水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第32話] 欠陥商品

2015年12月29日 00時00分00秒 | #小説

 日曜の朝、坂山努は楽しみにしていた電気街への買い出しに出かけた。つまらない物や不必要な小物も含み、いろいろ珍しい商品を買って帰るのがなによりの坂山だった。
 この日は快晴で暑くなく、湿度も低いという具合で、ブラつくには最適の気候だった。坂山は、いつものようにウロウロと見て歩き、ふと一軒の店に入った。少し奥に珍しい電気製品が置かれていたからである。
「あの…これ?」
 坂山は店主と思われる男に声をかけた。
「はい…ああ、コレですかな。コレは売りものじゃないんでございますよ、はい! 欠陥商品なんでございますがね、実は。なんかデザインが気に入りましてな、ははは…私の身勝手で置いているだけなんでございますよ」
 店主は坂山に物腰低く説明した。だが、坂山はなぜか、その小物商品が気に入ってしまった。
「お支払いしますから、私が買わせていただく訳には?」
「えっ! コレを、でございますか? コレは…」
 店主はニヤけて困り顔をした。
「ぜひ、お願いします!」
「…と、言われましてもねぇ~。値段のつけようがねぇ~…欠陥商品ですからねぇ~」
 店主は[ねぇ~攻勢]で坂山の意思を削(そ)ごうとした。買い取りを阻(はば)む、いわばサッカーでやるところのプレス風である。だが、坂山もこの街の一見(いちげん)客ではない。いわば時代劇で演じられるところのウロつき流・免許皆伝の遣(つか)い手だから、そう簡単には引き下がらなかった。
「いや、いやいやいや…だからご主人のいい値で結構ですから」
 大相撲で言うところの下手投げ風である。
「さよ、ですか? …しかし、こんなもの、何にお使いになるんです?」
「いや、まあ…。いろいろと」
 坂山は適当に濁(にご)した。いわば国会で見られるところの政府答弁風である。
「いいでょ! 私も、この道30年の電気屋だっ! ただで結構ざんす! 持ってって下さい!」
 主人は、いわば卸市場で値づけられるところの落札風に、きっぷよく言った。坂山はその欠陥商品の入った小袋を肩にかけ、店を出た。いわば大黒様の♪大きな袋を肩にかけ~♪と歌われるところの唱歌風だった。

                  THE END


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