水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-96- 見えない戦い

2018年05月11日 00時00分00秒 | #小説

 楽しみにしていたカラ揚げ弁当の具材が二品(にひん)も減ったことで、豆川はすっかりテンションを下げていた。というのも、今までなら、厚焼き卵のひと欠片(かけら)と少量の牛蒡(ゴボウ)のキンピラが入っていたからだ。
『最近、すべての品が目減りしているように思える…』
 豆川は、見えない戦いが物流社会の中で起きている…と、なんとなく思った。事実、内容の目減りは各分野の商品で起きていた。トイレット・ペーパーの巻きの減り、ウインナ・ソーセージの小型化、袋入りのチョコレート数の減り・・等々である。とはいえ、それは泣けるほどのことではなく、減ったのか…くらいの感覚で軽く流せば、どうってこともなかったのだ。ところがドッコイ! 豆川は甘いもの好(ず)きながら、そんな甘い男ではなかったから、カツン! と頭にきた。人々が泣ける世の中は、断じて俺が許さんっ! と偉(えら)そうに正義感を露(あらわ)にした。
「あの…これ、数が減りましたよね」
「ああ、そうみたいですねぇ~。でも、ひと袋の値も¥10ばかり安くなりましたよ」
「…」
 店員に嫌味(いやみ)を言ったつもりが、逆に切り返され、豆川は、つまらんことを言ってしまった…と自悔(じかい)して押し黙った。
「ああそれから、袋入りのお餅が1ヶ、増量になりましたよっ!」
「フフッ! そうですかっ!」
 単純な豆川のテンションは、見事に回復した。
 世の中では見えない戦いが続き、私達はその戦いに左右され続けているのである。泣ける、笑える、怒れる・・の差は、ほんの紙一重(かみひとえ)なのだ。

                               完


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