羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

とと姉ちゃん

2016-06-24 18:13:42 | 日記
 昭和16年12月8日の朝、青柳商店では常子達が揃って朝食を食べようとしているとラジオで西太平洋で米英と戦闘に入ったと報じられた。「アメリカやイギリスとも戦争が始まるの?」常子は思わず呟いた。太平洋戦争が始まった。
 明けた4月、日本本土への空襲が始まっていた。甲東出版では検閲が厳しくなり、常子達は対応に追われていた。五反田は常子が赤字を入れた戦意高揚ばかりなった原稿にうんざりとした顔をして、常子を戸惑わせた。「読者もつまらんだろうと思ってさ」雑誌に使用する紙も粗悪な物に変わり、選択の余地はなかった。
「長い間、お世話になりました」青柳商店の最後の職人が去ってゆくのを見送る隈井はかつての木場の賑わいを思い起こさざるを得なかった。早めに帰宅した清は滝子部屋を訪ねた。君子、隈井も同席していた。「私は情けない男です」切り出した清は陸軍から木場の業者は廃業するか陸軍の下請けになるか選らぶよう迫ることになる見通しを打ち明け、自分ではなく滝子に判断を仰いできた。「何があってもこの青柳っ、潰すワケにはいかねぇんだっ!」思わず声を荒げる隈井。滝子も廃業する気はなく、下請けを選んだ。
 滝子の判断を常子が心配し、美子が約束通り滝子の浴衣を縫う中、本人には知らされないまま滝子の容態は悪化していた。臥したまま自分の病状を察した様子の滝子は、君子が寺で母の回復を願っていると身なりを整えて、ふらりと現れた。「お母様?!」駆け寄る君子。「懐かしくてねぇ」幼い君子を守ると言ったが今はもうろくしてそれも叶わない等と君子に話し、小雨の中、二人で寄り添って帰っていった。
 そうして帰宅した滝子を待っていた隈井は、沈痛な面持ちで組合からの知らせで工場に近い立地を陸軍に目を付けられ、青柳の廃業後に建物を事務所として借りいれる命が下ったことを伝えるのだった。
・・・空襲の直接的描写はどのタイミングでかはあるのかな?

ヤロカ火 24

2016-06-24 18:13:34 | 日記
A4  
 ほぼ完全に本性を現し、残った上半身から突起のような器官を多数突き出したヤロカ火本体が高速で飛来し、霞の雲を真っ二つに引き裂いた。
「どぅおおおぅ?!」
 小さな聡達を頭に乗せた貴代が乗っている部分と分断され、コントロールを失った霞の雲にしがみついて夜の中空を吹っ飛ばされてゆく宏一。
「宏一ぃっ!」
 貴代は叫んだが、近い位置でヤロカ火がゲンゴロウのような羽を羽ばたかせ、宙でほぼ静止しており、すぐには身動きがとれなかった。
「ぐっ、ゲッゲゲゲぇッ!! お前達ぃいあふぅへぇえええッ! か、狩り手ぇのぉおおッ! な、仲間だなぁあああッ?! 祟る、た、祟る祟る祟るぞぉッ!!!」
 深手を負って様子のおかしいヤロカ火が吠えると貴代は焦った。
「ええっ? なんか超怒ってるよぉっ?!」
「お前ッ! なんだぁあああッ?!!」
 ヤロカ火は迷わず宏一を乗せた雲を追跡しだした。
「・・・やっばっ。マジ野間ホイホイだわ」
 貴代が呆気にとられていると、半分以下の大きさになった霞の雲はボフっ! っと音を立てて急速に下降し始めた。
「うっそ! もうっ」
 貴代は残り一枚の人形に、頭の上の小さな聡を一体乗せた。
「紙、濡れてるけどいけるでしょ? フォローしてあげて!」
 小さな聡は頷き、濡れた人形に乗って落下してゆく貴代の雲から飛び出し、宏一の雲を追うヤロカ火を追っていった。

