テレピが、ガナっている。フッ! と目覚めた宇奈月は薄目を開け、テレビ画面をボンヤリと見た。いつの間にか眠ってしまったようだった。隠れた疲れが溜まっていたせいだろう…と宇奈月は軽く考えた。ところが、である。ウトウト…とする前と今とでは、テレビ画面が違っていた。夏の怪談じゃあるまいし、んっな馬鹿な…と宇奈月はもう一度、テレビ画面を食い入るように見つめた。柔道で優勝したはずの男子選手が銅メダルを首から下げ、表彰台の最下壇で観客に笑いながら手を振っているのである。確か、ウトウトする前は決勝に勝ち、優勝を決めたところだったが…と宇奈月は眠ってしまう前の状況を辿(たど)った。だが、どう考えても、その選手は一位の金メダルのはずなのである。宇奈月は、相当疲れてるな…と思わざるを得なかった。画面が違う・・そんな非科学的なことが起ころうはずもなく、宇奈月は、しばらく無理をしていたから、ゆっくり休むか…と疲れのせいにした。
「おいっ! 夕飯にしてくれっ!」
キッチンへ回った宇奈月は、洗い場に立つ後ろ姿の妻へ偉(えら)そうに声をかけた。
「あらっ! どちらさま?」
振り返った妻は、宇奈月が見たこともない女性だった。画面が違うのである。
「…」
宇奈月は返答に躊躇(ちゅうちょ)した。そのとき、宇奈月の目の前の映像が揺れ、意識が遠退とおの)いた。気づくと、やはりテレビがガナっていた。表彰台に立つ男子選手は、やはりメダルを首から下げ、笑っていた。しかし、選手が立つ表彰台の位置は最上壇で、首から下げたメダルは金メダルだった。
「それでいいんだよ…」
宇奈月は思わず呟(つぶや)いていた。画面が違う・・などということは、ないのである。
完