明代からの電話があったのは、午後九時過ぎだった。 
 律子は、水野との話し合いの結果を問う明代に、
「駄目よ、あんな人。当てになんて出来ないわ」
 と言った。
「そう。それならそれで、あなたの気持ちはどうなの。はっきり決断出来た ?」
「まだ、何も分からないわ。冷静になって少し考えてみるわ」
「そうね。自棄(やけ)を起こしちゃ駄目よ。何もあの人ばかりが男じゃないんだから」
「大丈夫よ。わたしが考えていたのと同じような事を言わないでよ」
「そうか、それならいいんだけど」
 受話器の向こうで笑う明代に律子は、力のない笑い声を返した。
「明日にでも会って、詳しい事を聞くわ」
 明代はそう言って電話を切った。

 律子は絶望していた訳ではなかった。
 胎児は闇に葬る事を考えていた。
 産んで産めない事はないと思ったが、様々な条件と照らし合わせてみると、自ずと暗い面ばかりが浮き上がって来て気持ちが沈んだ。



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          takeziisan様

          コメント 有難う御座います その上
          ブックマーク登録との事 光栄 嬉しい限りです
          本当に有難う御座います
          奥様にも見て戴いているとの事 感謝申し上げます
          どうぞ 奥様にも御礼の言葉 お伝え下さいませ
          相変わらずブログ 楽しく拝見させて戴いております
          野菜収穫 見ていて羨ましい限りです
          わたくしの自宅の屋上でも少し 鉢植えなどで様々
          花や野菜など育てておりますが 自然の中で作るのとは
          訳が違います ママゴトのようなものです
          「小雨降る径」懐かしいですね  添えられたお写真も 
          良い写真で何かしら優しい思いに包まれます
          わたくしはこの曲は 高 英男 芦野ひろし など   
          シャンソン歌手のステージでよく耳にしました
          今では懐かしい思い出です
            (わたくしの文を大変お褒め戴き嬉しく思いますが
             どうぞ お使い出来るものがありましたら
             御自由にお使い下さいませ 無論 連絡など
             お気遣い戴かなくても結構ですので)
          奥様共々のコメントに心より感謝申し上げます


          
          桂蓮様

          何時も様々な形で 御支援下さいまして
          有難う御座います 大変 嬉しく思います事は無論
          とても大きな気持の励みになります
          新しい御文章拝見致しました
          時計のデジタル アナログ 全く御同感です
          その上最近は電波時計まで出現 四六時中
          針が動いているのを見るのは 楽なものではありません
          絶え間なく動き続ける針が刻々と自分の命を
          削っているような気分にさせられて 落ち着きが
          得られません おっしゃる通り 確かに一秒は長い 
          時間ですね
          意識に就いての御考察
          坐って解決 さすがだと存じます
          外からの知識は経験ではない 禅ではこう言いますね
          人に取っての大切なもの それは経験で
          自身の心で得たもの それを理解した時 始めて
          分かった と言う事になる いわゆる
          「悟った」と言う事ですね 禅では何よりも この
          「悟り」を重んじますね 坐って自身で解決する
          御文章を拝見致しまして さすがだと感じ入りました
          これからもどうぞ 良い御文章をお寄せ下さいませ
           余談ですが なんだかこの頃 辞書を片手に
           英文に凝ってしまい 読みが捗りません
           追い追い いろいろ 過去の御文章を
           拝見させて戴くつもりでおります 宜しく
           お願い申し上げます 
     
           
 




          
          



          
          


 

 
 
 
 
 


 
 

 

 
   
   

遺す言葉297 小説 報復(5) 他 これで作家? 怒りと共に

2020-06-07 12:29:04 | つぶやき
          これで作家 ? 怒りと共に(2020.6.1日作)
            
            (当初 別の文章を掲載する予定でしたが
            ある新聞紙面のコラムを読み その愚劣さに
            腹立たしさを覚え 急遽 差し替えました
            このコラムの文章は 人間を見詰める視点に於いて
            正しく 今 アメリカで起きている問題と
            相通じるものがあると思います)

            

