1/19(金)に、イオンシネマ新潟西で『ノクターナル・アニマルズ』を観て来ました。
この日が新潟では上映が最終日でした。
(余談ですが、新潟では1/19(金)で上映終了する映画がたくさんあり、『バーフバリ 王の凱旋』とか『オール・アイズ・オン・ミー』とか見逃してしまったんですよね…もっと早く気付けば全部観られたんですが雪で見逃してしまいましてね…雪め…)
…という余談はさておき、感想を書いていこうと思います。
ひとまず予告編はこんな感じです。
と言う訳で、「ノクターナル・アニマルズ」の感想を書いていきたいのですが、何と表現すればいいのか分からない不思議な映画でして…
一応、ジャンルとしてはサスペンスということになるのだと思いますが、あまりにも不思議な映画で、まだ自分の中でうまく処理できていないので、感想に困っている、というのが正直なところです。
まず、映画が開始早々、全裸で踊り狂う謎の太った女性たちという、衝撃的なものがスクリーンに大映しになり、一気に度肝を抜かれました。
サスペンス映画を観に来て、まさかいきなりそんな、アバンギャルドなものが登場するとは誰が想像したでしょうか…
完全に予想の斜め上のオープニングに、一気に「この映画はなんかよく分からないけど、ヤバいぞ…」と、一気に引き込まれてしまいました。
いや、正直この全裸の太った女性たちが何を表しているのかは、映画を観ていても、と言うか、観終わった今となってもよく分からないのですが、とにかく「この映画はやばいぞ…」という衝撃だけが強く心に残る、驚愕のオープニングでした。
この映画の主人公は、スーザンというアートギャラリーのオーナーの女性なのですが、先程の衝撃的なオープニングが終わって物語が始まると、次のシーンはアートギャラリーのパーティーみたいなシーン…
…かと思いきや、そのパーティーの背景をよく見ると、先程の巨大な太った全裸の女性たちが踊っているではないか…
この全裸の女性たちが登場するのはこのシーンのみで、この女性たちが表しているものが何なのかは最後まで分からないと先程も書きましたが、僕なりに考えたことは、おそらくあれは主人公のスーザンの心の中にある何かを表現しているのではないか…ということです。
映画が進むにつれて、スーザンがノイローゼ気味になっていく様子なども描かれるので、それの前兆だったのかも知れないな…などと思いました。
また、あの太った全裸の女性たちは、実際にあそこにああいう女性たちが存在しているんではなく、あくまで彼女の心の中、つまり、彼女の中の世界、彼女の主観の中に存在しているものなわけです。
これを映画の冒頭に持ってきたのは、「この映画は彼女の心の中を表現していますよ」というメッセージだったのかも知れないなあ…などと、今となってはちょっと思っています。
そんなアートギャラリーのオーナーをしているスーザンは、仕事にもお金にも恵まれ、結婚もして何不自由ない生活を送っているようなのですが、明らかに夫が浮気をしていたりと、どこか心の中に満たされないものを抱えているような人物だなあと思いました。
また、彼女には、実はかつて結婚して離婚した前の夫がいるということが徐々に回想シーンなどによって判明していくのですが、この元夫が、非常にこの物語に重要な人物です。
ある日、スーザンのもとに、元夫のエドワードから彼の書いた「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」という小説の原稿が送られてきます。
「そう言えば小説家を夢見たいたな」とか「それにしても一体どうして今頃私に送ってきたのだろうか…」などと色々な気持ちが交錯する中、彼女はその本を読み始めていきます。
彼女が本を読み始めると、本の中の物語が、劇中劇的な映像として映画の中に登場してきます。
映画の中で、もう一つの物語が劇中劇的に登場するという展開は、決して珍しいものではないと思うのですが、小説の内容を映像で、もう一つの映画として表現する、という演出は斬新だなあと思いました。
劇中劇の描き方は色々あると思うのですが、何しろ本編の中に登場してくる別の物語なので、本編と劇中劇そそれぞれ描き方が上手くいかないと、観ていても「どうでもいいわ」としか思えず、映画全体が面白くなくなっていくような可能性もあると思います。
では、この映画『ノクターナル・アニマルズ』はどうだったかと言うと、劇中劇的に登場する小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」の内容があまりにも強烈すぎて、目が離せなくなってしまう映画でした。
「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」の物語では、主人公の男が妻と娘とドライブしていると、突然謎の車に煽られたりぶつけられたりして、駐車すると車から降りて来た怪しい男達に襲われ、妻と娘は連れ去られてしまう、男は一人荒野をさまよい、出会った警部補の男と妻と娘を探すが…という、非常に暴力的な物語が展開します。
この、主人公に絡んできて、妻と娘を連れ去っていく男達が、あまりにも非道で暴力的で露悪的で嗜虐的で、悪ふざけ半分で他人を不幸にするような本当に見ているだけで気分が悪くなるような人物として描かれるので、正直、ここまで観ていて不快な気持ちになる悪役は久し振りに観ました。
