春の重賞レースの出走(しゅっそう)が間近(まぢか)に迫(せま)った競馬場である。当然ながら、多くの競馬ファンがワクワク感でレースの進行を見守っている。ジィ~~っと座席に座り、競馬新聞を片手にあ~でもない、こ~でもないと鉛筆を舐(な)めてデータ分析に明け暮れる頭脳派もいれば、ドタドタと場内を動きながらパドック[出走場の下見所]などを眺(なが)め、馬さんの調子を直(じか)に見ながら判断する行動派、そのどちらでもない中間派・・と、ファンは様々に犇(ひし)めき合っている訳だ。ただ、誰もがワクワク感で満たされ、今日のレースを待っていることは疑う余地がない。
「どうですっ!?」
「なにがですっ!?」
「もちろん、次のっ、ですよっ!」
「ははは…次はアレですよ、アレ。ははは…」
「そうですかねぇ~、私はナニだと思っとるんですが…」
「ナニですか…。ナニはコレコレでいけませんよっ!」
「そうですかねぇ~。アレもソコソコいけないと聞いとりますが…」
さて、レースの出走がファンフーレとともに始まった。そしてその結果は、アレでもナニでもなかった。ソレだったのである。二人は、ガックリしたように気落ちしたが、ワクワク感が、その思いを拭(ぬぐ)い、帳消しにした。
ワクワク感とはそんな感じで、実にいい気分なのである。
完