本日10月28日は、ラ・ロシェル包囲戦が終結した日で、ニューヨークの自由の女神像の除幕式が行われた日で、アメリカ議会で国家禁酒法が成立した日で、戦中に解体された通天閣が再建された日で、1994FIFAワールドカップアジア最終予選でサッカー日本代表がロスタイムでイラクに得点されて引き分けてW杯出場を逃した日です。
本日は倉敷は雨が降ったりやんだりしていましたよ。
最高気温は十八度。最低気温は十五度でありました。
明日も予報では倉敷は雨となっております。お出かけの際はお気を付けくださいませ。
小山の公園の大葉子の実は結び赤詰草の花は枯れて焦茶色になつていて粟は刈りとられ一寸顔を出した野鼠は吃驚したように又急いで穴の中へ引つ込む。
眩い銀の薄の穂が一面風に波立つている。
其の公園の真ん中の小さな四角い林に野葡萄の藪があつて其の実がすつかり熟している。
狐は溜息を吐きながら藪の傍の草に座る。
幽かな幽かな日照り雨が降つて草は綺羅綺羅光り向うの山は暗くなる。
其の有り無しの日照りの雨が霽れたので草は新に綺羅綺羅光り向うの山は明るくなって狐は眩しく面を伏せる。
そちらの方から百舌鳥がまるで音譜をばらばらにして振り撒いた様に飛んで来てみんな一度に銀の薄の穂に泊まる。
野葡萄の藪からは綺麗な雫がぽたぽた落ちる。
幽かな気配が藪の影から上つてくる。
友人がライラック色の裳裾を曳いてやつて来たのである。
今、其の後ろ、東の灰色の山の上を冷たい風がふつと通つて大きな虹が明るい夢の橋のやうに優しく空に現れる。
狐は化石のように座つてしまう。
友人は此処に狐が居たことを意外に思いながら僅かに眼に会釈して暫らく虹の空を見る。
そうだ。今日こそ只の一言でも天の才有り麗しく冷徹な此の人ときちんともう一度言葉を交わしたい。
丘の小さな葡萄の木が夜空に燃える焔よりもつと明るくもつと哀しい想いをば遥か或の美しい虹に捧ると、只是だけを伝えたい。
もう世界から居なくなつた此の人に。
もう私のゐる世界では会えなくなつた此の人に。
「どうか私の尊敬をお受けくださいませ!」
狐はしわがれた声を吹き荒ぶ風に半分とられながら叫ぶ。
友人はうつとり西の碧い空を眺めてゐた大きな碧い瞳を狐へ向けた。
氷のやうな美しい瞳。
狐はまるで山毛欅の木の葉のように震えて息が忙しくて思うように物が云えない。
「どうか私の心からの敬いを受けとつて下さい!」
友人は幽かに吐息したので其の胸の黄や菫の宝石は一つずつ声をあげるように輝いた。
「敬いを受けることはあなたも同じです。何故そんなに辛そうな顔をなさるのですか?」と友人は冷たく云つた。
「貴女に会えないのが辛いのです」
「如何してそんなことを仰るのです? あなたは生きているではありませんか。此処に来るべきではないのです」
「私が生きるより貴女が生きるほうが余程素晴らしいことです!」
「あなたは生きているのです。そして私は死んだ。もう会うべきではありません。帰りなさい」
「もし、もしも、代わることができるなら」
友人は思わず微笑いました。
「御覧なさい。向うの蒼い空の中を一羽の鵠が飛んで行きます。鳥は後ろに皆其の後をもつのです。皆は其れを見ないでしょうが私は其れを見るのです。同じやうに皆其々の一つの世界を作つています。其れは生きている者が作るのです」
「けれども貴女は高く光の空に架かる才がありました。全て草や花や鳥は皆、貴女を褒めて歌います。私は誰にも知られず巨きな森の中で朽てしまうのです」
「私を輝かしたものはあなたをも煌めかします。私に与えられた全ての言葉は其の儘あなたに贈られます」
「私を連れて行つて下さい! 私はどんなことでも致します!」
「否。私はあなたを連れて行きません。でも何時でもあなたが考える其処に居ります。全て真の光の中に一緒に住んで何時でも一緒にゐるのです。けれども私はもう帰らなければなりません。お日様が遠くなりました。百舌鳥が飛び立ちます。では。ごきげんよう」
停車場の方で鋭い笛が鳴り、百舌鳥は皆飛び立ってばらばらの楽譜のように喧しく鳴きながら東の方へ飛んで行く。
「私を連れて行つて下さい! 如何か私を連れて行つて下さい!」
美しく気高い友人は幽かに笑つたやうに見えた。
また当惑して頭を振つたようにも見えた。
そして周囲は暗くなり空だけ銀の光を増せば、あんまり百舌鳥が喧しいので姉妹の雲雀も仕方なくもいちど空へ登つて行って少うしばかり調子外れの歌を唄つた。