水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-18- 続ける人

2017年08月06日 00時00分00秒 | #小説

 世の中には世間が多数でどう進もうと、一途(いちず)に自分の信念を曲げず進み続ける隠れた人の存在がある。多数の人はそんな場合、少数の人を変人と区別することで多数を正当化する。少数の人が正しくとも、世間は誤った多数意見をもって正しい・・とするのだ。すると当然、誤った多数意見が正しい意見となる。正義が勝つのではなく、勝った方が正義・・という論理によく似ている。不正義でも、勝てばそれが正義なのだ。
「やはり、そうなりましたか…」
「ええ、そうなりました。恐らく無理だろうと、私も思っておったのですが、こればかりは結果を見ないと分かりませんからねぇ」
「ええ、そらそうです! で、今後も続けられるんですか?」
「はい、槍(やり)が降ろうとバケツが降ろうと続けますよっ、私ゃ!」
「そらそうです。そうでなくっちゃ! まあ、槍やバケツは降らんと思いますが…。ともかく、世間が間違っとるんですからっ! 私も隠れた一人として応援しておりますから是非、頑張って下さいっ!!」
「ぅぅぅ…嬉(うれ)しいことを言って下さる」
「いやいや…。しかし、よくもまあ今まで…。頑(かたく)なに続けてこられ、今年で50年経ちましたか…」
「はあ、50年です。世の中、見事に悪くなりました…」
「はい! 続けて下さいっ!」
「はい!」
 続ける人は、なおも隠れて続けるのである。

                              


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