水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第三百十四回)

2011年05月06日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三百十四
ママは水割りのダブルを、注文(オーダー)していなかったが、作ってくれた。そのグラスをグビッっと喉へと流し込み、チーズサラミを頬張ったとき、背広の携帯が激しくバイブした。私は徐(おもむろ)に内ポケットから携帯を取り出して開いた。かかってきた相手は、消えたあの沼澤氏だった。私は急いで携帯のボタンを押した。
「はい! 塩山です! …もしもし!」
 通話は切れていなかったが返事がなかった。しかも、向うに存在するはずの沼澤氏の息遣(づか)いが聞こえてこない。それどころか、人の気配もしなかった。だが着信は確実にしていた。どう考えても奇妙に思え、気味悪さもあったから、私は通話を切った。
「…だれから?」
 ママが怪訝(けげん)な顔で私を窺(うかが)った。
「いやあ、間違い電話でした…」
「そお…、嫌あねえ~」
 そうして、十分ほどは何もなかった。私は、ママや早希ちゃんと世間話をポツリポツリとしていた。その時、お告げが舞い降りた。
『今の電話は霊界におられる沼澤さんからてす。彼は今、あちらで霊術師をやっおられます。俄(にわ)かに頼まれましたので、やってきたようなことです』
「ならば、私と直接、お話しされてもいいんじゃないでしょうか」
『それは、いつぞやも申しましたが、霊界の決めで出来ないのですよ。沼澤さんは、そのことに気づかれたのでしょう』
「はあ、だから…」
『はい、そういうことです』
 両者の心話は、むろんママや早希ちゃんには聞こえていない。私は静かにグラスを傾けた。


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