 
 二 三日前 日経新聞 コラム欄に
 作家と称する男の文章が載っていた
 哲学者の先生 理学博士 宇宙物理学者  
 国会議員 会社社長 警察署長 外務省総務課 などなど
 貰った名刺の数々を 得意気に並べ立てたあとで
「専務嫌いになったのは 近所の 八百屋のオヤジが
 社長と自称 ムスコを専務と呼んでいたからだ」 
 と書いた その後で
「社長が大根を洗い 専務がキュウリを並べていた」 と
 いかにも軽蔑的に書いている
 作家と称するこの男 いったい 何を考え 何を
 勘違いしているのだ ! 愚かで
 バカ者ー敢えて言うーにも程がある
 国会議員 会社社長 外務省職員 その他 諸々は
 偉くて 八百屋の人間は 屑なのか ?
 偉くないのか ? 日々 誠実に店先で
 きれいに整えられた商品を 人々 その手元に届ける
 そんな仕事が それ程 軽蔑的な仕事なのか ?
 この男の軽薄さ 俗物根性 スノッブ には
 開いた口が塞がらない 眼も当てられない
 作家と称する者 少なくとも
 人間社会の真実 実態を正確に見極め 追求し
 それを描く人間ではなかったのか ?
 人間社会の隠れたもの その真実 それを
 描き出す人間 それが作家ではなかったのか ?
 この男の文章 その何処に それがあると言うのか ?
 ただただ 社会の表面 上っ面 肩書 名称 虚名
 それのみに気を取られ 有り難がり 虜となって 真実
 物の真実 その姿を 捉え 見詰めようとはしていない
 見詰める眼差し その眼を失くしている それで
 作家だとは 聞いて呆れる 恐れ入る
 今 日本という国 この国の現実社会 そこで
 何が 起きているか ?
 何が 行なわれているか ?
 眼を凝らして見れば分かる事
 日々 誠実にコツコツ働き 確実 真摯に人の手に
 必要な物をお届けする 立派な商品を届ける 八百屋の
 オヤジ ムスコ と比べた時 いったい
 どちらが人間的で 誠実 立派なのか ?
 肩書だけで片づけられるか ! 作家と称するこの男
 何を考え 何を見ているのか 虚栄 虚飾 虚名
 それのみにしか関心がない・・・・・・もし
 そうであるなら そんな人間が 真の
 作家などと言えるか ! 言えるものなのか ! 生憎 わたしは
 この男 この作家の文章は読んだ事がない
 四畳半の部屋 そこをほぼ埋める書棚の中にも
 この男の書いた物はない それが不幸か 僥倖か ?
 むろん コラムを読んだその後では 仮にも
 この男 この作家の書いた本など 手に取ってみようとは思わない
 その気も無ければ 読む気も起こらない 虚名のみを有り難がり
 ものの真実 その姿を見詰める事もなく 
 見極めようともしない そんな作家の本など
 見る価値はない
 身たくもない
 
      (反論があれば この欄へどうぞ)



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       報復(5)

