会場では、つまらないことを議題として討論会が行われていた。そよ風とは、いったいどれぐらいの風速を指すのか・・である。会場内には5人の論客が登壇し、喧々諤々(けんけんがくがく)の論争が展開されていた。
「あんたねっ! それは少し強過ぎるんじゃないかっ! そんなもん、辛(つら)いだけさっ!」
机に上半身を預け椅子に座る論客AとBの敬語での発言は、すでに失(う)せ、二人はタメ口になっていた。
「そんなことはない! 私にすりゃ、それくらいの風速が丁度いい具合の、そよ風だ!」
Bに反論し、Aが返した。
「それは、あんただけだろっ! 他の皆さんにも聞いてくれ」
Bは他に登壇して座っているC、D、Eを見回し、三人に振った。偶然、Bと視線が合ったDが口を開いた。
「どちらの言い分も一理あるとは思いますが…私の場合は、もう少し強めが、いい具合の、そよ風ですね」
Dに対して横に座るCが反論した。
「私の場合は、もう少し弱めが、いい具合の、そよ風ですよ」
D、Cに対しEが反論して口を開いた。
「私の場合、そのときの気分で変化しますから、どなたにも組みしません! 皆さんは、いかがですか?」
Eは会場の入場者を見ながら振り、人々に問いかけた。
「どぉ~でもいいんじゃないでしょうか…」
人々の様子を窺(うかが)いながら割って入った司会者が、もうやめましょうよ・・とでも言いたげに、ボソリと口を開いた。
「そうですね…」
論客全員がつまらなそうな声で呟(つぶや)いて席を立った。会場の人々もザワザワと立ち、席をあとにした。会場の外は、入場者の誰もがそう感じるような心地よい、そよ風が吹いていた。
THE END