水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-2- 晴れ

2018年05月17日 00時00分00秒 | #小説

 空は曇(どん)よりと曇(くも)っていた。天気予報で昨日(きのう)、晴れると言っていたが…と、蜆川(しじみかわ)は早朝、部屋のカーテンを開けながら思うでなく欠伸(あくび)をした。まあ、曇よりといえば字のとおりで、雲の上はお日さまがグデェ~ンとされておられるかまでは定かでないが、輝いておられるのは疑う余地がない事実だった。それは、飛行機に搭乗(とうじょう)し、煌(きらめ)く太陽と広がる雲海(うんかい)を見れば分かることなのである。
「まあ、いいか…」
 何がいいのか、口にした蜆川も分からなかったが、そこはそれ、いつものワン・パターンで動き始めた。今日はこれといって予定がなかった蜆川は、洗面(せんめん)を済ませて庭へ出たが、雑草が伸び始めていることに、ふと気づいた。雑草には申し訳ないが、放っておけば草だらけの庭になる…と、これも思うでなく閃(ひらめ)いた蜆川は、愛用の移植ゴテを片手に除草を開始した。雑草は根ごと抜き取り、ポリ袋に入れて腐葉土がわりにリサイクルする。根ごと抜き取らないと、すぐ勢いを盛り返し、繁茂(はんも)することは明々白々(めいめいはくはく)で、考えるでなく自然と手先を動かし始めたのである。春先ということもあり、そう大した草量でもなく、除草作業は20分ほどで片づいた。家の中へ戻(もど)り、履(は)いていたサンダルを脱ごうとしたときである。蜆川はサンダルの裏が汚れていることに気づいた。こりゃ、洗っとかないとな…と、蜆川は思うでなく巡り、外の洗い場で洗い始めた。そして、ようやく洗い終えたときである。おやっ? と、蜆川は、また気づいた。サンダルの底に穴らしきものが開いているではないか。よく見れば、それは釘(くぎ)を踏み抜いたような感じの穴だった。これは…と蜆川は、またまたまた、思うでなく感じた。幸い、修理用の小物はDIY[do it yourself の略で、日曜大工を意味する用語]専門店で買っておいたから、それを塗(ぬ)って穴を塞(ふさ)ぎ、修理を終えた。そのときである。
「数日は安静にして下さい、お大事に…」
 蜆川は言うでなくサンダルに呟(つぶや)いていた。次の瞬間、蜆川は自分がアホに思えた。と同時に、雲間より微(かす)かな陽が射(さ)し始めた。

                               完


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