天界では一大不祥事が起こっていた。例年、進行する天気の巡行表が、何者かの不埒(ふらち)な行いにより持ち去られたのである。いわゆる、地上で世間一般に言うところの窃盗である。天界だけに悪事と言えば血生臭い事件は皆無だったが、時折り、このような天界で言うところの最大級の重大事件が勃発(ぼっぱつ)しては天界人達を悩ませたのである。今回、起こった天気の巡航表窃盗事件により、天界は大混乱していた。月日で巡る天気の具合が定まらないのである。これでは、暑さ寒さの頃合いが地上へ気象として現わせない。
『弱りましたな…』
『そうですな。頃合いが分かりませんからな…』
天界人達は、特命の遣(つか)いを極秘裏に決定し、窃盗犯を捉え、一刻も早く巡航表を取り戻すべく、ただちに任務につかせた。地上で言うところの特命 刑事(デカ)である。この刑事は地上のテレビドラマ以上に格好よかった。というのも、姿を自由自在に消したり現したり出来る上に、死の心配がなかったから、武器は不必要だった。事件解決までには約ひと月を要した。そのため、4月というのに地上では真夏日や猛暑日が続出し、人々は喘(あえ)いだ。とはいえ、事件がひと月で解決したのは、この刑事の俊敏な腕による。地上で言うところのミッション・インポッシブル
である。ともかく、天界での事件は解決を見て、天界は頃合いの天候を地上に示せるに至った。めでたし、めでたしである。
余談ながら、この俊敏な特命の遣いは、天界でのポストが二階級アップしたという。
THE END