 律子と知り合ったのも、Mが律子の勤めていた出版社に水野を紹介した事がきっかけになっていた。
 その時、出版社では、破壊されてゆく自然をテーマに、十二回シリーズで日本国内を巡る月刊誌の企画を立てていた。律子はスタッフの一人として企画に参加した。
 水野は、スタッフの中でチーフがMと親しかった事もてあって、Mからの依頼による参加だった。
「M先生の弟子にしては、ちょっと平凡な写真家ですねえ」
 スタッフの一人が言った時、チーフは、
「キャリアを考えれば、こんなもんだろう」
 苦笑いと共に言った。
 取材には、律子が中心になって現場へ赴いた。
 何度も同じ場所に足を運ぶうちには、水野と二人だけという事もしばしばあった。
 宿を取る時には部屋を別にしても、自然に若い二人の感情は結ばれた。
 シリーズが終わった後も二人は会った。水野が社とは関係がなくなった分だけ、誰にも気兼ねなく会えた。
 律子はその頃、仕事に就いて五年目で、ようやく面白さも分かって来た時であった。あと二年と少しで三十歳の大台を迎えるところにいて、結婚への多少の焦りを覚えながらも、仕事もまた、捨て切れないでいた。仕事を続けながら、家庭を持つ事が出来れば、それが理想だと考えていた。水野との深まる関係の中でも、あるいは、という淡い期待を抱いたりもした。
 水野益臣は写真家としての仕事に鋭さがない分だけ、人間的には角がないように思えた。シリーズの仕事中は、社の専属の律子を立てるのは仕方がないにしても、その後も、水野には格別に変わった様子はなかった。三歳年下の律子をリードする気概もなくて、何事にも律子の気持ちを量った。律子にしてみれば、自分が大事にされているようで悪い気はしなかった。妊娠の事実を医師から告げられて、出来れば産んでみたいと思ったのも、そんな事が関係していないとは言えなかった。男としての頼りなさを見る前に律子は、水野の中に優しさを見ていたのだ。妊娠を告げる言葉に顔色を変える水野はまったく、予想していなかった。たとえ、律子の希望を拒否するにしても、いつもの水野らしく穏やかに接してくれるものと思っていた。
 だが、その夜、水野が見せた突然の変心とも思えるような態度は、決して、意外なものではなかったのだ。これまで、律子が水野の一面だけしか見て来なかった、その事実をはっきりと証明した、と言う事以外の何ものでもなかった。
 水野は律子と共に係わったシリーズものの中で、自分が責任を取らなければならないような仕事は、何一つしていなかった。記事や写真の選定は総て、律子や専属のスタッフに任せきりで、カメラマンとして、ファインダーを覗く作業は行ったにしても、水野自身はシャッターを押すロボットのような存在にしか過ぎなかった。律子が水野と共に関わった仕事の中で、水野自身が責任を負わなければならないような事柄は今度の妊娠が初めての事だったのだ。そして水野はその場で、計らずも今まで律子が見る事のなかった影の部分をあからさまに露出した、という事でしかなかったのだ。
 その夜、水野は、新しく注いだウイスキーがまだ半分以上も残っているにも関わらず、突然、
「あっ、いけねえ。人と会う約束があっのを忘れていた」
 と言うと、慌てて、自分が呑んだ分だけの酒代を払うと、パブを出て行った。
 律子は水野の余りの豹変ぶりに打ちひしがれたまま、引き留める気にもなれないでいた。
 律子からの水野の逃避が始まったのは、その夜からだった。
 何処を転々としているのか、電話を掛けても、アパートを訪ねてみても会えなかった。
 そんな状況の中で律子は、一度は、逃避を続ける男への苦い記憶を消し去る思いで、胎児を葬り去る事をも考えた。だが、内側から扉をたたいて来るかのように、次々に現れて来る体の変調と向き合っているうちに律子は、ためらいを覚えるようになっていた。一度は、憎しみと共に振り捨てる覚悟でいた水野への思いが、再び、その変調の度合いが増すごとに強くなっている自分を意識した。水野への未練とも言えた。それと共に律子は、もう一度水野に会って説得すれば、思い直して帰って来てくれるかもしれない、という淡い期待を抱くようにもなっていた。律子自身にも信じられない水野への執着だった。律子は思いあぐねて、学生時代からの友人、三村明代に事情を話し、胸の内を明かした。
 三村明代は、学生時代から文芸批評などを書いていて、現在では社会時評家としても著名だった。その著名度に比例して人脈も豊富だった。
「その人、M先生のお弟子さんなのね。じゃあ、M先生に聞いてみて上げるわよ。あなたとしては、その人ともう一度会って、話しがしてみたいって言う事なのね」
「あの人への気持ちだけなら、こんなに悩まなかったと思うの。仕事に没頭する事で忘れられたと思うの。だけど、自分の体の中から絶えず信号を送って来る存在を思うと、単純にそれが出来ないのよ。命の重みって言うのかしら、よく分からないけど、迷いが生じるの」
「でも、諦めるんなら早い方がいいわよ。あなたの決断次第でどうにでもなる事なんだから。産む産まないも含めて」
「ええ、それは分かってるわ。それが簡単に割り切れれば、こんなにも悩まないんだけど」
 三村明代は水野益臣の居場所を突き止めてくれた。
 Mが心当たりを当たって、友人の所に転がり込んでいる水野を探し出してくれたのだった。
 明代は律子に代わって水野に電話をしてくれた。
「とにかく、もう一度会って、話しだけでも聞いてやって欲しい」
 明代は言った。
 電話では埒が明かないと分かると、わざわざ下北沢まで足を運んで水野が転がり込んでいるアパートを訪れた。
 著名な評論家としての明代の顔が利いたのか、明代がMと親しかった事が功を奏したのか、水野は明代の説得を受け入れた。
「会う時に僕ら二人だけにしてくれるんなら、会いますよ」
 水野は注文を付けた。



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          takeziisan様

          「チャチャチャ」「浪路はるかに」
          懐かしいですね 浪路はるかに あの
          軽快なリズムはいつ聞いても心地よいものです
          それこそ 青春時代を懐かしく思い出します
          水泳 開始との事 体力の衰え仰る通りです   
          歳を重ねると一年一年 貴重なものになって来るのを
          実感します まさに実感中です
          有難う御座いました

          hasunohana1966様

          「体の老化に立ちむかう」
          とても面白く読ませて戴きました
          わたくしも八十二歳になりましたが
          日毎 体力の衰えを実感しながら   
          生きています 自分なりに毎日体を動かし
          衰えを防ぐようにしていますが 歳月による
          衰えはいかんともし難いです 幸い
          健康体ではありますが
          ブログ 少しずつ拝読させて戴いております
          これは英語ではどう表現するのか
          辞書を片手の読みでは一向に捗りません
          何時も 有難う御座います

          asu-naro-007様

          何時もお眼をお通し戴き
          有難う御座います
          丹野池公園 映像 いいですね
          なんだか昔に還ったような気持ちで
          ワクワクしながら拝見させて戴きました
          その他のお写真も拝見させて戴きましたが
          これからも こんな楽しいお写真 是非
          お寄せ下さいませ  御期待しております
          有難う御座いました