水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-47- 遠からず

2018年07月01日 00時00分00秒 | #小説

 日々、暮らしていると、先々(さきざき)、起こってくるだろう…と何となく思うことがある。不確定要素ながら、そうなるだろう・・とかそうなるらしい・・、あるいはそうなるようだ、みたいだ・・と予測できる場合だ。むろん、これは、確定された予定とは異なる。この不確定な場合、人々は、遠からず…と偉そうに予測する。これが霊能者の場合だと予言となる。孰(いず)れにしろ、遠からずは飽くまでも不確定で勝手な未来観測でしかない。
 とある大学の中の会話である。教授とその助手の古家(ふるいえ)が語り合っている。
「地球は絶滅するでしょう、遠からず…」
「ええっ!! 先生、んっな馬鹿なっ!!」
「いや、これは飽(あ)くまでも私の推論に他なりません…。ただ、この推論は実証する必要があるっ! 古家さん、手伝ってくれますか?」
「そらもう! 先生のためなら、たとえ湯の中、水の中っ! …熱湯や氷水(こおりみず)は嫌(いや)ですがっ! ははは…」
「フフッ、面白いことをおっしゃる…」
「遠からず、ということは、必ずに近い確率で、ということになりますよね?」
「ええ、まあ…。おそらくです。そう、ならないことを祈るのみですが…。このまま人類が文明を進めたとすれば、という仮定に立った話です。人類は文明の進歩に追いつけなくなっている! まあ、この推論の生じる確率は不確定ですが…」
「おそらく、たぶん・・といった程度、may be[メイ ビー],perhaps[パハプス],probably[プロバブリー]ですね?」
「そうです…。むろん、希望的観測のzero[ゼロ]も当然、含みますが…」
「そのzero[ゼロ]の確率はっ!?」
「だから、その実証を手伝って欲しいと言ってるんじゃありませんかっ!」
「分かりましたっ! 不肖(ふしょう)、この古家、壊(こわ)れて平地(ひらち)の駐車場になろうともっ!」
「そこまでは結構(けっこう)ですがね。壊れちゃ、元も子もないっ、ははは…」
「冗談ですよっ、冗談! ははは…」
 談笑する二人が実証しようとしている研究が、遠からず実証できなくなる怖(こわ)い事態を、おそらく二人は知らない。

                                


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