舞い上がる。

日々を笑い、日々を愛す。
ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

綿矢りさ原作、松岡茉優主演映画『勝手にふるえてろ』を観て来ました!

2018-02-09 10:56:49 | Weblog


2/8(木)、映画『勝手にふるえてろ』を観て来ました。



綿矢りさの原作を大九明子監督が映画化、主演は松岡茉優さんです。
全国的にヒットしているようですが、新潟ではT-JOYのみでの上映だったようです。



ひとまず予告編はこんな感じです。





と言う訳で感想を書いていこうと思うわけですが、率直に言ってこの映画、めちゃくちゃ面白い!
あまりに面白くてその全てを言葉で説明することが難しいのですが、すべてのシーンにおいて、セリフ、演技、ストーリー、演出、小道具など、どこかに必ず予想の斜め上を行く斬新なアイディアが込められていて、最初から最後まで一瞬たりとも飽きることがない!あらゆる面白さが濃密に詰まっているのです。

中でも特徴的だと思ったのが、主人公のモノローグというか、独り言のシーンが非常に長い、というか、常に全開なのです。
ここそが僕がこの映画の本当に大好きすぎるポイントです。

と言うのも、僕もこの映画の主人公のように、常に脳内で色々なことを考え続けてしまってはそれが絶えず独り言として漏れ出てしまうようなタイプの人間なので、とても他人事とは思えませんでした。
すごく個人的な話なのですが、僕とまったく同じような悩みを持っている友人がいて、以前その友人が「私頭の中が常にうるさいんだよね」と言っていて物凄く共感したことがあったのですが、この映画の主人公はまさにそんな僕らの悩みを体現しているかのような人物で、映画を観ながら思わず「仲間がいた!」と思ってしまいました。

さて、そんな主人公の現実なのか妄想なのか分からない独り言が絶えず続くと、それに合わせてテンポよくシーンが次々と切り替わり、それに合わせて周囲の一癖も二癖もある登場人物たちがそんな主人公の独り言に次々と反応していく…中盤まではそんなシーンが延々と続きます。
これは、まさしく現実では有り得ないけれど映画だから有り得るような、ちょっとミュージカルっぽい演出になっていて、そんな不思議なテイストの映画を、途中までは楽しく観ていました。

しかし映画の中盤、ある出来事がきっかけで、そんな映画の途中までずっと続いてきた演出のすべてが、一気に引っくり返るよな出来事が起こるのです!
と言うのも、映画の中盤で、そこまでの主人公の独り言が全開でそれに周りの人々が反応し続けるというミュージカル的演出が、実はすべて主人公の脳内だけで起こっていた妄想であり、主人公はただ単に脳内だけで独り言を言っていただけの暗い人物だということが明かされてしまうのです。

分かりますか、映画の前半では、映画でしか有り得ないような出来事ばかりが連発する、ちょっと非現実的な浮世離れしたリアリティラインなんだけど、中盤からは一気にその全てを否定し、突然リアル寄りの演出になってしまうのです。
つまり、映画のリアリティラインそのものを映画の前半と後半でがらっと変えてしまうという、まさに映画でなければ絶対に実現できないような演出なのです。

このシーンを観た時、まるで夢から突然醒めたかのような衝撃を受けてしまいましたし、あれは映画じゃないと得られない感動だと思います。
ちなみに、この映画のリアリティラインが切り替わる演出の時に、主人公が自分の複雑な感情を高らかに歌い上げるという突然のミュージカル的な演出により、驚きの盛り上がりを見せるのですが、一言では言い表せない複雑な感情を歌というものの持つ強烈な力によって観客にダイレクトに突きつけてくる、これはミュージカルだからこそ作り出せる感動であり、『アナと雪の女王』の「Let it go」を思い出したりしました。



さて、前半まで主人公が現実と妄想の狭間で脳内で繰り広げていた物語というのは、この映画の本筋である、片想いに関するものです。
主人公は、高校時代からずっと片想いを続けていた男性がいて、彼女は彼のことを一方的に「一」よ読んでいるのですが、今ではその妄想をこじらせすぎて何年も会っていない「一」のことが彼女の中では脳内彼氏みたいな位置づけになってしまっているのです。

そんな彼女は、突然職場の男性から人生で初めて告白されてしまったことで、初めて自分を好きになってくれた人が現れたことに彼女は非常に混乱します。
そして、そんな彼のことを「二」と勝手に自分の中で名付けた彼女は、妄想と現実の彼氏「一」と「二」の間で思い悩む…というのが、この映画の基本的なストーリーです。

