舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

20年という歳月の中で町と共に変わっていくヤクザを描く「ヤクザと家族 The Family」観てきました。

2021-02-26 15:43:33 | Weblog


2/23(火)、イオンシネマ新潟西でワンダーフリーパスポートで5本連続の3本目、「ヤクザと家族 The Family」を観てきました。





予告編はこちら。



1999年、父を覚醒剤で亡くした行き場のない不良の山本はヤクザの柴崎組に救われる。
2005年、ヤクザの抗争が発生し、ヤクザの世界で生きていた山本は組を守るためにある罪を犯し刑務所に入る。

そして2019年、出所した山本が見たのは、時代の変化で力を失ったヤクザ達だった…
そんな感じで、時代の変化とともに変わっていくヤクザの在り方を、不良からヤクザになってしまった主人公の視点から描いた人間ドラマです。

ヤクザ映画って、ヤクザをカッコいいアウトローとして描くか、怖い悪役として描くことが多いと思うんだけど、ヤクザという生き方以外に行き場のない存在として描いたところが良かったと思いました。
藤井道人監督は「青の帰り道」「新聞記者」など時代の変化とともに人間を描くのが得意だと思うので、今回もヤクザ映画ではありながら群像劇的な面白さもあり、監督の素質が生かされた映画だったなあという感想です。

冒頭、覚醒剤で父親を失い自暴自棄になった不良の山本は、売人から覚醒剤を奪って海に捨てます。
直後、偶然出くわした柴咲組のトラブルを喧嘩の強さで収め、組にスカウトされるが生意気な態度で断ります。

しかし覚醒剤を奪われた侠葉会に見つかり殺されかけたところを柴咲組に助けられ、泣きながら組に入ることを決める…
ここまでが1999年なんですけど、この一連の流れは本当に面白かったです。

藤井監督ってアクション映画、バイオレンス映画の方ではないと思うんだけど、短い中にちゃんと暴力の恐怖を描けていたと思いました。
何より、最初はヤクザだろうが見下して強がっていた山本が、自分より強い暴力という現実を前にボロボロになり、泣きながら助けを求めるという、綾野剛さんが演じた主人公が、暴力の中での変化していくという人間描写は見事でした。

あとアクションで良かったところは、その後の2005年パートで抗争が起こるんだけど、山本の舎弟が運転する車の後部座席に組長と山本が乗っていると、並走するバイクから銃撃され、車がクラッシュし、車を降りて振り返ると舎弟が死んでいる…という一連の下り。
この流れをワンカットで見せる場面は本当に凄かったし、山本が舎弟が死んでいることに徐々に気付いて表情が変化していくところとか、カメラワークも、綾野剛さんの演技も本当に素晴らしかったと思います。

また、2019年になると警察の規制が強化されヤクザはどんどん力を失っていき、ヤクザが経営している店もどんどん潰れていく中、山本が幼少期から可愛がっていた少年が成長し半グレ青年となり、ヤクザみたいな仕事で生活しているという下りも、「ああ、こういうこと本当にあるんだろうなあ…という感じがあって良かったです。
年月が人を変えること、もっと言えば暴力によって成り立っていた町が一人の人間を暴力の世界に染めてしまったこと、また時代が変わっても結局暴力が日常に入り込んでしまうことを描いていて、人間と町と暴力の繋がりを時間をかけて描いた深い場面だったと思います。

それから、終盤で山本がヤクザから足を洗い家族を持とうとするも、SNSの誹謗中傷など現代的な理由で居場所を失っていく下りも、ヤクザの人権という難しい問題に踏み込んでいて良かったと思います。
そんな感じで、藤井監督の得意とする時代描写、人間描写を生かしたヤクザ映画という感じで、基本的には面白かったし決して悪い映画ではなかったと思います。

しかし個人的に、行き場のない存在としてのヤクザを時代の変遷とともに描くという、ほとんど同じテーマで描かれた井筒和幸監督の「無頼」を最近観ていたのですが、その映画ではヤクザという世界の残酷さ、陰惨さを生々しく描いていて迫真に迫るものがあったので、それと比べて物足りなさを感じてしまったのが正直なところでした。
また、映画の舞台が静岡県なのは小林勇貴監督「孤高の遠吠」を思い出し、やっぱり不良やヤクザなどの暴力が日常と地続きの世界なんだなと思ったのですが、本物の不良を起用した「孤高の遠吠」に比べるとやっぱり物足りなかったなあと思いました。

主演の綾野剛さんは良かったと思うんだけど、一番気になったのがヤクザの組長を演じた舘ひろしさんでした。
主人公を助け、彼の父親的な存在となっていく人物なので優しさを感じる人物として描いたのは分かるのですが、舘ひろしさんだと優しさや人の好さが前面に出すぎて、ヤクザの組長をするには怖さが足りなかったと思うんですよ。

そもそも、主人公が加わる柴咲組は、飲み屋を経営している描写以外に、何をシノギとしているのか、ほとんど描かれていなかったのも、ちょっと物足りなさを感じるところでした。
柴咲組と敵対する侠葉会は暴力的で覚醒剤の密売などの悪事にも手を染めているのですが、主人公サイドだからって柴咲組があまりにクリーンに描かれすぎていて、本当にヤクザなの?義理人情で生きてるって言ってるけどヤクザなら多少は暴力的で犯罪的なこともしてないの?って気になってしまいました。

そんな感じで、決して悪い映画ではなかったからこそ、また、藤井監督のこれまでの作品が素晴らしかったために僕の期待が大きかった分、惜しいと感じる点が気になったり、最近の似たテーマの映画と比較すると少し物足りなかったりした、というのが正直なところでした。
とは言え、ネタバレは避けますが、暴力の世界で生まれ育った若い世代が、暴力ではない形で分かり合おうとする未来を想起させるようなラストは素晴らしかったと思うので、決して嫌いな映画ではないです。
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