この「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」という物語の内容があまりに強烈なので、この場面になると、この物語が劇中劇だということを忘れてしまうほどでした。
物語が悲劇的に盛り上がっていくところで、パッと場面が切り替わってその原稿を読んでいたスーザンの驚いた顔のアップになって、あ、そう言えばこれは小説の中の出来事だった…と思いだす感じでした。
このシーンは、観客が劇中小説の「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」に集中してしまうことで、同時に主人公のスーザンがこの小説にいかに没頭してしまっていたか、ということを表現できていたシーンだと思います。
そして、この劇中小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」の映像は、おそらくスーザンが本を読みながら物語の情景を頭の中で想像している映像なんだろうな、って考えると、完全にこの映画はスーザンの主観、スーザンの頭の中を、観客が同時に体験できる映画だったんだろうなと思います。
また興味深いのは、劇中小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」に登場する主人公を演じている俳優さんと、この小説を書いた元夫の役の俳優さんが、どちらも同じアーミー・ハマーさんであることです。
これも、不思議な演出ですが、スーザンが元夫から送られてきた小説を読みながら、思わず小説の主人公に元夫を投影してしまっている、と考えれば自然なことなんだな…ということに映画を観終わってしばらくしてから気付いたりしましつた。
さて、この映画、小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」の中の映像と、小説を読んでいるスーザンの日常が、同時進行で進んでいきます。
途中、例えば小説の主人公が風呂場で絶望しているシーンと、その小説を読んだスーザンが同じように風呂場で途方に暮れているシーンが、連続して登場したりと、話が進むうちに、まるで小説の中の出来事がスーザンの日常を侵食しているような不思議な感覚に襲われます。
また、明らかにスーザンは日々やつれていっていく様子が描かれ、もしかしたらスーザンが観ている世界は幻覚なのではないか?と思わせてしまうような展開もいくつか登場します。
それと並行して、スーザンの小説を送ってきた元夫に関する回想シーンも登場し、後半になるにつれて登場頻度も上がっていきます。
つまり、この映画は、徐々にやつれていくスーザンの日常、スーザンが読んでいる元夫の書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」の中の物語、そしてスーザンの元夫に関する回想シーンの3つが、同時並行して進んでいくのです。
ここで重要なのは、この同時進行する3つの物語は、決してバラバラなのではなく、どれもあくまで主人公スーザンの主観から見た、スーザンの頭の中の世界として描かれている、ということなのです。
元夫の小説を読んでは、元夫のことを回想しては、日常がどんどんやつれていく、そんなスーザンの日々を、実は淡々と描いている映画なんだろうなと思います。
そして、すべてが主観だからこそ、そんな映画を客観的に観ている自分は、スーザンの思考と完全にシンクロしながら映画に引き込まれていくのです。
また、主人公の主観から物語を描いていくので、映画を客観的に観ている自分からすると、何が客観的な事実なのか?ということが非常に分かりにくく、どんどん謎が深まっていく、そんな映画なのです。
果たしてスーザンの日常に時折登場するショッキングな出来事は現実なのか妄想なのか?果たして元夫との回想シーンはすべて真実なのか?そして元夫が書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」はどうしてこんなにも残酷な物語なのか?そして、どうしてスーザンはこんなにこの物語に恐怖を感じてしまうのか…
そういうスーザンの主観が信用できないわけですから、このサスペンス映画の中の、元夫はどうしてこの小説を書いたのか?そしてスーザンに送って来たのか?という最大の謎も、最後までずっと謎のままなのです。
もしかしたら、そこの解釈は観客に委ねようという趣旨の映画なのかも知れませんが、正直僕は一度観ただけでは全然すっきりせずに謎がたくさん残ったままでした。
ただ、じゃあこの映画がつまらなかったのかと言われたら、正直、こんなに最初から最後まで謎が解けてに変な気持ちにさせられる映画というのもなかなかないので、「何なんだろうこの映画は…」という衝撃によって、最後まで引き込まれてしまったので、決してつまらなかったわけではないのです。
正直、この映画を観た気持ちが一体何なのか、面白かったのかどうなのか、それも映画を観てからもまったく判断できずにいるのですが、それでも、こんな不思議な気持ちになれる貴重な映画体験が出来て良かったなあと思いますので、これはこれで映画を観られて良かったなあと思いました。
まあ、機会があればもう一回観てみたいです!
新潟では上映が終わってしまったのでDVDに期待!