羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

ヤロカ火 20

2016-06-23 18:24:53 | 日記
霞の中に潜んでいた蒼雀(あおじ)が砲弾のように突撃してきた。
「なッ?!」
 蒼雀は旋回してヤロカ火の腹を突き抜け、上半身と下半身に胴を二つに千切り跳ばした。
「んげッ?!! ぐぅうううッ!!!」
 ヤロカ火は中空で強引に羽ばたいて体勢を立て直し、上半身だけで霞の壁の向こうの下水通路の先へと飛び去って行った。
「あらぁ~、仕止め損なったわぁ」
 火球の雨を凌ぎ終えた聡の傍に降り立ちながら残念がる蒼雀。
「まあ、いいさ」
 聡は通路に落ちてもモゾモゾと蠢き、『一体』である事を保てなくなり下等な群体に形態を変えようとしているヤロカ火の下半身に光る剣を投げ刺して滅した。合わせて霞の壁も霧散してゆく。
「後は野間に働いてもらおう」
 言いながら、どこからともなく人形を二十数枚取り出し、聡は宙に放った。人形一枚から七~八匹のデフォルメされた蜻蛉が現れ、傷付いたヤロカ火の上半身が逃れた方へと一斉に飛び去って行った。
「問題は最後の仕上げだよな」
 そう言って面を取り、聡はため息をついた。

ヤロカ火 19

2016-06-23 18:24:42 | 日記
激昂するヤロカ火は上半身全体の人の皮を殆んど破り、本性を現した。
 聡の構えた剣は淡く光り始めていた。
「あんま複雑な属性攻撃は得意じゃないんだ。シンプルに溜めた気で祓わせてもらうぜっ!」
 聡が光る五枚刃の剣を手に突進を始めると、残る分身二体が捨て身でヤロカ火に飛び掛かった。
「退けッ!」
 ヤロカ火は分身二体を力任せに引き裂いて散り散りの紙切れの状態にしたが、一手遅れ、聡の接近を許した。
「散っ!!!」
 聡が振り下ろした剣をヤロカ火は本性を現した両腕で受けたが、受けきれず、腕は切断され、袈裟懸けに胴を深々と斬り付けられた。
「おぶぅぅううッ?!!」
 衝撃で後方に足を擦って吹っ飛ばされるヤロカ火。落とされた両腕は光りに包まれ弾け滅び、ヤロカ火本体も腕の傷口と胴の傷口が光り、バチバチと爆ぜ始めていた。
「観念し」
 と聡が言い終わらぬ内に、
「火をやろう」
 ヤロカ火は呟き、一瞬で多数の火球を宙に出現させるとデタラメに周囲に降り注がせた。次々と炸裂する火球の雨。
「ちょっ? 攻撃雑だなっ、お前っ!」
 避ける聡。
「ハハハッ! 一先ずさらばだ、当代の真淵の狩り手ッ!!」
 ヤロカ火は背に残った人の皮を破り、ゲンゴロウのような羽根を出して周りを覆っていた逆巻く霞へと飛び迫り、左足の皮を破って突起状の部位を出現させると一振りし、霞を斬り裂いた。
 裂かれた霞の向こうには下水の通路が続いていたが、ヤロカ火が裂いた霞の隙間を飛び抜けようとすると、

ヤロカ火 18

2016-06-23 18:24:34 | 日記
ヤロカ火の頭を蹴り付けた。
「ケケっ!」
「このッ!!」
 ヤロカ火は激怒して初老の男の頭の皮を半ば破って様々な水棲生物の混ざった本性を現した。
「よろっと、帰ろかなぁっ」
 煤け提灯は煤の渦の姿に戻ると素早く周囲の霞の向こうへ飛び去って行った。ヤロカ火が煤け提灯の遁走に気を取られている間に四枚の人形(ひとがた)がヤロカ火を取り囲んで舞い散り、その全てが聡をコピーした姿に変化した。
「くだらん真似をッ!」
「どうかな?」
 聡が通路に刺さった剣を引き抜きながら応えると同時に聡の分身四体は素手に気を込めてヤロカ火に襲い掛かった。
「こんな紛い物っ!」
 ヤロカ火は右腕も人の皮を破って本性を現し、四体が十分間合いを詰める前に一体を斬り裂いた。裂かれた分身は裂かれた状態で元の人形に戻り、下水に落ちていった。一体を犠牲に、残り三体は間合いを詰め、ヤロカ火と格闘し始めた。
「ま、せいぜい頑張ってくれよ」
 聡は剣を構え集中した。
「お前は発生の経緯が複雑だから、火も水も氷も土も、確か雷や毒も通り難いんだったよな?」
「黙れッ!」
 ヤロカ火は接近した三体の聡の分身に手間取り、苛つきながら吠え、一体の首を跳ねた。跳ねた隙に残り二体がそれぞれ気を込めた拳打と肘打ちをヤロカ火に打ち込み、一瞬動きを止めさせる。首を跳ねられた分身は首の部分を切断された人形に戻り、通路と下水に落ちていた。
「このッ、このッ! 紙切れどもがッッッ!!」

