舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

敷村良子「がんばっていきまっしょい」読みました。

2024-11-30 14:19:12 | Weblog
今年、1998年の映画「がんばっていきまっしょい」を20年ぶりに観ました。
僕は高校時代にまったく結果を出せないボート部員だったのですが、映画の中で同じように結果を出せないボート部員たちが必死に成長して仲間たちと大切な経験をしていく姿に気持ちが救われ、本当に大切な映画になりました。

さらに今年、「がんばっていきまっしょい」がアニメ映画化。
ただの美少女アニメだったら…と思いきや、ボートを漕ぐ登場人物たちの、特に下手な時の動きがあまりにリアルすぎて、ボート経験者の自分は想像以上に感情移入してしまって、さらに現代的にアレンジされてはいるものの物語の本質はしっかり伝わってきて、これも大切な映画になりました。







よし、もう原作を読むしかない!というわけで、敷村良子さんの「がんばっていきまっしょい」を購入。
ちなみに敷村良子さんは現在新潟在住(夫が国際情報大学の越智敏夫さんなのも有名)で、しかも映画化中というのに、ジュンク堂にしかなかったぞ!どうなってるんだ新潟!

それはともかく、さっそく小説を読んでみたわけですが…
結論から言うと、こんなに感動した青春小説は初めてで、ボロボロと泣いてしまった!

まず、冒頭に書かれた「すべてのボート経験者へ」でもう泣いてしまった!
この物語は僕に向けても書かれている!

とにかく主人公の悦子が素晴らしい、というか共感の連続。
映画では田中麗奈さんが可愛いから見落としがちだが、基本的に悦子は、すぐに調子に乗る、すぐに投げ出す、とにかくカッコ悪い。

なんとなく面白そうで始めたボート、想像以上のきつさ、難しさ、諦めたくなる気持ち、頑張っても勝てない自分への情けなさ…全部自分も経験のあることでした。
ボートだけでなく、実力以上の進学校に入学してしまった時の不安と、置いて行かれる焦りも、まったく自分と同じ。

それでも、試合に負けた悔しさから初めて「頑張りたい」という気持ちが芽生える、今まで以上に努力する自分に出会う、勝負の試合で「今だけはとにかく全力を出し切ろう!」と本気を出す、そしてかけがえのない仲間と出会う…
努力・友情・敗北のカッコ悪い青春、でも必死に生きれば人は成長する、失敗も後悔も無駄じゃない。

悦子よりもっとカッコ悪いボート部員だった自分にも、見落としていただけで本当はこんな青春があったのかもな…
情けなくて蓋をしていた記憶の中で、自分の思い出はしっかり生きていた、そんな自分に初めてちゃんと向き合えた、本当に大切な作品になりました。

ところで、「がんばっていきまっしょい」は1年生の春から2年生の冬までの物語で、映画は基本的にそれを踏襲しているのですが、小説では続編の「イージーオール」で、3年生までが描かれています。
「がんばっていきまっしょい」のクライマックス、2年生の秋の試合で奇跡的にドベ(ビリ)にならなかった悦子たちは、3年生の春に初めて県外の大会に出場が決まります。

「イージーオール」は、「がんばっていきまっしょい」以上にシビアな物語です。
悦子は練習中に体を壊し、なんと高校最後の大切な試合に出場できない。

これがよくあるキラキラ系青春ドラマなら奇跡的に出場できたりすると思うのですが、本当に出場できずに、代わりに後輩が出場する。
ただ、治療中にカメラと出会い夢中で仲間たちの試合を撮影し、そして試合後に最後の練習で漕いだボートに果たせなかった自分の青春のすべてをぶつける。

苦い青春ドラマが、まるで自分のたくさんの後悔に寄り添ってくれるように胸に刺さりました。
そんな感じで最後までカッコ悪い青春ですが、悦子が女子ボート部を始めたからこそ出会えた仲間たちから最後は感謝もされる…救われる気持ちでした。

さらに、部活以外に修学旅行や学校生活も描かれ、初めての切ない片想いと失恋も体験する。
ボート部以外の男子達も生き生きと描かれるのですが、特に物語の鍵となる人物の性的マイノリティ故の苦悩という人物描写は、1990年代の作品とは思えないほど深みがあり驚かされました。

そして、部活を引退するも、受験が受け入れられない悦子は、部活の負傷中に出会ったカメラに自分の夢を初めて見る。
昔気質の父は反対し、衝突し、卒業した悦子は逃げるように旅立っていくが、最後の最後に父が悦子を見送るラスト…号泣でした。

僕は高校生の時は悦子のように自分の意志なんてなくて、流されるように部活を引退して大学に進学しましたが、大学で就活に挫折して将来なんて何も決まっていないのに卒業後に演劇を始めた人間なので、寧ろその時の心境が悦子に重なるようでした。
不器用でも未来に向かって生きていく、自分もそうありたいです。

ところで、「がんばっていきまっしょい」は2005年にドラマ化するにあたり、その直前に文庫化が決定したらしい。
あとがきによると、敷村良子さんはその時すでに新潟にいて、しかも「2005年3月、春浅き信濃川のほとりにて」と書いてあるではないか!

2005年3月は、僕がちょうど高校を卒業した時。
2004年の春までは信濃川でボートを漕いでいましたが…もしかしたらどこかですれ違っているかもしれません。
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