水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-1- 気になる

2018年05月16日 00時00分00秒 | #小説

 妙なもので、いつもはそれほど気しないことが、ふとした拍子(ひょうし)で気になることがある。そうなると、そのことがどうした訳か頭から離れなくなり、気になる状態が加速度的に大きくなる。さらにこの状態が高じると、矢も盾(たて)も堪(たま)らなくなり、他のことが集中できなくなるといった病的な心理状態へと進んでしまう。
 普通のどこにでもいそうな男、残毛(ざんげ)は、さて、どうしたものか…と、一向に改善しないあるコトで悩んでいた。そのあるコトとは、若さを甦らせる整髪剤と称して販売されているケハールを続けるべきか、いなか…であった。ケハールは、すごく効(き)きそうな謳(うた)い文句で宣伝されていた商品だった。
『はい! そのとおりっ! ご覧のように、この方、すごく若々しくなられましたっ!』
 テレビCMが今夜もケハールの宣伝を流している。そのとき、ふと、残毛は気づいた。これは化粧品か…と。そうなのだ。医薬品でない証拠(しょうこ)に、CMではひと言(こと)も増毛した事実は表現されていなかった。飽くまで、『若々しくなられましたっ!』なのである。そういや、ケハエールでじゃなくケハールか…とも残毛は思った。頭髪(とうはつ)の脱毛が気になる年齢になってからというもの、残毛は冷静さを欠き、いつの間にか育毛剤に拘るようになっていたのである。
 残毛は丸坊主にしてくれ・・と理髪店に頼んだ。それからというもの、残毛は嘘(うそ)のように頭髪の脱毛が気にならなくなった。
 気になると冷静さを欠き、暮らしに影響するようだ。

                               完


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