水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百十一回)

2011年05月03日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百十一
「ところで話は変わりますが、児島君は頑張ってますか? 長らく会ってませんが…」
「ああ、児島部長ですか? 彼は張りきってやってくれております。随分、助かります」
「ほう、児島君、部長になったんですか?」
「はい。つい数ヶ月前なんですがね…。部長の湯桶(ゆおけ)君が退職しましたので…」
 自ら万年リストラ候補を買って出て、多くの社員をリストラの荒波から救った湯桶さん。ようやく部長代理、そして部長と昇格した・・涙なしには語れない、その湯桶さんがついに退職されたのだ。私はなぜか感極まり、涙していた。こういう人生もあるんだ…と思えた。
 ニ日後、私は会社を訪ねた。玄関(エントランス)へ入ると、鍋下(なべした)専務へ数日中に行くと云っていたから、そのことは当然、伝わっていて、炊口(たきぐち)社長は今か今かと私を待っていた。
「いやあ、ご足労をおかけしました。ひとつ、よろしくお願い致します」
「それはよろしいんですが、わたしのような者でいいんでしょうか? 鍋下専務の方が適任かと…」
「何をおっしゃる。あなたの常務までの実績からして申し分ないと判断した上です」
「そうですか…。そこまで仰せなら、微力ながらお引受けしましょう」
「ええ、あなた以外にはおられません。それに今や、名誉町民でもあられる。さらには、世界にもミスター塩山の名は轟(とどろ)いておりますからなあ、ははは…」
「いや…恐れ入ります」
 こうして私は執行役員として米翔(こめしょう)の取締役社長を拝命することとなった。


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