本日10月18日は、イギリス軍が清による捕虜殺害の報復として円明園を焼き払った日で、アラスカがロシア帝国からアメリカ合衆国へ720万ドルで売却された日で、板垣退助らが日本初の政党・自由党を結成した日で、大隈重信が玄洋社の来島恒喜に手投げ弾を投げつけられ片足を失う重傷を負った日で、リヒャルト・ゾルゲがソ連のスパイ容疑で逮捕された日で、東ドイツの国家評議会議長・エーリッヒ・ホーネッカーが失脚した日です。
本日の倉敷は曇りのち雨でありましたよ。
最高気温は二十度。最低気温は十三度でありました。
明日は予報では倉敷は曇りとなっております。
昨夜の事。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
狐が薄々と眼を覚ました時、熊蜂の唸るような音はまだその弾力の深い余韻を狐の耳の穴の中にはつきりと引き残していた。
其れをぢいつと聞いている内に……今は真夜中だな……と直覚した。
そうして何処か近くでぼんぼん時計が鳴っているんだな……とぼんやりと思い又もやうとうとしている内に、其の熊蜂の唸りの様な余韻は何時となく次々に消え薄れて行つてそこいら中がひつそりと静まり返つてしまつた。
狐は括と眼を開いた。
かなり高い白塗の天井裏から薄白い塵埃に蔽れた裸の電球がたつた一つぶら下がつている。
其の赤黄色く光る硝子球の横腹に大きな蝶が一匹泊まっていて凝然としている。
其の真下の固い冷めたい人造石の床の上に狐は丸くなって寝ているようである。
……おかしいな…………。
狐は丸くなつた儘に凝然と動かず、瞼を一ぱいに見開いた。
そうして眼の球だけをぐるりぐるりと上下左右に廻転さしてみた。
青黒い混凝土の壁で囲まれた二間四方ばかりの部屋である。
……おかしいぞ…………。
狐は少し頭を持ち上げて自分の身体を見廻わしてみた。
白い新しい見知らぬ絹の着物を着ている。下着はない。のーぱんである。
体中に奇妙な痕がある。蛇が絡みついたかのような痕。
……いよいよおかしい……。
胸の動悸がみるみる高まつた。
早鐘を撞くように乱れ撃ち初めた。
呼吸が其れに連れて荒くなつた。
やがて死ぬかと思うほど喘ぎ出した。
かと思うと又、ひつそりと静まつて来た。
……此処は何処……。
……森閑とした暗黒が部屋の外を取巻いて何処までも何処までも続き広がつていることがはつきりと感じられる……。
……夢ではない……たしかに夢では…………。
狐は飛び上つた。
否……これは夢だ……夢の中だ……。
窓の前に駈け寄って磨硝子の向うを覗いた。
暗闇の中で銀色の羽根を大きく広げた獣が歯を剥き出しにして唸りながら金色の瞳で狐を睨んでいる……。
あそこに私の本性がゐる……野生の私が唸つている……閉じ込めた私を睨んでいる……。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
狐が薄々と眼を覚ました時、熊蜂の唸るような音はまだその弾力の深い余韻を狐の耳の穴の中にはつきりと引き残していた。
其れをぢいつと聞いている内に……今は真夜中だな……と直覚した。
そうして何処か近くでぼんぼん時計が鳴っているんだな……とぼんやりと思い、寝惚けているのだなとぼんやりと思い、変な夢を見たとぼんやり思い、又もやうとうとしている内に、其の熊蜂の唸りの様な余韻は何時となく次々に消え薄れて行つてそこいら中がひつそりと静まり返つてしまつた。
狐は再び眠りの中にふらふらと堕ちていつたのでありました。