ヤロカ火 23

2016-06-24 18:13:27 | 日記
A3  「すっげっ」
 唖然とする宏一。
「溺れちゃうよっ」
 ちょうど近くで首をもたげてビルを見ている真菰太夫の頭を何度も軽く叩く貴代。
「ああっ、叩くな無礼者っ! 黙って見ておれっ」
 真菰太夫は貴代の手を振り払ってからビルへ向かって電撃を放った。バリリッ! 紫電はビル全体を貫き、中の憑かれた人々を一撃で気絶させた。その口や耳等からヤロカ火の眷属達が溢れだした。
「不味そうだがたまにはゲテモノもいいかっ」
 真菰太夫は一気に放った全ての大量の水と共にヤロカ火の眷属のみを吸い込みだした。質量も体積も全て無視して吸い込んでゆく。
「クジラのオキアミ漁よりアグレッシヴだな」
 感心する宏一。
「水飛沫半端無いわ」
 頭の位置が近いこともあり、水浸しにされる貴代。
「んんっ! やはり不味いわっ」
 全て吸い込み終わり、ゲップする真菰太夫。ビルの周りに人だかりができ始めていた。
「では我はもう帰るぞ?」
「え? 帰っちゃうの? まだこのオバケの本体がいるっぽいんだけど」
「知らんわ。ぶすっ!」
「お? 今、一言っ」
 貴代が反論する前に真菰太夫は煌めく紫の鱗の浮かぶ渦に姿を変え、掻き消えていった。
「くっそーっ、あいつ、毎回去り際にぶすって言うから嫌いだ」
「貴代、それよりそろそろ説明を」
「だからぁっ」
 水浸しの貴代が苛立って説明を始めようとすると、

 ズバァッ!!!

ヤロカ火 22

2016-06-24 18:13:18 | 日記
A2  貴代が慌てて燃える人形が離すと青白い炎は細長く伸びて浮遊する霞の雲に何重にも巻き付き異様に長い紫色の大蛇と大鯢掛け合わせたような化生(けしょう)として実体化した。
「なんだ、真菰太夫(まこもたゆう)かぁ」
「なんだとはなんだ?! 人形なんぞで雑に呼び出しおって!」
「知り合い?」
「またこの小僧かっ」
「え? 俺の知り合い?」
「いちいち記憶消すのがまた腹立たしいわっ」
「記憶?」
「ちょっと! 宏一はややっこしいから黙っててよっ」
「ええっ?」
 霞の雲の上で揉めていると、窓から顔を出していた憑かれた人々の口にその奥に潜む光る目を持つ者達が一斉に火炎弾を霞の雲目掛けて連射してきた。
「うわわっ?」
 慌てる貴代。
「あっ、ポテト」
 ポテトを雲から落とす宏一。小さな聡達が雲を操って火炎弾を回避した。
「真菰太夫っ! あの人達なんとかして! ビルも燃えてるからっ」
「殺るか?」
「殺らなくていいからっ! 助けてあげてって言ってんのぉっ」
「まだるっこしいのうっ!」
 うんざりと言って、真菰太夫は周囲に激流を出現させ、炎上しかけたビルに放った。

 ゴゴゴゴゴゴッ!!! 

 ビルを包み炎を打ち消した大量の水は流れ落ちず、ビルを満たしたまま止まり、憑かれた人々は止まる水の中でもがいていた。

ヤロカ火 21

2016-06-24 18:13:12 | 日記
 カラオケボックスの入ったビルの三階の窓が爆炎と共に叩き割れ、霞の尾を引く雲に乗った髪と制服が軽く焦げた貴代と無傷でなぜかフライドポテトの皿を持った宏一が飛び出してきた。雲に乗る貴代の頭の上には人の拳程度の大きさの制服に面を付けた聡が『二人』乗っていた。
「やろかぁッ!!」
 貴代達を追って、破れた窓にヤロカ火の眷属に寄生された店員達や他の客達が殺到していた。いずれも両腕でが燃え上がり、ビル自体も炎上しつつあった。
「逃げられそうだけどっ、ちょっとあの人達ヤバいかもぉっ?!」
 空中で寄生された人々を振り返る貴代。
「貴代、状況の説明を求めたい。昔のコントのオチみたいになってるけど?」
 ポテトを食べながらさほど動じず聞いてくる野間。
「コントじゃないよっ!」
「頭に乗ってる『小さい人達』は? なんかウチの制服着てるっぽいのが絶妙にキモいんだけど」
「気にしないでっ!」
「この乗ってる雲は? ふわっふわっしてんだけど?」
「免許いらないからっ!」
「・・・説明する気ないよね?」
「後でざっとするっ」
「ざっとって」
「とにかく! お前達、あれ、どうにかしよう。記憶と建物はともかく死んだら戻らないよね?!」
 貴代は頭の上の小さな聡達に言って、胸ポケットから人形(ひとがた)を二枚取り出した。
「あと二枚か、一枚でお願いっ!」
 小さな聡達は頷き、それぞれ片手の指を構えた。ボッ! 人形の一枚が青白く燃え上がる。
「あちっ!」