ヤロカ火 17

2016-06-23 18:24:25 | 日記
人の姿を辛うじて保った燃えカスと傷一つ無い五枚刃の剣が下水道の通路落ち、剣は通路に刺さった。
「ふんっ、焦げ過ぎて喰うところが無いわ。真淵(まぶち)の狩り手も代替わりが上手くいかなんだようだな」
 吐いた自分の一分を吸い直し、ヤロカ火は口元を引き裂くようにして笑みを浮かべた。
「しかし、道理とはな。そもそも人どもが『俺達』の棲みかの近くに里等作るのが悪い。人等、幾千万とおるのに、二つか三つ里を平らげてやったくらいでムキになりおって。地の底に封じた挙げ句、俺達を忘れた・・・」
 封じられたていた荒れ野で戦国の頃に争いが繰り返され、その屍肉と怨念と戦火を喰らってヤロカ火は再発生していた。
「先々代と一霊猫には遅れをとったが、他愛ないヤツ」
 ヤロカ火は聡の燃えカスに歩み寄り、踏み潰した。途端、ボフッ! 聡の燃えカスは炸裂して煤を撒き散らした。
「何っ?!」
「ケケケケッ!!!」
 散った煤は巻き上がりながら提灯を持った墨のような童子の姿に変わり始めた。
「煤(すす)け提灯(ちょうちん)かッ!!」
「そういう事っ!」
 いつの間にかヤロカ火の背後に迫っていた周囲の霞から素手の聡が飛び出してきた。ヤロカ火は振り向き様に本性を現した左腕で斬り付けたが、聡はスライディングで掻い潜って避けた。
「卓球部は速(はえ)ーぞっ、と!」 
 聡は大きく踏み込み、逆さに構えた気を込めた掌底をヤロカ火の腹に打ち込んだ。
「げぅッ?」
 ヤロカ火が怯むと透かさず完全に実体化した煤け提灯が宙に浮いたまま

ヤロカ火 16

2016-06-23 18:24:18 | 日記
 渦巻く霞で覆われた下水道の一角で、学生服に面を付けた姿の聡が青白い炎の灯った五枚刃の片刃の剣を構え、件の作業員を焼き殺して喰った初老の男と対峙していた。初老の男は周囲には火球が多数浮いている。
「・・・狩り手はどうでもいい。一霊猫(なおひねこ)のヤツはどうした? いつかの『俺』を殺した借りを返さんとならん。あのっ、クソ猫の尻尾の一本一本を焼いてかじって焼いてかじってぇ、苦しめぬいてやらん事にはなぁああッ」
「話は通じないって爺さんから聞いてたが随分お喋りじゃないか、ヤロカ火。甦るまでのこの何十年かで学習したのか? 真っ当な道理は学んでないようだがなっ!」
 聡は五枚刃の剣を振るい青白い火の刃を五発、ヤロカ火に放った。ヤロカ火は周囲に漂わせた火球を操りでそれを全て撃ち落とした。
「『真っ当な道理』ッ! 面白い事を言うな狩り手ぇッ!!」
 ヤロカ火は火球を連打しながら聡に突進してきた。聡は火球を回避し、剣で打ち払い、ヤロカ火を迎え打った。
「散(ち)っ!」
「ジィェアアッ!」
 奇声を上げ、ヤロカ火は左腕の『人の皮』を突き破って様々な淡水甲殻類や両棲類を合わせたような腕を出して青白く燃え上がる剣を受けた。
「ブルゥワァアアアッ!!」
 ヤロカ火は口から様々な魚類等の混ざった自分の一分を鋭く突き刺すように吐き出してきた。聡は宙に跳び上がって避けたが、ヤロカ火は残りの火球を全て宙の聡に集中させて炸裂させた。

 ドドドドドドゥッ!!!

 火球が燃え尽きると、