客観的に考えてみたら、主人公は「一」とはもう何年も会っていないわけで、いつまで悩んでいるんだ!って話なんですが、彼女にとってこれは人生始まって以来の由々しき事態であり、脳内は大変なことになってしまっているわけです。
要するに、恋愛というものは客観的な視点がまったく意味をなさない、あくまで脳内だけで怒っている主観的なものである、ということを、この映画は言っているのだと思うのですが、僕も恋愛ってまったくもってそういうものだと思っていたので、本当にこの映画には共感させられてしまいました。

ちなみに、彼女は「二」からのアプローチをかわしたり時にはそちらに気持ちが揺れそうになりながらも、もう一度「一」に出会えるように、二重三重にアイディアを張り巡らした驚愕の作戦に出ます。
このシーン、まるでスパイ映画並みのワクワク感があるものの、冷静に見ればたかだか恋愛のことでどんだけマジになってんだ!って話でもあるわけですが、さっきも言ったように、あくまでも彼女の脳内では大問題なのです。

客観的に見たら個人の主観的な気持ちにしか過ぎないことも、その人にとってはあくまでもスパイ映画並みのハラハラドキドキする冒険なのです。
それが、この映画のワクワク感とともに伝わってくるので、思わず観ながら彼女に感情移入してしまう、というか気持ちがシンクロしてしまうという、本当によく出来た映画だなあと思いました。

そして、彼女は何だかんだあって、「一」に出会うのですが、「一」とのある会話がきっかけとなり、彼女は生まれて初めて「失恋」のようなものを体験します。
いや、それは別に「一」が彼女を振ったわけでも何でもない、単なる会話であり、それによって世界は一つも動かないのですが、さっきから何度も書いているように、これはあくまで彼女の脳内での出来事を描くことで恋愛を表現している映画であるので、彼女が「失恋した」と思ったら、それはきっと失恋なのです。

この、何年もずっと思い続けていた「一」との決別は、彼女にとって人生を変えてしまうような大事件であり、それがきっかけとなり、最初に書いた、それまでの映画の演出やリアリティラインを全部ひっくり返すようなシーンに繋がっていきます。
要するに、恋愛というのはあくまでその人の脳内で起こるものであり、そして、失恋のようなその人の恋愛観が一気に大きく変わる体験は、世界の見え方そのものが何もかも引っくり返ってしまうんだという、そういうある意味恋愛の本質を突いた名シーンになっていたと思います。



何度も書いているように、この映画は主人公の恋愛を、あくまで彼女の脳内での動きを軸として描いているのですが、これはまるで女性主人公版の『(500)日のサマー』みたいだな、なんて思ったりしました。
『(500)日のサマー』は、失恋した主人公の脳内で、世界で最高の女性にしか見えていなかった元カノ像が彼の中で徐々に変化していく様子を、様々な演出や映像表現によって描いている映画だったので、結構似ている気がします。

また、この前このブログにも感想を書いた「ミッドナイト・バス」について、登場人物たちの人生を左右するような出来事を、ドラマティックに盛り上げずに、あくまで客観的な出来事だけを淡々と描いていたことが良かった、なんて書きましたが、この『勝手にふるえてろ』はまさにその真逆のようなアプローチの映画だったのではないか、なんてことも思ったりしました。
同じ映画でも、人間ドラマを主観的に描くのか、客観的に描くのかによってこうも変わってしまうのかというのは、どっちが正解という訳でもなく、どっちもそれぞれ面白さがあるし、映画って本当に奥深いなあなんて思いました。



その後、「一」の夢から覚めた主人公は、「二」とどう向き合っていくのか…これについては詳しくは書きませんが、またしても一波乱も二波乱もあって面白かったです。
あと、この映画の全体的なトーンなんですけど、基本的には笑えるシーンの多い映画でもあって、でも時折切なくもなるという、そういうコミカルとシリアスのバランスが本当に絶妙だったなあと思います。

それと、登場人物が全体的にいいですね!
主人公も脇役も、全員がなんかちょっとダサくてダメな奴らなんだけど同時に愛おしくなるという、本当に素敵な登場人物ばかりが登場する映画だったなあと思います。



とにかく、ずっと書いてきたことをまとめると、現実と妄想、ダサさと愛おしさ、コミカルとシリアスなどの、相反するものを同時に描くというバランス感覚に、非常に優れていた映画だったなあと思います!
この魅力がが原作小説では一体どのように表現されているのかが非常に気になるし、何より単純にストーリーが面白かったので、是非原作小説も読んでみたいと思いました。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シネ・ウインドで『74歳のペ... | トップ | 新潟絵屋、清水伸展「夜」ギ... »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事