水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-29- ドキドキ感

2017年08月17日 00時00分00秒 | #小説

 文明が進んだ今、試合結果や最新ニュースなど、多くの情報は簡単に伝わって耳に入るから、結果を早々と知り、そうだったか…と安心したり、残念…と肩を落としたりすることになる。そうなると、これから録画しておいた番組を観よう! というドキドキ感も失(う)せることになる。興味が削(そ)がれ、どぅ~~でもよくなる訳だ。あとから観よう…とか、一応、観てみておくか…程度にドキドキ感は下がり、楽しみも半減する。
  録画したVTRを楽しそうに観ようとした川徳家の父親、康家に息子の忠秀が声をかけた。
 「その試合、どうなったと思います?」
 「言わんでくれっ、頼むっ!」
 「…そうですか? 早く結果を知りたいと思ったんですがね」
 「お前はっ! 気持を察しろ、気持をっ! ゆっくりと味わう未知のドキドキ感がいいんだっ!」
 「でも、結果は早く知った方がいいでしょ?」
 「話にならんっ! 情報化で、つまらん世の中になったもんだ…」
  そこへ母の大(だい)が現れ、速達の封筒を康家に手渡した。
 「父さん、昨日、届いていましたよっ」
 「あっ、コレコレ!! ありがとっ!!」
  康家は慌(あわただ)しく封を切り、中を見た。
 「父さん、ゆっくり味わうんじゃ?」
  忠秀が口を挟(はさ)んだ。
 「こ、これは別だっ!」
  昇格の内示に、笑顔の康家が返した。ドキドキ感も安心を得たい場合は早い方がいいようである。

                             


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